初めて、イノが出ていません。
名前は出てきますけど。
出演 : 坂本 昌行 ・ 長野 博 ・ 三宅 健
取り残されるという状況を余儀なくされた坂本は、半分泣いているような顔で闇を睨みつけている長野の頭を、くしゃっと撫でた。
「帰るぞ。」
「ヤダ。」
即答。強い意思をこめた駄々を吐き出されて、思わずこぼしそうになったため息を、坂本は慌てて飲み込む。
(勘弁してくれよ。)
それが心からの言葉でも、ここで長野にまで内に籠られてしまっては堪らない。
「ここにいても、どうしようもねぇだろう?」
「じゃあ、坂本くんは帰れば?」
「お前を置いて帰れるかよ。せっかく助け求めてくれたんだし。」
なんて優しい言葉の一つも言えば、盛大なため息プラス言うに事欠いて、
「なんで、あんなこと言ったんだろう。坂本くんによっちゃんが、救えるはずないのに。」
減らず口を叩いてくれた。坂本にとって本当に手に負えないのは長野と井ノ原である。ぎりぎりになるまで弱音を吐かない上に、意地っ張り。SOSのサインを出してくれたかと思えば、出したことを勝手に後悔して、誰の手も届かない奥に引っ込めてしまう。年上というポジションがそうさせるのだろうが、手遅れになってからあたふたさせられるくらいならば、最初から言ってくれたほうがまだ手の施しようがある。
「岡田になら、あるいは何とかできるのかもね。俺なんかよりもずっと冷静だし利口だし、実は井ノ原と仲良しさんだし。」
「長野・・・。」
「俺はただ、井ノ原に笑っていて欲しいだけなのにな。」
叶わない願いは同じ。なのに、進もうとする道が食い違って、うまくいかない。それは決して考えてはいけないのに考えてしまうこと。
(ああ、煩わしい。)
「とりあえず探さなきゃだね。よっちゃんの宝物。」
誰かのために無理をして笑う長野を、リーダーとしては救い上げなければいけない。V6がこんなところで立ち行かなくなってしまわないようにしないと。それがリーダーに与えられた役割。
「俺も一緒に探す。お前や岡田が何を言っても、一緒に探すからな。」
例えばメンバーの今回みたいな重篤な問題が降りかかっても、丸く治めるように動く。坂本は自分の役割を、そういう意味で捉えていた。V6が続く以上、それが当たり前のことで、それが正しいことなのだと。
みんな本当に嘘が上手になった。必要だけれど必要のないスキル。あの場で坂本と議論をしても仕方がないのでおとなしく帰ることにした長野は、家路をたどる車の中で、ぼんやりと思っていた。上手になったというのは、嘘でメンバーさえも煙に巻くことが簡単にできるようになったという意味ではなく、その場凌ぎの嘘が容易く生み出せるようになったという意味。その嘘に気づいているのに気づかないふりをしている自分が卑怯だという自覚はある。それでも嘘を突き破って踏み込もうとしないのは、自信がないからだということも、ちゃんと知っている。坂本はいいかげん今回のトラブルに辟易していて、三宅はその輪から弾かれたことに怒りさえ覚えていることなんて、すぐに分かった。でも、恐くて目を逸らした。もしもそれで言い争いになって、メンバーの間に大きな亀裂が入ってしまったら、修復できるとは思えない。12年も一緒にいるのだから、簡単に壊れるような絆でないことは百も承知。だから、余計に恐い。そんな強固なまでの絆が壊れたときのことを考えると、当たり障りのない方法を選びたくなる。そこまでちゃんと考えているのに、坂本に助けを求めてしまった自分が未だに理解出来ない。おそらく、井ノ原から逃げたいという気持ちが働いたのだろうけど。井ノ原を救いたいし、また笑って欲しい。そのためなら、どれだけだって頑張れる。そう、思っていた。でもあまりに重くて、まったく思い通りにいかなくて、思わず求めた。一緒にそれを持ってくれる、誰かを。一番に坂本が浮かんだのは、一緒に過ごした時間が長いから。誰でもよかった。この雁字搦めの状況を打開してくれる人なら、坂本でも、三宅でも、誰でもよかった。とっさに坂本に助けを求めて、結局は岡田がその役目を引き受けてくれて、抱えた荷物は軽くなった。だったら結果オーライだ。叱責されても非難されても、今日の結果には安心している。
(明日からはまた、がんばるよ。)
井ノ原の言うおじいちゃんが誰を指しているのか。最後の晩餐が探すべき宝物だとして、それに隠された理由は何なのか。6歳の井ノ原は何がきっかけで出てきたのか。やけに細かい設定はどこから引っ張ってこられたものなのか。他にも、調べなければいけないことは山積み。荷物が軽くなってくれたのは、不幸中の幸い。弱った自分は今日で終わり。また明日からは強い自分になって、大切な仲間を救うために走り出す。そう、決めた。
(放っておいてくれ?そんなの、聞き入れられるわけないじゃない。)
幸福と恐怖は、いつも背中合わせなのだから。
無邪気な弟分を演じるのは、疲れる。
他人の個性を羨まない日なんて一度もなかった。それはメンバーに対しても同じ。自分以外の5人になりたいと強く願ったりして、そんなことは為し得ないのに、想いは日毎、募るばかり。それがどれだけ醜いことかを知っているから、隠すことに必死だったけれど、もうやめてもいいと思えたのは、きっと自分を除け者にした人たちのおかげ。三宅は嗤う。歓喜か、狂気か、まったく別の感情か。狂ったように2つの人格を曝け出す井ノ原も、V6という集団を取り繕うことに必死な坂本も、腹立たしいほどに冷静に状況を判断する岡田も、冷血に事態を傍観する森田も、穏やかさを装って周囲を欺こうとする長野も、馬鹿馬鹿しいほどに滑稽だ。井ノ原の身を案じて長野に相談を持ちかけた三宅健という自分の中の人格。それは本物?今、すべてを客観的に眺めて嘲笑を浮かべるこちらの方がすっと、リアルに感じられる。守られる立場でいるのも、案外疲れるもの。何も知らないふりをして、心の弱さを垣間見せたりして、あなたたちの弟分はここで手を差し伸べていますと示して、メリットなんて何もない。V6を飾り立てるためのオーナメントが欲しいのだろうか。そのための、三宅健を望む?
(じゃあ、俺じゃなくてもいいじゃん。)
井ノ原を心配していた感情が作り物だったのか?と聞かれればそれは嘘。確かにそういう感情も自分の中に存在するから。ただ、感情は一種類ではない。複雑に入り組んだいくつもの感情を、波風が立たないように、普段は選んでいるだけ。無難なものをひとつ選んで、表に出すだけ。その秩序は壊れた。三宅は嗤う。平穏を演出するために演じていた自分を、棄てて。隠したいのならば隠し通せばいい。省きたいのならば省けばいい。その先に、何が待ち受けているのかなんて微塵も考えずに、勝手に走ればいい。目の前にニンジンを釣られた、馬のように。そして走りきったときに気付けばいい。荒唐無稽とも言える、V6という空っぽに。
(剛は知ってたんだ。始めから、虚構だったってこと。)
辛いときも、楽しいときも、決して独りではない。という綺麗事に騙されていた自分が誰より滑稽だ。三宅は嗤う。ちゃんと実感を得ていたのかさえ怪しい。実感もなく流されていたのだとしたらきっと、狂気の沙汰。バカらしい。くだらない。もう、何も望まない。何にも応えない。続けたければ続けてくれてかまわないとは思う。嘘しかない茶番劇も、外側から見れば愉快なものに変わるかもしれないから。三宅は嗤う。人知れずゆらゆらと、たゆたう影のように。
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