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V6井ノ原快彦氏主演の妄想非恋愛小説を取り扱っております。
No.
2024/04/19 (Fri) 09:13:09

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No.188
2008/04/15 (Tue) 23:04:47

新しい長編『やわらかな痛み』第1話です。

今回は終始暗い話になる方向ですので、そういった話が苦手な方にはご遠慮いただいたほうがいいかもしれません。

第1話ですが、ほんの触りとなっております。


出演 : 井ノ原 快彦 ・ 坂本 昌行 ・ 三宅 健






 

 戦争が始まり、表面上は異様とも言えるほどの好景気になった。『バブル再来』と、オリジナリティに欠ける言葉をメディアは高らかに叫ぶ。失業率は瞬く間に下がり、今や非正規雇用の労働者のほうが珍しい。幸せなご時勢だ。あくまで、表面上の話は。

 某巨大国家の傘の下で、守られていたい一心。惜しみなく金と人を提供し続けるために、この国の上に立つ人間は手段を選ばない。就職率が大きく跳ね上がった要因は、ここに集約している。徴兵。国が各種社会保険完備の国家公務員扱いで大量の人間を雇用し始めたのだ。中卒以上、50歳までならば、前科者でも即採用。試験、面接の類は一切ない。ただ、一筆書けばいいだけ。「軍人になった以上、負傷、志望などしても苦情申し立て、訴訟などの行為は決していたしません。」。ただ、それだけを確約すればいい。よく考えずとも高いハードルであることは明らかだが、不景気から、負け組から一刻も早く脱出したい。そんな人々の心理は、熟考という選択をあっさりと思考の中から消去した。今日も大勢の人間が軍人になり、大勢の軍人が戦場で命を落とす。

 いつ、どんな時代であっても、万人がそろって肯定する意見など存在しない。この国の好景気が表面上と形容される理由もそこにあった。街が爆発的に活気付く反面、現状を良しとしない人間が集まる場所がある。未曾有の貧困と荒廃に苛まれるそこを、ストレートに『奈落』と表現するのが街の人間の常用語らしい。治外法権、弱肉強食、戦場でもないのに当たり前に死体が転がる。何の仕事をしているのか、どこで寝食を貪っているのか、生まれも、学歴も、誰に問われることもない。不自由で自由な底辺の世界。そんな場所が誰に咎められるでもなく放置されているのは、存在する人間が誰一人として、現状に不満を抱いて国家権力に抗おうとはしないからだろう。好意的ではないが悪意もない。どこか欠損した心を持つ、取るに足りないナマモノの集団。

 奈落では至るところに、24時間老若男女入り乱れ、そこに立っていることを生業とする人種がいる。自らの身体を商売道具として扱う、言うところの売春屋、通称『立ちんぼ』たちだ。取りまとめる主はなく、同業者同士のわずかな暗黙のルールのみで成り立つその人間たちは、ひとたび売れっ子の座を手中に治めれば、街に住む一般市民よりも遥かに裕福な暮らしをしている。ここ半年ほどでその地位を築いた少年は、下手な三流タレントよりもずっと有名人だった。華奢で小柄な身体も、可愛らしい顔つきも、砂糖に蜂蜜を流したような甘ったるい高めの声も、とにかくすべてが彼の武器。街からわざわざ足を運ぶ常連客も少なくはない。バザールの外れにある広場の隅に立ち、入れ替わり立ち代り声をかけてくる客と消えていき、常連客たちの間で勝手に作り上げられた決まりによって、2時間もすれば戻ってくる。逆に彼を待つ客たちが、常に広場に群れを成していた。見た目が良いし若いのだから人気があって当たり前。と妬む者もいるが、それは的外れもはなはだしい見解。何より彼の重宝される理由は、来る者拒まず、乱暴にされようが酷い罵声を浴びせられようが、笑っていることなのだから。この商売をやるために身に付けたのだろう。愉しむ演技が飛び抜けて達者だった。貼り付けられた営業用のそれだというのに、あまりに自然だったと常連客たちは口をそろえて言う。彼ほど、金だけで繋がった関係を魅力的なものに仕立て上げてくれる者はいないと。

 

 『新聞屋』と呼ばれる男がいる。実際に新聞を売っているわけでも新聞記者という職業に就いているわけでもなく、「新聞いらず」と言っても過言ではない多くの知識と目新しい情報を、いつも大いに携えているのだ。強面な外見とは裏腹に物腰やわらかく、奈落の人間に対しては無償の情報提供を惜しまない。気のいい物知りさんとして、多くの人に親しまれている。しかしそれは奈落の人々に接する専用の態度で、街の人間、こと軍人に対してはむき出しの敵意で向かい合う。情報を求められれば高額の情報量を請求するし、奈落で不穏な動きを見せれば、容赦なく処分した。痛快だ。と人々から賞賛の声を頂くのは言うまでもない。ケチな上に偏屈で名高いアパートの管理人も、住人の中で唯一、彼に対してはとても寛容になる。ペットは飼うなと口うるさいのに彼の部屋に同居する3匹の猫を可愛がり、いつの間にか彼の部屋に住み着いていた素性の知れない青年とは茶飲み友達。申し訳ないので二人分の家賃を払うと言えば、普段ならば決して有り得ないのだが、そんなことはまったく気にしなくてもいい。と断った。そのときに他の住人たちは、管理人にも人の血が流れていたらしい。と口々に呟いたそうだ。

 

 新聞屋、坂本昌行の朝は早い。まだ薄暗い時間に起き出し、洗濯機を回している間にコーヒーを立て、猫にエサをやる。パソコンで自身の運営する情報サイト(街のサーバーを利用し、街の人間にもちろん有料で情報を提供している)を更新。メールをチェック。コーヒーを飲みながらシャツにアイロンをかけ、屋上で洗濯物を干す。部屋に戻ればあからさまにまだ寝ぼけている様子の同居人が、ヒザや頭に猫を乗せ、パソコンに向かって格闘中。起き抜けに1時間ほどオンラインゲームをやるのが日課のようだ。スーツに着替え、髪をセットしているとドアをノックする音が聞こえる。パタパタと軽快な足取りで出迎えるのは同居人。この時間にやってくるのは決まって管理人で、程なくすれば玄関先で始まるのは他愛ない世間話。パリッとした、まるで政府の官僚と見紛うばかりの身なりで顔を出し、笑顔であいさつをする。同居人は両手いっぱいの花を抱えており、その代金を払うために顔を出すのだ。早朝からバザールに出向く管理人に頼み込んで買ってきてもらっているこれらは、同居人の主食である。金を払って家を出れば、背中から元気いっぱいの「いってらっしゃい。」。この声に後押しされて、仕事に向かう気合がこもると言えた。同居人はいつも笑顔を絶やさず、いつも坂本の味方だ。

 坂本昌行の同居人、井ノ原快彦の午前中は管理人とのお茶会で終わる。坂本をお見送りしたあと、二人でリビングへ直行。世間話を十二分に楽しんだ。奈落の情報に坂本には劣るとはいえ、そこらの人よりはずっと長けた管理人の話はおもしろい。事件性のありそうなものからバザールの特売情報まで、こちらも巻き込まれて奈落通になってしまいそうな勢い。ランチタイムの少し前まで続くそれを、これまで一度だって退屈だと感じたことはなかった。

 午後は坂本に託された買出しメモを片手に、バザールへ出かける。まず向かう先は広場。待ち構えるように出来上がった人だかりの中心に立ち、あいさつと共に深々と頭を下げれば、拍手と歓声の中、井ノ原の時間が始まる。井ノ原だからこそ可能な、幻想的で夢現のショータイム。手ぶらでただ干からびた地面にポツリと立つ男が生み出す、洪水のような花の波。誰もがタネを知りたがったが、これは手品ではない。1ミリの曇りもない笑顔で井ノ原はほぼ毎日、そこそこの稼ぎを得ていた。百歩譲っても娯楽に使う金の余裕があるとは言えないギャラリーは、井ノ原に払う「おひねり」を出し渋らない。時折、花代の足しにしてくれ。とまとまった額の金を渡してくる者もいる。有難く頂戴したそれらが、その日の買出しの元手となった。坂本からもらう金に手を着けたことは、今までに一度もない。決して金に困っているわけではなく、むしろ街の上流階級の人間並みに裕福である本人が聞いたら、大激怒するだろう。しかし、金はいくらあっても困らない。は、井ノ原が奈落の生活の中で学んだ数少ないことの一つで、自分が消えてしまったあとに、できるだけ多く坂本に残してあげたい。というのが望みだった。自分を見つけててくれた坂本こそが、井ノ原のすべてだからだ。

 見世物を終えると、必ず大きな花束を立ちんぼの少年に渡す。奈落で一番人気の娼夫である彼にご執心なわけではない。あくまで、彼と友達になったつもりの好意の花束だ。それを受け取る彼は笑顔を見せてくれる。客に見せるものとは違う、まだあどけなさを充分に残した、少年そのもののそれ。そして少しの会話を交わし、彼の商売の邪魔にならぬよう、井ノ原は早々に退散する。程なくして客が現れ、花束を抱えた彼をどこかへ連れて行ってしまう。その背中を見送るたびに強く思うことは、彼をこの日常から解放したいということ。一人分のその日暮らしが可能な程度の稼ぎしかなく、そもそも坂本の部屋に居候中の井ノ原には、遠く叶うことのなさそうな願い。きっと少年が一度だけ見せたことのある、言いたい言葉を無理矢理に飲み込んで胸を詰まらせたような、苦しみと悲しみを混ぜ合わせた指先で触れただけで壊れてしまいそうな儚い表情が、消えないからだろう。娼婦と等しいほど娼夫も多い奈落で、大半の者が自らの生活のためにその道を選ぶ中、少年も同じ理由だけを抱えているのか。ずっと聞いてみたいと思っているが、傷つけてしまうのでは?と考えるとどうしても聞くことが出来ない。わだかまりになって、こんなにも胸の中で存在感を主張しているのに。

 バザールにはときどき、流れの露天商がやってくる。他所の地方から来る彼らは珍しい掘り出し物をたくさん扱っていて、井ノ腹はそれらを見るのが楽しみだった。直感で欲しいと思うものも少なからずあったりして、一度勢いに任せて買って帰ったが、坂本に「お前は本当に、このガラクタが欲しかったのか?」とはっきり呆れられてしまって以来、極力見るだけにとどめている。けれど、今回は飼うことを前提に見ていた。大きな幌付きのトラックで乗り付けてきた露天商が並べるのは電化製品。坂本が電子レンジを買い換えたいと常々口にしているのは事実。大き目の、火力の強いオーブンレンジが狙い目。真剣に並んでいる商品を見ていけば、視線が捉えたのは大きな箱、業務用オーブンレンジの文字。聞けば、街の電化製品量販店で在庫過多のための返品された新古品だと言う。これを購入しない手はない。かなり値の張るそれを即決で買うと申し出た井ノ原に、気を良くした露天商の主は、なぜか10冊パックのレポート用紙をおまけしてくれた。が、よくよく考えてみれば大変なのはアパートまでの道のり。抱えて帰ることができるほど小柄でも軽量でもない。仕方がないので荷造り用のヒモを巻いてもらい、引きずって帰ることにした。バザールで行きつけの青果店のオヤジが、その姿を見るなり気前よくリアカーを貸してくれたのは、ほんの数メートル進んだときのこと。どうあっても持ち上げることなんてままならなかったそれを軽く担いでリアカーに乗せてくれたので「スゴい!」と拍手喝采すると、照れくさそうに笑って家に入れるのを手伝ってやる。とリアカーを押してくれた。坂本の部屋は階段しかないアパートの6階にある。こんなに助かる申し出はない。井ノ原はとても嬉しくなって、お礼に花束を渡した。

 本当に欲しくて仕方なかったのだろう。坂本は自分の帰宅を出迎えてくれたオーブンレンジをとても喜んだ。まるでずっと欲しかったオモチャを買ってもらえた子供よろしく大はしゃぎし、取扱説明書をしばらく熟読していた。さっそく、夕食にオーブンで焼いたラザニアが登場して、収納の奥から焼酎を引っ張り出し、井ノ原を強引に巻き込んで明け方近くまで上機嫌で酒を飲んだ。ワケも分からず坂本が喜んでくれていることが嬉しいという理由で付き合った井ノ原が、酷い頭痛と吐き気に苛まれて翌日はバザールに行くどころか、管理人とのお茶会も出来なかったというのは余談である。

 

 ここ数日、奈落の人間の話題を独占する事件が続いていた。ライフルによる無差別殺人。昼夜問わず、奈落の至る所で死体の数が重ねられる。人ごみで、路地裏で。奈落で起こる出来事の中でも上位にランクされる事件だな。けれど他人事に過ぎない。と対岸の火事を遠巻きに見物するような気持ちでいた井ノ原が事件を重く受け止め焦りだしたのは、立ちんぼが狙われる確率が高い。という話をバザールで耳にしてからのこと。たとえ事件を恐いと感じたところで、奈落の人々の生活は変わらない、変えようがない。軍が動いてくれるはずはなく、自警団を組織するほど正義感や防衛本能が高いわけでもないのだし。物騒だと口にはするものの、普通の毎日を送る。バザールは今日も賑わい、立ちんぼの数もさして変わらず、それは井ノ原の心配を知る由もない少年とて同じ。今日も広場の隅に立っている。見世物をする気分にはどうしてもなれなくて、ただベンチに座ってぼんやりとその姿をながめていた井ノ原が呼吸の仕方を忘れそうになったのは、ガラの悪そうな長身の男が少年に声をかけ、肩を抱いたときだった。わずかな声を上げる間もなく、男がただの肉塊となり崩れ落ちる。開いた風穴から撒き散らされた血と脳漿は、ほんの少しだけ少年の上着を汚した。そこに冷ややかな視線を向け、それを視界に捉えたはずなのに平然とした様子で、少年は男のポケットから財布を取り出し、すべての現金を抜き取る。一連の動作が何の隔たりもなく当然のように流れていくさまを見ていた井ノ原は、「ツイてないヤツだねぇ。」と誰かが笑い飛ばしたことでようやく我に返り、そこからは自分でも驚くほどの素早い行動を起こしていた。とっさの衝動的なそれは、至近距離で人が殺されても顔色ひとつ変えない少年を、大いに動揺させる。

「帰ろう。」

「は?」

駆け寄って、強く腕も掴む。

「早く帰ろう!」

もう一度告げて、その体を肩に担ぐ。

「ちょ、ちょっと待っ・・・・・」

少年が上げようとした抗議には耳を貸すことなく、井ノ原は全速力で走り出した。あと一秒さえもここにいてはいけないと、胸の中で高らかにアラームが鳴り響いているような気がして。

 どの道をどうやって走ってきたのかさえ憶えていない。とにかく必死で坂本のアパートに駆け込み、あせっておぼつかない手つきで鍵を開けると転がるように中へと滑り込んで鍵をかけ、窓はカーテンを閉め、そこで少年をゆっくり床に降ろすと、電池の切れたオモチャのロボットのように、その場にへたり込んだ。息が上がっている。呼吸を整えるべくパクパクとせわしなく口を動かして肺へ空気を取り込む行為をしばらく繰り返せば、ようやく発することのできた呟き。ふにゃりとした笑顔を少年に向け、井ノ原は「ごめんね。」と小さく謝った。少年は屈んで井ノ原に視線を合わせると、じっと見つめる。そして呆れたような諦めたようなため息をつき、向かい合って座った。

「お兄さんの名前、教えてよ。」

「あ、っと、井ノ原快彦。」

「俺は三宅健。井ノ原さんにとって、俺って何?」

「友達。って、俺が勝手に思い込んでるだけなんだけど。」

「いいね、それ。」

井ノ原の答えを聞いた少年、三宅が見せてくれた笑顔は見慣れた、まさに少年のようなものだった。花束を受け取ったくれた瞬間と同じ。なんだかくすぐったいような感覚に襲われた井ノ原は、けれど嬉しくて三宅の手をぎゅっと握って言う。

「その方が似合ってる。」

すると三宅はさらに笑みを深くして、言い切った。

「友達にしか見せないけどね。」

こうして、二人の距離がわずかながら縮まった。さっきの血生臭いシーンは、もう頭の片隅へと追いやられている。澱んだ日常に、あたたかい何かが生まれた。

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