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V6井ノ原快彦氏主演の妄想非恋愛小説を取り扱っております。
No.
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No.134
2007/12/21 (Fri) 21:55:46

更新強化月間21日目です。

新年会、やるんですか?

えらく軽はずみに公約されてましたが(苦笑)









conation


 俺は俺のやりたいことについては、絶対に引かない。
 そんな話を、何度かしていた。そして気付けばその言葉は、現実になっている。さして苦しみもがくこともなく、涼しい顔をして、ここまで来た。決して自分の力ではない。それを叶えてくれたのは、きっとこの先一生出会うことのできないであろう、大切な親友だった。いつもそばにいて、ときどき暖かい空気のように、優しく笑う。

仕事場から車で15分のタワーマンションの最上階である25階。5LDKロフト付、17畳のテラス付のびっくりするほどな家賃の部屋に、まだ20代の男4人が住んでいる。だからといって高級外車に乗っているわけでも、ブランド物のスーツに身を包んでいるわけでもない。自転車や原付で出勤し、格好も普通の若者。新車を購入したと管理人に自慢気に話していたかと思えば、その新車が普通のワンボックスの国産車だったり。いかがわしい商売にでも手を染めているのではないかと思わせそうだ。けれど4人は世間に隠さなければいけないような仕事はしていない。普通の会社の同僚4人組だと、管理人にも笑って答えているのだから。 

 

共栄テレビ。民放局の中でも最大手。年末年始の阿鼻叫喚な忙しさを通り過ぎて、春からの仕事の準備に取り掛かろうか。そんな局内。普段ならこの時期は、みんな若干穏やかな感じではあるのに、今日は違う。一番の話題はあまり大きな声では話せないこと。当事者不在でなければ、こんなにおおっぴらには話せない。それは世間的にも、公表されれば大きなニュースだっただろう。がっちりと伏せられ、緘口令が敷かれているけれど。言ってしまえば、色々なものがだめになってしまうほどのことだから。

「聞いたか?」

「聞いたよ。」

「そうか。」

今日の一番乗りはいつもとは違う顔ぶれ。浮かない顔で、ポツリポツリと話す。

「アリだけどな。」

「・・・・・」

「俺もあの状況だったら、同じことしてた思う。」

「・・・確かに、してたかもね。」

「隣りに座ってたし、尚更なんだろうなぁ。」

「あの2人だし。」

「ああ。」

会話は弾まない。弾んでもいけないのだろうけれど。表情も一緒に重くなっている。坂本はタバコを欠かさず吸い続けて、長野は今日の会議用の資料を何度もめくり、鬱陶しいくらいに澱んだ室内。

「・・・・・で、どうだったの?」

「左肘から手の甲まで、ザックリ。えらく縫った。」

「傷、残るね。」

「いろんな意味でな。」

「今日、来れるの?」

「本人は来るって言ってたけど。」

「来れんの?」

「来るな。」

「今日くらい休んだって、いいのに。」

「その選択肢は、ないだろ。あの井ノ原が企画会議をとばすなんて、有り得ない。」

「うん。」

「手だけだからな、ケガ。」

「うん。」

「仕事優先だよ。」

「優先、ねぇ。」

「俺はむしろ、井ノ原よりも剛の方が心配だ。絶対に、はらわた煮えくり返ってるだろうから。」

「だろうね。」

「アイツは不機嫌がストレートに顔に出るタイプだろ?井ノ原は自分のケガ云々より、剛のことが一番に気にかかるんじゃないのか。」

「そうなったら、企画会議、集中できないだろうに。」

「とばさなくても、そういう仕事をするってのは、いいとは思えん。」

「井ノ原のそういう癖は、結構みんなに浸透してるし。」

「まぁ、俺らにしてやれることは、普段通りに接することくらいなんだけど。」

「微妙に難しいなぁ。」

「ああ。」

時計に目をやる。会議まであと15分。普段の井ノ原なら、とっくに来ている時間だ。

「昨日って坂本くんも一緒に病院行ったんでしょ?なんかないの?こうした方が良さそうだよ的な対処法みたいなのは。」

「バカ、井ノ原だぞ。そう簡単に動揺してる素振りとか見せると思うか?」

「見せ・・・ない。」

「とりあえず様子見るしかないだろ。」

「妥当なところで?」

長野は少し皮肉っぽく言って、派手にいすの背もたれに体重をかけて、天井を仰ぐ。嫌な事件が起こったものだと、つくづく思う。

「おはようございます。」

井ノ原が入ってくる。左手にはしっかりと包帯が巻かれていて、2人とも「おはよう。」の挨拶さえ言いそびれる。

「あの・・・」

「な、何?」

「この話題、剛の前では絶対に避けてほしいんだよね。」

自分の左手を指し示して、井ノ原は言う。やはり森田のことを一番に案じている。大切な相棒のことを、守りたいのだろう。本来なら絶対触れたくないであろう話題に、自ら触れる。きれいなことで有名な井ノ原の手に、痛々しいくらい仰々しい包帯。そしてその下には、大きな傷がある。森田が気に病まないわけがない。本当なら、自分がそうなっているはずだったのに。

「剛は?」

「もう来ると思う。ああ見えて優しいから、きっと昨日の事が気にかかって、平静は装うけど、大丈夫じゃないと思うんだ。だから・・・」

「分かった。」

「こんな時くらい、俺が支えになってやらないとでしょ。剛はあれでナイーブなトコあるから。こんな時くらいしか、力になれないしね。」

「そんなことないよ。」

上着を脱ぎながら、井ノ原は穏やかな表情で話し続ける。

「俺が刺された瞬間ね、すごい安心したの。ああ、剛は無事だなぁ。って」

「お前なぁ・・・」

「刺されたのが剛だったら、俺、気ぃ違ってたよ。」

「それは逆も言えることだろう。お前が目の前で自分の代わりに刺されたんだぞ。」

「俺はいいの。」

「はぁ?」

「俺なんか、どうでもいいんだ。」

「井ノ原!」

「俺なんか刺されたって、どうってことない。」

「なんかとか言うな!」

「あはは。坂本くんは優しいなぁ。」

「笑うな!俺はお前のそういうところが腹立つんだよ!」

「ごめん。」

謝りながらも、笑顔は消えない。

「なぁ、無理して笑ってばっかりしてたら、いつかおまえ自身に歪みが来るぞ。」

「大丈夫だよ。」

「大丈夫じゃないから言ってるんだ。」

「大丈夫なんだって。俺は大丈夫じゃないと、ダメなんだ。」

「井ノ原・・・」

「大丈夫。」

まるで自分にも言い聞かせるように強く言い切って、井ノ原はかばんの中からドラッグストアの袋を取り出した。シャツの袖をめくり、さくさくと包帯を解き始める。長野が何か言いかけたが、坂本が止める。露わになった傷は、抜歯もまだで本当に痛々しい。井ノ原は買ってきたガーゼを乱雑に折りたたみ、テープで手の甲の傷に貼り付けると、シャツの袖を戻した。そして念を押すように笑顔で2人に言った。

「大丈夫だから。」

2人は黙らざるを得ない。井ノ原の最大の気遣い。いかにも傷がたいしたものではなかったように見せるために、適当で雑な処置をし直したのだ。

「俺の手は、ほんのかすり傷だった。ね?」

「・・・・・。」

「みんながきれいだって誉めてくれるから自慢にしてたのに、もうできないねぇ。」

わざとおどけて、井ノ原は手を眺める。思わず怒鳴ろうとした長野よりも一瞬早く、坂本が口を開いた。

「切られたのが腕でよかったよ。」

「よかったって・・・」

「命に関わらん場所で、よかった。お前のことだから、どれだけ重傷とか重態でも、剛に心配かけないために、仕事に来るだろ。」

「だね。」

「俺たちがどんだけ心配しても、大丈夫って笑うんだろ。」

「そうだよ。」

「それが高学歴構成作家の考える事か、バカ。」

「えー。バカってひどくない?」

「俺らがしてやれることは、ないのか?」

「だからぁ、大丈夫なんだって。」

井ノ原は頑なに平静を装う。嘘っぱちの自分を装う事に、慣れている。

「おはようございます。」

「おはよー。」

いつもとなんら変わりない様子でやってきた森田を、同じくいつもと変わりない様子で井ノ原が出迎える。坂本と長野も井ノ原に言われた通りに普通を装っていたし、後から入ってきたほかの面々も昨日のことには触れなかったから、まるで何もなかったようだ。それが一番いい選択なのだろうけれど、やりきれない感ばかりが募る。

「この間言ってた企画、打ち直したから。」

「うん。」

「ネタの部分全部削って良かったんだよな?」

「それもだし、あと会場アンケートもいらないかなぁって思うんだけど。」

「あー、確かに。じゃあそれも削る?」

2人は完全に仕事モード。昨日の話題を挟む隙なんてない。坂本も長野も、複雑な心境でその様子を見ていた。

 その場にいるのが気まずくて部屋を出た坂本と長野に、困った顔で駆け寄ってきたのはADの岡田。駆け寄ってくるなり、大声で聞く。

「4スタ入れないんですけどどうしたらええですか!」

その質問に、2人は慌てて岡田を引っ張って部屋を離れる。中の2人に聞こえたかもしれない。岡田は昨日オフだったから、事情を知らないのも無理はない。が、さすがにこんなに大声でみんなが触れないようにしていることに触れられるのはまず過ぎる。

「声がデカイんだ、お前はっ。」

「声出さな怒るでしょうが。」

「時と場合を考えろ。」

「・・・とにかく、4スタに入れないんですけどどうしますか?」

「今日の収録は1スタでやる。」

「分かりました。珍しいですね。あんなデカイとこで録るなんて。」

「いいから、早く行け。」

「誰ですか?ADをいじめてんのは。」

「あ・・・・・。」

3人の会話の中に4人目が入ってくる。井ノ原だ。やはり岡田の第一声が聞こえてしまったらしい。岡田は新たな情報源が現われたという表情を浮かべているが、坂本と長野は表情を曇らせる。

「教えてあげればいいじゃない、一緒に番組を作ってるスタッフなんだから。」

「ADにまで話す必要はないだろう。」

「今隠しても、いずれ耳に入るよ。」

にこやかに言うと、井ノ原は岡田の腕を引いて空き部屋に入った。坂本と長野はその井ノ原の余裕なフリが怖くて、着いて行った。

 おそらく井ノ原はかなり詳しく話すだろう。事も無げに。何があっても平静を装う。大丈夫だと言って笑う事に慣れているから。

「昨日、特番の収録が中止になったことは?」

「いえ、聞いてないっすけど。」

「途中までは録ってたんだけどな、ハプニングがあって中止になった。昨日の特番・・・正月用の若手芸人の番組のコンペに、俺とシゲ以外にもう一人若い作家が参加してたのは知ってるよな?」

「はい。森田さんが余裕で勝ったって言ってましたから。」

「あはは。昨日の収録は俺も剛もスタジオで見てた。坂本くんも長野くんも、結構いろんな人が出入りして、バタバタしながらの収録で、みんなあんまり周囲を見てなかった。だからあんなことが起こったかどうかは断定出来ないけど、そのバタバタにまぎれて、コンペで俺らに負けた若い作家がスタジオに来てたらしいんだよ。」

「IDがあれば見学は出来ますもんね。」

「見学、なぁ。そうだったらよかったんだけど。」

「いちゃもんでも付けに来ました?」

「まだその方がマシだな。うん。はっきり言ってくれた方がよかった。その子は言うより先に、手が出るタイプだったみたいで・・・ナイフ振り上げて剛に突進してきた。」

「そんなっ・・・」

「みんな収録の方に気がいってて、それに気付いたのが、たまたま俺だけだった。だから、俺が剛をかばった。初め、俺の剛の名前を叫ぶ声に、みんなの視線は集まった。けど声のした方を見ると、俺が剛に覆いかぶさるようにしてて、若い男が血の付いたナイフをもう一度振り上げてて、俺の腕がざっくり切られてる。女の子のスタッフが悲鳴を上げて、そばにいた長野くんが後ろから男にタックルして押さえ込んで、スタジオは騒然。収録は中断。警備がその男を警察に連れて行って、俺が撤収して収録を再開できるように、俺はさっさと出て行こうとしたんだけど、その男が言ったわけ。「これで終わりと思うなよ。こんなスタジオ、俺は吹っ飛んでも平気なんだからな!」って。そこでもう、スタジオ内は大パニック。爆弾でも仕掛けられてるんじゃないのか?ってことになって、そうなったらタレントさんは全員避難。持ち出せる機材は全部持ち出して、スタッフも全員避難。もちろん収録は中止で、その上、調べてみれば爆弾は狂言。とりあえず念のためってことで、警察の人が4スタを封鎖していったと。」

「ちょっと待ってください。」

「ん?」

「その一部始終を、井ノ原さんは見てはったんですか?」

「見てたよ。」

「刺されたんですよね?」

「刺されたねぇ。」

「何ですぐに病院に行ってないんですか!おかしいっすよ!」

「でも腕だけだし、それに、剛が動揺してたから。安易にそばを離れられないと思って。」

「血ぃ出てたんでしょ?」

「まぁ、そこそこ?」

「結局病院にも行ったんでしょ?」

「行ったよ。みんなが行けって言うから。」

「なんでそんなに冷静ですのん!」

「そりゃ、俺が普通にしてないと、剛が気に病むから。」

「森田さんとか言うてる場合じゃないでしょ。手に傷が残ったらどうするんですか。めっちゃきれいな手やったのに。」

「ありがとな。でも、大丈夫だから。」

「ちょっ・・・」

「大丈夫。俺は全然平気。だから、剛の前ではこの話、ナシでな。」

「そんな・・・・」

「見てみ。ケガって言ってもこの程度だ。大騒ぎしたら返って笑われるって。」

さっき自分で貼り替えた絆創膏を指差して笑う。それを見て岡田はため息をつく。坂本と長野も安堵のため息。岡田が大騒ぎすることはこれでなさそうだ。

「傷って、めっちゃちょっとですやん。もっと袖めくったら、バァーってなってんのかと思いましたわ。びっくりして損した。」
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