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V6井ノ原快彦氏主演の妄想非恋愛小説を取り扱っております。
No.
2024/05/05 (Sun) 19:10:34

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No.167
2008/03/01 (Sat) 23:29:23

Live Show 第32話です。

プロデューサーズが無事千秋楽を迎えたそうですね。

みなさま、お疲れ様でした。


出演 : V6







 ピリピリとした井ノ原の緊張感を背中に受けながら、坂本は振り返ったりはせず、ゆっくりと廊下を歩く。仕事場に移動する車の中で、異様なほどに不安定な息遣いの井ノ原に気付いて具合が悪いのか?と聞けば、井ノ原は困ったように笑って、その笑顔とは裏腹にとても軽い口調で答えた。

「緊張してるかも。呼吸の仕方、忘れそう。」

ふと、忘れがちだった重要な事実を思い出した。井ノ原は警戒心が強い。人見知りが酷いのも、きっとそのせいだ。慣れてしまえば誰よりその状況を楽しめるが、弱いメンタル面はいつも隙だらけ。些細なことで、大きな亀裂が容易く発生する。まっすぐにお目当ての部屋を目指していた坂本は、クルリとUターンして元来た廊下を逆送し始めた。

「坂本くん?」

「どうせ遅刻なんだ。寄り道していこうぜ。」

小さなイタズラを思いついた子供のように笑って言う坂本に、井ノ原の脳裏には笑顔で怒りのオーラを放って迫ってくる長野が安易に想像できて、思わず迷いもなく逆送を始めようとした坂本の腕を掴んだ。

「大丈夫だって。」

「けど、もう2時間も遅れてるし、多分、長野くんが恐ろしいことになってそうだし・・・」

「ま、それはそれだ。」

「ダメだよ。行かないと。」

「行かねぇとは言ってないだろ。ちょっと寄り道するだけだ。」

井ノ原の申し出を聞き入れようとはせず、坂本は鼻歌交じりにタバコなんかを取り出している。強引に止めるべきか、もう割り切って乗ってしまうか、おろおろしていると、掛けられた声。何となく安心して、井ノ原は声のほうを振り返る。

「重役出勤とは偉くなったじゃん。」

少し疲れた風な声色の森田。非難めいた視線は、当然のものだと思う。

「打ち合わせは?」

「休憩。2時間もぶっ続けだし、休憩もするっつーの。っつーかさ、2人も行ってみたら、あの部屋。スゲーから。」

「スゲー白熱してる?」

「長野くんが、頑張って進めようとしてる。けどさ、健がダンマリ決め込んでて、岡田が必死で話を展開させようとしてて、ほら、俺ってあんまり発言しないじゃん?空回りの連鎖反応で、ものすごい思い空気になっちゃって、んで、堪んなくなって休憩。」

「健、どうかしたのか?」

「知らねー。てかさ、あんたら遅刻してんのに、言うことなくね?」

「ああ、ごめん。俺のせいで坂本くんまで遅刻しちゃった。」

「いいけどさ。」

言いながら、森田の視線が向くのは廊下の先。重苦しい空気に覆われてえもいわれぬ状態になっているであろう部屋が、その先にはある。

「ま、悪いと思ってんならさ、俺が戻ってくるまでにあの空気、何とかしといてよ。」

確かに2時間もの大遅刻をしたわけだが、とんでもない代償が降りかかってきた。頷きながらも井ノ原は、坂本に意見を求める視線を向ける。これまで散々メンバーを振り回してきた自分が意見するのは、違うと考えたからだ。坂本は何か言いたそうな目で森田の背中を見送っていたが、小さく「よっしゃ。」と呟くと、みんなを引っ張るリーダーの表情を浮かべて言った。

「行きますか。」

まるで果し合いの場にでも向かうような気合を見せた坂本に、井ノ原は思わず笑ってしまった。同時に、心地のいい熱さだと感じる。この背中を目指して歩けば、大丈夫。そんな確信をずっと抱いてきた。立ち止まったり、迷ったり、逆送したりと忙しないけれど、最後にはちゃんと、進むべき道を示してくれる。信じて揺るがない背中。本当は打ち合わせに場に顔を出すのは恐くて仕方ない。拒絶されたら簡単に諦めてしまいそうな自分に気付いている。心が弱いせいでメンバーに被害を及ぼしてしまう自分が、大嫌いだ。そう。もしかしたら自分は今回のことにかこつけて、本当は・・・

「行くぞ、井ノ原。ムードメーカーのお前がいないと、場が白けて大変みたいだし。」

「剛はそんなこと言ってないよ。」

「言うわけないだろう。あの照れ屋で強情っ張りなヤツが。でも、ちゃんと分かってる。お前が必要なことはな。」

「それは坂本くんの憶測でしょ?」

「失礼だなぁ。憶測じゃなくて、長年リーダーやってる人間のカンだぞ。お墨付き。」

誰の?などと心の中では突っ込んだが、自信たっぷりな坂本の笑顔に絆されておくことにした。それもきっと、悪い選択ではないだろう。顔を上げれば、目の前の廊下がなんてことない存在に映る。さっきまでは重苦しく見えていたそれが、嘘のようだ。井ノ原は前を歩き始めた坂本に肩を並べて歩く。これならば煮詰まった打ち合わせも乗り切れる気がする。

 前言撤回。空気は重苦しいの一言で片せないほどに澱んでいて、2人を見るなり安堵した表情を見せた長野が妙に強い印象を与える。先に中へ入った坂本の背中越しに見えた室内のとんでもない雰囲気に、井ノ原は中へ入ることを激しく躊躇う。こんなところに自分が居合わせれば、火に油になりかねない。

「遅れて悪かった。」

坂本が言えば、長野だけが応えた。

「おはよう、坂本くん、井ノ原。」

言われて「ビクリ」と肩を跳ね上げる。心臓を鷲みにされたような気がした。

「あのっ、俺のせいで、遅刻して、ごめん。」

自分に掛けられた挨拶を無視するわけにもいかず、井ノ原はたどたどしくも言う。スッと目の前が開けた。坂本が中に入ってしまったらしい。そうなればストレートにすべてが見えてしまって、慌てて顔を伏せた。

「おはよう、いのっち。立ってんと入れば?」

所在なさ気にしているのを見かねたのか、岡田が井ノ原を促した。ここまできては逃げ出すわけにもいかず、長野が手招いてくれたので中へ入り、隣りに座る。打ち合わせといえば、もっとワクワクするものだったのに、今日はまったく違う。無理矢理な感じが否めない。特に、そう、三宅の放つ空気。森田が黙り込んでいると言っていたが、黙り込んで俯いている上に、構うなオーラを全身に纏っている。普段から井ノ原が過剰に構えば「ウザい!」などと暴言で抵抗を見せてはいるが、今日はそれどころのレベルではない。拒絶。言うなれば、デビューして間もない頃と同じくらいに、距離を置いている。チラリと長野を見ると、1枚の紙が差し出された。V6の曲目がつらつらと書かれて、それは三宅の字だ。今回のアルバムのために20曲をピックアップしてきたものだろう。どんな曲を選んできたのかを視線を落として、愕然としたのだが。デビュー曲から順番にシングルを19曲と、カミセンのシングル1曲。明らかに、選べと言われて仕方なく曲名を書き連ねただけ。これを見せられれば、長野も困惑するしかない。三宅はこんないい加減なことをする人間ではないし、こういう風にしてしまった要因が必ずあるはずだから。自分が勝手にテンパっている間に、何があったのか。三宅に視線を移せば、覇気どころか、やる気のかけらさえもない。ただ、そこにいるだけ。この場で言及しても無意味なことは分かっている。仕事以外の場で、三宅と話す時間が欲しいな。と井ノ原は思う。V6という存在のことを、V6にいる自分たちのことを、話したいと。そうすれば、風向きが変われば、選ぶ20曲も変わってくるはず。思い入れの強い曲たちばかりで、どれを選べばいいのか頭を抱えてしまうという楽しさが・・・・・

「あっ。」

「どうした?」

井ノ原が上げた小さな声に、反応したのは坂本。しかし井ノ原は口ごもる。肝心なことが頭の中からきれいさっぱり消えてしまっていた、などと言えるはずもなく、

「えーと・・・」

「何だ?何か思いついたんじゃないのか?」

「いや、あの、ね。えーと・・・言っても怒らない?」

「どうしたの?井ノ原。良くない話?」

聞き手になってくれようとしている坂本にも、穏やかに問いかけてくれている長野にも、とても言い出しにくいことだった。これは以前に言われていたことで、当たり前のことで、

「もしかして、まだ20曲を選んでへんとか?」

文庫本に視線を落としたまま平然と告げられた岡田の言葉に、井ノ原は勢いよく立ち上がる。

「どうして分かるんだよっ。」

「やってさ。」

カマを掛けられたらしい。ハッとして長野と坂本に交互に視線を向ければ、満面の笑みを浮かべた長野が井ノ原を見上げた。

「今日まで。って言ったよねぇ?変更はできるけど、とりあえず今日までに第一案は持ち寄ることって、言ったんだけど、それはシカトしたのかな?」

「ごめん、なさい。」

泣きそうだった。何もかもがうまくいかない。いつも通りを意識して応対してくれているはずの長野の声が、胸にちくちくと刺さるような気がして、言葉を選べなくなる。

「忘れてたのか?それとも、どうしても選べなかったのか?」

続いて坂本も助け舟を出してくれるが、やはり、何を応えてもしっくりこない気がして、答えがあるのに声にできない。

「候補は上がってるのか?だったら言ってみろ。」

資料の裏紙にペンを滑らせようとする坂本に、井ノ原は首を左右に振った。決めようと思った。次の打ち合わせまでに選んでおかなければならないと、頭を悩ませて時間も割いた。けれど選べずに時間だけが過ぎてしまい、さまざまな思考を行ったり来たりしているうちに忘れてしまっていた。そう、さっき映画を見ていたときにはもう、曲を選ぶことなんて頭の中になかった。

「しょうがねえな。他のヤツは全員出したのか?」

「俺と岡田と健は書いてきたよ。剛は、ね、書いてきたというかなんというか・・・」

「なんだよ?」

「これ、見れば分かるんだけど・・・」

長野が坂本に渡した紙には、森田が選んだ曲が書かれていた。けれど、

「7曲しかないぞ。」

「あとはね、みんなと考えるって。」

確かに難しい課題だったかもしれない。これまでに自分たちが歌ってきた3ケタに上る局の中から、たった20曲だけを選ぶ事は。こうなることを予想していなかったわけではなかった。坂本だって悩んだ挙句やっとで20曲をピックアップしたが、みんなと話し合って決めることになるのだから、大体でいいと考えていた。

「じゃあ今から、全員でディスカッションしながら決めるか。」

どうしてスムーズに事が運んでくれないのか。メンバーの誰もが不協和音を醸し出していて、あまりにも不自然だ。井ノ原のことで頭がいっぱいになりつつあった坂本は、思い知る。倦怠期とでも言うのか、とても重要な分岐点に、全員が立っているのかもしれないことに。井ノ原から手渡された三宅が書き出した20曲を見て、坂本が絶句したのは言うまでもなく、曲についてディスカッションする以前の問題だと痛感した。12年間、前だけを見て走ることに心血を注いできたつもりだ。V6を疎かにしていたつもりはない。ただ、それはあくまでつもりであって、実際にそうであったのかと問われれば、現状が答。バラバラと散らばった噛み合わない個々のピースになりつつあるメンバーが、答そのもの。困り果てた長野、泣き出しそうな井ノ原、自分の周りに高い壁を作る三宅、冷静であろうと虚勢を張る岡田。ちゃんと全員を見ることができていなかったと自責の念を強めながら、坂本はドアを見つめる。森田はどうなのだろうか。一番、マイペースを守っているようには感じるが、やはり何か不具合を心に抱いているのだろうか。

(大丈夫だ。こんなことで壊れるほど脆弱じゃない。)

自分に言い聞かせ、気を張り、坂本は用意してきたV6の全楽曲リストをメンバーに配る。話をすれば、腹を割って話をすれば、道は切り拓けるはず。今までだって、そうやってきたのだし。

(大丈夫、信じることをやめなければ、大丈夫。)

 嫌な空気から開放されて、少し気持ちが切り替わったような気がして楽屋に戻った森田が目の当たりにしたのは、さっきと変わらず重苦しい雰囲気。坂本と井ノ原が加わったことで何か進展があるかとささやかな期待を抱いたが、それは叶わなかったようだ。本当は坂本に、メンバーに自分が望むことを言いたかった。それを言わないのは、まだ捨てていないから。捨てる気には到底なれないから。

(頼むよ、マジでさ。)

一番長く一緒に居る三宅に何も言わないでいる自分が、本当はもどかしい。ただ、切なる理想を貫き通してみたいという気持ちが強くて、勝手に賭けていた。激しく揺らいでいる本音が零れ落ちそうなのは分かっている。が、もう少しだけ待ちたい。臆病な自分に、確証を与えて欲しい。それができると過信しているのは、エゴかもしれないけれど。

 消えてしまうことを恐れて、想いは心の中に包み隠す。失って、後悔して、苦しい思いはしたくないという願いは、時間が薄れさせてしまうのではないかという不安。見えない誰かが侮蔑しているかのように、視界のない道は続く。

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