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V6井ノ原快彦氏主演の妄想非恋愛小説を取り扱っております。
No.
2024/04/28 (Sun) 08:37:22

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No.128
2007/12/17 (Mon) 22:21:36

更新強化月間17日目です。

今日はプロローグ。


Fallin

 

蛍光ピンクの錠剤が散らばって、それを無様にかき集めたり口に押し込んだりしている男を見下ろす。胸糞悪いこの上ない存在だが、どうしてもこの男のあるパーツが欲しかった。今すぐにでも殺してやりたい。という感情を必死に抑えて、井ノ原は地べたを這い回る男の髪を鷲みにして引っ張り上げる。恐怖と禁断症状で涙を浮かべている惨めな表情は、見ているだけで吐き気がする。早く終わらせよう。これが手に入れば、また一歩前進できるかもしれないから。井ノ原はナイフを取り出し、ゆっくり丁寧に男の喉元に宛がった。声になり損ねた悲鳴を漏らしているが、そんなものは無視。何の迷いもなく、欲しかったものを切り取る。切り取ったパーツがパーツだけに、中途半端な声を上げて、男は失神してしまった。いや、二度と目覚めないだろうから、失神という表現は間違っている。冷却ケースに切り取ったパーツを収めると、放り出した残骸に印を刻んで、足早にその場を離れた。何も感じはしない。もう、とっくに慣れてしまったから。

「あの人の声が、これで戻るといいんだけど。」

 翌日の朝刊やニュースをトップ項目で賑わしたのは、声帯を切り取られた、世界的に有名なジャズシンガーの死体がガラの悪い裏通りで見つかったという話題。男の周りに残された大量のエクスタシーから、薬物依存の事実が浮かび上がったが、それよりも世間の興味は殺した人間に注がれた。殺したのは、ハンター。もうハンターといえば時の人。誰もその姿を見たことはないけれど、インターネットなどの噂から広まったハンターの存在は日常に刺激を求める人々の興味を、大いに惹き付けるものだった。狩られる人間はピンキリ。まあ、一昔前で言うところの殺し屋のようなハンターもいれば、個人的な事情を抱えたハンターもいるのだから当然。つまり、いつ誰が狩られてもおかしくないという怖い状況なのである。いずれにせよハンターはそれを統括する組織に属していることが原則で、その額はターゲットによって異なりはするものの、収入も得ている。普通のサラリーマンに比べれば驚くような金額が、低い収入のときでさえ得られるらしく、なりたいと目を輝かせる者が多いようだが、どうすればなることができるのか?という点に関しては一切不明。ハンターとの接触もどうやら不可能で、余計に人々の興味と想像を煽っている。そして、そんな危険極まりない存在を放置しておくほど警察もバカではない。ハンター絡みの事件専門の捜査員がいる。あまり公にはされていないが、ハンターを狩るもの、キーパーとして、日本全国で鋭意活動中。すでにハンターを数名挙げていた。ただし、死体で。確保しようとすれば必ず邪魔が入り、先にそのハンターを殺してしまう姿の見えない存在。それでも重要な証拠になりうると身元を洗うが、捜査のヒントになるようなものは出てきたためしがなかった。ハンターの組織は徹底した裏稼業らしい。しれっと日常に潜んでいて、どこかで狩りをしている人間が、一体何人いたものだろうか。とかく、ハンターは絶賛話題沸騰中なのである。

 死体と対峙している警察の集団の中に、何もせずに黙って見ている男がいた。誰も彼に仕事をしろとは言わない。彼は、そういう種類のキーパーだから。死体を見ればハンターの仕業だとすぐに理解できる。ハンターが必ず残す印。それは個々に違うものだが、今回残されていた印は、何度も見飽きるくらいに見ているもの。キーパーの間でも有名で、必ず狩った人間の体の一部を、まだ生きているうちに切り取り、持ち去る。そういうものを収集するのが趣味なのか、あるいは別の目的か。男が不機嫌そうに死体を見下ろしていると、ぶつぶつと文句を言いながら、もう一人の同業者がやって来た。

「やっぱ、目撃者はいなさそうやって。」

「そうだろうな。」

ハンターは、狩りの現場を誰かに見られるというようなヘマはしない。そんなことは分かりきっているのに文句を言っているのか。

「ヤクの売人、当たっても無駄やろうしなぁ。」

「ああ。」

「この近辺はマークしてたのに、別の現場に行ってる昨日に限って出るんやから参るよ。」

「お前はどう思う?」

「どうもこうも、ハンターの仕業やん。」

「じゃなくて・・・」

「殺したハンターの動機こと?やったらもうさ、直接本人に会って確かめてみんと、分からへんのと違うん?」

「・・・・・。」

森田はこのマイペース過ぎる同僚を呆れ顔で見た。短絡的な思考回路は、キーパー向きではないのに。といつも思う。警察で独自に作っているハンターリストの中で、上位にランクされたハンターばかりに当たりをつけている。今回の変わり者なハンターは、リストの3位にランクされていて、ターゲットはランダム。何か独自の共通点を設けているのかもしれないが、それに関しては現段階でまだ、見出せていない。

「やっぱ現行犯逮捕やんなぁ。一人引っ張れば一網打尽に出来るかもやし。」

「岡田、本当にそう思うのか?」

「だってさ、人間は所詮、自分がかわいいもんやで。情状酌量ちらつかせたったら、食いついてくるよ、きっと。」

どう考えても、キーパーには不向きだ。

「綺麗な切り口だった。大事なものを慎重に、切り取ったって感じだったな。」

「コレクションにでもするんちゃうの?それより剛くん、ハンターの情報が入るかもしれへんって店、この辺にはなかったで。」

ハンターの情報が入るかもなんて場所が、そう簡単に見つかるわけがない。岡田がどこからか聞きつけてきた曖昧な情報に、森田は始めから微塵の期待も抱いてはいなかった。まだ岡田は自分の意見を羅列し続けていたが、森田はかまわずその場を後にした。偶然ハンターと出くわすというとてつもないラッキーでもない限り、捜査の進展に繋がるような事などないと踏んでいる。足で稼ごうとする岡田は根本的に路線を間違えている。気長に待つ、これが王道だ。

 『深夜喫茶 海月』の看板を出す店に入る。朝の7時から夕方の4時までは準備中の札がかかっているが、森田は別で、当たり前に入って、カウンターに座り、するといい香りを漂わせるコーヒーが出てくる。

「現場検証は?終わった?」

「まだだ。何も出やしないのに、ご苦労なこった。」

「いいかげんにしてくれないと、邪魔でしょうがないって。」

「俺に言うな。」

「まったく、狩るなら他所でやってくれればいいのに・・あっ、ごめん。」

「例の切り取り野郎が出た。」

「そう。この辺に出るのは初めてだね。」

「あいつら身勝手なんだよ。」

「ふぅん。」

世間の話題の中心であるハンターの話題に、興味薄なのは店長の三宅。淡々と森田のおかわりのためのコーヒーを立てながら、もう話は終わってしまった。根掘り葉掘り聞かれるのも鬱陶しいもので、だから森田はこの店は楽だと思っている。昼間でも人気はあまりなく薄暗い裏通りにある小さな喫茶店で、治安の決していいとは言えない立地なのに、三宅は一人でやっていた。絶対に何かトラブルでも起こすに決まっていると、誰もがこんな場所に喫茶店、ましてや深夜喫茶なんかをオープンさせた三宅を馬鹿にしたが、それはとんでもない思い違い。三宅はとんでもなく度胸の座った男で、偶然店の裏口のすぐそばで狩りをしようとしていたハンターを、邪魔だと言って腕に覚えがあるのか素手で追い返そうとし、駆けつけた森田らの目の前でそのハンターは何者かに殺されたが、塩を撒いて平然と店に引っ込んだ事がある。以来森田はこの一風変わった三宅と親しくなり、いつのまにやら準備中の店でくつろぐようになっていた。

「何か食べる?」

「いや。」

「ちょっとお願いがあるんだけど、いい?」

「何?」

「今から出かけなきゃなんだ。だから、8時半になったら2階で寝てる長野くんを起こして欲しいの。」

「行けるのか?仕事。」

「分かんないけど、もし行くならさ、起こさないと怒るから。まったく、襲われたこともないくせに、怖がりすぎなんだよ、長野くんは。」

「普通なら怖がるよ。」

「長野くんの場合はひどすぎなの。冷蔵庫に入ってるもの、適当に食べていいからね。出かけるとか寝るとかするときは、戸締り忘れないで。あと・・・」

「電話は出なくていいから。だろ?」

「うん。じゃあ、後よろしく。」

「ああ。」

せかせかと店を出て行く背中に、お前はもう少し怖がれよ!と心の中で突っ込みを入れながら、見送る。三宅は時々こうやって朝早く出かけ、居合わせれば大体は、森田が留守番を頼まれている。そして8時に起こす長野くんというのは、この店の2階に居候している男。怖がりで、きっと自分もハンターにいつか襲われるに違いない。という過剰な被害妄想を四六時中抱えている割には、この裏通りで『Ash』というホスト御用達のショップの店長なんてやっていた。自分一人でやっている店だから、開けようが休もうが自由。近辺でハンターが出た日や、事件が起こった日には店は開けないことがほとんど。一日中自分の部屋に閉じこもっていた。それはこの辺りのホストの間でも有名で、どうしても店を開けて欲しいホストは、わざわざ迎えに来て、一緒に店まで行き、用が済んだらまた送ってきてくれる。まるで幼稚園児並みの手の掛かりよう。それでも誰も見捨てないのは、あの真面目な人柄のおかげなのかもしれない。

「健、俺今日は店休む。」

超寝起き状態でご本人登場。やはり休むようだ。

「健なら出かけたけど?」

声を聞くなり、怖がりな男は秀逸のビックリリアクション。完全に三宅がいるものと踏んで起きてきたのに、違う男の声が出迎えたのだから。慌てに慌ててすっ転び、焦りまくって何か武器になるものを掴もうとしたのだろうか、タンブラーを両手に持って身構えた。

「随分乱暴な朝の挨拶だね、長野くん。」

めくっていた新聞をカウンターに置き、森田はため息混じりに顔を上げる。声の主がよく知る男だと分かって、長野は呆然。握り締めていたタンブラーをおずおずと置き、気まずそうに小声で「おはよう。」とつぶやいた。ショップの店長とは思えないような、だらけた格好。三宅のいない朝の店にいるのは決まって森田なのに、この男はいつだって同じ反応。大きく息をついて、改めて森田に向かい会う。

「あの、ハンターかと思って・・・。」

「いいから顔洗って来れば。」

「店なら行かないから。」

「そうだとしても、お呼びがかかったときにその顔だったらマズいだろ。」

元はといえば、長野はきれいだと呼ばれる種類に属する顔立ち。やわらかい笑顔は、ショップの店長よりもホスト向きと言える。が、寝起きの長野からはその片鱗さえうかがえない。寝癖満載の頭を掻き毟りながら、洗面所へ直行した。呆れたようなため息をついて、森田は新聞に視線を戻す。こんなにも平和な時間は、いつまで続くのだろう。
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