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V6井ノ原快彦氏主演の妄想非恋愛小説を取り扱っております。
No.
2024/04/27 (Sat) 04:07:30

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No.90
2007/11/01 (Thu) 00:10:43

く、暗すぎる・・・・・。

その暗すぎる後編です。

岐路という言葉は、なんとなく重いですね。



 快晴だ。雲ひとつない。これから起こす行動を妨げる存在は、何もない。空は変わらずそこにあるし、世界の終わりも来そうにない。何物にも邪魔されず、そう、きっと気持ちがいいはずなんだ。そうだろう?だから、選んだんだろう?

 

 それを知ったのは、翌日の昼前のこと。誰も教えてくれなかったわけじゃない。仕事がカメラの不具合で押しまくった結果、やけに立て込んでしまって、なんだかんだで収録は大延長。その間ずっと楽屋のかばんの中だったケータイの充電が切れてしまっていたことに気付けなくて、日付が変わった明け方にやっと仕事が終わって、帰ろうと楽屋に戻って初めてケータイの充電が切れていることに気付いて、あわてて充電器に差し込んだところで、仲良くなった共演者に声をかけられて、タバコを吸いながら30分ほど世間話をして、コーヒーでも飲みながらゆっくり話そうということになって、喫茶室で延々と会話を楽しんで、荷物を取りに自分の楽屋に戻ったときに、改めてケータイを見て、やっと大量の着信に気付いたのだ。メールも着信履歴も留守電も溜まり放題。苦笑しながら、連発される差出人、長野のメールをチェックしようと開いた瞬間、それまでフル稼働だったはずの思考回路は、いとも容易く切断されてしまった。

 

 井ノ原が大怪我をした。
 井ノ原が大怪我をして病院に運ばれた。

 井ノ原は緑架大学付属病院のERに運ばれた。

 井ノ原は緊急オペを受けるけれど危ないそうだ。

 すぐに来て

 せめて連絡くらいして。

 井ノ原のオペはなんとか成功した。

 井ノ原はオペは成功したけれど、予断を許さない状況だ。

 みんな来てるから坂本くんも早く来て。

 井ノ原が急変した。

 井ノ原が危篤だ。

 急いで病院に来い。

 今すぐに病院に来い。

 井ノ原が死んだ。

 坂本くん、もう来なくていいよ。

 

 井ノ原が死んだ――――――。

すごく単純なはずのその言葉の意味が、理解できなかった。だって昨日の明け方まで一緒だったのに。一緒に酒を飲みながら、たくさん話をしたのに。森田は5人が気持ちを切り替えて前に進んだって、怒ったりはしない。みんなの元気を望んでると思う。なんてことを言って、坂本の背中を押したのに、今はもういない。そんなワケはない。悪い冗談に決まっているのだ。死んでしまうなんてありえない。だって誰より井ノ原が一番、分かっているはず。坂本は井ノ原が終わりを選ぶことを、とても強く咎めた。すると井ノ原は死なないと笑った。それだけは選んではいけない道なのだ。森田のことがあったばかりで、メンバーの誰もが不安定に揺れているこの状況で、これ以上、何が悪い出来事を齎すような残酷なことをするというのか。あわてて病院に駆けつけてみたら、3人して入り口で待ち構えていて、「バーカ。」とか言いながら笑って迎えてくれるに違いない。そんなタチの悪いドッキリを持ちかけられているんだったら、いいリアクションを用意しておかないと。そう、これは真っ赤な嘘。みんなしてやたらリアルに作り上げすぎてしまった、ついてはいけない嘘があるだろう!と思わず坂本を怒らせるような、嘘なんだ。

 自分の中でそういう解答を強引にはじき出して、でも不安はひとかけらも払拭できず、急いで病院に向かった。登場したときのリアクションを見たくてワクワクしている。そんな仲間たちの楽しそうな様子を、想像の中で作り上げて。その想像こそが、タチの悪い嘘だとすぐに思い知らされたのだけれど。

 実際に井ノ原は死んではいなかった。が、意識不明の重態で、岡田は長いすに座り込んでぼんやり空を見つめていて、三宅はその場に座り込んでうつむいたまま動かなくて、長野が泣き腫らした目で、じっとICUのガラスに張り付いていた。視線の先、ICUのベッドにはたくさんの機械につながれた井ノ原がいて、フラフラと近づこうとしたら長野に放たれた第一声。

「何しに来たの?」

心に突き刺さった。それは言われて当然の言葉。仲間の身に大変なことが起こったのに、その連絡に気付けなかったのだから。

「仕事やったんやろ?」

岡田が疲れきった表情に一生懸命笑顔を乗せて、フォローする。

「だったら?」

「仕事を放り出してまで駆けつけたら、逆にいのっちは怒ったんちゃう?」

岡田の必死のフォローも空しく、長野は冷たく

「帰ってよ。2度目はない。」

森田のことで手遅れになってしまったのに、また同じことを繰り返した坂本を許せないと拒絶した。当たり前の言葉。今はどんなに上手な理由を話しても無駄だろう。どういう経緯か井ノ原は生きていてくれたし、それを知ることができただけでも救いはある。だからこの場はおとなしく帰ろうと回れ右をしたとき、誰かが上着のすそを引っ張る。こんな子供じみた真似をするのは、

「いてよ?」

ぼそりと低く、たった一言だけれど優しい三宅の言葉。動けなくなる。三宅の手が、小刻みに震えているのを感じて。蔑んだような視線で坂本を跳ね除けて、帰れと全身で叫んでいた長野を見れば、坂本から三宅へと視線を動かし、懇願するような三宅の視線とぶつかると、気まずそうに背を向ける。

「・・・勝手にすれば。」

仕方なさそうに、長野が折れた。それ以上の言葉は発せられず、決して目を合わせようともしない。何を言っても言い訳にしか聞こえないだろうから、何も言わずに、ここに残ったからといって気まずくて行動も起こせなくて、立ち尽くす。すると三宅がそのまま引っ張っていた上着のすそをさらに引っ張って、ガラスの前に立たせてくれた。物言わず眠る井ノ原を見れば、派手に擦りむいた頬が、痛々しい。

「一回は死んだのに生き返るなんて、いのっちらしいよね。」

「一回死んだ?」

岡田の妙な言葉に、思わずとっぴな大きな声を出してしまった。岡田は苦笑しながら、坂本の隣りに立つ。

「先生がさ、死亡宣告をして、3分くらい経ったときかな?また心臓が動き始めたん。もう、みんなビックリしてさ、大騒ぎ。意識は戻らんかったんやけど、まだ、生きてるよ。ちゃんと、生きてる。」

生きてる。思わず、全身の力が抜けた。それは井ノ原がまだICUにいた時点で判っていたことではあったけれど、はっきりと言ってもらった事はそれを力強く裏付けてくれた。精一杯気を張っていたはずなのに、その場にへたり込んでしまう。

「長野くんのこと、怒らないで。」

「別に怒ってない。井ノ原も生きてたし、今回は俺が悪いんだ。怒る理由はない。」

顔だけ上げて視線を送る三宅に、極力穏やかな口調で言うと、三宅は少し口角を上げて、不器用に笑った。仲間の関係が壊れるのを、恐れているのだろう。ゆっくりと立ち上がって、改めてガラスの向こうにいる変わり果てた仲間の姿を見つめる。

「死にかけた人間がさ、危篤だって言われてる人間がだよ、こうも幸せそうな表情してるっていうのは、変な感じだよな。」

これは正直な感想。井ノ原はうっすら、微笑んでいるように見える。

「空が、飛べるような気がしたんだって。」

「は?」

「別に自殺したんじゃないよ。突然、電話がかかってきて、すごく明るい声で、俺は空が飛べるようになったんだ。とか言い出して、今なら剛ちゃんの気持ちが分かるんだ。とか言って、子供がはしゃいでるみたいな雰囲気を醸し出しながら、マンションの屋上から飛び降りたんだよ。結果、このザマ。」

飛び降りる直前に電話で話したという長野は、苦虫を噛み潰したようなカオで言った。

「空・・・。」

「昨日は、いい天気だった。突き抜けるくらい青空で、まんざら、空を飛べるような気がしてもおかしくないって感じでは、あったのかもしれないね。」

人間が空を飛べるはずがない。アニメやゲームの世界ならともかく、どう考えても正常な思考ならそういう論理は生まれてこないはずだ。長野は井ノ原の行動を激しく叱責してもおかしくないタイプの人間なのに、どうしてこんなにも素直に共感しているのか。

「よほどの理由があったんだ。だから飛んだんだと思う。」

三宅も肯定的。仲間だし、井ノ原が自殺なんてするような人間じゃないことはよく分かっている。でも、こんなにもみんなで理解があるというのも、何と言うか・・・

「怪訝な顔しないでよ。俺たちはただ、井ノ原がむやみやたらに人を悲しませたり、混乱させたりするような真似はしないって信じてるだけ。」

「長野、お前がそれを言うんだな。」

「井ノ原は幸せそうに笑ってたからさ、俺はそれを信じるだけだよ。」

「じゃあ井ノ原は・・・」

「少なくとも、剛の死を嘆いた自殺じゃない。」

「ああ、そう。」

自殺ではなかった。それは少し、ほんの少しだけ坂本の気持ちを浮上させた。井ノ原が急に空を飛べるなんて言い出して、マンションの屋上から飛び降りて見せた原因が分かったわけではない。井ノ原が飛んだ瞬間の明るさのほどを知らないから何とも判断できないけれど、空を飛ぶという選択は、坂本に対して出されていたサインの一部かもしれないし、同時に、森田のことがあって、自分を許せなくて、心のどこかが病んでいたのかもしれないという疑念も、払拭できない。

「坂本くん、仕事場から直行やったんよね?」

「ああ。」

「今日な、剛くんからみんなの家に、宅急便が届いた。」

「剛から?」

「うん。差出人は剛くんで、送り状の筆跡は、いのっち。配達日指定。11月1日。」

今日は11月1日だ。

 

 『これは、剛ちゃんのコレクション。みんなにおすそ分け。』

そんな小さなメモと一緒に、1冊の分厚いアルバムが包まれていた。中身はもちろん写真で、そんな様子はまったく見せなかった森田が撮り溜めたメンバーの写真で、埋め尽くされていた。写真は、どれも隠し撮り的なものばかり。カメラ目線のものは1枚もない。仕事中や、プライベート。最近の日付になればなるほど減って、最後の1枚を見て、坂本はもう堪えきれなくなって、声を上げて泣いてしまった。最新アルバムのジャケット撮影をしたときに、待ち時間に6人でじゃれ合って、みんな笑っていた。スタッフか誰かに頼んだのだろう。最初で最後、たった1枚、森田も一緒に写った写真は、楽しそうで、見惚れるほどに眩しくて、改めて思わされる。これ以外に、何を守るものがあったのだろう。個々での仕事が増えたから会う機会が減ったといっても、V6がこの6人であることには変わりない。離れていても、守るべき一線はあったはず。それを、見失うなんて、なんて愚かで、最低なリーダー。そして、不安に苛まれる。慌てて携帯電話を手に取った。

 

 11月1日が終わる2時間前。坂本の部屋にはV6が顔をそろえる。4人になってしまっても、変わらない。一番大切なもの。

「終わったね。」

長野が静かにこぼす。

「終わったな。」

坂本がはっきりと言い切る。

「でも、ここから始まる。」

岡田が笑顔で言う。

「いつだって今日から始まるんだ。」

三宅が笑顔を返した。

寸分たりとも色褪せないV6が、確かに動き始めた。

 

 快晴、無風。場所はテレビ局の屋上。耳をすませば、声が聞こえる。こんな日に空を飛べれば、本当に気持ちいいだろうな。目をこらせば、クリアになった世界が広がる。見るべきものが、隔たるものなくすべて見渡せているような錯覚。すべてをまっすぐに、自然に自らの中へ受け入れる。嘘も虚勢もない。この素晴らしい世界こそが、真実だと知ったから飛んだのだ。日常に不変な参考書通りの出来事なんてひとつもない。毎日はイロトリドリノセカイ。これが、手に入れたかったものだったんだね。

「長野?」

「坂本くん、今、この瞬間に空を飛んだら、最高だよね。今なら、飛べる気がする。」

 

 寸分たりとも色褪せない。この状態で、時を止めてしまえば・・・・・・・
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