DVDが発売となりました。
もう剛ちゃんの言葉は名言の域ですね。
「死ねばいいのに。」
仲良きことは素晴らしい!
出演 : 井ノ原 快彦 ・ 長野 博
けたたましい音が部屋中に響き渡る。驚いた6歳の井ノ原は、ビクッと肩をすくめ、探るような視線を長野に向けた。その音を発生させた長野は、食器棚から出そうとした皿を落下させ、とても困ったような視線を井ノ原に返している。
「どうして急に、そんなこと聞くの?」
おかげで、手前の皿を一度出して奥の皿を取り出したかったが、どちらの皿も手の中から滑り落ち、床で無残な末路を迎えてしまった。
夕食の準備に2人で勤しんでいた。あとはオムライスを仕上げるだけなので、井ノ原にスプーンとフォーク、ランチョンマットをテーブルに並べてくれるよう頼んで、長野は皿を出そうと食器棚を開け、オムライスなら奥の丸い皿のほうがいいかな。などと物色中。つい今までコスモレンジャーを見ていた井ノ原はおなじみの主題歌を機嫌よく口ずさんでいたが、それが止まったかと思うと、対面式のカウンターから顔をのぞかせ、言ったのだ。
「もしもおとーさんがながのくんのおとーさんとおかーさんをころしたら、ながのくんならどうする?」
あまりに物騒な質問に、思わず長野は皿を取り落とした。フローリングの床へと落下した皿は、すべてが利用価値のない陶器の破片に成り下がってしまう。振り返れば、大きな音にビックリしたのか、おびえたような表情を浮かべた井ノ原が探るように長野を見ている。長野はその視線に曖昧に苦笑するしかなくて、とりあえず聞いてみる。
「どうして急に、そんなこと聞くの?」
「コスモイエローのおとーさんとおかーさんは、てきだったんだ。だから、コスモレッドがたおしたの。わるいやつはたおさないとだめだもん。コスモレッドはわるくない。でも、コスモイエローがおこって、コスモレンジャーやめちゃったの。もうかおもみたくないって。ながのくんもおとーさんのことおこる?かおもみたくないっていう?」
厄介な質問である。そもそも、特撮ヒーローの話を日常に置き換えることからして難しい。仲間の両親が敵?そんなシチュエーション、そうは遭遇しない。ただ、あえて言えることがあるのだとしたら、
「怒るとは思うけど、俺なら逃げないな。だって、それなりにワケがあったんでしょう?」
「にげたんじゃないよ。やめたんだよ。」
「うーん。あのね、コスモイエローはちゃんと分かってると思うよ。コスモレッドがやったことは、正しいことだったんだって。」
「けどっ、すごくおこってたもん。」
「じゃあね、もしも、俺がよっちゃんのお父さんを殺したら、よっちゃんはどうする?お父さんが悪いことをしてるって知っちゃったから、殺さなきゃいけなくて、殺しちゃったらどう?」
長野の質問に、井ノ原は口をへの字に曲げて考え込む。子供にするような質問ではなかったかもしれない。とも考えたが、井ノ原は意外と思慮深くて利発だ。だから一生懸命に考えて、出してくれた答えを聞いてみたくなった。うんうんと、必死で考え中。助け舟は出さない。答えを出してくれるのを、ただじっと待つだけ。暫しその様子を見守っていると、ハッとした表情を浮かべた井ノ原が長野を見た。
「しょーがないからおこらないよ!わるいことしたおとーさんがいけないんでしょ?だったらしょーがないことだから、よし、ながのくんのことおこらないよ。ちょっとは、もんくいっちゃうかもしれないけど。」
「うん。今ね、よっちゃんは考えたでしょ?その考える時間がね、たくさんいる人もいるんだ。コスモイエローは考える時間が、たくさん欲しかったんじゃないかな。でも、お父さんとお母さんを殺したコスモレッドが傍にいたら、ちゃんと考えられないと思って、出て行ったんだよ。だからね、きっと帰ってくるよ。よっちゃんみたいに、答えが分かったら、帰ってくる。」
「じゃあ、ながのくんは?」
「俺?俺も同じだね。多分、一人で考える時間が欲しいかな。でも、最後にはよっちゃんのお父さんと仲良しに戻るよ。」
「よかった。おとーさんとなかよしのながのくん、よし、だいすきだから。」
安心したように言う井ノ原に、長野は懐かしさを感じる。昔、デビューして間もない頃、同じようなことを言われた記憶があった。
「2人って、一緒にいると、なんかいいよね。俺、好きだな。」
ふいに笑いがこみ上げてくる。青臭くも、デビュー前からかわいがってきた弟分の理想に応えてやろうと、なんとなく2人でいることを意識していたあの頃が、蘇って。そういう演出的な意味で言ったわけでないことぐらい、冷静になって考えればすぐに分かるはずなのに、必死にそういう井ノ原が理想とする2人を壊すまいとしていたことを。
「ながのくん?」
「ん?ああ、ごはんにしよっか。オムライス、ケチャップで名前は?」
「かくー!」
子供向けの番組も侮れないな。などと考えながら、動こうとした途端に耳に入った「ジャリ」という音に、押元に視線を落とした。そういえば、食器を破壊したのだ。けれど長野はそれらを足先で隅っこに追いやって、目をキラキラさせてコチラを覗き込んでいる井ノ原のために、オムライスを作ることを優先させることにした。割れた皿の総数7枚。やはり久しぶりに6歳の井ノ原と話をするから、ブランクがあったのか?と、健在な奇想天外ぶりに、心の中で舌を巻いた。
目に映るのは見慣れた天井。けれど、自宅のものではないそれ。井ノ原はゆっくりと体を起こし、自分の置かれた状況に笑ってしまう。6歳の人格が出てきて、長野の家に泊まったんだっけ。なんて思い出して、ついでに、その前にあった出来事も思い出して、気分が沈む。たからものを見つけた。そこに長野が登場して、宥め賺された挙句、差し出された手を取ってしまった。帰ろうなんて言ったりして、簡単に元に戻れるはずなどないのに。大切な写真が手元にやってきて、浮き足立って油断していたからだろう。あっさりと長野の言葉に絆された。ちゃんと自覚はしている。V6が本当に大切で、その中にいることが普通の日常は、絶対に失いたくないものだ。でも違うから。もう、以前とは違う。自分で離れた。一日にも満たない時間に、写真を見つけることができて、長野が手を取ってくれて、岡田が待っていてくれた。それだけで、いいと思う。どうしても許せない自分を、幸せな場所に連れてはいけない。
とてもあたたかい時間を長野と過ごしたリビング。今はひっそりと静まり返って、温度を失った空間。長野が起きる前に帰ってしまおうか。などと考えながら、井ノ原はリビングのテーブルに腕を組み、顔を乗せる。「よし」が見ていたコスモレンジャーのエピソードを思い出した。長野に話したときには、コスモイエローがやめた。という話しかしていなかったが、実は次の回も見ていて、井ノ原にとってはそちらのエピソードのほうがずっと印象深かった。コスモレッドに腹を立てて出て行ってしまったコスモイエローは、自分を迎えに来たコスモブルーに言うのだ。もう自分には、帰る場所はない。と。コスモレッドに激怒してしまった時点で、自分は仲間の信頼を裏切ったのだから、もう戻ることはできない。そう言って、走り去ってしまう。そのときコスモイエローは「後悔しています」と、はっきり顔に書いてあるような表情を浮かべていた。本当は戻りたい。けれど、戻れない・・・・・自分と、重なった。V6であり続けたいと願ってはいるけれど、これまでに自分がしてきたことを考えると、そんなに都合よく元鞘なんてことはできない。長野と岡田は迎えに来てくれた。でも坂本を、長野を、岡田を振り回し、たくさんの言葉や行動で傷つけた事実を消すことはできないのだ。戻れるはずがない。自分の中で、双方の感情が交錯している。どちらが正解なのか、誰かが教えてくれればいっそ、そのとおりに進んでも構わないとさえ、思えた。思考は迷走するばかり。
「よっちゃん!」
考えれば考えるほど泥沼に沈んでいく井ノ原を引き戻したのは、悲鳴にも近い長野の大きな声。声に反応して長野のほうへと首だけを向ければ、長野は泣き出しそうな顔を綻ばせ、へなへなとその場に座り込んでしまう。そういえば、こんな夜だった。「よし」が死のうとしたのは。
「長野くん、俺、醤油とか飲んでないから大丈夫だよ。」
言えば、オロオロと視線を泳がせた長野は、ゆっくりと井ノ原の元へやってきて、隣に座る。眉を顰めて、相変わらずの泣き出しそうな表情で、呟いた。
「そういうこと、笑顔で言わないで。」
「でも俺・・・・・ごめん。」
「うん。」
でも俺は今「よし」じゃないよ。そう言いかけたが、言わなかった。同じことだから。どちらであろうと、長野はこの表情をしただろう。ならばできるのは、謝罪だけ。ぴたりと寄せられた肩はすっかり強張り、井ノ原の温度を確かめるように少し、押し付けている感じさえする。ここから先、朝までこうしていれば長野は安心するのだろうか?そう考えもしたが、それでは同じことの繰り返し。甘えの堂々巡りに過ぎない。井ノ原はとても軽く長野の肩を押し返し、ゆっくりと立ち上がった。
「俺、帰る。」
「帰るって、こんな時間に?」
長野の言うことは当たり前。時計は深夜三時にさしかかろうという時間。しかし、これ以上は居られない。もとい、居てはいけない。
「どうせ着替えに帰らなきゃだし、だったら、今から帰るよ。」
「どうやって?」
「んー、のんびり、徒歩。夜の散歩も、悪くないでしょ。」
「送っていく。」
「いいよ。」
「危ないから送っていく。」
「大丈夫、本当に大丈夫だから。」
明るくて軽めの口調と笑顔を心がけた受け答えをしながら、井ノ原は私服へ着替え始める。長野はその場から動こうとはしなかった。ただ、じっと着替えている様子を凝視して、ふと見れば、井ノ原が脱ぎ捨てたパジャマの上着をぎゅっと握り締めている。言いたいことはたくさんあるけれど、あえて黙っているのだと無言の抗議でもしているかのように。なるたけそれが視界に入らないように心がけて、それでも一度だけ目が合った。
「帰って寝るの?明日、寝過ごしたら承知しないからね。」
「うん、明日はちゃんと行くよ。」
着替え終わった井ノ原は布団を畳もうとしたが、長野が座って動かなかったのでそのまま置いておかせてもらうことにした。長野が訝しがるのも当然の結構な距離を歩いて帰るかと思えばかなりの運動だが、朝までここにいて、顔を突き合わせて朝食を食べる気にはなれない。短く息をついて、リビングを後にしようとした井ノ原には、かすかに聞こえた気がした。
「明日は。って。」
長野のとても小さな声。じゃあ次は?きっと、そう聞きたいのだろう。
(次なんて、分からないよ。)
心の中で答えてみた。近付いたはずの互いの距離が、急に遠退いたと実感する。遠退いたからこそ、一人で考えて道を選ぶことができるのだ。
「今日はホントにありがとね、長野くん。」
帰り際、元気いっぱいの声で告げた言葉に、返事は返ってこない。玄関のドアを開けると、冷たい空気が待ち構えていたように、井ノ原を包んだ。なぜか、背中から聞こえたドアの閉まる音に、ビクリと反応してしまう。しばらく、いや、数秒だけだったかもしれないが、井ノ原は思わず振り返って見つめてしまったそのドアから、目が離せなかった。
(始めは何とかなるような気がした。だから隠してたんだ。本当だよ。)
言えない本音は、独りで歩く夜道に溶かす。こうやってごまかして、明日も仕事場では、みんなの前ではちゃんと笑えるといいと、井ノ原は自分に言い聞かせた。
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