Live Show は早くも4話です。
11月中に完結させたいとは思っていますが、遅筆なもので・・・・・
ということで、今回はおとーさんの職業が明らかに!
なんて大々的に言うほどではありませんが・・・
出演 : 井ノ原快彦 ・ 坂本昌行 ・ 長野博
6歳の井ノ原は、いつでもプチ家出程度なら可能なほどの大きなリュックを持ち歩いている。中身について、坂本はすぐに知るところとなったのだが、それはストレスを助長させるアイテムとも言えるもの。持たせた張本人の長野にすぐに文句を言ったが、特に害になるようなものでもないし、何よりも本人が気に入っているのだから構わないのでは?という至極もっともな意見で切り返されてしまった。タオル、ティッシュ、絆創膏、おやつ、テレホンカード、お気に入りのコスモレンジャーのおもちゃ。この辺りは無害なアイテム。スケッチブック、クレヨン、ポラロイドカメラ。この3点が問題だ。とにかく井ノ原は写真を撮りまくり、好き勝手な場所でスケッチブックを広げる。絵を1枚描いては坂本に声高らかに説明をしてくれるのだが、それが外だと目立って仕方がない。写真も同じで、1枚撮っては坂本に意見を求め、褒めてやらないと意地になってひたすら撮り続ける。6歳の井ノ原といるときの外出は極力避けよう。そうは思っても何かと外に出る用事が出来たりするから、坂本にとって、それらのアイテムは悩みの種となっていた。
仕事が立て込んで、冷蔵庫の中身がほぼ空っぽだったことに昼になって気付いた。普段なら昼くらい食べなくてもどうということはない。という結論に達するのだが、そういう日に限って6歳の井ノ原が一緒だったりする。坂本は仕方なく昼はファミレスで済まし、ついでに買い物に行こうと、井ノ原と連れ立って出かけた。ファミレスで席に座れば、案の定井ノ原はスケッチブックを広げて絵を描き始め、困った坂本はどうにか井ノ原の口数を減らそうと、こんな提案をしてみた。
「なぁヨシ、お父さんのグループのみんなを描いてくれよ。カオだけじゃなくて、全部な。で、色も塗れたら見せてくれ。」
「いいよ。」
井ノ原は快諾し、お絵かきに没頭し始めた。これで一息着ける。坂本は持っていた文庫本を開き、タバコに火をつけた。ひとたび料理がくれば、こぼすわ口の周りは汚すわで、また大いに手を取られたが、食後のコーヒーとジュースが来ると、また井ノ原はお絵かきを再開し、店には申し訳ないが、坂本はのんびりとした時間を楽しむことにする。こういう手があったのだな。と、坂本はこのとき初めて、スケッチブックとクレヨンの存在に感謝していた。
ふと携帯電話に目をやり、食後1時間以上が経過していることに気付く。あまりの長居は非常識だ。店を出ようと坂本が伝票を手にすると、井ノ原がほぼ同時に持っていたクレヨンを置き、元気いっぱいに宣言してくれた。
「できた!」
ここで、すぐに絵を見てやらなければ、井ノ原は拗ねてしまうかもしれない。そうなると面倒なので、坂本は伝票を置き、ゆったりとした口調で言った。
「じゃあ見せてみ。」
「うん。あのね、これがおとーさん。ふくはね、よしがいちばんすきなやつだよ。で、ながのくんでしょ、これがもりたくんで・・・・・」
絵を見せられて、坂本は大きな違和感を感じる。髪の色があまりにも色とりどりすぎるし、みんなピアスをしていて、顔が白っぽい。衣装もV6が着るものというよりは、ビジュアル系のバンドのメンバーが来ていそうな、黒を基調とした奇抜な形のもののように見えた。普通に坂本や長野を描くときは、ちゃんと髪は黒に塗るし、顔だって肌色に塗る。どうしてメンバー全員を描いた途端にこんな風なのだろう?何かのテレビで間違った情報でも得たのだろうか?坂本はじっと井ノ原の絵を見つめ、考え込む。
「おとーさん、このえ、いやだった?」
考え込む表情が険しかったのだろう。井ノ原はすっかり眉尻を下げて、弱い口調で聞く。
「いや、あまりに上手に描けてるから、思わず真剣に見てただけだ。」
そう言って頭を撫でてやれば、表情は一変。ぱぁっと笑顔が広がる。そして、
「やったぁ!じゃあこんど、ながのくんにもみせよーっと。」
嬉しそうに発せられた言葉で、当たり前のことに気付く。井ノ原のことは、長野に聞けば早いではないか。本人に確かめるより、ずっと早く知りたいことの答えに辿り着けるはず。
「見せに行こう。」
「うん。こんどのおやすみ、やくそくだよ。」
「バーカ。今からだ。」
「ほんとに?」
「きっと長野も褒めてくれるぞ。」
「おとーさんのことも、ほめてくれるよ!いいことしたらね、おっきなアメがもらえるんだよ!」
嬉しくて、すぐにでもここを出発したくて、井ノ原は必死でクレヨンとスケッチブックをリュックに押し込んでいる。長野の家に行くという話になると、いつもこんな感じ。大喜びで、もう行きたい気持ちが先走って焦りに焦って。ほら、今だってそうだ。ドアに向かって全力疾走を始めるに決まってる。転んで擦り傷でも作っていけば、長野は坂本に対してムッとするのだ。だったら、そうさせないように未然に防ぐ。
「ヨシ、ストップだ。」
こういうときの子供の素早さに、坂本は思わず深いため息をついた。ストップという言葉が届いていないどころか、ドアに向かって全力疾走し、意外と重かった押すタイプのドアをちゃんと押せずに、『ゴンッ』といい音を立てて激突、おでこを押さえて屈んでいる姿。レジにいた店員がビックリして声をかけようとするが、6歳児モードの井ノ原快彦に気付かれたら面倒臭い。あわてて坂本は店員と井ノ原の間に割り込んで、万札を乗せた伝票を差し出した。
「会計を。」
言われた店員は、まだ少し井ノ原の様子を気にかけながらも、レジを打ち始めた。坂本は屈みこんだまま額を押さえてプルプルと肩を震わせている井ノ原の頭をそっと叩くと、少し皮肉めいた口調を作って言う。
「ドアにおでこをぶつけたぐらいで泣くのか?人前なのに。」
すると井ノ原は勢いよく立ち上がり、ごしごしと目をこすると大声で言い返した。
「おとこはひとまえでなくなんてみっともないまね、しないよっ!」
「慌てなくても長野の家は逃げねぇから、先に歩いて俺の車に行って、待ってろよ。」
「うん。」
歩いて。の部分を強調して言われたので、井ノ原は早足ながらも歩いて店を出た。コスモレンジャー様様だな。と坂本は苦笑する。男は人前で泣くなんてみっともない真似はしない。とは井ノ原の大好きなコスモレッドのセリフである。面倒だとは思うが、たまには一緒に見ておくのも役に立つ。これはかなり使える。などと思いながら、坂本は釣りを受け取って、店を出た。停めている車のほうに視線を送れば、何度もおでこを触って、その手を確かめる井ノ原。本当に痛かったらしい。血でも出てやしないかと、心配しているようだ。微笑ましい。疲れることも多いけれど、癒されることも多いのかもしれない。ぶつけたおでこがあまりに気になるようだったら、途中で絆創膏を買ってやろう。
夕方から取材がある長野には、時間の余裕があまりない。ドアにおでこをぶつけたが泣かなかった。と自慢げに話す井ノ原を半ば強引に引き剥がして、坂本は長野に部屋で2人で話がしたい。と切り出した。長野はおやつを出し、ビデオをつけ、井ノ原にリビングで待っているように告げると、坂本を自分の寝室へ促す。井ノ原は自分の描いた絵を見せたいと主張したが、あとでゆっくりと見せてね。せっかく上手に描けたのなら、慌てて見てしまったらもったいないから。と、とてもやんわりとかわした。
坂本がその質問を繰り出すなり、長野は呆れたような表情を浮かべた。そんな顔をされる筋合いはない。坂本が不服そうに口を開こうとすれば、長野はため息交じりの口調で言った。
「分かってたことだから、いいけどね。」
「は?」
「ちゃんと全部、ノート渡したよね。でも坂本くんは、FIVESがどんなグループか知らなかった。俺は、あのノートに書いたよ。つまり、読んでないってこと。まぁ、ざっと目を通せば事足りるとでも思ったんだろうけど。」
あのノートを、確かに坂本は触りしか見ていない。しかしそれは、序盤のかなり早い段階から、長野の日記のようになっていて、なんだか気恥ずかしくて読んでいられなくなったということもあっての上でのことだ。責めて重要なことは、別途箇条書きにするべきだろうと、それでも少しは頑張って目を通した坂本は言いたい。完全抗戦の意気込みで
「だいたいなぁ、あのノートの・・・」
「大声出さないで、よっちゃんに聞こえるでしょ。」
強く出ようとすれば、あっさり長野に遮られてしまった。
「FIVESっていうのは、ビジュアル系バンドなんだよ。坂本くんがヴォーカルで、俺がベース、剛がドラム、健と岡田がギター。でも、よっちゃんの話から察するに、メジャーデビューはしてなかったみたい。CDもないみたいだしね。」
「ああ、だからあの髪の色だったのか。」
「髪の毛、剛が赤で健と岡田は金髪だったでしょ。俺、よっちゃんに聞かれてビックリしたんだから。どうしてながのくんはかみのけみどりじゃないの?って。」
言いながら、長野は壁に貼られたお絵かきのうちの1枚を指差す。それはさっき、井ノ原がファミレスで描いてくれた絵と似ていた。
「見てよ。FIVESとよっちゃんが一緒にいる。きっとメンバー全員、よっちゃんのこと、知ってたって事なんだろうね。分かるでしょ?この意味。」
「俺のライブを井ノ原は見たことがある。カミセン3人に対しても、井ノ原には抱いてるイメージがあるから、現状を知られるとややこしい話になる。」
「そう。お互いに会わないほうがいい。無用の混乱を招くだけだろうし。でもね、一昨日の収録のとき、坂本くんが寝てる間にいやな感じのことがあったんだよね。」
「やな感じのこと?」
坂本は楽屋で本番ギリギリまで寝ていた。起きたときにはそんな様子は微塵も窺えなかったし、収録後も長野から何も聞いていない。一番の当事者である坂本に、井ノ原に関する情報が2日も経過してから入ってくることに少しむっとしていると、長野が分厚い本を1冊、目の前に差し出す。
「坂本くんは、ティツィアーノ・ヴェチェリオって知ってる?」
「ティツ?何?」
「それ画集だから、見て。見たことある絵もあると思うよ。」
ずっしりと重みのあるそれを開くと、『色彩の錬金術師』というサブタイトルが目に付く。坂本は西洋の美術には興味がないし、有名な画家なら世界史の授業で見かけたかもしれないが、もちろん憶えてなんていない。パラパラと無造作にページをめくっていると、あるページに差し掛かったところで長野がそっと押さえた。
「これ。」
「これが何?」
「うーん、代表作。」
「だから?」
「って岡田に教えてもらった。よっちゃんね、岡田に急に聞いたんだって。ティツィアーノ・ヴェチェリオって知ってる?って。あ、もちろん6歳じゃないときね。」
「アイツ、そういうのに興味あるんだな。」
坂本のその言葉に対しては、長野は何も言わなかった。代わりに短いため息をこぼして、坂本の手から画集を回収する。
「ねぇ、もしかしたらよっちゃん、何か問題を抱えてるんじゃないのかな。」
「もしかしなくても抱えてるだろう。」
「そうじゃなくて、それ以外に。坂本くんをお父さんだと錯覚するようになっちゃうきっかけって、何もないってことはないと思う。きっと、何かあるよ。」
「何か、ねぇ。」
漠然とした会話からは、それ以上の発展はなかった。リビングから何かを派手にひっくり返す音がして、長野が慌てて部屋を出て行く。坂本は机の上に置かれた画集を、もう一度めくってみた。岡田が訝しがって、余計な勘繰りでもしなければいいが。不安の種は、日ごとに着実に増えていく。井ノ原が一人で抱える大きな何か。まったく心当たりはない。坂本は直接、井ノ原に聞くのもアリか?と、過る物騒な思考を、慌ててもみ消した。
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