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V6井ノ原快彦氏主演の妄想非恋愛小説を取り扱っております。
No.
2024/12/28 (Sat) 14:56:31

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No.184
2008/04/04 (Fri) 20:38:31

依存指数限界突破~後編です。

Mステ見てます。
ど、どうしたんですか?リーダー!
なんだか異様にワキャワキャしちゃってますが・・・・・。
そしてピカンチ。
随分と懐かしいですねぇ。


出演 : 井ノ原 快彦 ・ 三宅 健





すっかり忘れてたけど、この部屋は住人がすごく短い間だけ住んで、変死体で発見されるいわく付きの部屋だったんだ。

 いわく付きマンションに入居して、2ヶ月と2週間が経った。記録更新!そして昨日を以って会社を表向きは依願退職、実際にはリストラとなりました。さよなら早起き。さよなら朝の通勤ラッシュ。さよならスーツにネクタイ。・・・・・なんて言ってる場合じゃない。ニートは困る。早く次の仕事、探さないといけません。でも今日は休み。明日から頑張ることにしよう。コーヒー飲んで新聞読んで、その間に洗濯機回して、健ちゃんとおでかけできたらいいなぁ。実は雑誌で調べたんだよね、若いOLさんに人気のスイーツの店。ショコラティエ?チョコレート系のスイーツ専門店なんだって。ティータイムにはバイキングがあって、これまた人気。っつーか、チョコレートって食べるには限界あるよね。女の人の体って不思議だ。じゃあ、いいかげん起きないと。平日に朝の9時過ぎまで寝ていられるって、幸せだなぁ。

 朝、だよね?携帯の時計、9時過ぎになってるし。今日って雨?にしてもおかしくない?窓の外、夜みたいに真っ暗なんですけど。何度も時間を確かめてみる。ちゃんと朝の9時になってて、寝ぼけてるわけじゃなさそう。うわ、洗濯したいのに。お日さまいっぱいのところに干したいのに。

 外の状況を確かめてみようとカーテンに手を伸ばすと、その手をふんわりと握りこまれた。始めから気づいていたことなんだけど、健ちゃんの手はひどく冷たい。いや、幽霊なんだから、あたたかかったら逆に詐欺なのか。

「おはよ、健ちゃん。」

「飽きちゃった。」

「は?」

朝の挨拶じゃないでしょ、それ。飽きたって、飽きたって何に?テレビ?

「井ノ原くんと一緒にいるの、飽きた。」

俺か!なんだ、その彼女が別れを切り出すときの苦肉の策みたいな言い分は。あれだけ好き放題やって、飽きたって一方的に言われて、はい、そうですか。なんてあっさり引き下がれるほど、俺は人間できてません。

「何が気に入らなかったの?」

「違うよ。単に飽きた。そろそろ新しい人と一緒に暮らしたい。」

あー、そうきますか。ストレートな理由は、ちょっと気持ちいいけど。うん。で、

「それは俺に、出て行けって言ってる?」

「出て行かなくてもいいよ。だって俺が食べるから。」

理解不能です。

「俺が井ノ原くんの魂を食べちゃうから、まぁ、寝ててくれたらいいよ。痛くも痒くもないし、すぐに終わるし。」

死ねということか?もう用済みだから死ねということか?

「俺さぁ、寂しがりやさんなんだよね。だから死んでも誰かと一緒にいたいの。でも、飽きっぽいところがあるから、こうやって部屋に来た人をさ、とっかえひっかえしてるわけ。井ノ原くんは長かった方なんだけど、やっぱ飽きちゃった。」

や、満面の笑みで言われても・・・

「俺ってね、チョー特別な幽霊なんだ。生きてる人の魂食べたら、いつまでもここに留まってられるの。ま、いわゆる悪霊、みたいな?」

かわいくないですから!言葉の最後を疑問形にされても、話の内容が全然かわいくないですから!

「俺ってさ、取り憑かれた上に殺されちゃうの?それを回避する方法はないの?」

「ない。あるけど面倒くさい。ってかさ、いいじゃん。毎日楽しかったでしょ?いい夢もいっぱい見させてあげたじゃん。」

「そうやって、今までこの部屋に住んだ人も、殺しちゃったの?」

「うん。でもでも、死体がきれいだったのがポイント高いよね。腐る前に発見してもらえるように仕向けたんだ。」

ポイント高いって何基準だよ。殺した時点で減点じゃないのか。

「殺した人の魂を食べてー、また次に人が来るのを待つんだ。格安物件に食いつく単純な人、案外多いからさ。不景気バンザイ!って感じ?で、俺はずっと若いままー。テレビは好きなだけ見れるしー、おいしいものはいっぱい食べられるしー、最高の人生なんだ。」

や、死んでるんですよね?

「何?何か不満?俺が幸せいっぱいなのに、何か文句ある?」

「健ちゃん、かわいそうだね。」

「なんで?」

「もう死んでるのに、天国にいけなくて、かわいそう。」

「・・・・・っ!ムカつく!何それ!チョー冷める!井ノ原くんはっ、そういうこと言わないと思ったのに!最低!さっさと死ね!」

あら、地雷的なもの、踏んだ?っていうか、同じようなこと、言ったヤツいるんだ。あー、被ったか。で、俺、死ぬの確定。健ちゃん大激怒だ。

「井ノ原くんが偽善者で、残念だよ。」

「俺、偽善者?」

「そーだよ!いい人ぶってるもん。幽霊に同情したりとか、マジウザいから。」

さっきの言葉が気に触ったのか。でもさ、成仏できないで人殺しに成り下がってるとか、すごく悲しいと思う。って俺だけか?うーん、幽霊にも難しいお年頃ってあるんだね。

「もしも、さ、天国がすごく幸せなところだったら、健ちゃんは損してなくない?」

「は?何言ってんの?命乞い?ダサいよ、井ノ原くん。」

「じゃなくて、健ちゃんが本当に幸せになれる日ってさ、ちゃんと来るのかなぁって。」

伝わってますかね?

「今が幸せだからいいんだもん。それに天国とか、実在するかどうか分かんないじゃん。」

伝わってません。

「悪いけど、俺は決めてるから。人間なんて信じないって、決めてるから。」

「親も、友達も信じないの?」

「信じない。」

なんだか、聞いてるこっちが泣きそうなんですけど。で、確信した。違和感の正体。いつもどこか、もの悲しそうな雰囲気を纏ってたんだ。

「健ちゃんは、どうして死んだの?」

埒が明かないと踏んで、はっきりと聞いてみることにした。人間を信じられないなんて、なんだか悲しいから。生きてるときは、友達とかいたはずだしね。その友達と喧嘩しちゃったこととか悔いてるなら、ね、そういうの取り除いてあげたいなぁって。あ、これって偽善?また怒られる?

「このマンション、前は児童館が建ってたんだ。俺、そこで殺されたの、友達に。」

本日、2度目の地雷を踏みました。俺ってデリカシーないわ。

「なんで井ノ原くんが泣きそうなの?殺されたのは俺だよ?ずっと友達だよ。とか言ってた奴に見殺しにされたんだよ。っつーか、俺の周りにいた人間、みんなに見殺しにされたんだけどね。」

「・・・ごめん。もういいや。」

「よくない。最後まで話す。俺って鍵っ子で、家に帰ってもヒマだから、いつも児童館で閉館まで遊んで帰ってたの。友達も一緒だったし、すごい楽しかった。けど児童館がさ、火事になったんだ。管理人さんのタバコの不始末で。それで、3階に、あ、児童館は3階建てだったんだけど、3階にいた俺と友達は、窓から逃げるにしても、とりあえず2階に降りなきゃいけないって話になって、階段を駆け下りてたわけ。一緒にいた人たちなんて、すごく逃げるのが早かったね。もうとにかく自分だけは助かりたい。って一心、みたいな?したらさ、3階から声が聞こえたの。すごい小さな声。それを友達に言ったんだけど、戻ったら自分たちも逃げ遅れるから戻ってる暇はない。って言われた。確かにそうなんだよね。すごい勢いで燃え広がっててさ、1秒でも惜しいって状況だったし。でも、無視できないじゃん?逃げ遅れてる人を見捨てるとか、一生トラウマになる。後悔したくなくて、俺は3階に戻った。戻ってる暇はないとか言ってたくせに、何だろうね、良心の呵責だったのかな。友達も一緒に。したらトイレに閉じ込められた小さな男の子が一人ね、まだいたの。でもドアが開かなくて、俺は椅子を持ってきて、ドアのガラスを割って、男の子を引っ張り出したわけ。トントン拍子っぽいでしょ?あとは逃げるだけ。ただ、そこからは最悪。友達は一人で身軽だから全力疾走で逃げた。男の子を抱いてた俺は、早くは走れなかった。当然、逃げ遅れたよ。崩れてきた天井に押しつぶされて、おしまい。俺は焼け死んでしまいました。」

淡々と話せるような内容じゃないのに、どうしてこんなにも淡々と話してるんだろう。って思ったら、すごく泣けた。優しい人がいやな目に遭うなんて、間違ってる。人間を信じられなくなったっていうのも、すごく分かるし。ひどい質問しちゃった。俺ってば最低な男だ。

「ごめん。ホント、ごめん。」

「別にいいよ。井ノ原くんが知らなかったってだけで、当事者の人とか近所の人とかは、きっと知ってることだし。親は喜んでたし。」

「え?」

今、何かさらにスゴイことさらっと言ったような・・・

「始めに言ったじゃん、鍵っ子だったって。ウチの親、離婚調停中だったんだよね。よくさ、ドラマとかで揉めてるでしょ、親権はどっちが取るんだ。子供はどっちのモノだ。って。ウチは逆。どっちが子供のこと責任取るんだって揉めてたの。だから肩の荷が下りて良かったみたいだよ。もう何の心引っかかりもなく離婚できるから。」

うわ、この若さでそんなヘビーな人生送ってましたか。俺のリストラなんて全然かなわないって感じ。って言うか、そういうこと話させるなよ、俺。もう有り得ないくらい自己嫌悪。

「マジでごめん。健ちゃんの心がどれだけ痛かったかとか、考えないで、俺・・・」

「俺の身に起こったことだよ?なんで井ノ原くんが号泣するわけ?」

「だってっ、健ちゃんは何も悪くないのに死んじゃって、ずっと一人ぼっちだったんだよ。俺に幸せな夢とか見せてる場合じゃないのに、仕事とかで落ち込んだときには絶対にいい夢を見させてくれて、すげー優しくて・・・そんな人が幸せになれないとか、悲しすぎるじゃん。健ちゃんが満足するなら、いいよ。俺のこと殺していい。」

それで次のささやかな幸せでも手に入れられるなら、充分に決まってる。

「あんた、いいひとだね。」

「違うもん。」

速攻で否定した。いいひとって響きが好きじゃない。なんか、陳腐。それに、人の心の傷に土足で踏み込む人間の、どこかにいいひとの成分が存在するわけないし。

「あーあ、負けちゃったよ。」

「は?」

「俺ね、今、賭けたんだ。井ノ原くんに「いいひとだね。」って言って、井ノ原くんが否定しなかったら殺す。でも否定したら殺さない。って。」

や、そんな重苦しいこと賭けのネタにされても・・・・・っつーか、殺さなきゃダメでしょ。俺の魂を食べないと、健ちゃんは消えちゃうって聞きましたけど?

「その顔、チョーぶさいく。」

「ぶ、ぶさいく!?」

「まだまだ泣きそうなのに、無理して平気だって感じ出してる顔。」

そんな顔、してるのか?でもってぶさいくなんだ。それは地味にショックかも。

「俺は井ノ原くんを殺さない。代わりに、最後のお願い、聞いて。」

「俺にできること?」

「この部屋、燃やしてよ。」

うわ。放火しろって頼まれました。地縛霊に。

「もしくは3階の一番奥の階段、あそこに花を置いて欲しいんだよね。365日、一日たりとも欠かさず花が咲いてるようにしてて欲しい。」

なんか2つの選択肢にすごく落差があるな。けど・・・

「放火はマズイけど、花なら、置けると思うよ。」

「ホント?絶対に約束だよ。一日だって花がなかったり、枯れたりしないで、ずっと置き続けてくれる?」

「うん。約束する。」

「そっか。ありがとう。」

あ、いいカオ。今の笑顔、最高にいい!まるで、そう、花が咲いてるみたい。

「健ちゃんはさ、やっぱ笑ってる顔がいいね。」

「知ってる。可愛いでしょ?」

自分で言いますか。

「可愛い。スイーツとか似合う感じ。」

「とりあえずさ、明日にでもベランダにある雪割草、置いといて。」

「雪割草?ってベランダに?ないよ。花とか。」

「俺が買って置いたからあるよ。」

ああ、そういう事。幽霊でも花を買いに行ったりするんだ。ま、甘いお菓子食べたり鏡の前でファッションショーしたりするくらいだから、もう驚かないけどね。

「分かった。絶対に置きに行く。でも、明日でいいの?」

「いいの。だって井ノ原くん、今から寝るし。」

って朝なのに寝るんだ?起きたばっかりなのに。洗濯は?

「最後だから、とびきりいい夢、見せてあげるね。」

「とびきりかぁ。楽しみだな。」

「俺からの感謝の気持ち。今まで、ありがとう。」

「そんなの、俺のほうがありがとう。健ちゃんと暮らせて、楽しかった。」

そして溢れかえる花、しみ込んでくる香の香り。次に目を覚ましたときには健ちゃんがいなくなってると思うとなんだか寂しいけれど、誰かを殺すなんて生臭い真似をしてまで、誰かを恨み続けるなんて悲しい想いしてまで存在してるのは辛い。だから、最後の瞬間はそんなしがらみは全部忘れて、

「健ちゃん、笑って?」

「おやすみ。夢の中で、お幸せに。」

 

 入居して4ヶ月経過。世間はすっかり春めいてる。で、俺も春めいてる。なんと、新しい就職先が決まりました。大手お菓子メーカー。すごくない?これも健ちゃんが結んでくれた縁なのかも。ってつくづく思う。そういえば、最後に健ちゃんの表情を見たはずなのに、そのときにどんな顔をしていたのかを思い出せない。就職が決まって、本人がいないから3階の花に報告はしてみたけれど、なんとなく心の中がもやもやして気持ち悪い。俺は「笑って?」と言ったけど、健ちゃんがそれに応えてくれたのか・・・。俺を殺せなかったせいで消えてしまう羽目になって、それで、納得なんてできたわけないから笑っていなかった可能性のほうがずっと高い。とか、考える。せっかく殺さずにいてもらったんだから、前向きにがんばらないといけないんだけど、それはすごく分かりきったことだけど、どこか割り切れないまま。あーあ、健ちゃんがいたら怒られそうな気がする。っつーか、むしろスルー?「ウザい。」ってスッパリ斬られて終わりとか。ま、そこが健ちゃんなんだけどね。ぱぁっと笑って、そう、笑った顔で、いるのが、一番似合ってた。

ときに、いわく付きでなくなった部屋、さっそく家賃の賃上げ交渉に来た大家さんとバトル勃発。確かに気持ちは分かる。だってさ、この部屋はいわく付きだったから安かっただけだもんね。でも今は払えません。仕事が始まってなくて無職だから。ということで、初任給が出たら考えようじゃありませんか。俺は正直に自分の境遇を話して、必死に情に訴えて、大家さんをねじ伏せた。この部屋を出ていくわけにはいかない理由があるから。約束の花をあの場所に置かないといけない。渋々ながら承諾してくれた大家さん、ありがとう。あなたはとてもいいひとだ。

 今日も快晴。お出かけ日和。行き先は、近所にできたカフェ。そこのオレンジタルトが絶品らしい。そう、なんだかクセでスイーツをチェックしてしまう。これ、健ちゃんが好きそうだな。とか気付いたら考えてる。自分では食べないけど。でも捨てるのはもったいないから、大家さんに進呈。男の人なのに、かなりの甘党みたい。というか、食べることが趣味なんだってさ。

 

 余談だけど、雪割草の花言葉、あとで知ってびっくりした。『信頼』なんだって。これって自惚れてもいい感じ?健ちゃんの信頼を裏切らないために俺は、すごくすごくがんばるよ。だから今日も花を見て、笑っててね。花が咲いてるみたいなあの笑顔で、幸せでいてね。

 


 

 

*********************************

 

以下、『童話企画』出展の際のコメントです。

 

今回の話は『幽霊のたのみ』という民話をモチーフに書かせていただきました。幽霊が人間に頼みごとをするお話です。本当は幽霊→井ノ原氏・人間→リーダーだったのですが、設定などを考えていくうちに幽霊が無邪気な核弾頭のような人格になってきまして、気付けば甘いお菓子が好きだとかいうことになり、今回のキャスティングに落ち着きました。多少の(?)傍若無人が許されるのは、やはり健ちゃんですから(苦笑)。

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