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V6井ノ原快彦氏主演の妄想非恋愛小説を取り扱っております。
No.
2024/12/28 (Sat) 14:53:29

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No.181
2008/03/30 (Sun) 14:56:37

Live Show 第44話、最終話です。

いよいよ、この長編も最終話の運びとなりました。
ごあいさつは、あとがきにて。


出演 : V6





 人懐っこいのは寂しがりの裏返し。激情は我慢の臨界点を振り切った合図。聞こえない声に耳を澄ますのは困難だけれど、聞き逃してしまえば一生後悔しかねない。だから、周囲の迷惑などはさておき、大人としてのモラルを破ってみた。黙って待っていれば同じことを、この先何度も繰り返すに決まっている。そんな心を壊すような真似は、もう二度とさせられない。

 冷静になって考えてみれば、ものすごい状況だ。メンバーだけが取り残されたスタジオ、ソファに横になる井ノ原に、長野がひざまくらを提供している。岡田がどこからか調達してきた毛布に包まり、その寝息はとても穏やかだ。5人の大好きなメンバーに見守られ、果たして心地のいい夢を貪ってくれているのか。きっといつもと違うとすれば、ダラリとのぞいた井ノ原の手を握っているのが、森田だということ。ときどき泣き出しそうになるのを懸命に我慢した細い声で井ノ原の名前を呼ぶのが、森田だということ。たとえメンバーでも、こんなにも素直に密接なつながりを求める様子を、見せることなどしたことがなかったのに。

「誇り高き空に悲しみはなく 人は希望を信じることを知る 争いが振りかざす狂気に 世界が覆われる瞬間まで 悲鳴のように降り注ぐ豪雨 生きている証さえ・・・・・」

「コスモレンジャーかよ。」

井ノ原の頭を大切に撫でてやりながら長野が口ずさんでいた歌に、坂本が苦笑交じりのツッコミを入れた。

「覚えちゃったら、口ずさんじゃうんだよね。よっちゃんのせいだよ。」

「井ノ原くん、好きなの?」

その会話に敏感に反応したのは、やはり森田で・・・

「好きなの?その歌。」

あまりに必死な目をして聞くものだから、思わず長野は子ども扱いよろしく、とても可愛い口調で「一緒に歌いたい?」と聞いてしまって、慌てて口を押さえた。それには表情を曇らせてばかりだった森田も、さすがに思わず噴き出してしまう。

「ごめ・・・長野くんさ、今、幼稚園の先生とかに見えた。」

「じゃあみんなで、コスモレンジャーのおうたをうたいましょう。」

いたずらっぽく笑った長野は、急に森田の言葉に乗った。それにはみなが笑ってしまい、場の空気も一気に溶け出す。おもむろに、和んだ。

「アンタ、台無し。」

「あ、久しぶりに剛に「アンタ」って言われた。」

「剛くんってさ、いつの間にか丸くなっとったよな。」

「坂本くん系だね。」

「あー。坂本くんは最初、恐い人って感じしてた。いつ怒られるだろう?みたいな。」

「カミセン三人で共同戦線張ってさ。何したら怒られるとか、何言ったら怒られるとか情報交換したりしてたよな。」

「しとった。パターンとか考えたりな。」

「パターン?」

「そう。こういうことを聞かれたらこういう風に答えるのがいい。とか、こういう場合はこうするのがいい。とか、いろいろ調べたりとかしたんだよ。」

「誰か買ってきたじゃん。マナーの本みたいの。」

「買うたなぁ。ビジネスマナーの本と、とっさのマナーの本。」

「そんなに警戒してたんだ。」

「だって本気で恐かったもん。剛はすぐにキレちゃうし、さすがにマズくない?って。」

「って言われてるよ、坂本くん。」

「知ってた。」

「自覚あったんだ。」

「お前らが本買ってたのも、周りの大人にいろいろ聞いてたのも、知ってた。んで、俺が井ノ原に切々と語られたんだよ。」

「出た。」

「いのっちって、最初から俺らとおってくれたもんな。」

「あんまりカミセンのこと威嚇すんなとか、カミセンの努力を認めるべきだとか、もっと自由にやらせても罰は当たらないとか、あー、あと何だ。剛はサッカーがうまいとか、健はスゲー可愛いとか、岡田は社会が好きで数学が苦手とか。」

「後半っていらなくない?」

「いらねぇ。」

「そう?俺と坂本くんは、かなり井ノ原情報を重宝してたけど。」

「してたな。俺は特にしてた。お前らさ、どう絡んでいいか分かんなかったし。」

「ヒドっ。それって絡みづらいってことじゃん。」

「だって考えてみろ。普通に年の差だけでもかなりのモンだぞ。」

「確かにな。坂本くんって、すでに大人の人やったし。けど、一回だけ勉強みてもらったわ。」

「微分積分だろ?コイツおかしいんだよ。始めは普通に問題解いてたはずがさ、途中から質問の内容が変なの。そもそもこんなこと誰が言い出したんだ。とか、何がきっかけでこんなことを考え出そうってその人が思ったのか?とか。そこまで知らねぇっつーの。」

「岡田ってさ、そういう理屈から入るトコ、あるもんね。」

「へぇ。じゃあピアノって誰が作ったんだよ?」

「バルトロメオ=クリストフォリ。」

「聞いたことない。外国の人ってことくらいしか想像付かないけど。」

「イタリア人。メディチ家の管弦楽器管理人やってん。」

「お前はホントにいろんなこと知ってるな。」

「坂本くんかって知ってるやん。野菜のこととか。」

「それは実家が八百屋だからなだけだろう。」

「ロマネスコとか、知らんかったもん。」

「何それ?野菜?」

「ブロッコリーとカリフラワーの間、みたいな野菜やねんて。どっちの種類かはちゃんと分かってへんけど、雑種ではない、んやんな?」

「ああ。あれはな、どうやって発生したとか、そういうの分かってねぇんだよ。大雑把に遺伝子組み換え食品とか言ってる店もあるけど、正確には独立した一つの野菜だ。」

「野菜博士?」

「剛、お前バカにしてるだろ?」

「してねぇよ。バカにしたら坂本くん、拗ねるし。」

「してるな。絶対にしてるな。」

「三人は最初からさ、井ノ原とこんな感じだったの?」

「んー。ほぼ最初からかな。すごい積極的に話しかけてきて、気付いたらもう友達目線くらいのノリになってたもん。坂本くんと長野くんのことも言ってたよ。あの二人はすごくいいひとたちだから。って。チョー褒め殺し。」

「坂本くんは真面目で一生懸命で責任感が強くて誠実。長野くんは優しくて人の気持ちをちゃんと理解してくれて仕事に熱い。二人ともダンスをやらせたら誰より動けるし、見てるだけで勉強になるから、ちゃんと見ていいところは吸収したほうがええ。って。」

「とにかく、いいひとたちだって強調された。」

「いいひとたち、か。そうなんだってさ、坂本くん。」

「それだけ必死だったんだろ。」

「板ばさみになって、それでもがんばって。」

「井ノ原は鎹だからな。」

「そうだね。」

「鎹って何?」

「健、本気で言ってる?」

「若いヤツは鎹なんて知らねぇよ。」

「大工道具のことだよ。木材とかを繋ぎ合わせる金属の道具。だからね、繋ぎ合わせる役目の人とかをそれに例えて、鎹って呼んだりするんだ。言うでしょ?「子は鎹」って。」

「あ!岡田のドラマでやってた落語!」

「うん。井ノ原はね、年の離れた俺たちとカミセンの間に立って、みんなを繋ぎ止めてくれてたんだよ。」

「人のことには敏感に反応するもんね、この人。」

「自分ことは隠すけどな。」

「V6大好きーだから中心は絶対にみんなになっちまうんだよ。目を離すと、こうなる。」

「井ノ原くんさ、もしかしてウッドベース・・・」

「もう隠したってしょうがねぇから言うけど、井ノ原はギターこそ弾けるがウッドベースなんて触ったこともない。けどな、自分がDahliaをやるって言い出した手前、中途半端はしたくないって意気込んで、猛練習したんだよ。パーカッションだってそうだ。カミセンにやらせっぱなしなんて無責任だって言い出して、勝手に勉強して、練習して、お前らに付き合った。まぁ、自己満足とも言えなくはないがな。」

夢中で走れば、居場所を守れると信じて疑わなかった。

「思い出すのって、笑顔ばっかなんだよ。」

とても真剣な表情をして、切り出したのは森田。また表情が、泣き出しそうだ。

「いつも笑ってるの、スゲー大変なのにさ。井ノ原くんは笑ってて、俺、この人のために何かしたかなぁって考えるまでもなく、何もしてないんだ。それってズルくねぇ?俺、ダメなヤツだ。」

「そんなことないよ。」

かすれた声が、即座に否定する。ゆるりと身じろいだ井ノ原が、やはり笑って森田を見ていた。

「坂本くんと長野くんのこと、分かってくれたじゃん。一緒に仕事したし、一緒に遊んだし、一緒にバカな話したし、ずっと一緒だった。それで俺は満足だよ。」

伝えた言葉がすべての想いを必ずしも乗せていてくれるとは限らない。だから井ノ原はたくさん話をする。できるだけたくさんの伝えたいことが届いてくれるようにと願って。森田に泣きそうな顔をさせてしまっていることは、だから、熱よりもずっと苦しくて、

「剛はズルくなんてない。俺は今のままの剛がすごく好きだし、健も岡田も坂本くんも長野くんも、こうしてそばにいるってだけで嬉しい。チョー、幸せだ。」

また笑ってみた。コツンと乾いた音がしたのは、坂本が小突いたからだ。

「じゃあ幸せついでに、ギリギリまで独りで我慢するのはやめろ。」

ついさっき自分が井ノ原に言われた言葉で返した坂本に、長野は少し呆れる。自分のことを棚に上げて、あまりに大人気がない。まぁ、どっちもどっちと言ってしまえばそれまでだ。それに、ゆっくりと長野の膝から起き上がった井ノ原は、何かを言おうとしていた。その表情から判断すれば、きっととても大切なことを。

「6人が揃うって昔は当たり前だったけど、今になってみれば、すごく貴重なことなんだなぁって思うんだ。V6がこんなに長く続いてるのも、すごいことだよね。俺はさ、ずっとV6が続けばいいとか夢見がちなことを、いつも考えてるんだ。もしこれが夢なら、一生醒めなきゃいいなって、思ってる。そのためにいいのは、現状維持なのかな。とか考えたりした。当たり障りない関係でいれば、きっと壊れないって。けどさ、やっぱり、坂本くんが独りでいろんなことを抱え込むのは嫌だし、長野くんが全員のフォローをするために笑うことを義務みたいに思ってるのも嫌だし、カミセンがトニセンにどこか距離を感じてるのも嫌だ。」

言いたいことはずっと心の中で用意されて、あとは言葉に変えるだけだった。

「今回のアルバム、たくさん打ち合わせがあって、でも、絶対に6人そろってて、本当に今が幸せだなぁって思ったよ。完璧に分かり合うこととか、まったくのイーブンな関係になることは難しいけど、こういう風にさ、距離を縮められるのはいいよね。みんなで。って、いいよね。」

言いたくて仕方なくて、いつならば言っても許されるのだろうかと様子をうかがっていた。

「俺は、井ノ原がもう少し失速してくれると嬉しいな。」

「長野くん?」

「井ノ原はまっすぐで、がむしゃらで、メンバーのことをとても大切に想ってて、強い気持ちでがんばってるよね。いつもメンバーのことをたくさん気にしてくれてる。・・・・でもね、だったら井ノ原は、どこにいるの?井ノ原だって、V6でしょう?なのに自分のことは置き去りにするなんて、道理に合わない。俺はね、うん、俺と坂本くんはね、井ノ原も一緒に歩きたいんだ。剛と健と岡田はね、いままでに井ノ原からもらったものをちゃんと全部憶えてるよ。俺たちの目に映るV6には、ちゃんと井ノ原がいるんだ。だから、井ノ原自身が井ノ原を無視しないで欲しい。ちょっとだけさ、このへんで肩の力を抜いてみない?えーと、そうだな、今。うん、今。っていうか今夜、俺たちはここにいるから、井ノ原は寝ちゃっていいよ。明日は仕事、昼からだよね?健が夕方からだから、起こしてくれるから。ああ、ちゃんと家に帰って着替える時間は計算するから大丈夫。迷惑とかそういうのは一切ないから安心して。俺たちが、今夜はどうあっても井ノ原と一緒にいたいから、そうしようって思ってるだけだから。・・・・・ほら、横になって。俺の膝の上でいいよ。今日は、熱があるのによくがんばったね。偉かったね。お疲れさま。」

「お疲れ、井ノ原。ライブの話は、お前の熱が下がったら聞いてくれ。」

「お疲れさま、井ノ原くん。ゆっくり寝なよ。俺、時間が来たら容赦なく叩き起こすから。」

「お疲れ、井ノ原くん。寂しくないように、俺が手握っててやるよ。」

「お疲れさま、いのっち。明日の天気も晴れやってさ。いのっちの笑った顔と同じくらい晴れやったら、ええのにな。」

「あのさ・・・・・」

「何?井ノ原。」

「還れる場所があるって、すごくいいね。」

五人分の手を差し伸べてもらえる還れる場所は、いつもそこにある。何か代価を用意しなくても掛け値ない笑顔が失われることはないと、例えば自分の望むことを一つ口にしたくらいではそれが遜色を見せることなどないと、いい年をしてわざわざ教えてもらった。あたたかい膝の上で、あたたかい手の温度を感じながらふわふわとまどろめば、眠りに付くまで名前を呼んでいてくれるのは、大切で大好きで、どんなことをしても失いたくないと強く願う声。

(ありがとう。何百回、何千回、もっともっと、何度でも言うよ。ありがとう。)

限りのない愛を込めて伝える言葉も、この人たちなら受け止めてくれるだろうから。

 

 日常が好きで好きで仕方がないんだ。

 

 数秒、呆然としてしまった。呆然とさせてくれた相手は、猛ダッシュで去っていった。あれから何週間かが経ったが、年上二人の井ノ原を激しく甘やかしています指数は急上昇中。今日も今日とて、顔を合わせた第一声は、

「井ノ原見なかったか!」

であった。スタジオのほうへ歩いていくその張本人とすれ違っていたから、それを正直に伝えると弾かれたように猛ダッシュで追いかけていった。

「おはよ。何あれ?」

のんびりとした笑顔で見送る長野に聞く。他のメンバーの様子からして、大事件というほどでもなさそうなことは分かる。

「おはよう、剛。あれはね、過保護なお父さんが勝手にあたふたしてるんだよ。」

「井ノ原くん、いねぇの?」

「トイレに行くって、そうだな、30分前くらいに楽屋出て行って、まだ戻ってきてないかな。」

「ふぅん。で、長野くんは行かないの?」

「どうして俺も行くの?」

「んー・・・井ノ原くんが二人して迎えに来たら喜ぶから?」

森田の言葉にキョトンとした表情を浮かべた長野は、その表情とは裏腹に、開いていた雑誌を閉じて立ち上がる。自分も本当は迎えに行く気がありました。というのがはっきり分かる。口では「しょうがないなぁ。」などと言っているものの、行動が真意を表現していた。スルリと森田の横をすり抜けて、まっすぐにスタジオへと続く廊下を早足で歩いていく。見送ってみれば、早足はすぐに小走りに変わっていた。

「甘いねぇ、二人とも。」

「ほんとだよ。最近特に甘くなっちゃってさ、まぁ、平和な証拠だけど。」

楽屋の中は相変わらずの様子だ。点在した荷物、点在したメンバー。三宅は何か雑誌をめくりながらお菓子をしきりに口に運んでいて、岡田は静かに台本に視線を落としている。これは普通にいつも変わらずあったはずの日常風景だけれど、森田は一番大好きな光景だと思った。

 大勢のスタッフがめまぐるしく準備に奔走している。その間を縫うようにして舞台の地下へ足を運んだ井ノ原は、目の前にあるそれをじっと見ていた。生放送の音楽番組。スタジオではなく大きなホールで収録されるため、どのアーティストかが使う予定なのであろう。稼動の準備が成されたそれ。ライブといえば定番のそれ。周囲をぐるりと回ったり、いろんな角度から眺めたり。嫌が応にもテンションは上昇する。頭の中で曲のイントロが流れ、歓声が響き渡り、スタッフの合図で、

「井ノ原!」

坂本が登場した。振り返れば肩で息をしながら必死の形相の坂本が、そこにいる。

「どうしたの?」

あえてのんびりとした間で問う。答えるまでに、少し時間がかかるだろう。再びそれに視線を戻して待っていれば、何とか息を整えた坂本が隣りにやって来た。

「ここがトイレか?っつーか、今日は俺たちは使わないだろうが。」

新曲はポップだけれどしっとりとしたナンバー。これを使う意味合いはない。ただ、

「今日の番組ってさ、LIVEってタイトルに付いてるじゃん?なんかさ、LIVEって聞いたらこれかなぁって思っちゃって、こっそり見に来た。」

何度も使ってきた。ライブの定番アイテムといっても過言ではない。

「使いたいのか?」

「そうだね。でも今回の曲には合わないよ。」

「でも、合えば使いたいのか?」

「や、合わせられないでしょ。曲のイメージ変わっちゃうし。」

「じゃあ変えればいい。」

「は?」

「リハーサル室、借りてもいいか聞こうか?」

続いてやってくる声。平然と登場した長野は口調も平然として、あっさりと坂本の意見を受け入れる態勢でいる。

「頼む。あとっ・・・」

「楽屋の三人にも言っとくよ。」

話は変える方向で進み始めてしまった。さすがに井ノ原は慌てた。

「ちょっと待って!変えるにも限度ってものがあるよ。」

言えば坂本は自信たっぷりに笑って、普段なら言わない突拍子もないことを言う。

「メドレーにすればいい。登場で使えるだろ?」

「でも、もうすぐリハーサル始まるしっ。」

「俺たちは最後から2番目だ、まだ時間はある。そうだな、やっぱLIVEだけに曲は・・・」

「でも・・・・・」

Live Showなんか、いいかもな。うん、それが盛り上がるわ。井ノ原、登場はポップアップ使うから。」

決めてしまった。開いた口がふさがらない。思わず脱力して、座り込んでしまう。

「なんだよ、イヤか?」

「や、そりゃ嬉しいけど、さ、なんていうか、アンタさ、俺に甘すぎ。」

「いいんだよ。俺も見てたら使いたくなったし。」

子供のようなことを言って、坂本は笑った。そして、

「お前希望は言うけど、ワガママはあんまり言わないから貴重だもん。記念だよ、記念。」

スタッフやマネージャーが聞いたら、何をトチ狂ったことを。と非難されそうな言葉を吐いて、坂本は踵を返す。「音源、特効、演出プラン、振り付け、歌。」と妙な節をつけて指折り確認しながら、足取りは楽しそうだ。どうしてポップアップなんて見に来てしまったのだろう。と若干の自己嫌悪にうなだれていると、名前を、呼ばれた。

「井ノ原、行くぞ。」

顔を上げれば差し出された手が映る。まっすぐに自分に向けて差し出された大きな手。ああ、どんな御託を並べたとして、この大好きな手を取らない理由は、まったくない。

「行きますか。」

笑顔で、いっぱいの笑顔で応えて、しっかりと手を取る。これからたくさんの人に頭を下げなくてはいけなくても、そんなことはすぐに帳消しになるだろう。ライブを、ステージを、六人でこれ以上ないほどに彩る自信はある。信じた大好きな六人でなら、絶対にできる。繋いだ手は幻などではないし、この瞬間は夢ではない。長いV6の中でのたった一日でも、叶う限りは特別に変えていこう。

「お前、言ったからには責任持って盛り上げろよな。」

「えー!変えるとか言ったの坂本くんじゃん!責任転嫁とか大人気なくない?」

「バーカ。そうじゃなくて、お前が一番できんだろ?メンバーと、お客さんを盛り上げる役。」

「それはそうだよ。まぁ、盛り上げさせたら俺の右に出るメンバーなんていないし。」

「うわ、かわいくねぇ。昔のお前はかわいかったのになぁ。あー、おチビの頃の井ノ原は素直でスゲーかわいかったのになぁ。」

「ちょっ、ムカつくんだけど!坂本くんだって大人気ない上に感じ悪いよ!偏屈ジジイだよ!」

「ジジイ言うなっ。」

聴こえるのは、歓声とメンバーの声。どんな轟音にもかき消されることなく、耳の奥で、体の中で、鼓動を助長するリズムのように聴こえ続ける。それはV6があるから。それはかけがえのないメンバーがいてくれるから。それは、今ここに自分もいるから。

 

 大切な光は逃さない。毎日、24時間が光なら、渾身のパワーで生き抜いてみせる。そして色褪せない想いを、強く焼き付けるのだ。与えてくれるすべての人に、応えを。共にいてくれるすべての人に、偽りのない奇跡に満ちた未来を。

 

                                          END

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HN:
ごとう のりこ
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非公開
職業:
妄想家
自己紹介:
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