Mトピでナポリタンが紹介されてましたね。
いよいよ来週発売です。
出演 : 坂本昌行 ・ 長野博 ・ 三宅健 ・ 岡田准一
セピア色の古い映像のような思い出の中には必ず、V6という居場所があった。一緒にいることが当たり前の仲間がいた。今となっては、その顔をよく思い出せない。ほんの3日前に、収録で会ったばかりなのに。一番新しいCDを目の前に置いてみた。
坂本くん。リーダーでトニセン。歌もダンスもメンバーで一番上手くて、しっかり者の割には異様に恐がりで、ときどきおじいちゃん。
長野くん。トニセン。メンバーで一番の情熱家。自分のやりたいことや興味のあることに関してはとことん追求する。笑顔がやわらかい。
井ノ原くん。トニセン。メンバーのムードメーカーで歌とお芝居が上手くて、人付き合いも上手。カミセンとトニセンを繋いでくれる人。
剛。カミセン。クールな努力家。照れ屋なせいで無愛想だけれど、笑ったり、怒ったり拗ねたり、本当は子供みたいに感情表現が豊か。
岡田。カミセン。メンバーで一番の器用で、映画にドラマに大活躍。天然だけれどしっかり者できっと、誰より面倒見がいい。
まだ言える。メンバーの名前だとか個性だとか。ただ、こうやって何かを見て確かめなければ、顔がよく思い出せないだけ。三宅は指先でぱちんと、自分を弾く。この人は、誰だろう。かつて井ノ原に長所を指摘してもらって引き上げてもらった。あれは夢だったような気さえ、する。三宅健とは誰なのだろう?どんな人間なのだろう?みんなから省かれるくらいなのだから、きっとたいした人間ではないのだと思う。だったらどうして、今でもまだV6のメンバーに含まれているのか。それは卑屈な感情ではなく、純粋な疑問。
(明日会ったら、剛に聞いてみよう。)
自分という人間は本当に、必要だからV6にいるのかを。
ノートパソコンの液晶は、どれほど穴が開くほど見つめても、表示されている情報が変わることはない。動画やチャットでもあるまいし、当たり前なのではある。が、ここに書かれていることは果たして本当だと信じてもいいことなのだろうか。と、岡田は先ほどから読んでは首を捻り、思慮にふける。という作業を繰り返していた。これまで必死に追いかけ続けてきた重要な手がかりを、根底から覆すような話。これが事実ならば大きな発見で、しかし同時に、手持ちのネタの一番の核を壊されることになる。
(今さら振り出しとか、勘弁してくれや。)
などと自分に突っ込みを入れながら、情報を発信しているソースの信憑性についてへと思考を展開させた。何もせずに見つめていたって話は進まない。
『最後の晩餐』の所在を掴んで、小躍りしそうなくらい心が浮上した。これで井ノ原に大きく近付けたと思った。ほんの、2分ほどのことだ。添えられている詳しい説明を読んで、すぐに嘘だという否定の言葉が浮かんで、先ほどからこうして、何度も何度も読み返している。ティツィアーノ・ヴェチェリオ作『最後の晩餐』を最近、オークションで落札したという、オーストリアの資産家のコレクション自慢的な記事を。ご丁寧に鑑定書の写真なども添えてくれているのだから、ほぼ本物であるのだろう。そして本物ならば、決して井ノ原の手の届かないものということになる。なりふり構わず欲して止まないものを、やっと見つけることができたのに。
(じゃあ、いのっちって・・・・・)
湧きあがるのは当たり前の疑問。では井ノ原が探しているのは?考えられる可能性を頭の中に並べてみる。実際に動いている出来事なのだから、答えはどこかにあるはずだ。その答えが示すのが、井ノ原の行き着く先。パソコンの画面をプリントアウトし、岡田は携帯電話を手に取った。呼び出すのは、きっと井ノ原に関して一番情報を持っているであろう長野の名前。一人で悶々と悩んでいても埒が開かない。こんなことの繰り返しで、自分がどれだけ前に進んでいるのかという危惧はある。けれど今はそれを押し殺して、走り続けるしか術がない。なりふり構わぬ井ノ原に追いつくには、それくらいの加速がないと、追いつけないから。
繋がった電話の向こうから聞こえてきた長野の言葉は、いい報せのはずなのにやたらと、緊張感と不安を煽った。
「岡田、分かったかもしれない。宝物のある場所。」
岡田から電話が来る数時間前、長野はまったく同じ答えにぶつかり、立ち往生状態に陥っていた。インターネットで同じ検索ワードで、某大手検索サイトを同じように利用しているのだから、出てくる答えは自ずと共通してくるだろう。『最後の晩餐』を所有する資産家のサイトにたどり着いた長野は、ここで考えても仕方のないことと、もう一度ビデオを見返すという作業に戻る。何か些細なヒントの一つでも見落としているかもしれない。井ノ原はロケのあとも例の老人と親しく交流を続けていたとは三宅の意見。つまり、そういうことができるほどに2人は息の合う存在だったということ。他愛ない会話の中に、行動の中に、何かが。
オンエアではカットになった映像も多分にある。それらもくまなくチェックしていて、あるシーンで思わず、長野は一時停止のボタンを押してしまった。引っかかった。少し巻き戻して、もう一度同じところをじっくりと見る。老人とよしはるくんと井ノ原が楽しそうに、広告紙の裏に絵を描いている。とても上手に描かれた、老人作のコスモレッド。の隣りに描かれた、同じ人物が描いたとは到底思えない歪なハシゴ車。2つの絵の出来栄えの差を指摘された老人は、苦笑しながら言う。
「模写は得意なんですけどね、あまり見た回数の少ないものは、はっきりとした形が思い出せないから、ヘタクソにしか描けないんです。」
模写が得意。何度も見ているものは、本物さながらに描くことができる。この老人が、『最後の晩餐』の絵が好きで、何度も見ていたとしたら?同時に、ティツィアーノ・ヴェチェリオの絵も好きで画集などを見ていたのだとしたら?想像で模写することだって、可能なのかもしれない。老人が想像で描いたティツィアーノ・ヴェチェリオの『最後の晩餐』が存在したのだとしたら、井ノ原が探している宝物がそれである可能性はとても高い。近所の人たちから聞いた話をメモしたルーズリーフを引っ張り出し、並べる。老人は、財産は井ノ原に譲ると言ったという話。老人には親類縁者がいないわけではない。ただ、疎遠になっていて、あまりその存在を町の人たちでさえ知らなかったというだけ。葬儀を出したのは老人の弟の奥さんの兄。あまりにも遠すぎる親戚の男。そんな他人も同然の人間が遠く離れたいなかまで足を運んだ目的はもちろん、老人の財産だったわけで、葬儀を出してやったことを理由に、財産を手に入れればと考えていたらしい。その目的は、通夜の日に打ち砕かれる。老人の雇った弁護士が、直筆の遺言状を持って現れたのだ。自分の所有するすべてのものを井ノ原に譲ると書かれた、遺言状を持って。そのあとの情報はすべてにおいて憶測の範囲を出ない。あまりに立ち入った事情には首を突っ込めないと遠慮した町の人たちが、興味本位で噂を拡大させたもの。井ノ原が遺産目当てだったとか、無責任に残酷な噂を広め続けた。こんなことをされるくらいなら、葬儀に乗り込んで、老人の遺産問題にも意見してくれたほうがマシだった。
(絵は、どこに隠したんだろう・・・)
「すごい数ですねぇ。これは卒業していった人の作品?」
「それと、校長先生の絵です。」
「校長先生?」
「前の校長先生が、美術部の顧問だったので、そのときに描いた絵が置いてあります。」
「へぇ。美術も教えてたんだ。」
「や、たぶん趣味で・・・・・」
「趣味かよ!」
流しっぱなしにしていたビデオから、生徒との会話が聞こえた。とても大切な会話。老人は自分の描いた絵を、廃校になった中学の美術室に置いていた。会話のシーンを見直す。問題の絵が映っているかもしれない。なんて、会話をしている生徒とメンバーの画がメインで、絵はほとんど映らなかった。少し映った老人のものだという絵も、すべてに布がかけられていて、中身までは分からない。けれど確かめてみる価値はある。確かめる?井ノ原だってまだたどり着いていないのに、自分が先回り?それとも美術室に絵があるかもしれないと井ノ原に教える?どうすることが一番正しい選択なのか、長野は迷った。
(重要なヒントが見つかったら見つかったで、次の問題発生ですか。)
大切なのは、井ノ原の本心。何を想い、今回のような行動に出たのか。何を想い、宝物を探すことを決してやめないのか。何故・・・・・何故、そこまで頑なに独りになろうとするのか。ここから自分たちが進む道を選ぶという行為は、とても大きなものになるだろう。どうするべきか、聞きたい人がいる。その人が耳を傾けてくれるかどうかは、分からないけれど。
(俺はアンタにも聞きたいんだけどな。)
思い描くのは、大好きな風景。毎年必ず、6人で顔をつき合わせて、何時間も、何日も、悩んで、怒って、笑って、それでも気持ちは一つで・・・あの風景が、大好きで大切で絶対に離したくないものだと思っていた。テーブルの上に散らばったルーズリーフをかき集める。一緒に、そばにいたい。長野は自分の弱さを痛感して、ぼんやりと携帯電話に視線を送った。メモリーの中にはメンバーの番号が登録されている。その番号さえも遠く感じている今、結局は押せずじまいなのだろうけれど。それでも携帯に手を伸ばし、タイミングを見計らったように鳴り響いた着信音に、思わずその手を勢いよく引いた。そっと液晶を覗いてみる。ここのところ、きっと一番多く顔を合わせているであろう岡田の名前が、表示されていた。
自分はここでちゃんと待っていると、それを示さないと。
マネージャーが唖然としている。気持ちは充分に察せているつもりだ。自分も逆の立場だったとしたら、同じようなリアクションだっただろう。けれどここで怯むわけにはいかない。坂本はそのリアクションを引き起こした紙束をマネージャーの手からゆっくりと抜き取り、確認するように始めに呟いた言葉を繰り返した。
「今年のコンサートは、絶対にこれをやりたい。」
返答はない。坂本は深く深く頭を下げて、食い下がる。
「やりたいんです。これじゃなきゃ、きっと意味がないんです。」
自分が逃げたせいで、共に歩んできた大切なメンバーに重い荷物をすべて押し付けることになってしまった。残されたできることは、もうこれしかない。
「お願いします。」
重ねて言えば、聞こえてきたのはマネージャーの盛大なため息。それと、
「・・・スケジュールの調整、しなきゃですね。脚本はどうされますか?ステージの組み方も、これに合わせて考えないと。リハーサル、早めに始められるようにしときます。あ、他のメンバーにはすぐに言いますか?」
思わず顔を上げると、イタズラを仕掛ける子供のような表情をして、マネージャーが坂本を覗き込んでいた。
「事務所にはゴリ押し、しておきます。」
「ありがとう。」
みなが戻ってきたとき、ここには6人の居場所があるということを示すために、用意したのは大きな仕掛け。どこへ行こうとも、それがどれだけ遠い場所でも、帰ってくるV6という居場所は必ずここにあるのだと、はっきりと伝えてやる。
「メンバーには、俺から伝えるから。」
「ですよね。リーダーですもんね。」
「ああ。」
リーダーのやるべきことを、今こそやってやろうと坂本は決めていた。
日常を取り戻すためにならば、もう手段は選ばない。
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