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V6井ノ原快彦氏主演の妄想非恋愛小説を取り扱っております。
No.
2024/03/29 (Fri) 10:14:53

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No.86
2007/10/22 (Mon) 22:05:10

6曲目です。

曲の歌詞とは随分かけ離れた話になってしまいました。が、全体的なイメージとしては、こんな感じなのかなぁと勝手に解釈しています。

捉え方は自由ですので、話は完結したことにはなっていますが、読んでいただいた皆様でストーリーを自在に膨らましていただければと思います。

そういう風に書きました。


出演 : 井ノ原快彦 ・ 坂本昌行 ・ 三宅健



世界がとても広いということを、君には教えたかったんだ。

 

「井ノ原なら、死んだよ。半年前に。」

キラキラと目を輝かせて事務所を訪れた青年は、泣き出しそうだった。初めは嘘だと食い下がってきたけれど、次第にその勢いが消え失せていく。

そして、今にも泣き出しそうな表情をして、帰って行った。

「ここに井ノ原くんがいるって聞いたんですけど!」

嬉々としたハイトーンな第一声が、妙に耳に残っていた。

 

眉間に深い皺を寄せるところを、久しぶりに見た。明るくて元気で、そう少し煩いぐらいの井ノ原が何も言わない。それでも坂本は井ノ原の言葉を待つ。

どうして、死んだなんて言わせたりしたのだろう。一生のお願いだなんて、必死になって。

少し年の離れた感じの来客は、何者なのか。聞きたいことはたくさんあるけれど、触れてもいい事なのかも分からない。

じっと待ち構えていると、井ノ原はため息をついて、ぎこちなく笑う。

「聞きたいなら、聞いてくれてもいいよ。っつーか、話せよ。って感じ?」

その口調は、いつもと違う。努めて、明るさを装っているような。

「あの子、いくつに見えた?」

23から256くらい。」

「うん、25歳。でもね、精神年齢っていうの?それがね、中学生なんだ。」

「ピーターパンシンドロームか。」

「違うよ。そんな生易しい話じゃない。健ちゃんはさ、ずっと中学1年生でいなくちゃいけないと思い込んでるの。」

「なんだそりゃ?」

「俺と出会ったのが、中学1年生のときだったから。」

コーヒー淹れるね。

そう言って井ノ原はおもむろに立ち上がる。続きを早く聞きたかったけれど、止めようとは思わなかった。

きっと、長い話なのだ。

 

井ノ原と青年、三宅健の出会いは最悪。人のいい井ノ原の性格が、その日は裏目に出た。

梅雨真っ只中。夏の夕方だというのに雨のせいで薄暗い。

生徒からもれなく不満の声が上がっている寮への遠い道のり。井ノ原は、梅雨の時期は一層最悪だ。と思いながらダラダラと歩いていた。

昭和の香りをふんだんに醸し出す寮の門。くぐると紫陽花が満開で、ちょっとした茂みを作っている。

そこに身を隠すように、一人の少年が傘もささず、屈みこんでいた。寮は部外者立ち入り禁止。寮生の身内でも、許可書がなければ寮監につまみ出される。そんな場所に入り込んでいる来訪者に、井ノ原は訝しげになったのかもしれない。

「何してんの?」

深い意味など込めたつもりはなかったのに、その声に少年は声をかけられるなり肩を震わせる。そしておもむろにポケットからカッターを出し、井ノ原に突進してきた。

「ちょっ、ちょっ、タイム!」

寸でのところでかわしたものの、少年はまだそれを井ノ原に向けている。このままだと、もう一度向かってきそうな勢い。

「危ないでしょお。そんなモノ人に向けちゃダメだって。」

「今日だけは、いいんだ。」

「はぁ?」

「今日だけは特別だからいいんだ!」

人にカッターで切りかかってもいい特別な日って何だよ!心の中で突っ込みを入れながら、井ノ原はやはり来た第2波をかわす。

少年に恨まれるようなこと、した覚えないですけど。

「あのさ、まず話し合えない?」

「話し合う?そんなこと、今まで一度だってしたことないくせに。」

「うん。初対面だから話すのは初めてだけどさ、刀傷沙汰は遠慮したいな。」

「そう言って油断させて、殴って楽しむんだろ!」

「や、初対面でそれはないでしょ。暴力反対。もし話し合う余地があるならさ、せめて中に入んない?風邪ひくよ。」

「・・・・・あんたは、違うの?」

やっと井ノ原の柔軟な対応が通じたのか、少年はゆっくりとカッターを下ろす。

井ノ原が傘を差し掛けると、さっきまでの敵意は鎮まったようだった。

 

こっそりと少年を自室に案内し、タオルと着替えを貸す。

少年がその服に着替えようとシャツを脱いだとき、井ノ原は理由を知った。体中に無数にある痣。いじめにでも、遭っているのだろうか。だから身を守るために?

「3丁目の女子高生ストーカー殺人、知ってるでしょ。」

「え?」

「知らないの?新聞とかニュースとかでやってたじゃん。」

井ノ原は寮生なので新聞はもちろん読まない。テレビだって、見るけれどニュース番組とはほぼ無縁。少年に言われても、それがどういう事件なのかピンと来ない。

「児童養護施設の経営者が、近隣の高校に通う女子生徒に一目惚れをしました。初めは登下校の様子を見ているだけで満足でした。が、次第にそれでは物足りなくなり、写真を隠し撮りするようになりました。次にビデオ、そしてついには後を付けるようになったのです。自宅までこっそり着いて行き、住所が分かると手紙を毎日郵便受けに投函。無言電話。プレゼント攻撃。洗濯物を黙って盗む。のぞきに盗聴。男の行為は、日増しにエスカレートしていったのです。女子高生は警察に被害届を出しましたが、警察は取り合いませんでした。痴情のもつれは事件じゃないと、突っぱねたそうです。そして2ヵ月後、男はついに女子高生の前に姿を現しました。大きな花束を持って、通学路で待ち伏せをしていたのです。女子高生はもちろん花束を受け取らず、こんな事はやめてくれと言いました。迷惑だからと。すると男はたちまち逆上し、女子高生に酷い罵声を浴びて立ち去ったそうです。その3日後、女子高生は無残な刺殺体で発見されました。友人にストーカーに困っていると相談していたので、犯人はすぐに分かりました。逮捕された男は、警察にこう言ったそうです。手に入れたいものは、どんな手段を使ってでも手に入れる。施設のガキ共にも、そう教えてきた。施設に預けられていた子供たちの日常は、瞬く間に崩壊しました。男の言葉を真に受けた世間の人間が、生活を侵害したからです。意味もなく暴力を振るわれたり、学校を退学させられたり。里親に出されていたはずの子が、追い返されてきたり。今でも現在進行形で、それはとどまることなく続いています。」

少年の口から語られた真実に、井ノ原は言葉が出なかった。

悪いのはその経営者で、子供たちじゃない。なのにどうして、よく知りもしないでそんなことが出来るのだろう。いや、実際には疑心暗鬼で恐怖心が湧いたのかもしれない。けれどやっぱり、やり方は間違っている。

「施設のおねーさんがみんなに言ってくれるんだ。誕生日だけは、世界の主役だから自分が一番だって思っていいのよ。特別なのよ。って。だから今日だけは、特別な日だから、やり返してやろうと思って・・・」

「この寮に、君を殴ったやつがいるの?」

「ううん。追いかけられて、たまたまここに隠れただけ。追いついてきたら、飛び出して刺してやろうと思ってた。」

誕生日に、自分に危害を加える人間を刺そうと思う心理なんて。それを作り出す環境に、この少年が望みもしないのに陥ってしまったなんて。

「学校でもイジメ、あるんだよね。でも行きたくないとか、どうしても言えなかった。そんな風に駄々こねたりしたら、きっと施設の人たち、困っちゃうから。」

「学校、中学生?」

「中学1年。」

「施設の人には、こういう目に遭ってるって話してないの?」

「言えるわけないじゃん。そうでなくても施設の存続、危ないって噂だし。」

「そっか。」

まだ13歳の少年が、こんなにも気を使う環境に置かれているなんて。

今日は誕生日だから特別に、やり返そうとした。じゃあ明日からは?また、ただ言われも泣く他人から傷つけられる日常に耐え続ける毎日?不本意な痣を、体中に蓄える毎日?我慢することは仕方ないことだと、妥協して生きていくの?

それを知ってしまったなら、自分は・・・

「あのさ、名前、聞いてもいい?俺は井ノ原快彦、高校3年生。君は?」

「三宅健。近くの中学に行ってる。」

「じゃあ健ちゃん、俺と仲良しになろうよ。」

井ノ原の突然な申し出に、少年は眉間の皺を深くした。

「どうしてさ。」

その問いに対する答えが持つ責任は重い。口に出す前に一度、ゆっくりと咀嚼する様に確認してみる。そして、自分に言い聞かせる意味も込めて、しっかりと言う。

「そうすれば、健ちゃんを光のある場所に導けると思うからだよ。誰もが普通だと思ってる毎日を、一緒に楽しみたい。誕生日プレゼントが人に刃物を向けられる自由だなんて、そんなこと言ったり、考えたりしなくて済む日常もさ、あるから。」

「僕の帰る場所は、あの施設しかないのに?」

「・・・・・一緒に住む?」

「はぁ?ここって学校の寮なんだろ。住めるわけないじゃん。」

「俺、来年の春から大学生なの。大学生になったら、寮に住まなくてもいいからさ、一緒に住もうよ。場所もさ、この近所じゃなくなるし。」

とんでもない初対面の人間からの申し出に、少年は黙り込んでしまった。ゴリ押ししたって意味がないから、井ノ原はじっと答えを待った。

雨の音と、ときどき寮生が廊下を歩く音だけが聞こえる。

これまではきっと人間なんて信じてなかった少年が、手を伸ばすだろうか。

長い長い沈黙が、2人を包んでいた。

 

井ノ原が優しいことを坂本は知っている。三宅健という少年の選択は、きっと正しかった。いつまでも中学1年生の自分でいようとする気持ちも分かる。1歩でも自分から足を踏み出してしまえば、井ノ原が離れていくと思うと、恐くて仕方ないのだろう。ならば余計に、一度差し伸べた手を急に離したことは、理解出来ない。

コーヒーは口を着けられずに冷めて、灰皿は吸殻に埋め尽くされて。井ノ原が大きく息をついた。

「健ちゃんにはね、親友ができたから、もう俺は必要ないんだ。」

吐き出された言葉は、どこか切なかった。それまで一緒にいた大切な存在が必要でなくなるなんて、おかしい。親友ができたからって、井ノ原が離れる必要なんてないはずなのに。

「だから何だ?ってカオ、してる。」

「お前の言い方だったら、ものすごく中途半端で残酷に聞こえるからな。」

「うん。でもね、俺が一緒にいたら、健ちゃんは狭い世界しか見ないから。俺と一緒にいる空間しか、視野にないなんて悲しすぎるでしょ?せっかく親友ができたんだから、もっと外へ行かなくちゃ。25歳の感じるたくさんの世界も、知ってほしいんだ。」

ああ、少年は井ノ原だけがすべてになっていたんだ。それに気付いて、手を離したのか。

だとしたら・・・・・

「お前は寂しくなかったのか?」

坂本の質問に、井ノ原は困ったように笑う。

「寂しいよ。だって12年も一緒に住んでたんだもん。でも健ちゃんは13歳で時間が止まっちゃってて、それはそれで嫌だし。」

「13歳の傷ついた自分でいれば、お前はそばにいてくれると思ったんだな。」

「そう。だから親友になった子も、戸惑うときがあるみたいだよ。」

「そんな親友でも、あの子は大丈夫なのか?」

「大丈夫。だって健ちゃん、泣いたから。」

「泣いたって?」

「親友だって子の前で、過去を吐露して泣いたんだ。俺の前では、絶対に泣いたり、弱音さえ吐いてくれなかったのに。」

頑なに塞ぎこまれた感情を壊したならば、それは心を開いた証拠。

井ノ原しかいない世界に閉じ篭っているのが良くないのは事実。だったら突き放した事は間違ってはいないが、

「それであの子は壊れたりしないか?」

「しないよ。だってもう、新しい世界に足を踏み入れたんだもん。」

絶対にそうだと言い切れるか?

そう続けようとして、坂本は言葉を飲み込む。井ノ原の目は、まるで明るい未来が見えているように強かった。見ず知らずだけれと思わず手を差し伸べてしまった少年の手を、他人なのに放っておけないと思わせるほど深い傷を追っていた少年の手を、もう離しても大丈夫だとちゃんと考えて判断したのだろう。

「2度と会わないつもりなんだな。」

「うん。」

「偶然会ったら、どうする?」

「他人の空似を決め込む。」

「それで、本当に大丈夫なのか?」

「大丈夫だって。健ちゃんは、もう25歳の大人なんだよ。」

「違う。」

きっぱりと言い切った井ノ原の目をまっすぐに見つめ、坂本は聞き直した。

「お前は、大丈夫なのか?」

「ヘーキだよ。坂本くんがいるし。それに・・・」

笑顔ながらも言いよどみ、首を左右に振る。自分の気持ちはごまかして、話を終わりにするつもりだ。それは、解決ではない。坂本は聞く。

「それに?」

「もう大丈夫なんだから、いいの。」

「それに何だ?」

「・・・・・坂本くんは厳しいなぁ。俺の口から言わせるなんて、厳しすぎ。俺が大丈夫とかそうでないとか、関係ない。健ちゃんが前を向いて歩き始める時が来たんだから、健ちゃんのいいように事を運ぶのは、当たり前。なんて、ね、俺の口からあえて言わせるんだもん。ホント、スパルタ過ぎて泣けちゃうね。うん。泣けてくるのは、坂本くんがあまりにも恐いモードで俺と話すからだ。そうだ。そうなんだよ。」

実際に相手を手離せないと思っていたのは、お互い。一緒にいる時間が長すぎたせいで、共存は依存に変わっていたことに気付いていたのに、離れることのできなかった自分を井ノ原は卑怯だと思っている。高校生なりに一生懸命考えた選択は、結局少なからず三宅を傷つけてしまったことも、ちゃんと分かっているのだ。そんなたくさんの感情の奔流に押されて、坂本がダメ押しのようにまっすぐに井ノ原の目を優しく見つめてきて、押さえ込んできたのに、あふれ出す。

「井ノ原快彦は死んだ。半年前に、もう消えてるんだ。」

「それは、あの子の世界での話であって、俺の中では存在してる。」

大人は泣いては、いけない。泣いていては守れない。

「大丈夫。大丈夫。」

「その言葉を、今度は俺がお前に言ってやるよ。何百回でも、何千回でも。」

「いらない。」

即答で返された返事。坂本の眉間に深く皺が寄る。

「何もいらない。」

合わせた視線は井ノ原のほうから逸らされて、届かない想いに坂本は苛立つ。どんな言葉を使えば、どれだけ必死になれば伝わるのかなんて分からない。誰かのために優しさを無償で与えられることの意義を知っている男が、それを拒否するのだ。成す術がない。

「いやな嘘に付き合ってくれて、本当にありがとう。それだけで、充分。それ以上坂本くんに負担かけたら、バチが当たっちゃうよ。俺が望むのは、健ちゃんが幸せな未来を生きてくれること。そんな大きな望み以外に、何かを欲しいと思うのは、図々しいしね。」

言いたかったけれど、言えなかった。この先にまだまだ広がるたくさんの世界を捨てるなとは。井ノ原が三宅に一番伝えたいのと同じその言葉が。

こんなにも重い言葉を、井ノ原は背負い続けてきた、たった独りで。

「じゃあ、俺がお前に付き纏って笑わせてやる。」

「なに言ってんの。坂本くん、そういうキャラじゃないじゃん。」

「努力するさ。」

「へぇ。それは楽しみ。」

「毎日笑いすぎて疲れる。って言わせるから覚悟してろよな。」

「はいはい。」

井ノ原は坂本の話を半分以下に解釈して、さらに聞き流している。坂本はそれでも、もうそれでもよかった。どんなに想いをこめた言葉を重ねても、きっと井ノ原は受け入れない。だったら強引だけれど、半ば押し付けで突き通してやると、決めた。

「俺は本気だぞ。」

ダメ押しで坂本が言うと、井ノ原は困ったように笑って首を左右に振った。

 

世界がとても広いということを、お前だって知るべきだ。

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