11月1日になりました。
V6さん、お誕生日おめでとうございます。
時が経つのは早いもので、そりゃあ自分も年を取るはずだ。と苦笑しております。
ということで、お誕生日にどうしても小説を上げたかったのです。
で、ちょうどアルバムのタイトルナンバーである『voyager』が残っていました。
うまくいったなぁ。
などと思いながら、とても暗い話を書き上げてしまっております。
それでも構わない。せっかくだし読んでやろうじゃないか。
というかたは、お進みいただければ幸いです。
出演 : V6
耳をふさがないで。目を逸らさないで。すべてを拒絶しないで。本当のことをちゃんと見て。嘘で作り上げた世界を、真実だと言わないで。
11月1日、もう一度、新しい岐路に立つ。
デビューしたての頃はいつも一緒にいて、知らないことなんてないんじゃないかと思うくらいだった。けれど当たり前の話、みんな仕事が増えて多忙になって、会う機会は激減して、近況すらあまり知らないような状況になって、1ヶ月近くぶりに6人が集まったのは、病院の霊安室だった。ぶっきらぼうで、けれど内側はとても熱くて、強い想いをいつだって抱いていた仲間の、訃報を聞いて。
駆けつけた誰もが「どうして・・・。」という第一声。が、一人だけその言葉を口にしなかった男がいる。井ノ原は一番に駆けつけて、その変わり果てた姿を見るなり、深いため息混じりに「とうとう、成功したんだな。」と少し微笑んでつぶやいた。多忙になっても時間を作っては飲みに行ったり、遊びに行ったり、毎日のようにメールをしたり、デビュー当時とほとんど変わらない状況を守り続けていたから。どうしてこういう結果を招いてしまったのかを、よく分かって。いつかきっとこうなるのではないかと、思いながらも止めることが出来なかった自分に腹が立ってしまって、他に何も、言えるような言葉が思い浮かばなかったから。そして何十分か経った頃に駆けつけてきた仲間たちに向かって、次々とあふれ出してきたのは・・・
「こうなって初めて、みんな来てくれるんだ。」
「すまん。けどみんなそれぞれに仕事もあるし、忙しくてそれどころじゃ・・・」
「剛ちゃんは、大切なときやどうしても伝えたいことがあるときには必ずみんなにメールを送ってたけど、たかが携帯のメールですら、返事はあまりなかった。岡田にいたっては、ゼロだったよね。健ちゃんが意外とよく返事をくれてた方だったけど、会いたいってメールしたときは必ずと言っていいほど、スルーだった。坂本くんが最後にメールの返事をくれたのは、冬だったっけ、2月の末。ご立派なお仲間だよ。剛ちゃんが最近口癖みたいに言ってた言葉、言える?」
「別に剛が嫌いで、そうしてたんじゃない。」
「言葉って便利だね、坂本くん。そうやってほんの少し発することで、これまでを棚に上げて自分を正当化できるんだからさ。」
「つっかかんなよ。こうなったのは、俺らのせいだって言いたいのか?」
「4人とも、剛ちゃんのSOSを見逃した。」
「SOS?」
「俺は一生懸命止めようとしたよ。でも、それだけじゃ足りない。本当なら、ちゃんとみんなで話を聞いて、大丈夫だって言ってあげるべきだったんだ。」
井ノ原は大声こそ上げないものの、本気で怒っている。それまで黙って一連のやり取りを見ていた三宅は、ゆっくりと森田のそばへ行って、冷たくなった手を優しく握って、静かに話し始めた。
「ウサギは寂しいと死ぬってよく言うけど、人間もそうなんだね。」
カミセンとして一緒にいる時間が多かった時期のある三宅は、多分なろうと思えば、一番の森田の理解者になれただろう。森田が発したSOSは「寂しい。」というサインだったのだと、すぐに汲み取る。
「こういう仕事を自分たちで選んだんだから、何より優先させるのは当たり前だって思い込んでた。なくすまで、大切なもののことを考える余裕もないくらいに。ごめん。どれだけ言い訳しても手遅れだけど、俺は何十回、何百回でも謝るよ。今さらになってからしか会いに来れなくてごめん。メールの返事を送れなくてごめん。剛の抱えてた闇を取り除くことが出来なくて、本当に、ごめん。」
三宅が言いながらぼろぼろと泣き出して、坂本がつられて涙をこぼす。泣いても、謝っても、取り返しなんて付かない。今になってそうするなら、もっと早く会いに来ればよかったのだ。森田はちゃんと、頻繁に会っている井ノ原にはサインを出していたのだから。井ノ原は4人をもっと激しく叱責したかったけれど、痛みが伝わったのなら、もういいと思った。森田に何があったのか、どんな事情がこんな結末を選ばせたのか、知りもしないで泣いている仲間の姿に、どこか冷めてしまったというのも事実だし。そばにいたくせに止めることができなかった自分が間違っていないわけがないことも、痛感していたし。
「じゃあ俺は現場に戻るよ。仕事、途中で放り出して来ちゃったから。みんなは、もしも時間があるなら剛ちゃんのそばにいてあげて。」
「なぁ、いのっち。」
「何?岡田。」
「剛くんの最近の口癖って、何やったん?」
「・・・仲間なのに、そんなことも知らないんだな。」
嘲笑を含んだ厳しい口調で、井ノ原はそう言うと部屋を出た。言い過ぎた感じはしていない。森田の選んだ結末が、4人の心の中で深い傷になればいいと思った。
森田の件以来すっかり沈んでいた井ノ原を、友人や先輩、後輩、たくさんの人たちが「慰める会」と称して毎日のように飲みに誘ってくれた。それにかこつけて、ただ飲みに行きたいだけの人もいるのかもしれないけれど、今はそれも、この気持ちを少しでも軽くしてくれると思うと嬉しかった。そして午前中だけしか仕事のない今日。明日は休みだから思い切り飲めるとあって、井ノ原の夕方からの予定は、しっかりと押さえられていた。断る理由もないので行く気でいた井ノ原だったが、仕事終わりでスタジオを出るなりその予定は急遽キャンセル。わざわざ、井ノ原を待ち伏せしている男がいたのだ。
「坂本くん?」
「おう。」
タバコの煙を吐き出しながら、どれだけ待っていたのか井ノ原のほうへ駆け寄ってきた坂本が立っていただろう足元には、タバコの吸殻が数多く散乱している。
「どうしたの?」
「久しぶりにどうだ、一杯。」
「・・・いいけど。」
交わしたのはそれだけの会話。あとは少し肌寒くなり始めた秋の道を、黙って互いの息遣いに時々耳を傾けながら、歩いた。昔なら、坂本と一緒に歩く帰りの道は、さまざまな会話にあふれていて楽しかった。それとはずいぶんかけ離れていると、井ノ原はそれすら悲しく感じていた。
適当な居酒屋に入って、座って、あの2人はきっとリストラを宣告されたサラリーマンなのだろう。と店員が勘ぐるほどに2人は暗く静かで、やっと坂本が重く噤んでいた口を開いたのは、1杯目の酒が空いた頃。
「なぁ井ノ原。剛がよく言ってた言葉のこと、考えたんだ。デビューしたばかりの頃、剛が自殺した日みたいにものすごくいい天気の日にさ、言ってたことがあるんだ。」
「こんな日に空を飛んだら、気持ちいいだろうなって?」
「やっぱり、剛はそれを言ってたんだな。」
「・・・・・。」
「空を飛べるって、人間の究極の夢だろ?最高に自由な発想だと思うんだ。いつだってお世辞にも愛想がいいとは言えなくて、どこか影があるような感じさえさせて、本当に大丈夫なのかって感じだった。そんな剛がそういうことを言い出したのにはビックリしたけど、俺はその言葉を聞いたときから気付いたんだよ。こいつは、なんて儚いんだろう。いつか一人で、俺たちの手の届かない、どこか違う世界へ行ってしまうんじゃないか。って。」
「実際に、行っちゃったけど。」
「ああ、自由な世界を、選んだんだな。」
「剛ちゃんのお葬式の後、俺はそれを思い出して、自分のマンションの屋上へ行ってみた。いい天気で、吸い込まれそうな気がしたよ。」
「おい。」
「俺は仲間として失格かもしれないけど、剛ちゃんの気持ちは分かった。」
「認めないぞ!」
「ありがとう。優しいね。」
「そうじゃないだろ!死んだって何も解決しない!残された人間に、メンバーにいたずらに悲しい想いをさせるだけだ。」
「うん、そうだね。」
「だったら・・」
「ごめん。まぎらわしい言い方して。不安だったんだよ。剛ちゃんは俺を恨んでるかな。だとしたら、俺なんか死んだほうがいいのかな。って。」
「そんなワケないだろ!」
「そっか、よかった。」
「よくないぞ。井ノ原が死んだらっ、俺・・・本気で泣くからな。それで、きっと耐え切れなくなって、後を追いかける。」
「死なない。大丈夫だよ。」
「だったらいいけど。」
「でも、死ねば剛ちゃんへの償いには、なるかもね。」
「井ノ原!」
「だからー、死なないって。」
冗談ぽく言って、井ノ原はケラケラと笑う。坂本はその真意を測りかね、困惑。森田の声をちゃんと受け止めなかった自分に腹を立ててはいたけれど、死んでお詫びをすることが正しいとはとても思えない。むしろ、そんなことで片がつくと思いたくない。同じグループでずっと一緒にやってきたはずなのに、どこか疎遠になってしまっていた自分。変わらずにたくさんの時間を共有してきた井ノ原。森田は、それぞれにそれなりの距離を開けてしまった5人のことを、どう思っていたのだろうか。
「あの日、キツイこと言ってごめん。きっと大丈夫だよ。剛ちゃんは、坂本くんや、みんなが気持ちを切り替えて前に進んだって、怒ったりはしない。」
「え?」
「剛ちゃんはさ、望んでると思うよ、みんなの元気。」
そう言って笑う井ノ原は、誰より元気という言葉から遠い場所にいるように見えた。けれど、坂本はそれをついに口にはせず、思い出話を肴に井ノ原と朝まで飲み続けた。
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