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V6井ノ原快彦氏主演の妄想非恋愛小説を取り扱っております。
No.
2024/04/19 (Fri) 14:55:12

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No.82
2007/10/08 (Mon) 23:56:28

voyargerタイトルシリーズ。

やっと2曲目です。

曲の可愛さとはかけ離れた事態になってます。

暗いですね。

かなり暗いです。

それでもよろしければ、ごらんいただければ幸いです。


出演 : 井ノ原快彦 ・ 坂本昌行


 
 初心者には夜の繁華街がお勧め。

 なんて言葉を簡単に信じた自分が浅はかだった。

 つくづく単純な自分の心理にため息をつきながら、人波を見ている。

 すぐにでも帰りたいけれど、手ぶらでは帰れない。

 確かに、夜の繁華街は狙い目なのかもしれない。

 ときどき同業者を見かける。

 けれど、難易度が高いと思うのは自分だけだろうか。

 酔っ払いや柄の悪そうな若者。水商売のキャッチ。

 どれを取ってみても、うまくいくなんて微塵も思えなかった。

 帰りたい。

 街頭のデジタル時計は、もうすぐ日付が変わる時刻を示していた。

 

 今日が空振りに終わってもいいから、店じまいにしよう。

 勝手に自分の中で結論付けたとき、視界に一人の男が映る。

 酔っ払いでも水商売のキャッチでもない。

 いたって普通の、サラリーマン?

 時々人にぶつかってはぺこぺこと謝りながら、重い足取りで歩いている。

 この世の終わりみたいな暗い雰囲気。

 あのタイプの人間なら、絡まれることはないかな。

 店じまいは少し延期。

 かなり恥ずかしいアイテムを手に、営業用スマイルを作った。

 「あんた、ロリポップ好きか?」

 声を掛けられた男は、当然、訝しげな顔をした。

 当たり前だ。

 いい年をした男が、ピンクの大きなロリポップ片手に笑顔で声なんて掛けてくれば。

 「俺、給料日前だし金ないんで。」

 「嫌いか。そうだよな。大人の男がこんなモン食わねぇっつーの。」

 「嫌いじゃないですけど、ホント、買い食いとかしてる余裕ないんです。」

 今までに声をかけた人間には、いなかったタイプ。

 「買わなくてもいい。やるよ。嫌いじゃないんならな。」

 「は?」

 「2つだけ願い事の叶うロリポップ。イチゴ味。」

 「・・・・・宗教?」

 「ちげーよ、バカ。」

 不信感いっぱいな目で見られてる。

 ま、明らかに怪しいのは分かってるけど。

 あーあ、マジで面倒だ。

 「ロリポップなんて、キャラじゃない。」

 「分かってるよ。」

 「分かってるのに持ってるんだ。」

 「いろいろと事情があんだよ。」

 「仕事?」

 「ま、そんなトコだな。」

 嘘は言ってない。

 とりあえず受け取ってくれればそこから始まれるんだ。

 だから受け取れよ。

 「願い事って、なんでもいいの?」

 「なんでも叶うぞ。きれいな彼女が欲しい。宝くじで1等を当てたい。競馬で万馬券を当てたい。大金持ちになりたい。社長になりたい。なんでもいい。絶対に2つは叶う。」

 そう。2つだけ願い事は叶うんだ。

 ロリポップを受け取って、願え。

 「・・・あんた、どちら様?」

 「坂本。」

 「俺は井ノ原。いいよ。そのロリポップ、もらう。」

 目が疑ってるな。

 受け取ってくれれば構わないが。

 ただ、

 「願い事、叶えろよ。」

 それが一番重要なポイントなんだからさ。

 「本当に何でも叶うの?」

 「叶う。」

 「じゃあさ、空、飛びたい。」

 子供かよ。

 ま、簡単で当たり障りなくていいけど。

 「今でいいか?」

 「いいよ。一緒にさ、空の散歩、してよ。」

 一緒?

 俺に一緒に空を飛べってのか?

 「断る。」

 絶対に無理だ。

 「だよねぇ。俺なんかと一緒なんてヤに決まってるよね。」

 そっちを言うのか?

 どうして、なんでも願いが叶うなんて嘘だったのかと疑わない?

 『俺なんか』とはどういう・・・

 「いいよ。取り消す。えっとね、じゃあ・・・おいしいご飯が食べたい。」

 「は?」

 「お母さんが作るっぽいご飯が食べたいな。」

 「メシなんて、その辺の店に行けば食えるだろう。」

 「そうだね。」

 「なのにわざわざ俺に願うのか。」

 「俺なんかの願い事を叶えてくれようって奇特な心遣いは嬉しいけど、もう、何も思いつかないんだ。自分が望むこと。」

 まただ。

 また、『俺なんか』。

 「ご飯がダメなら・・・そうだ、30分だけ付き合って。」

 「付き合うって?」

 「お願い。30分だけ、一緒にいてくれない?」

 断る理由は思いつかない。

 「本当に、それでいいのか?」

 「それがいい。」

 「分かった。」

 一緒に空を飛ばされるよりもずっといい。

 そう思って、この時は何も考えずに応諾してしまった。

 本当に、何も考えずに。

 

 結局こうなるわけか。

 一緒に空を飛ぶことを躊躇ったのは、単に高いところが嫌いだからだ。

 だというのに・・・・・

 今はどうだ。

 高層ビル、なんと32階建ての屋上で、一緒にビールを飲んでいる。

 井ノ原は楽しそうに柵から身を乗り出したりしているが、そんなのとんでもない。

 極力下が見えない場所を陣取って、早く30分が過ぎることを祈るばかりだ。

 「坂本さーん、飲んでるー?」

 ビールをわざわざ屋上で飲む意味はあるのか?

 小手先で答えながら、坂本は足元に転がった空き缶にため息をつく。

 到着するなり勢いよく1本を空けた。

 そのペースが一向に衰えることはなく、井ノ原は完全な酔っ払い状態。

 もうまもなく30分が経ってしまうが・・・

 まさか2つ目の願いは、家に連れて帰れなどと言い出さないだろうな。

 などと危惧してしまうほど、足元も覚束ない。

 「俺なんかのワガママ聞いてくれてさ、ありがとねー。」

 またか。

 「このビルね、俺の勤めてる会社が入ってるんだ。21階から27階まで。すごくない?結構大きな会社なんだよ。だからねー、すごい儲かってるの。経理やってるから知ってるんだ。儲かってるから、すごいの。俺の知り合いの先輩がね、横領なんかしちゃってて。すごいよね。横領だよ?今までに3千万もやってて。俺は何回やってて、いつ幾らやっててとか全部知ってるんだ。だって・・・だってすごいお世話になった先輩だからさ、断れなくて手伝っちゃったんだもん。片棒担いだんだから、知ってるよ。知ってる。」

 重いよ。

 それを聞いて、ああ、それが2つ目の願いか。

 なかったことにしてくれって、そう言いたいのか。

 「俺、なんで経理部配属なのか分かんない。っていうか、どうしてこの会社に入れたのかさえ不明だよ。俺なんか、全然スキルないのに。」

 だんだん癇に障ってきた。

 コイツの口癖みたいに使う言葉。

 「俺なんか、全然価値のない人間なんだ。でもね、5千万円なんだよ、俺の値段。生命保険の死亡保険金。受取人は会社になってる。俺が死んだら、保険会社が5千万円出してくれる。俺なんかでも、会社の役に立てること、ちゃんとあるんだよ。」

 何を言ってる?

 何が言いたい?

 「自殺しちゃったらさ、死亡保険金が下りないんだって。だから、2つ目のお願い。俺が死んだら、それは事故死ってことにして欲しいの。で、死亡保険金は無事に支払われて、横領は帳消しになるでしょ。俺なんかでも、最後にはいいことして終われるんだ。つまんない、クズみたいな人生だったけど、これで一花は咲かせたって感じかな。うん。」

 死んで終わる?

 悪いことをして、それを反省してるのはいいが、だから死んで償う?

 それが一花?

 「屋上でビールを飲んだのは、飛び降りるときに思考回路が無駄に働いて、怖気づいたりしないようにだったんだー。名案でしょ。」

 言いながら、井ノ原は何の躊躇もなく柵を乗り越える。

 でも、違うだろう?

 そうじゃない。

 「死んで保険金が払われたとして、それで、本当の解決だと思ってるのか?」

 「だって、俺なんかにできることって、それしかないもん。」

 本気で腹立つ。

 それに、この男は・・・

 「お前なら、やり直せるよ。や、やり直しっていうか、ああ、軌道修正。そう、まだ軌道修正できるさ。でも、それには生きてなきゃダメだ。生きて償えよ。死んで解決したって、そんなの逃げたのと同じだろ。横領を手伝っちまったことに罪悪感をそこまで感じられるくらいなんだから、大丈夫だ。まだ道はある。」

 「ないよ。俺なんかが生きてたって、この先できることなんてない。」

 「あるんだよ!ってかさ、さっきから『俺なんか』って、その言い草やめろよ!自分まで自分を否定するような言い方、すんじゃねぇ。」

 高いところなんて大嫌いだ。

 できれば極力近付かないでおきたい。

 けど、しょうがないだろう。

 このまま遠巻きに見てたら、井ノ原は飛び降りるに決まってんだから。

 誰かがあの頼りなさげにビールを持ってる手を、捕まえないと。

 「坂本くんは、いい人だねぇ。きっと、坂本くんを望んでくれる人、たくさんいるんだろうね。」

 「井ノ原にだってそういう人、絶対にいるさ。死んだら泣いてくれる人がいるはずなんだよ。だから、危ないから、こっち来い。こっちでも話、できんだろ。な、ほら。」

 坂本は策の向こうにいる井ノ原に向かって手を伸ばす。しかし井ノ原はそれによって、少し反対方向に身を引いた。不安定に、体が揺れる。

 「俺の手、掴めって。2つ目の願い事さ、一緒に考えようぜ。なんかいいこと。な。楽しくなるようなこと。明るい気分になるようなこと。」

 「やだ。俺、生きてるの疲れたもん。これで終わりにするんだー。」

 「お前っ、井ノ原はまだ若いじゃねぇか。そんな若さで、人生を見限ってんじゃねぇよ!まだ先のほうが長いんだよ、人生は。何もないわけないんだって。そのまってる何かがいいことだったら、お前は損することになるんだぞ!」

 「いいこと、かぁ。」

 「そうだ。ものすごく大きな幸せが、お前を待ち構えてるかもしれねぇんだ。」

 届く。

 井ノ原の手を、掴める。

 この調子で、こっちに引き戻して・・・

 「そんなのが待ってたら、いいなぁ。」

 ほら、手が届い・・・・

 「坂本くん!」

 一瞬触れた坂本の手を、井ノ原は思い切り振り払う。

 そして、涙を一杯に浮かべた目で、笑った。

 「2つ目のお願い、叶えてね。」

 ああ、そっちじゃない。

 そっちには何もないんだぞ。

 何も、待ってない。

 「井ノ原っ!」

 穏やかな笑顔を見せて、その身体は大きく傾いた。

 重力に従って、瞬く間に落下する。

 坂本は何度も井ノ原の名前を呼んだけれど、返事のないそれは、酷く虚しく響いた。

 

 2つの願いを叶えるロリポップは粉々に砕けて、井ノ原の願いを叶えた。

 これは生きるための仕業だ。

 そう割り切れない情への脆さを持った坂本は、人間の魂を食べて生きている。

 井ノ原が今ここで死のうが生きようが、願を叶えた時点で死ぬことは決まっていた。

 人の魂で空腹を満たす坂本という生き物から、ロリポップを受け取った時点で。

 坂本の目の前に、小さな光がゆらりと浮かんだ。

 5千万円と値段を打たれた、魂。

 そっと触れて自分の中へ取り込んだそれは、悲しいほど暖かかった。

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