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V6井ノ原快彦氏主演の妄想非恋愛小説を取り扱っております。
No.
2024/12/28 (Sat) 15:14:03

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No.177
2008/03/23 (Sun) 16:14:31

Live Show 第40話です。

J-webには早くもオレキミの着メロが登場。
これからは歌番組もあるのかな?


出演 : V6









 4日ぶりに6人が顔をそろえる。2時間も前に到着した井ノ原は、誰もいない、何もない静かな楽屋でたくさんのできごとを思い出す。大きなこと、小さなこと、取るに足らないこと。もう打ち合わせでは定位置になってしまった自分の席になるであろう椅子に腰を降ろし、目を閉じて。目蓋の裏にスライドのように映し出されては消えるそれらは、何をまかり間違ったのかすべてがモノクロで、過去なのだと主張していた。まだしばらくは静寂を失うことがないであろう空間で、より強くあり続けるのは「よしはる」と共有した時間たち。自分が「よしはる」を重ねて取り込んでしまった、大荒れの日々。届かない心の叫びに傷ついて、どうしようもないほどに途方に暮れて大切な人に矛先を向けてしまった日々。なんとなく元鞘に戻りつつはあるものの、これが正しい選択だったのかは分からない。どうしても続きが気になってビデオに録ってまで見てしまったコスモレンジャーには、変わりない日常が戻ってきた。コスモイエローは帰ってきたのだ。一度は顔も見たくないとまで罵ったコスモレッドが差し伸べた手を、取った。その話の中でコスモイエローが照れくさそうに笑って言ったセリフは、自分がよく知るものととても似ていてドキっとした。

「しょうがないよ。悪いのは父さんと母さんだったから。もう、怒ってない。」

子供のパワーに舌を巻く。「よしはる」は答えを知っていた。どういう風に考えることが、道を拓くのかをきちんと理解して見ていた。ただ心に波風を立てて嵐を齎した井ノ原とは、まったく違う。耳を澄ましてその一言一句を拾ってくれた長野にも、不器用なりに一生懸命に歩幅を合わせてくれようとしてくれた坂本にも、ちゃんと届いていたのだ。随分と困らせてしまった年上の二人を思い浮かべて、ふと考える。車に乗れば、まだあの歌は流れるのだろうか。特に長野は、サビの歌詞がいいと何度も言っていた。

「瞳閉じたら闇が キミの笑顔を包んでしまうよ 天空を駆け抜ける翼で 両手いっぱいの星を集めるから 無邪気な笑顔で名前を呼んで キミが生み出す笑顔が力になる 光り輝く未来は In our hand 」

光り輝く未来は、僕らの手の中に。闇が迫ってきたとしても、決して自分たちは諦めることをしない。笑顔を力に変えて、進んでいくだろう。そんな、解釈でいいのだろう。目が眩む。まっすぐすぎる純粋な世界。自分の進む未来は光り輝いていたとして、それを手の中に収めることはちゃんとできるのだろうか?井ノ原は、じっと掌を見つめた。

 とてもとても中に入って平常心で挨拶を交わせるとは思えない。少し早めの時間に到着してしまった長野は、目の前のノブに触れることさえ憚られてただ立ち尽くす。一番なんだろうと考えて入ろうとした部屋の中から聞こえてきた歌声に、ドアを開けるという選択肢を失ってしまったのは、数分前。今、ドアを開ければそこに存在するのは「よし」ではなく「井ノ原」だろう。歌っている調子ですぐに分かった。少したどたどしくて、妙に間延びしていた6歳の時のものとは違う、耳慣れたきれいな歌声。そこまではっきりしているのに、入れない。恐くて。ドアの向こうにあるだろう現実が恐くて気持ちが躊躇っている。井ノ原が還ってきたことは周知の事実なのだから、聞けばいいだけ。どうして今になってコスモレンジャーの歌を?そう、構えずに聞けばいいだけなのに。

「お前さ、スゲー邪魔。」

気の抜けた声と同時に肩口に乗っかってきたものに、硬直していた手の力が抜けた。

「坂本くんは、暢気でいいね。」

小さな棘をたくさん孕んだ言葉を吐かれて、坂本は心外だと言葉にはせずに言い返して、軽く長野の頭をはたいた。

「なんで入んねぇの?」

放たれた直球ど真ん中の質問に、長野は苦笑を交えて答える。

「コスモレンジャーの歌が聞こえたから。」

言いつつ、坂本の反応をうかがう。とてもいやな表情を浮かべるだろうと、思っていたから。しかし坂本は少し真剣な眼をしただけで、質問を重ねてきた。

「ヨシ、いんのか。」

「違うよ。井ノ原が歌ってたの。」

答えを受けた坂本は、平然と笑って長野ごしにドアノブに手を伸ばす。何の躊躇もない行動に、長野は思わず伸びてきた手を握りこんだ。

「何だ?」

「坂本くんは、引っかからないの?」

「何に?」

「コスモレンジャーの歌を、今の井ノ原が歌ってたことに。」

「あー・・・歌ってたってフルコーラス?」

「サビだけ。って、そういう問題じゃ・・・・・」

「お前が好きだって言ったの、思い出したんじゃねぇ?」

確かに、「よし」にその歌が好きか?と聞かれて、サビの歌詞が好きだと答えた。

「昨日のオンエアで、コスモイエローが戻ってきたじゃん。だから記念も兼ねてだろ。」

ちゃんと戻ってきた。いるべき場所に戻って・・・

「坂本くん、コスモレンジャー見てるの?」

「気になったから、見てたんだよ。コスモレッドとすれ違って飛び出しちまったコスモイエローが、ちゃんと還ってくるのか。」

もう一度、仲間とあることを選ぶ瞬間を望んで。

「自分から戻ってきたんだから、スゲエよな。やっぱヒーローになるだけあって、心が強いわ。」

強い心を持った人間だけが手にすることのできる、特別。

「俺が好きだから歌ってくれたのか。」

「お前、自惚れていいぞ。んで、泣きそうな顔はやめろ。」

「そんな顔してない。したとしても、なんか悔しいから坂本くんには見せない。」

二人して交わす、日常の笑顔。開かれるドア。ノブを回したのは、迷いのない長野の手。入る瞬間に少しだけ坂本に背中を押されたことに、心の中で「ありがとう。」と応えた。

 三宅から差し出された紙を受け取った坂本は、その内容を見て少し面食らってしまった。以前に受け取ったものとは確実に違う、きちんと思考を繰り返された上でのそれ。どういう心境の変化があったのか、図りかねて戸惑う。

「再提出は不可って、言わなかったじゃん。」

まだ完全には溶け切っていない感情を不器用に操作しながら、三宅は言い切る。その中に本来の奔放な姿を見た気がして、坂本はずっと強張っていた相好を崩した。

「そうだよな。」

ぽつりと答えれば、三宅はカバンを机の上に放り出して、足早に出て行ってしまった。すでにメンバーは全員そろっている。打ち合わせを始めるということを告げようとして言葉を飲み込んだのは、カバンを置いていったということは、もう一度ここに戻る意思表示だと受け取ったからだ。戻ってきてくれるのならば、少し待つのもいい。やっとで手元にやって来た大切な紙に視線を落として、どんどんと緩んでいく表情に平穏を感じた。

 手元の文庫本から一度も目を離すことのなかった岡田が、一度だけ顔を上げた。目の前で繰り広げられる坂本と三宅のやり取りが終わったときに、隣りで発せられた呟きに反応して。

「あとちょっと。」

それを口にした本人、森田は雑誌をパラパラとめくる動作を続けたまま。何が「あとちょっと。」なのか。聞きたい衝動に駆られるが、じっくりと逡巡し、文庫本の文字列に視線を戻した。きっと聞いても「なんでもねぇよ。」などと愛想のない返事で片付けられてしまうに決まっている。知らなければ世界が終わってしまうわけでもなし、そのうち必要に応じて分かるときが来ればそれはそれで結果オーライ。下手な波風は立てないに越したことはない。平穏な毎日は自分を癒してくれるには充分だし、何より、せっかく三宅が見せた歩み寄りに影が差すのが恐かった。岡田は三宅の様子が変わってしまってから一度だけ想像してみて、全身から心臓に向かって錆びていくような感覚に襲われたことがあった。三宅の欠けてしまったV6。三宅と出会った時間がなかったことになってしまった未来。呼吸が止まるかと思った。それほどの恐怖。きっとそれはメンバーの誰が欠けてしまっても同じことで、二度と考えたくないことに分類する。だから、下手な勘繰りで壊さないように、気を回すことが重要だった。

 相変わらず混迷を続けるアルバムの選曲は、たった一人の意見によってメンバーに複雑な心境を醸し出してしまっていた。これまで沈黙を押し通し、自分で選ぶ20曲さえも適当にあしらってきた三宅の突如の発言によって。

「恋のシグナル。」

これまでの話の流れの脈絡などまったく無視に差し込まれた言葉。ポカンとした表情、特に何の変化も見せない表情、その理由を求める表情、単に意見が出されたことに満足する表情。いくつもの表情が交錯する中、意見を出した張本人である三宅は、多種多様な反応にため息をついて、

「ダメならいいけど。」

あっさりと意見を取り下げた。あまりに拘らない態度は逆に好奇心をそそる。坂本は意見が取り下げられたからといって流してしまうことはせず、手元の紙に書かれた『恋のシグナル』のタイトルをボールペンでトントンと叩いて、三宅をまっすぐに見る。

「言ったんだからさ、もうちょっと食い下がれよ。」

困っているようにも聞こえる声は、どこか甘ったるい。一番年上なのだから毅然と意見を求める立場のはずな坂本は、探るように三宅が何か言うのを待っている。相手の話を聞けるというのも大切だが、時と場合によるだろう。まったく口を開こうとしない二人を見て、やれやれと言わんばかりに長野がやわらかく質問した。

「この紙を見ればちゃんと分かるよ。健は一生懸命曲を選んできてくれたんでしょう?その中でも特に『恋のシグナル』を推す理由は何?」

「言わない。秘密だから。」

即答。物事にはたいていの場合なら理由がある。事情によってはそれが重要なキーになったりするのだが、三宅は微塵も考えることなく、理由を話すことを拒否した。

「俺たちには言えないこと?」

井ノ原が問えば、三宅はぐるりとトニセン3人を見渡し、答える。

「カミセンだけの秘密だから、言わない。言えって強制するなら、この曲は入れなくていい。」

随分と可愛い言い分だった。

「そっか。じゃあ言えないよね。」

こちらもまた即断。井ノ原は一人で納得し、「そっかぁ、いいなぁ。そっかぁ。」とボソボソ呟いている。さすがに年下のメンバーとの接し方を弁えていて、どこまで押すか、どこで引くかを的確に見極めていた。

「いいじゃん。入れとこうよ。カミセンにもさ、いろいろあるんだよ。」

「だね。いいんじゃない?坂本くん。」

井ノ原が全面的に三宅の肩を持ってしまえば、長野も賛同し、もうこれは決定確実だろうという意見を坂本に持ってきた。満場一致という、気持ちのいい決定を求めているのだ。坂本はゆっくり立ち上がると、これまでに決まった曲の書かれたホワイトボードの前に立ち、『恋のシグナル』と書き足した。

「まぁ、俺も久しぶりに聞いてみたいからな。」

付け足すように言ったそれに、一番に「やったぁ!」と歓喜をあらわにしたのはなぜか井ノ原だった。意見の発案者である三宅は、少し安堵したように息をつく。部屋中の空気がこれまで何度も重ねられてきた打ち合わせの中で、初めてやわらいだ。「あとちょっと。」再びの小さな森田の声を拾ったのは、岡田だけ。森田が何に対してその言葉を使っているのか、聞きたい衝動が胸の奥で頭を擡げている。いつか、すべてが完全な元鞘に収まったときに、その答えは明かされるのだろうか。

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