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V6井ノ原快彦氏主演の妄想非恋愛小説を取り扱っております。
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No.138
2007/12/25 (Tue) 22:46:23

更新強化月間25日目です。

クリスマスです。


Wonderful Christmas Time

 

 世間はクリスマス。今日、仕事に来るまでにどれだけの数のクリスマスソングを耳にしたか分からない。ケーキの店頭販売にクリスマスツリー。ウキウキの子供たちや幸せ満載のカップル。楽しくて仕方がない感が溢れかえっていて、とにかく力いっぱい浮き足立った人が行き交っていて。

 とは真逆とも言える雰囲気な場所がある。予備校の教室だ。受験生にしてみれば、今が一番大切な時期で、クリスマスになんて構っている時間は1秒だってない。授業は9時半で終わったというのに、居残って勉強を続ける生徒が大多数。生徒だけを放置して帰るわけにも行かず、講師陣は残業中。それは井ノ原とて同じで、ときどき質問をしに来る生徒の相手をしていたが、一息入れようと空き教室に避難していた。電気が消えているので、まさかそこに講師がいるなんて生徒も考えないだろうということ。その教室は、窓から駅前の商業ビルのイルミネーションがよく見える。新しくできたフランス料理店が、予約でいっぱいなのだそうだ。片や、こちらは受験生の相手の隙を見つけて缶コーヒーでブレイクタイム。なんだか、とても不公平な気がして仕方がない。空き缶をゴミ箱に向かって思い切り投げれば、残念ながらハズレ。ゴミ箱にバカにされた気分。盛大にため息をついて座り込むと、教室に電気が点いた。

 結局ここにも来るのか。などと心の中で愚痴をこぼしたのは言うまでもない。重そうなかばんを抱えた生徒が一人、ゴミ箱にはじかれた空き缶を拾い、それをご丁寧に井ノ原の元へ届けてくれた。

「下手ですね、先生。」

「うっせー。」

見覚えのある生徒。いや、有名な生徒。進学校に通っているわけでもないのに、全国模試で常に3位以内をキープしている。志望校は医大で、まぁ、その成績ならば何の問題もないだろうと誰もが言う。

「俺のこと、知ってたりします?」

「当たり前じゃん。特進クラスの三宅くんでしょ。早稲田の理工学部の過去問で作ったテストでいつも満点なの、君だけだもん。」

井ノ原が少し悔しそうに言えば、三宅は満面の笑みで答える。

「だって先生、出題傾向が似通ってますから。」

その言葉を、他の生徒が聞いたら須く怒るだろう。

「そんなこと言えるのは、君だけ。っていうかさ、だったら俺の授業、退屈じゃない?」

「いいえ。普通です。」

「普通、ねぇ。」

とにかく余裕のある態度。受験生特有の緊迫感に欠ける。実際、慌てなければいけないような成績ではないから当然なのかもしれない。あまりに張り合いのない生徒。といえばそれまでなのだが。

「今日、クリスマスなんですよ。ってことで、ケーキ食べましょう。」

天才の考えることは凡人には理解出来ない。三宅が井ノ原の目の前に差し出したのは、見紛う事なきクリスマスカラーに彩られたケーキの箱。必死で追い込みをかけている真っ最中の生徒が見たら、大激怒するだろう。

「ここで食べるの?」

「食べます。」

「・・・・・まぁ、君なら勉強しなきゃって心配もないか。」

苦笑しながら井ノ原が言った言葉に、三宅は笑顔で返す。

「ないですよ。だって俺、医大受けないですから。」

絶句。今になって、こんな時期になって、何を言い出してくれるのか。思わず呆然としてしまっている井ノ原に、さらに重ねられる脈絡のない問い。

「先生、車の免許証って持ってますか?」

「持ってる、けど、さぁ・・・なんだか唐突尽くしだね。」

「見せてください。」

三宅が医大を受けないことと、井ノ原の運転免許証に何の関連性があるのか。疑問を抱きながらも財布から免許所を出せば、それをひったくるように手に取った三宅が、代わりにケーキの箱と井ノ原に手渡した。すぐに見たのは、なぜか裏面。そして裏面を見た三宅の表情が、どんどんと曇っていくのが分かった。

「俺、絶対に医者にはならないって決めたんです。」

改めて突きつけられた宣言は、到底理解しがたいものだった。

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