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V6井ノ原快彦氏主演の妄想非恋愛小説を取り扱っております。
No.
2024/12/29 (Sun) 05:33:36

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No.169
2008/03/08 (Sat) 17:47:34

Live Show 第34話です。

トニのシングル、どれを買えばいいんだろう?


出演 : 井ノ原 快彦 ・ 坂本 昌行 ・ 長野 博
      三宅 健 ・ 岡田 准一







 音のない車内。始めはムスッとした表情で睨むように窓の外を見ていたが、次第にそれが薄れ、運転席でハンドルを握る人へと視線は移る。井ノ原がタクシーで帰るのを見送った後、長野はマネージャーの車で帰ることになり、走り去る車を坂本が見送った。もとい、坂本が岡田と一緒に見送った。岡田は平然と外へ向かって歩き出し、慌てて坂本が呼び止める。

「おい、お前どうやって帰るんだ?」

すると岡田は、さも当たり前であるかのように答えた。

「え、歩いて帰るけど。」

盛大に響いたため息の主は言うまでもない、坂本である。

「お前はバカか。送ってやるから、乗れ。」

バカ。という言葉がなんとなく引っかかった。ただ、こんな時間ならば人通りもないのだから、家までのんびり歩いて帰るのも悪くないと思っただけだ。それを盛大なため息とバカのひとことで一蹴されて、納得がいかない。しかし言い返すほどの元気もなく、歩いて帰るという主張を重ねればまた「バカ」で片付けられそうで、黙ってやり過ごすことを決め、今に至る。心配してくれるのはありがたいことだし、そもそも冷静に考えてみれば、歩いて家まで帰るという考えは向こう見ずが過ぎたかもしれない。助手席で窓の外を流れる景色を追いかけながら、岡田は思考を落ち着かせて、拗ねたのは大人気なかったか。態度が悪かったことを謝っておくべきかな。と思いながら坂本を伺い見た。目が赤い。時計を見れば、普段ならば坂本が絶対に起きているはずのない時間。眠気を必死でごまかしているらしい。そこまでして自宅まで送ってくれようという坂本に気を使うなら、何か話題を提供して眠気を紛らわせるのがいいだろう。岡田は気の利いた話題がないものかと考えを巡らせ始めたが、すぐに思考が逸れる。そういえば、このえもいわれぬ沈黙は、今日の打ち合わせの延長戦のようだ。あの何ともいえない複雑な空気の名残。その空気の発信源だった三宅は、ここのところずっと儚い生き物と化している。

「インフェリオリティ・コンプレックス。」

「イン・・・何?」

「インフェリオリティ・コンプレックス、交互的劣等感。自分の中に存在する劣等感を払拭することができなくなったとき、その劣等感から逃れるために、自分の存在を正当化しようという自己偽装が発生する。けれど実際に劣等感が消えるわけではなく、根底に根付くそれに脅かされ続けているため精神的には追い詰められていくこと。」

坂本は渋い表情をして、横目で岡田を見ていた。持って回った小難しい言い方に、クレームをつけているらしい。岡田は思い切り噛み砕き、端折りすぎるくらいストレートに言い換える。

「健くんには、誰が手を差し出すんかなぁ。」

「井ノ原を拒んだ。ってことは剛、じゃねぇのか?」

「・・・マンションの傍の、コンビニの前で降ろしてもらってもええ?」

「いいけど、健の話はどこいったんだ。」

「新商品のチョコ、買いたいねん。」

「無理問答かよ。」

「雑誌に載っとってん。ラビッシュっていうチョコ。」

「ふぅん。」

線は最初から引かれていた。ただ見えていなかっただけ、いや、見る余裕がなかっただけで。線を引いたのはたくさんの人間。誰もが揃いも揃って同じ場所に線を引いたものだから、今でも色濃く、強く残るそれ。踏み越えることができれば、変わるのだろう。どういう風に?好転するのか、最悪の事態を招くのか。後者であった場合を危惧して、誰も踏み越えようとはしない。線は難攻不落の城壁のように高く、自分たちを見下ろす。

「嘘なんて、ついてへん。」

「岡田?」

「俺は嘘なんて、ついてるつもりない。」

自分の中に閉じ込めることをしない、そのまっすぐな感情をスルーしない。

「ああ、対極やね。」

井ノ原と三宅は対極だ。線の向こう側とこちら側に存在する、対極の強い感情。V6は楽園か、それとも枷か。

「ごめんな。」

言った坂本の表情は、とても悔しそうなもので、岡田は少し驚いた。謝れば済むと思って。なんて批判的な気持ちを込めて跳ねつけてやろうと思っていた言葉が、やっとで紡がれたものだと痛いほどに分かったからだ。

「坂本くんは、ときどき可愛い。」

「はぁっ?」

ここまでの車中で交わされた会話は、深い意味を孕んでいる。錯綜する多くの感情が、あからさまなほどに主張していた。車を降りるまであと少し。決して超えることのできないだろう線が、ほんの少しだけ薄くなったような気がする。一番年上の坂本と一番年下の岡田は、それ以降の会話をやめてしまった。全部分かっておくなんて、土台無理な話。完全に交わることはない6人の存在が、ゆっくりと意義を主張し合う。

 迷わない毎日のほうが、つまらないのかもしれない。

 

 朝食と表現するべきではないはずだ。

 こってり。という形容がぴったりの料理の数々を目の前にして、硬直する2人の男。続々と運ばれてくるそれらにご満悦な1人の男。早朝七時前、千葉県の海沿いまで遠征させられた理由は、これだったらしい。・・・・・というか、騙された。

 自宅にたどり着いて一時間もしないうちに、マネージャーからメールが届いた。明日、正確には今日のロケの集合場所と時間が変更になったという。メールを受け取った2人は、こんな時間に変更の連絡?すでに寝た後だったらどうするつもりだったのだろう?という疑問を若干抱いたが、スケジュールの変更など珍しいことではない。ゆっくり寝る暇がない。なんて不満がありながらも、時間と場所を頭の中にインプットした。ただ、最後の追伸部分は気になる。井ノ原には『三宅さんの迎えをお願いします。』、三宅には『井ノ原さんが自宅まで迎えに行ってくれます。』という追伸。お互いが「極力会いたくない。」と思ったのは言うまでもない。

 気まずいを実写化したような雰囲気の車を走らせて、2人は海の見える小さな町へ来た。集合場所と教えられたそこにマネージャーの姿はなく、待っていたのは今日は一緒の予定のない長野だけ。早朝からさわやかな笑顔を振りまき、

「じゃあ行こっか。」

おはよう。の挨拶などすっ飛ばし、長野は先頭に立って歩き出した。この爽やかな笑顔の裏にはどんな意味があるのかと推測しようとしたが、急に立ち止まった長野に遮られる。すぐ後ろを歩いていた井ノ原が背中に衝突すると、少し前へ踏み出し、振り返った長野は相変わらずの笑顔で言った。

「おはよう。井ノ原、健。」

「おはよう、長野くん。」

「おはよ。」

2つの返事が返されたのを確認して、長野は一層笑みを深くし、再び歩き出した。どこまでも自分のペースを乱さない長野が次に立ち止まったのは、小さな中華料理店の前だった。

 そして現在に至る。井ノ原がMCを勤める番組のロケだと認識していた2人にしてみれば、スタッフもゲストもマネージャーさえいないこの状況に大きな疑問が生まれるのは当然。店に入ろうとした長野を捕まえて、

「ロケ、じゃないの?」

そう井ノ原が聞けば、長野は平然と答えた。

「ああ、それ嘘だから。」

困惑する2人には目もくれず、長野は適当に空いた席に座ると朝定食を3人分注文する。

「3人でね、朝ごはんが食べたくなったんだ。」

ここまできてしまっては、もう駄々をこねても仕方がない。井ノ原は降参、と言わんばかりに両手を上げ、長野の向かいに座る。三宅も憮然としながら、井ノ原のとなりに座った。早朝だというのに店内はにぎわっていて、元気なお母さんが大声でお客の相手をしている。長野は楽しそうに朝定食についての説明をしているが、そんなものは耳に入らない。どうしてロケだと嘘をついてまで、越県で朝食を食べに連れてきたのか。どうしてこの面子なのか。朝から中華とはどういう了見なのか。聞きたいことがぐるぐると頭の中を回り続ける。3人の心の内を知ってか知らずか、飛び込んでくるのは元気なお母さんの声と注文した定食。目の前に登場した料理のボリュームやパワーに、井ノ原も三宅も絶句した。

「井ノ原のが朝定食の①で、健のが②、俺のが⑤だよ。」

何番かなんてむしろどうでもいい。驚いているのは、この殺人的な量だ。

「チャーハンと餃子と小鉢とスープは全部同じなんだ。あ、今日の小鉢はナスとひき肉の炒め物だって。メインとデザートがそれぞれ違ってね、ご飯とスープはおかわり自由だから。」

「長野くん、おかわりとか、しないと思う。」

「だよね。この後、ロケあるもんね。」

井ノ原のツッコミに対して返された長野の答えは、明らかにこちらと意思の疎通が取れていないもの。ロケがあろうがなかろうが、朝からこれだけのものを完食するのは厳しい。2人が躊躇していると、長野はそんな空気などお構いなしに箸を差し出す。

「早く食べよう。冷めちゃうし。」

食べなければ永遠に解放してもらえないかもしれない。ちょっとした恐怖感に苛まれて、まずは井ノ原が、そして三宅が箸を受け取る。とりあえず軽めなところから切り崩していこう。そう考えた井ノ原は、スープに口をつけ、驚く。

「おいしい。」

「でしょ。」

高級料理店や食通の芸能人御用達の有名店に仕事で行かせて貰うことが多いが、そのどんな店で食べるスープよりも上品で優しい味。ふわふわの卵とネギ、わかめ、ごまというシンプルな具材なのに、もっと飲みたいと食欲をそそられる。他の料理もそうだった。見た目のヘビーさとはかけ離れた、しっかりした味付けだけれど濃すぎず、まるで家で母親の手作り中華を食べているような。

「こういう味だからね、朝からでも食べられるんだよ。あ、健、多かったら残してもいいけど、デザートは食べて。そのココナッツ汁粉、すごくおいしいから。」

箸やレンゲでチビチビと料理を口に運んでは弄って、あまり食の進んでいない三宅に、長野はガラスのお椀に入ったデザートを推薦する。ココナッツミルクに白玉、タピオカが入っている。その時点で劇的に甘そうだ。言われるがままに一口それを口に運んだ三宅は、あっさりスプーンを置くと長野をキッと睨み付けた。口に合わなかったのか?その井ノ原の考えとは違う答えが、尖った口調で三宅から吐き出される。

「卑怯じゃん。こういう姑息なことされると、ムカつく。」

「口に合わなかった?」

「とぼけんなよ。このココナッツミルク、坂本くんのと同じ味してる。」

「そうなの?」

「こんなモンで俺の気を引こうとか、考えてんのバレバレ。ウザい。」

眉間の皺が一気に深くなる三宅、みるみるうちに笑顔が弱々しく衰える長野。2人を交互に見ながら、泣き出しそうなのを必死に堪える井ノ原。朝食を食べに来ただけの3人は、その朝食が原因で極度の緊張状態に追い込まれるほど緊迫したシーンを作っている。しかし、それを打破すべく、ここで怯んでいるわけにはいかないと、長野は声を荒げた。

「だって知らなかったのにっ、やりようがないでしょ!俺にしてみれば、健はズルイって感じだよ!甘いもの嫌いな坂本くんにデザート作ってもらってっ、坂本くんがココナッツミルクとか作ったなら俺だって食べたかったのに!なのに、健はズルイよ。そんなにイイこと一人でやっておいて逆ギレとか、ズルイ。」

まるで小さな子供の痴話喧嘩。冷蔵庫に一つしかなかったプリンを取り合っているような、そんな可愛らしささえ垣間見える。

「健がいらないならっ、俺が食べるもん!」

言うなり長野はガラスの器を強奪し、一気に掻き込んだ。三宅は不意を突かれた表情でそれを見ていて、井ノ原は気付く。いっぱいいっぱいなのは、長野も同じだったのだと。荒っぽく置かれたカラの器が、寂しく見える。

「坂本くんのバカ。意味分かんない。」

八つ当たりのような捨て台詞を吐いて、長野はお金をテーブルの上に叩きつけるように残すと、さっさと店を出て行った。長野がお気に入りの店で食事の途中に中座するなど、有り得ない。余程やりきれない気持ちだったのだと確認した井ノ原は、慌てて長野の後を追いかけた。

たった一人店内に残された三宅は、しばし中に視線を彷徨わせて逡巡したが、もそもそと目の前に置かれた定食を食べ始める。おいしい中華だ。きっと普段なら、千葉県まで遠出した甲斐があった。と十二分に満足できるだろう。長野は食べることに関してはV6の中でエキスパートの域で、おいしい店を教えてほしいと頼めば、自分が持つ膨大なリストの中から何件もピックアップしてくれる。けれど坂本が言っていた。本当のとっておきは教えないらしいと。何か特別なことがあるときに、一緒に連れて行ってくれればいいほうだと。飾り気のない、看板さえ出ていない店。自分の両親ほどの年齢の夫婦が2人だけで回していて、どこかアットホーム。どうやら常連らしい客であふれている店内。長野は自分の足でこの店を見つけたに違いない。そんな店に嘘をついてまで呼び出してくれた理由を、三宅は考えていた。先ほど、三宅がデザートを批判したときの長野の反応は、あれはとぼけている様子だっただろうか。人のデザートを目の前で宣言しながら強奪するような、大人気ない真似を長野はするタイプではない。頭の中がひどく混乱している。意図がつかめなかった。

「あの子がこんなに残すなんて、初めてだねぇ。」

心配するような、どこか悲しそうな声は、食べる人間のいなくなってしまった定食を下げに来た店員から発せられたもの。あの子。なんて呼ばれるほど、長野は足繁くこの店に通っていたようだ。そんなこと、知らなかった。

「あのっ、その料理、持って帰るとか、ダメですか?」

言っておきながら、自分が一番意外だった。そんな言葉を投げかけてしまった理由は分からない。ただ、今日は自分が悪かったような気がして、ちゃんと長野に食べさせてあげたいと、思ってしまったのは事実。三宅が上目遣いにじっと返事を待っていると、にっこりと満面の笑顔で、大きくて暖かいてのひらで頭をくしゃりと撫でられた。

「詰めてあげるから、待ってて。」

お母さんみたいで、癒される。なんて感想を思って、三宅はハッとした。が、そうだとして、それならばどうして長野は、トニセンは・・・・・頭の中は絡まりあった糸のようにグシャグシャになるばかり。

(何なんだろう、V6って・・・)

すべてを外側から傍観していようと決めたのに、考えたのはそんなこと。まだ、心の奥のどこかで捨て切れていないのかもしれない。

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