随分と間が空いてしまい、申し訳ありませんでした。
ネットが復活しましたので、サクサクと書けたらと思います。
出演 : 井ノ原快彦 ・ 坂本昌行 ・ 長野博
長野は6歳の井ノ原を、一人では外に出さないようにしていたらしい。当たり前だ。31歳の身体をした6歳児が、一人で出歩いて勝手にトラブルに巻き込まれでもしたら、それこそ厄介。そうでなくとも突飛な行動をしては手を焼かせているのだ。だから過保護すぎる親のよう、それは大切に、気を使いまくっている。井ノ原も6歳にしては聞き分けがよく、言われたことはきちんと守ってくれていた。なのに、なぜか起こってしまった出来事に、坂本は激しく動揺した。長野の目を盗んで勝手に外出した井ノ原が、近所の神社の階段から落ちて、大流血で、だがなんとか自力で帰宅だけはしたということに。
「骨折とかはなくて、とりあえずはよかったよ。」
すっかり眠りこけてしまった井ノ原を見ながら、長野は本当に安心したという口調で言う。不幸中の幸いとはまさにこのことで、階段の一番上から一番下まで落ちた。という井ノ原の状況説明の割に、怪我は擦り傷と擦り傷と軽い打ち身のみ。大げさな話でなく、実際にひどい流血だったのだが、それにしてはどの傷も浅かったので、長野の部屋で治療は事足りた。
「どうして一人で出かけたんだ?」
「分かんない。こんなこと、初めてだし。」
あの日、楽屋で井ノ原の様子が急におかしくなった日、長野は坂本から話を聞こうとしたのだが、坂本に急用ができ、その機会が翌々日に先延ばしになってしまった。そして翌々日を迎えてみれば、坂本が長野のマンションを訪れ、ソファに座るなり井ノ原がいなくなっていたことが発覚。探しに行くだの何だのと大騒ぎを繰り広げた挙句、この結果。いいだけ井ノ原に振り回され、坂本は思わず口にしてしまった。絶対に、思っていたとしても言ってはいけない。同じグループの仲間として、常識的に考えれば当たり前のこと。
「なんでここまで、コイツに振り回されなきゃいけねぇんだよ。」
言ってすぐに、しまったと思った。見なくとも、長野の表情が変化したことは分かる。伝わってくる空気が、急に尖ったから。
「いや、べつにムカついてんじゃねぇんだ。ただ、ちょっと疲れたからさ、つい出ちまったっつーか、ほら、言葉の綾っての?」
「そんなに慌てて繕わなくてもいいよ。坂本くんの本音を聞けて、むしろよかったと思うし。」
「違うって。本気じゃないに決まってるだろ。」
「俺が一番恐れてるのは、井ノ原自身に6歳のよっちゃんの存在が知れてしまうことなんだ。だから、中途半端な心構えで関わってもらっても迷惑でしかない。でも、よっちゃんは坂本くんのことをお父さんだと思ってるから、強引にも引き離すわけにはいかないのが現実だよね。さぁ、どうしようか?坂本くんは、どういう風にしたいと思ってるの?」
自分は、どうしたい?
「よっちゃんを突き放す?母親みたいに、捨てる?」
そんなこと、考えているはずがない。何歳でも、井ノ原は井ノ原で、坂本にとって大切な存在であることには変わりないのだから。考えているはずが・・・・・絶対にないと言い切れるだろうか?確かに坂本は、6歳の井ノ原の面倒を見ることで余計に疲れさせられていて、時々、一体いつになったら元に戻ってくれるのだろう。早く戻って、開放してくれないものか。などと思うこともある。それは井ノ原を突き放したいという感情とは等しくないと、言ってもいいのか。見捨てるわけではないけれど、負担であって、付き合いきれないとさえ思ってしまうような存在にはなりつつあった。
「子供の面倒を見るのって、大変だもんね。ましてや、本当の子供じゃない。身体だけは大人なんだから。それならそれでもいいよ。きっとすごく傷つくだろうけど、よっちゃんは俺が面倒見ればいいんだし。だから、いやならいいよ。」
もう、6歳の井ノ原に振り回されなくてもすむ。元の平穏な毎日が戻ってくるのだ。ただしそれは、井ノ原を見捨てたことの代償。坂本は自分に問う。本当にそれを、望むのか。
「だとしたら、うまい理由を考えないと。両親2人して自分を捨てたんだ。なんて卑屈になったら、教育上よくないからね。」
「・・・・・てねぇよ。」
「何?」
「俺はヨシを捨てねぇよ。井ノ原を見捨てるなんて、できるわけない。」
「でも、振り回されてイライラしてるんだよね?よっちゃんに、八つ当たりとかしたりしないって、言い切れる?」
「努力するよ。6歳のガキの扱いなんて、はっきり言えば手に余んだ。どう接していいかも、今イチつかめねぇ。ヨシの相手って、煩わしいなって思うことも多い。長野を父親だって思っててくれれば、どれほどよかったかなって。けど、さ、井ノ原だからさ、やっぱ捨てらんないじゃん。簡単には片付けられない。アイツは、ずっとずっと俺のこと信じて着いて来てくれた大事な仲間なんだし。」
「じゃあ、坂本くんはお父さんの役でいるってことで、いいんだね?」
「ああ。」
坂本の少し歯切れの悪い返事に、長野はため息をひとつこぼしたが、安堵したような表情も見せてくれた。少し長めの沈黙があって、もしかして長野が「やっぱり納得いかない。」などと言い出すのではないかと坂本はドキドキだったが、次に口から出されたセリフで、今日のところは大丈夫なのだなと思った。
「それで、今日の本題なんだけど。」
そう。坂本は別に、本音の一部を垣間見られて、慌てて長野に申し開きをするために来たわけではない。一昨日の井ノ原の言動について、長野と考えるために来たのだ。本題に入ろうとした瞬間を見計らったように聞こえてきたノックに、また話の腰は折られてしまったが。
「よっちゃん?」
ドアに向かって長野が声をかけると、細く開かれた隙間から、井ノ原が顔をのぞかせる。その顔はすっかり両方の眉がハの字に下がってしまって、何かを言いよどんでいる風。
「どうしたの?ケガ、痛い?」
「・・・・・かってにおそとにいってごめんなさい。」
「ううん。退屈だったかな?次からは、行きたいときは言ってくれれば一緒に行くから、もう一人で行っちゃダメだよ。」
「いかない。よしいいこにしてる。だから・・・」
そこで言葉を切った井ノ原は俯いた。もしかして、今までの会話を聞かれてしまっただろうか?長野はチラリと坂本を一瞥し、井ノ原に優しい視線を送る。
「だから?」
「だから・・・・・あのね、せかいのしゃそうから、みてもいい?」
拍子抜け。悪いことをしたあとだったので、わざわざビデオを見てもいいか長野にお伺いを立てに来たらしい。長野は殊更笑顔になり、ビデオを見ても構わないと答えた。すると井ノ原の表情は少し穏やかに緩んで、ドアを閉める音とパタパタとリビングに走っていく音。長野が息をつく音。すべての音を確認してから、坂本は口を開いた。
「あの日、楽屋でヨシが出てきたんだよ。」
それは長野を驚かせ、難しい表情を浮かべさせるには充分すぎる内容だった。
6歳の井ノ原が引っ込んだからといって、その怪我まで消えてなくなるわけではない。翌日、ラジオの収録に現れた傷だらけの井ノ原にマネージャーやスタッフはビックリしていたが、そのケガの経緯について知る坂本と長野は、井ノ原に対するリアクションに苦心惨憺だった。おでこと頬の絆創膏の下には、メイクで隠せるものでもなさそうな大きな傷がある。芸能人がプライベートで顔に怪我をするなんて、プロ意識が欠如してる証拠だ。普段の坂本ならばそんな風に怒ったのだろうけれど、このケガについては怒ってしまったらかわいそうだ。が、それは事情を知っている上での話であって、ここで怒らなければ逆に怪しまれる。坂本はいくつかの厳しい指摘をぶつけ、長野も存分に毒を吐く。不貞腐れた井ノ原を不憫に思い、坂本がフォローに回ろうとすると、それを長野に制されてしまった。ああ、そうか。と当たり前のことに気付く。いつだってそうだ。こういう場合のフォローは長野の役目で、坂本が下手に甘い態度を見せると、井ノ原は怪しむに決まっている。原因不明のケガの被害者である井ノ原に、さっきとはまったく違った優しい言葉をかける長野を見ながら、坂本は再び思う。絶対に長野の方が父親に向いてるのに。長野と一緒にいる時間が長いほうが、6歳の井ノ原にとっては居心地がいいはずなのに。自分には父親なんて役目、きちんとこなせない。早く元に戻らないものか。それらの感情を、必死で打ち消して井ノ原を守りたいと思う日が来るなんて、まだ知る由もない坂本が考えていること。ここのところきっと、気付けばいつも。
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