大変短くなっております。
おそらくここらあたりが底かと思われます。
出演 : V6
礎が崩れた不安定な建造物の中に、滞在させられるほうの身にもなって欲しい。あまりにも居心地が悪くて耐えられないから、共同戦線とでも言うのか、情報提供。なんて冷静に耳を傾けられる状況でもなさそうな人の隣にとりあえず、岡田は立ってみた。モモジュースを握り締めて、茫然自失状態に陥ってくれている。また何かあったんだろう。さすがにそこまでは、フォローするつもりはないけど。
「やっぱり鍵は『最後の晩餐』ぽいで。絵に何か隠されてるらしい。よしくんから聞いたから、一応は報告しとく。あと、坂本くんが降りたって、どういうこと?また落ち着いたら、ちゃんと説明してな。あれでもよしくんの中では、お父さんな人やし。」
伝えるべきことは伝えた。あとは知らない。長野の耳に今の話がどこまで届いていたのかとか、そんなのは知らない。沈む予定の船でじっとそのときを待っているつもりはなくて、大切な人はそこから連れて逃げる気でいる。長野はきっと一人でも・・・・・大丈夫?
(あぁっ、もう!)
フォローはしない。後は勝手にどうにかしてもらわないと。と思っていたのに、なんだか放っておけないという気持ちが少し勝ってしまい、岡田は長野の隣りに座った。
「博?」
「やっぱりこれ、あげる。さっきの話は忘れていいよ。」
俯き加減でいるから表情こそは見えないが、泣きそうな声でモモジュースを差し出された。「やっぱり」の意味も、「さっきの話は忘れていい」の意味も分からない。こんなに甘そうな飲み物は、あげるならば三宅だろう。差し出されたジュースを受け取れずにいると、長野はそれをあっさりとゴミ箱へ投げ入れてしまった。
「ちょっ、捨てんでも・・・」
「あれ?どうしたの?岡田。」
「どうしたの?って言われても・・・博こそ、どうかした?」
「俺はどうもしないよ。間違えてモモジュース買っちゃったから、困ってただけ。」
「ふぅん。」
ジュースをゴミ箱に放り込むために顔を上げた長野は、平然と笑って岡田に話しかけた。この調子だと、明らかにさっきの岡田の井ノ原に関する話は耳に入っていない。が、もう一度説明する気にもなれなかった。
「モモジュース、健くんにでもあげればよかったのに。」
岡田が何の気なしに言った一言は、長野の視線を泳がせる。
「そうだよね。健にあげればよかったよね。」
どこか棒読みな返答をされて、岡田は眉を顰める。けれど長野は笑顔のままで、微妙としか言いようのない空気が漂う。大きなため息の二重奏が、廊下に大きく響いた。
リハーサルが始まると呼ばれて、6人がバラバラでスタジオに入る。冷めた空気。同じグループだからといって常に一緒に仲良く行動を共にしなければいけないわけではないけれど、今日は今日で極端すぎるくらいに距離を取ってしまっていと、誰もが感じた。まるで本当に中の悪い6人であるかのように。そして無言でカメラ前に立ち、かろうじて坂本だけが「お願いします。」と言っている。いかにも噛み合わなさそうな、感じを漂わせていた。
初めて歌う歌ではないし、ましてや運動能力が人より優れた集団である。そんな6人のお粗末ともいえるリハーサル風景に、スタジオ中が不穏なムードになった。ちょっとした接触に始まり、誰かが歌詞を間違え、立ち位置が少し違ったメンバーが小走りに移動なんてしたものだからフォーメーションが大きく崩れた。そのあとは接触とジタバタした動きを繰り返し、何となく最後のサビ以降はうまくまとめたという風。一種の使命感のように責任感ばかり強い坂本がスタッフに謝罪をし、このあとは反省会でも繰り広げるのだろう。とメンバーの誰もが思っていたが、なんと不機嫌な表情をあらわにして、一番に無言でスタジオから出て行ってしまった。ますます空気の澱んでいくスタジオに慌てた井ノ原が、スタッフに深々と頭を下げた。
「すみません!あの、本番は大丈夫です!絶対に完璧です!だから、本当にすいません!」
こんな大失態を見せられてすぐに、大丈夫と言い切られても納得はいかないだろう。しかも大きく間違った「だから」の用法が胡散臭さを誇張させている。
「本当に申し訳ありませんでした。本番でこのようなことが絶対にないようにしますので。」
返事に窮するスタッフに長野がさらに謝罪を重ねると、社交辞令的な笑みを含んだ
「分かりました。よろしくお願いします。」
という言葉が返された。スタッフもそうだが、メンバー同士がこんなに気まずい調子で、本当に本番は絶対に大丈夫なんて、言い切れない。12年目にして最大のピンチを迎えているのだな。そんなことを思った長野は、客観的にメンバーを見ている自分に少し嫌な感じを覚えた。自分だって渦中の一人なのに、何を冷静に分析しているのだろう。と。自分の前を歩くメンバーの背中はとても遠くて、気心知れた仲間たちのそれとは、似ても似つかない。赤の他人みたいだ。思わずそういう言葉が頭を過ぎったが、慌ててそれを否定した。
誰もが無言の楽屋なんて珍しくない。それぞれが思い思いの時間を過ごしていれば、おのずと誰も言葉を発しない時間なんて当たり前にある。けれど今日に限っては、それがとても息苦しくて仕方がない。このままでは本番も、明らかに危なっかしいままこなすのだろう。
(ぶつかったこと謝るのも、憚られる感じなんですけど。)
岡田はソファに深く座って睡眠モードに入っている森田をチラリと見る。ふと音楽が途切れたような気がして、移動の途中で立ち止まったせいで森田は衝突してしまった。おかげで次の歌い出しが遅れたのは言うまでもない。曲が終わったら苦情申し立てがあるだろうから、そのときは素直に謝ろう。そう考えていたのに、森田は何も言ってこなかった。坂本の次に無言でスタジオを出て行ってしまったのだ。タイミングなんて、与えないと言わんばかりに。怒り心頭が度を越して、何も聞きたくないという意思表示かもしれない。ならば岡田は森田を有り得ないほどに怒らせたことになる。
(本番が終わったら、絶対に謝んなきゃだよな。っつーか何やってんだよアイツ。)
森田は一番隅の椅子に座って、膝に顔を埋めて凹んでいる三宅の姿を、ソファに座る前に一度だけ視界に捕らえた。急停止した岡田に衝突し、三宅には真横からタックルを食らわされた。おかげでイライラが怒涛の如く押し寄せ、マイクスタンドを全力投球で投げてしまった。スタッフの泡を食ったようにあたふたした様子を見て、はっとさせられたものだ。マイクスタンドの乱暴な扱いはメンバーから非難を浴びると覚悟していたが、誰も何も指摘しない。スタジオの雰囲気はとてもとても微妙で、スタッフに謝るタイミングを逸してしまった。森田にとってもスタッフにとっても、天災といえば、天災なのだろうか。
(ダメだ。人の歌詞の間違いに気を取られてたなんて、言い訳にならない。)
三宅は眉間の皺をこれ以上にないほどに深くしている井ノ原が、気になっていた。珍しいこともあるもので、井ノ原がサビの歌詞を大きく間違えたのである。それが引っかかって、自分の動きがおろそかになってしまい、我に返ったのは森田に衝突した瞬間。曲の最中だったのでその場は流れていったが、終わったら謝らないといけないと猛反省した。リーダー自らが無言で立ち去ってしまうといういやな事態に困惑しながらスタジオの出口に向かうとき、すれ違った森田に舌打ちをされた。楽屋に戻れば謝ろうと決めていたのに、気持ちは萎えてしまっているのが現状。
(こんなのは、仕事じゃない。)
井ノ原はスタジオでスタッフに丁寧に謝罪した長野の姿を、頭の中でずっとリフレインさせていた。長野は一度、しかもほんの少しだけ後ろに下がり遅れただけ。誰にも迷惑はかけていないし、許容範囲内だった。他のメンバーが接触したり歌いだしを遅れてしまったことも重なって、ものすごく迫力のある笑顔で静かに怒るかと思っていたのに、スタジオを出るなりぽんっとやさしく頭を叩かれて驚く。振り返れば気弱とも感じさせるくらいのやっとの笑顔で、一度頷いただけ。責められないことが苦しくて、しばらく目を見ていたのに、フイと反らされたそれは無言の抗議のよう。歌詞を間違えて大迷惑をかけた上に、拙い謝罪のフォローまでしてもらったのに、何も言えなかった自分に腹が立って、酷く吐き気がする。
(リーダーなんだから、ポーズでも毅然としてるべきでしょ。)
長野は楽屋に戻らず喫煙所へ直行してしまった坂本を、怒鳴りつけたい気分だった。自分も含めてメンバーが連鎖的にミスを重ねてしまい、坂本は一度のミスもしなかった。それでも今日の大失態の一端を坂本がまったく担っていないわけではない。不機嫌オーラ全開で楽屋入りし、誰も寄せ付けない空気を振りまいてくれた。それだけでもメンバーへの影響力は十分。リハーサルが始まれば、一人だけ孤立しているのか?と思わせるくらい自分の世界を作り上げて、まるでメンバーのミスなんて見ていなかったかのように触れようともしない。楽屋に戻って話しの一つもすればいいのに、それすら拒否。あまりにお粗末な態度に、心底呆れ返らされるばかりだ。
(最悪だ。他の奴らに合わせる顔がねぇよ。)
坂本は自己嫌悪で、自分を消し去ってしまいたいとさえ思っていた。井ノ原のことで、頭の中が整理できないほどにひっくり返っていて、朝からメンバーと顔を合わせるのは気が重いとか、早く今日が終わればいいのにとか、そんな考えを巡らせていた自分に気付いている。楽屋で誰より不機嫌さを露呈させていたことにも、リハーサルを始める前からメンバーがどこかギクシャクしていたことにも、ちゃんと気付いていた。ただ、それを軌道修正する余裕がなかっただけ。惨憺たるリハーサルをしてしまったことをスタッフに謝罪すべきだった。本来ならば、リハーサルについての反省会をみんなでやるべきだ。それは知っている。知っていても、頭が働かない。こんなとき、どんな風にみんなに話をしていたのか、分からなくなってしまった。それは、女々しい自己防衛本能で、おそらく自分を安全な場所へ避難させたいという弱音。
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