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V6井ノ原快彦氏主演の妄想非恋愛小説を取り扱っております。
No.
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No.210
2008/05/18 (Sun) 21:53:04

イノ誕生日翌日記念短編です。

なんなんだ!
えーと、思いついたので書き上げてみました。
祝う気は有るのに暗いお話ですが・・・


少クラプレミアムは健ちゃん。

彼はどうやら繊細です。
そして警戒心が強いようです。
というのは、勝手なごとうの見解ですが(苦笑)。
太一も言ってましたが、大人になりましたね、ホント。
でも残るあどけなさが、またよいです。


出演 : 井ノ原 快彦 ・ 三宅 健(ほんの少し)










5月18日の福音

 

 

 「誕生日おめでとう、俺・・・・・・・そして、さよなら、俺。」

 

 

 毎日が単調で退屈で、生きていることに意味なんてないと思っている。未来が欲しいとは考えないし、かつて自分が抱いていた夢をもう一度追いかけようなんて気は、微塵も起こらなかった。惰性で送る毎日に、うんざりしていたのだ。朝起きて、通勤ラッシュの電車に駆け込んで会社へ向かう。8時半から18時までの仕事をこなす。残業はほんのときどき、あるだろうか。そして帰宅ラッシュの電車に疲れきった身体を乗せて、帰宅。変わり映えしない日々。いつ世界が終わっても、何も感じないのだろう。会社が嫌いなのか?と聞かれればそうでもない。好きではないけれど、そう、どうでもいい。ただ生活をしていくためにお金が必要だという理由で、毎日足を運んでいるだけ。だからといって生きていたいわけではない。クローゼットの中で埃を被って触れられることのなくなった夢の残骸たちには申し訳ないが、とうてい何かを望む気にはなれなかった。それだけの気力が残ってはいなかった。上辺だけの付き合いを円滑に進めるために、毎日どれだけ精神を疲弊させているかを思うと、すべてがイヤになる。もう終わりでもいいのだから。もう生きて存在することに意味はないのだから。

 

 誕生日を祝う。それがまるでこの世の絶対の決まりごとであるように、誰も疑うことをしない。何件かのおめでとうメールが届いた。ありがとう、祝ってもらえて嬉しい、幸せ。そんな内容のメールを返しておく。5月17日。どうということもない日だが、戸籍上は誕生日になっている。生まれてきたことを心から喜んでいる人間が、世界中でいったい何人いるだろうか。幸せだという実感の湧いてくる日常を過ごしている人間など、きっとごく一部に過ぎない。大半は、何もない日々を浪費しているだけの、ナマモノ。

 土曜日なのに平日と同じ時間に目が覚めてしまう。習慣というものは恐ろしい。数件のメールの着信を見て、一応は突っ込んでおく。誕生日祝いメールを深夜に送ったとして、すぐに謝礼の返事が届くと思ったのか?そこに他意はない。思いついたから送ってくれたのだろう。しかし・・・・・
『井ノ原くん誕生日おめでとう。
 プレゼント渡したいから、都合のいい日を教えてね。』

誕生日なんて、虚しいだけだ。

 在り合わせの陳腐な表現を使うなら、早く終わればいいのに。それを上手に当たり障りのない言葉に変えて告げることが出来る器量がなく、心の中ではうんざりしながらも、表面上は上手なんだかどうなんだか怪しい笑顔を貼り付けている。サラリーマンになって学んだことだ。電話だからといって侮るなかれ。表情は見えないけれど、感情は伝わっている。どこかの金融会社がCMで『声の笑顔』なんてフレーズを使っていたが、アレはなるほど的を得ていた。だから、今だって。何の条件反射だったのか、電話に出てしまった自分が腹立たしい。プレゼントを渡したいとメールを送ってきた大学時代の後輩。いつでもいいと言ったのだが、早く直接会って渡して、開けたときのリアクションを見たい。と押し切られた。はずなのに、電話で繰り広げられる話は俺に用意してくれたという誕生日プレゼントの内容について。中身が分かったプレゼントに対してどんなファーストリアクションを期待するというのか。派手に喜んで見せれば満足してくれるなら、その通りにするだけだが。

 

「お店、12件も回ったんだからね。聞いてる?」
「聞いてる。ありがと、健。」

「うん。それでさ、売ってたショップがなんと家の近所の雑貨屋さんで・・・・・」

彼はきっと、幸せな生き方をしている。きれいな方の世界にいて、この毎日が終わることなど考えたことがないのだろう。まったくの、他人。相容れることのない、異端。

 

 週末は瞬く間に終わってしまい、また一週間が始まる。もう何もかも無理だ。すべてが重く圧し掛かって、壊れるのは時間の問題で。外的要因によって自分の意思とは無関係な角度から壊される?それは不愉快だ。最後くらい、自分自身で誰にも干渉されることなく選択する。疲れたら休むのが道理。十分すぎるほどに走ってしまったから、呼吸をすることさえ億劫。最高の誕生日プレゼントを、自分に贈ることにする。

 あと数分で今日も終わりだ。同時に、窮屈な世界で我慢してまで生き長らえることから開放されるだろう。何の為に大して素晴らしくもない給料しかもらっていないのに、無理をして高層マンションに引っ越したのか。すべてはこの日のため。容赦のない言い方をするならば、現実から逃げるため。

 ベランダに出ると、昼間の暑さが嘘のように涼しい風が髪を揺らす。あまり届かない地上の音。ここには外側のものは入ってこない。音も、人も。携帯電話で時間を確認する。日付はかろうじて、5月17日。一つだけ、大きく深呼吸。胸までの高さもない低い柵にまたがり、携帯を時間が確認できる程度の距離に置く。人生はくだらないの限度を過ぎているのか、これまでのことが走馬灯のように蘇るということもない。思うことがあるとしたら、こうすることを選んで、良かったということくらいだろう。ちょうどいい区切りになってくれたのだとすれば、誕生日も無駄ではないものなのかもしれない。時計が17日を終わりを示そうとしている。静かな夜の空に、踏み出す瞬間。

 

 

 「誕生日おめでとう、俺・・・・・・・そして、さよなら、俺。」

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