日曜日の夜に更新の予定でしたが・・・・・
平家派同窓会ですっかりフワフワしてしまい、火曜になってしまいました。
面目ないことです。
出演 : 井ノ原 快彦 ・ 坂本 昌行 ・ 長野 博
自分がちっぽけな存在だということは、とても良く分かっている。けれどそれを忘れて、時々図に乗ってしまうのだ。叶わない大きな望みを抱いたり、それが叶わないと知って癇癪を起こしたり。そんな身勝手な自分が大嫌いで、そんな自分がすべての幸せを邪魔しているなんて、とっくに気付いていた。だから、もう消えることにした。いつまでも、あの生ぬるい場所にいることができたら、どれほど心地いいだろう。願ってはいけないことを願ってしまった罰だというならば、自業自得なのだけれど。ここまで理解していて自分自身を納得させようと必死になっているのに、今、視界を遮るのが涙だという厚かましさが、なんとも腹立たしい。傷つかずに住む場所を探していたから、そんなズルイことをしていたから、壊れた。我侭を貫き通そうなんて考えたりしたから、壊れた。夢は終わり。明るい日々は、永遠に終わり。
12年分の思い出はずいぶんな大容量で、メモリーの削除に思いのほか時間を要していた。特にこびりついて離れないのは、あの2人と過ごした時間に関すること。いつだって味方でいてくれたことを利用して、まるで寄生するかのように一緒にいた人。最後に顔も見たくないと言われるほどに、嫌われておけばよかった。突き放されて無視されるほどに、嫌われておけばよかった。自分のツメの甘さに呆れる。
(ああ、でも最後があの2人の怒った顔だったら、辛くて死んじゃうかも。)
なんて自分を甘やかすようなことを思ってしまって、気付く。
(死ねばいいのに。)
存在そのものが亡くなれば、誰にも迷惑はかけないで済む。とても簡単な方法。それを実行に移すならば、もう、ここでもいいのかもしれない。そう考えて窓からベランダへ出る。砂埃がうっすらと積もった手すりに座れば、夜風が髪を揺らす。手を伸ばせば、もういいんだよ。そんな優しい言葉を継げて、向こう側の自分が手を差し伸べてくれるような気がした。心が軽い。もう重たい鎖を纏わなくてもいいと、言ってもらえたようで。目を閉じる。どこかで車が急ブレーキを踏む音が聞こえる。音も色もない世界は、どんな風なのだろうか。失うけれど、恐くない。両の掌にしっかりと、手すりと身体を離すように、力を込めた。浮き上がって・・・・・
「打ち合わせサボって夕涼みとは、いい度胸じゃねぇか。」
とてもよく知る大きな掌に、身体は抱きすくめられた。落下できない。終われない。どうして邪魔をするのだろう。消えてしまって当たり前の、存在なのに。
「バカだね、井ノ原は。かくれんぼなら、もっと上手に隠れなきゃ。」
そんな生易しい話じゃない。
「とにかく部屋の中に入るぞ。寒い。」
そうやってはぐらかされるわけにはいかない、今日は。
「入らない。」
「は?」
「今日ってさ、打ち合わせでしょ?どうして2人ともここにいるの?俺に構ってる暇なんて、ないと思うんだけど。」
とても冷たく言い放った言葉は、手すりから井ノ原を引き摺り下ろそうとしていた坂本の手を、引っ込めさせる。それでいい。それがいい。くるりと坂本に背を向け、井ノ原は手すりの上に立ち上がった。これでおしまい。なんて心の中で呟いて、手すりを軽く蹴れば、また別の手に引き戻される。そのまま部屋の中へ小脇に抱えられて強制連行。粗雑にソファに放り投げられた。
「いいかげんにしないと、怒るよ?」
力のこもった声は、感情をストレートに露呈させているらしい。長野は普段の笑顔などすっかりしまいこんでしまっていて、隣に立っている坂本がおろおろと視線を泳がせていた。それでも仕方なくソファに座りなおした井ノ原に視線を合わせてくるあたり、充分に甘い扱いなのだが。
「健のことは、俺たちが全面的に悪い。井ノ原も含めてね。だから3人揃ってちゃんと話してあげないと、納得できないでしょ?岡田を振り回したこと、健だけじゃなくて、剛にも隠してたこと、何一つ解決してないのに、こんな風に勝手に終わらせるなんて、認めない。だいたい、V6が大好きだっていつも言ってるのは井ノ原じゃん。俺や健のこと捨てないっていうなら、最後までちゃんとやり通しなよ。」
「だって、俺がいたら・・・」
「お前だってV6のメンバーだろうが。何度言わせる気なんだ?お前一人が欠けても、V6は成立しねぇよ。だから、俺はいい。とか思うな。」
そうだ。坂本も長野も知っている。井ノ原が浮上できる言葉を、たくさん。何度もそれに、助けられたり守られたり支えられたりしてきたのだ。そんな2人が今は本気で怒っているのだから、コチラが相当悪いな。と、井ノ原はどこか客観的に状況を把握しようとしていた。そうしていないと、声を聞き取れないから。心の中が掻き乱されている、今は。
「坂本くんがリーダー代わってくれって言ったときも、こうやって井ノ原を繋ぎ止めようとしてるときも、思ってることは同じだよ。俺はね、壊れてから後悔するのはイヤだ。そんなことになるくらいなら、どう思われたっていい、本気でぶつかってやろうって。」
今回のトラブルに遭遇してから、井ノ原は長野の普段ならば決して聞くことのできない本音を、たくさん聞いていると思った。そして同時に、自分も奥のほうに隠していた部分を、随分と露呈させてしまっているな。とも。
「お願いだから、俺たちの前からいなくならないで。」
一連の流れの中で、一番強い口調だった。長野は自ら言ってしまった。トラブルメーカーを至近距離に抱え込むのだと。これほどまでに深く関わってもらって、井ノ原は悪い気はしていない。ただ・・・・・ただ、そんなにも自分を思ってくれる人たちにしてあげられることを、優先的に考えると行き着くのは、
「それは、坂本くんと長野くんが迷惑を被るって分かって言ってんの?」
「被らないから言ってるんだ。」
まっすぐに坂本が、まるで敵に睨みをきかせるような勢いで見つめるから、井ノ原もその視線をそらすことなく応える。初めて見たときの直感。薄々分かっていた。坂本はきっと、誰にも容赦などしないだろうと。一度触れれば、そこから抉るように、深く入り込んでくるだろうと。それでも傍にいることを選んだのは、それは、
「坂本くん、手、握ってもいい?」
言えば差し伸べられる、確かなこの手があたたかかったからだ。弱くなってしまった自分に呆れる。独りになろうと硬く決めていたはずなのに、またこうして手を取っている自分に。
「この手のせいで、俺はいつもV6に引き戻されちゃうんだよね。ホント、全然敵わない。」
けれどきっと、これから先の長い道のりの中で自分は、この手を拒むことなど天地がひっくり返ろうともできないだろう。
「たからものなんだ。」
一度も口にしたことのない、本当のこと。
「ねぇ長野くん、頭、撫でて?」
五感を研ぎ澄ませて様子をうかがって、必死に探すのが癖だった。2人の温度を確認するのが、いつの間にか自分の心を溶かす儀式であるかのように。
「いくつになっても、よっちゃんは甘えんぼだね。」
これから先の長い時間の中で、暗い場所へ道を誤ることもあるだろう。けれど、
「俺、まだ笑えたよ。」
たからものは手放さないと、決めた。
「お前の手くらい、何度だって握り締めてやる。長野だって、お前の頭を撫でるときが一番優しい顔してんだ。井ノ原、V6もまだ、捨てたモンじゃないだろう?」
「うん。」
最期のシーンは、しばらくお預けのようだ。
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