SPの最終回は堤真一氏が持っていきましたね。
大儀という言葉の響きに、うっとり。
出演 : 井ノ原 快彦 ・ 坂本 昌行 ・ 岡田 准一
長野 博 ・ 三宅 健
未だ埋もれたままの理由は、誰かに掘り起こされるのを待っている。
思えば、自分で自分のことを好きだと思うようになれたのは、長い人生という物差しで計れば、ごく最近のことなのかもしれない。
わざわざ遠方まで呼び出してくれた友達は、DVDを2枚くれた。誕生日は全然先だし、物をもらう謂れがないと言えば、これ見て元気を出せ。と押し付けられてしまった。何を基準に元気がないと感じたのか?そう聞くと、メールに覇気がないのだそうだ。元気いっぱい、自分中心のマイペースモードでいるのが、似合っている。そんな三宅がいいと思ってる。なんて、褒めているのかけなしているのかよく分からない言葉を添えられて、けれど一応は笑っておく。少なくともその友人は、嘘はついていないと思えたから。V6という形式を守ることに必死になって、上っ面ばかり繕う人間たちとは、違う。
DVDの一枚は『マイ・ドッグ・スキップ』。動物モノの癒し系。もう一枚は『死霊のはらわた』・・・・・相変わらず変わった感性をしているな。と苦笑。一枚で思い切り感動して癒されて、一枚で大いに笑って明るい気分になれ。と言われた。つまり、消去法でいけば明らかにホラー映画なDVDを見て笑えと言われたことになる。笑えるホラー映画って一体。なんて、今、笑っている自分がいるのだけど。三宅健を見てくれる人に会って、癒された。どこか遠くに行って、現実から離れてしまえばいいのか、こうしてときどき友達に会って笑うことで帳消しにすればいいのか。身の程を知る、いい機会になった。冷静に周囲を見るいい機会になった。本当と嘘を見分けないと、危うく何もかもダメになるところ。ある意味、こうなってくれたことに感謝すべきと考えられるだろう。
仲間だといって受け入れられたときは、本当に嬉しかったのに。
まだ大人と呼ぶには中途半端な年のころに、V6の三宅健が始まった。戸惑うことのほうが多くて、反発することで自分を納得させることしかできなくて。そんな自分に、毎日すごく苛立って大嫌いだと罵声を浴びせていた。なのに、言ったのだ。あの人は笑顔でサラッと、
「とりあえず、笑ったほうが良くない?可愛いのにもったいないじゃん。」
なんて。何を言い出すのかと思えば、こう続けた。
「大丈夫だって。急に順応するとか無理だって、そんなの俺たちはちゃんと分かってるから。なんとなーくさ、なんとなーく、ね、徐々に慣れていけばいいじゃん。俺さ、応援するよ、健ちゃんのこと。」
何の垣根もなく心の中に乗り込んできた人は、いつだって笑顔。年下の3人のメンバーを一生懸命に気にかけて、こうも言ってくれたのだ。
「純粋で可愛くて明るくて優しくて、健ちゃんは長所が満載だねぇ。坂本くんと長野くんも、早くこの魅力に気付けばいいのに。そしたら、一気にハマるのに。」
「井ノ原くん、なんで俺のこと煽てるの?」
「煽てる?違うよ。俺は本当のことしか言わないもん。せっかく同じグループになったんだからさ、みんなで仲良く楽しくやりたいじゃん?だから、みんなのいいトコ探してるだけ。」
「本当にさ、本当にさっき言った風に、思ってんの?」
「俺は泥棒じゃないから、嘘はつきませーん。」
軽い口調だったけれど、一度も目をそらさずに話してくれた。だから信じようという気になれたのだと思う。おかげで、未来は明るく変わった。いつか井ノ原に何かがあったら自分が支えてあげたいと、守ってあげたいと、そう、決めて・・・・・
ちぐはぐな心が、行く先を見失って錆びたドアのように、軋む。
自転車も飲酒運転の罰則対象になる。乗らずに押して歩いている場合は除く。だから?自転車を押して徒歩で家へ帰れと?走ってくることができたのだから、できなくはない。けれど、今は無理だと思った。岡田は床に転がったワインの空き瓶を数えて、自己嫌悪に陥る。オフだからといって、昼間からなんてことをしたのだろう。あまり食べずにいいだけ飲んだくれた坂本は、キッチンの床で撃沈してしまい、岡田が悪戦苦闘の末に、何とかソファまで運んだ。その岡田も付き合って飲み続けていたおかげで、すっかり酔っ払い状態。長距離を家まで歩いて帰るだけの力が残されているとは、到底考えられない。仕方なく、ソファにもたれてぼんやりと時間を浪費している。せめて後片付けだけでもしておこうかと思ったが、若干くらくらする頭が、それを拒んだ。窓の外を見れば、すでに日は傾き始めている。明日は午前中に雑誌の取材があるのに。坂本の仕事のスケジュールはどうなっているのだろう?などと考えてはみたが、とりあえず酔いを覚ましてから考えようという結論に至った。
外がすっかり暗くなってしまった頃、岡田はテレビの画面に没頭していた。ここで寝てしまって、気付いたら翌日の昼でした。なんてオチになっては堪らないと、テレビをつけた。しばらくザッピングを繰り返していたが、衛星放送で映画をやっていたので、何となくそこでチャンネルを止めた。すると意外と面白い内容の映画に見入ってしまい、時間など忘れて完全に集中してしまったのだ。内容は、詐欺師と娼婦の奇妙な友情物語。アメリカらしい、マフィアとのカーチェイスなんてのもありながら、最初は犬猿の中とも言えるほどそりの合わなかった2人が、男女の友情を深めていくというもの。娼婦役の女優が芝居とは思えないほどのナチュラルさでいて、ケバケバしたメイクには似つかわしくないキュートなキャラで惹かれる。詐欺師に金を騙し取られ、娼婦に金だけを持ち逃げされたマフィアのボスが総力戦で2人を追いかけてくるのだが、2人は知恵を出し合って見事に逃げ果せることに成功。遠く離れた町の酒場で祝杯を挙げる。しかし詐欺師の男は酔っ払った勢いで、娼婦を人間以下の生き物だと酷評。それまで、確実に苦楽を共にすることで友情を少しずつ育んできたはずの相手の思わぬ言い様に、確実に娼婦は傷ついた。病むに病まれない事情で娼婦に身を落としたという過去を持つ女は、飲んでいたビールを男の顔にぶちまけ、涙を目にいっぱいに溜めて叫んだ。
「嘘つき!嘘つきは娼婦よりも最低な人種だわ!」
嘘つきは娼婦よりも最低な人種。そのセリフは岡田の心に容赦なく圧し掛かった。蘇るのは、三宅に面と向かって言われた「嘘つき。」の言葉。三宅も泣き出しそうな表情をしていた。岡田は嘘などついていないけれど、きっと三宅にそれを言わせてしまうほどに傷つけたのだろう。この詐欺師と自分は、同じに感じる。あまりに、愚かだ。それまでに作り上げてきたかけがえのないものを、壊すようなことをしてしまったのだから。
半ば乗り出すような格好でテレビに見入っていた岡田に、カップが差し出された。温かいコーヒーが湯気を立ち上らせているそれは、視線を移動させればいつのまにか起きた坂本が入れてくれたものだと分かる。カップを受け取ると、続いてタオルが顔の上に降ってきた。
「拭けよ。」
タオルをどかせて顔に触れてみて、気付いた。泣いている。しかもかなり。泣いている意識なんて、まったくなかったのに。
「ありがと。」
照れくさくて俯いたままそう言えば、坂本は岡田の隣に腰を降ろした。
「悲しい映画なのか?」
「違うよ。俺が悪いんや。」
そう答えると、短いため息のあと、坂本は少し無造作に頭を撫でてくれた。その大きな掌に、心が軽くなるのが分かる。大切に想ってもらっている自分に、くすぐったい気持ちになった。そしてこの気持ちを、三宅にも抱いて欲しいと。
もしもその目が都合の悪いものは映さないようにできているのならば、それは誰のせい?
井ノ原は人前では笑顔を崩さない。人が大好きだから、自然と笑顔になってしまうのだとは本人の言い分。けれど幸せそうなので、誰も深くは追求しない。長野も人前では笑顔を崩さない。ただ、周囲の人間から見ればそれはどこか嘘臭かったり、何か腹にどす黒い一物を抱え込んでいるように見えるらしい。けれど剥がせば恐ろしいものにお目にかかってしまいそうなので、誰も深くは追求しない。三宅も人前では笑顔でいることが多い。何も考えずにいれば、ただ単に可愛らしい無邪気な笑顔。魔性だと例える人もいる。けれど頑張って笑顔でいる感じがしなくもないので、誰も深くは追求しない。V6の笑顔担当3人組、ここ最近は、その笑顔が目に見えて激減していた。
随分と迫力のあるグループになった。殺気を纏っているのではないかとさえ感じるほどピリピリと警戒心も露わに、何かを隠すように緊張している。周囲を注意深く観察し、スタッフや共演者がいることを確認すれば笑顔を作って。その日のロケに参加していた3人のメンバーは、そんな自分たちには何も感じずにいる。滞りなくロケが終わればそれでいい。一緒にいても当たり障りなく、やり過ごすだけ。そうすることに、意識を集中させていた。
「きっと、疲れてるんだね。大変だね。」
共演者の誰かが、そんなことを言っていた。それを聞いた三宅は、心の中で答える。
(そうだよ。もう疲れたんだ。)
井ノ原は心の中で自分に言い聞かせる。
(もっとうまくやらないと。疲れてるとか大変だとか、悟らせちゃいけない。)
微塵も余裕のない様子の2人を見ていた長野は心を痛める。
(俺が2人の分も頑張る。それが俺の役目だから。)
そして、長野にはもう一つやらなければいけない、大切なことがあった。あのロケのことを三宅に聞くこと。ロケのテープはテレビ局で簡単に借りることができた。けれどもちろん、それにはカットがかかるまでの様子しか映っていなくて、カメラが回っていないところで、井ノ原がどんな様子だったか、何か変わったことはなかったかは、一緒にいた人間に聞くしかない。必死でロケをこなしながら、長野はときどきすべての思考を三宅に話を聞くという難関に奪われそうになりながらも、自分に命令した。とにかく今は、笑っておけと。
まるでアカの他人であるかのように、交わらない。極度の緊張に吐き気さえ感じながら、長野はロケが終わるなり速攻で踵を返した三宅を、強張る声で呼び止めた。
「健、ちょっとだけ、いいかな?」
振り返ったときに見せた表情は能面のように無機質で、思わず息を呑む。
「何?」
深く呼吸をした。
「聞きたいことが、あるんだ。ほんの、少しだけ。」
声が、上ずる。
「だから何?」
目を逸らしてはいけない。
「少し、前のことなんだけどね。井ノ原とさ、行ったロケのこと。」
「その話、長いの?俺、早く帰りたいんだけど。」
井ノ原の名前に眉を顰めて、三宅はふいと顔を背けた。分かっていた。こうされることなんて。だからって、怯んでなんかやらない。
「大事なことなんだよ。」
「・・・それは、誰にとって?」
「井ノ原にとって、健にとって、V6にとって、みんなにとって、大事なことだ。」
「本当かなぁ。その中に俺も入ってるって、本当なの?」
「うん。だって健も、大切なV6のメンバーの一人だから。」
だからどうか・・・・・
「百歩譲ってそうだとして、聞きたいことは何?」
「憶えてるかな。井ノ原と一緒に、ロケで統廃合になった田舎の中学校に行ったこと。」
少し、考えてくれている。その様子を見て少し安堵。まだ、全部ダメになったわけでもない。
「なんか、隣町の小学校まで行ってる子たちに会いに行ったこと?なくなった中学の校長先生の家でみんなで遊んだりとか・・・」
「その時のことって、憶えてる?井ノ原、その校長先生と親しくなったりした?」
「なってたよ。あのあと、会ったり手紙やり取りしたり、してたし。」
「やっぱり。」
「おじいさんの孫が死んじゃってからは、なんか井ノ原くんのこと、孫代わりみたいに思ってたみたい。」
繋がった。
「思い出してくれてありがとう。時間取らせて、ごめんね。」
「別に、いいよ。でもさ、おじいさんに聞いたほうが早かったんじゃない?当事者だし。」
「そうだね。でも、もうその人は、亡くなってるから。」
「え?」
「家の裏にお墓があった。」
「・・・何、それ?そんなの聞いてない。井ノ原くん、そんなの一言も言ってくれなかった。やっぱそうなんだよ。アンタらは、大事なところで俺たちをはじき出して・・・・・。」
「違うよ。きっと言い出しにくかっただけなんだ。健をはじき出そうなんて思ってない。」
「嘘つくなよ!大切なメンバーだとか都合のいいことばっかりっ、そんなの一ミリも思ってないくせに、体裁が守りたいからきれいごとで覆い隠してるだけのクセに!」
「健っ!」
見えているのは、遠ざかっていく背中。聞こえているのは、何もかもが粉々に壊れる音。一歩も動けなくて、手に入れた真実のかけらの代償を、痛感することしかできない。今までずっと、間に井ノ原がいることで油断していた結果が、こういうこと。自業自得。普通なら慌てて三宅の後を追いかけているはずなのに、追いかけようとしていないのは、これが自分の本性だということなのかもしれない。強ち三宅の指摘は外れてはいなくて、自分は体面ばかり気にしている嘘つきな人間。強く心に決めた。井ノ原を救うと。その目的のためになら、形振りかまおうとせず、無意識のうちに他のメンバーを傷つけてもスルー。狭すぎるキャパシティに、酷く嫌悪感。こんなときでも、井ノ原ならばみんなの幸せを、平等に願えるほどの広い心でいられるのだろうな。だからこそ必要なのだ。V6には、井ノ原という存在が。それをよく知っているから、こうして救うことにだけ目を向けている。今だけ、今だけは狭い視野で全力疾走をしよう。このバランスだけは、誰にも侵させるわけにはいかない不文律だから。
始まるときに決めたのは、やるからには守り通してみせるということ。
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