記録文書 ⑪

イノ誕生日突発企画、最終回です。

まず、井ノ原快彦氏、お誕生日おめでとうございます。
打ち合わせ中にあっさり誕生日を迎えてしまったご様子ですが、今日は充実した記念の日を過ごしているでしょうか。
３２歳の１年も、イノの笑顔が曇ることない１年でありますよう、心よりお祈り申し上げます。

さてさて、衝動的に強行したこの企画も、今日が最終話です。
イノなきに綾かって日記方式で書いてまいりましたが、意外と難しかったですね。
毎日に大きなエピソードがあるわけではないので、その緩急が大変でした。
が、ちゃんと思っていた最後にたどり着くことが出来ました。

いかがでしたでしょうか？

　５月１７日

 

　これが最後の記録になる。

 

　坂本くんがこの記録を読んでる頃には、もう全部が終わってるのかな。俺は、そこにはいないよね、当然。最後まで本当のことが言えなくて、ごめんなさい。

 

　坂本くんが連れてってくれたイタリアンの店、すごくおいしかった。平日の昼間から大の大人がワインを３本も開けるもんだから、店員さんが不審な目で見てたよ。プレゼントも、チョー嬉しかった。俺が最新型のデジタルプレイヤーを欲しいと思ってるなんて、いつ気付いたの？坂本くんってエスパー？一緒に買い物をしたのも楽しかったし、オープンカフェに行ったのも楽しかった。今日はたぶん今まで生きてきた中で、一番幸せな誕生日だったんじゃないかな。最後の日なのに、皮肉だよね。

　環境観測衛星の事故、あれが起こった原因を俺は知ってた。だって乗ってた人と仲良しだったし、最後の通信をしたのは俺だし。一緒に乗ってた人は他にあと一人で、別に友達ってワケじゃない人で、けど衛星って言う閉塞的な空間の中で、自然と友好的な関係は築けてたみたい。それでね、二人して地球を見ながら、話したんだって。ただこのまま、何年も宇宙で地球を見ているだけの毎日なのかな？って。それって退屈だし、ちょっと羽目でも外してみない？って。衛星が消息不明になったときには、まだ二人は元気いっぱいに生きてた。軌道を逸れて散歩でもしてみるよ。なんて笑ってて。俺は、いい考えだね。感想聞かせてね。ってのんきに言ったんだ。あの時、のらずに止めておくべきだったのかもしれない。それが最大にして唯一の後悔。二人を乗せた衛星は宇宙の塵になったよ。隕石にぶつかったから。最後の通信で、かなり謝られた。せっかく気まぐれな暴挙を黙認してくれたのに、ごめん。って。もうすぐ死ぬってときに、謝りに謝り倒して、それで、言ったんだ。せめて地球で死にたかったなぁ。俺は、何も言えなかった。ただ二人に言われたことを実行はしたけどね。最後の最後の言葉、隕石の軌道に気をつけろ。衛星にぶつかったことで進路が大幅に変わった隕石は地球、日本の東京に落下するのを知った。こんなの誰にも止められるわけないし、全員を東京から遠ざけるのも無理な話だな。って考えて、それで作ることにしたんだよ、シェルター。俺は俺を支えてくれた坂本くんだけは、失いたくなかったからね。最低のときにも絶対にそばを離れないでいてくれた坂本くんにだけは、報いないといけないって決めてたし。おかげさまで知識も技術もちゃんと持ち合わせてたし。苦労したのは坂本くん用の取説だけ。ちゃんと機械に弱い友達に相談して作ったから、分かると思う。想定できるトラブルの対処法も書いたから、参考にしてね。あ、東京とその近郊にかなりの被害が出ると思う。東京は間違いなく壊滅するんじゃないかな。でも隕石が落下する情報は、たぶん一部の偉い人たちは察知してたと思うよ。なんか一昨日くらいに、いそいそと関東圏から撤収してたもん。すごくない？自分たちだけ逃げちゃったの。まぁ、俺も坂本くんだけをシェルターに避難させたんだから、同じ種類の人間に分類されるのかな。坂本くん一人をそんなところに押し込めて、ずいぶん怒ってるだろうね。最低なヤツだって、軽蔑していいよ。

　ありがとう、ごめんね。坂本くんと一緒に過ごせて、本当に幸せだった。

 

　今、この記録は坂本くん家の居間で書いてる。店は閉まってるし誰もいないから、すごく静か。デジタルプレーヤーに、さっそく何曲か入れた。坂本くんの部屋から、坂本くんがお気に入りだったＣＤ拝借しちゃった。冷蔵庫に入ってたビール、もらったよ。最後の一本になるだろうから、大目に見てね。

 

　記録、これにて終了。

　坂本くんが、この先もずっとずっと、生き続けてくれますように。

 

　2008年5月17日、坂本くん家の居間にて、井ノ原快彦。