V6井ノ原快彦氏主演の妄想非恋愛小説を取り扱っております。
No.214
2008/05/26 (Mon) 21:41:42
アンラブリンク『GW企画』出展作品、後編です。
ごとうの勤めている会社にも、新入社員の方が来られました。
生真面目に挨拶をしてくれるので、照れます。はい。
初々しいですね。
出演 : 井ノ原快彦 ・ 坂本昌行 ・ 岡田准一 ・ 長野博(名前のみ)
ごとうの勤めている会社にも、新入社員の方が来られました。
生真面目に挨拶をしてくれるので、照れます。はい。
初々しいですね。
出演 : 井ノ原快彦 ・ 坂本昌行 ・ 岡田准一 ・ 長野博(名前のみ)
翌週の月曜日、営業部に配属されてきた新人はやはりというべきか、岡田だった。長野に接待案で合格点をもらった新人は二人。3日間の研修を乗り切ってもなお、営業部が希望だと言ったのもその二人。うち一人は大阪支店の営業部に配属になった。新人の配属が掲示板に発表されて知ってはいたものの、朝、フロアに岡田が顔を出した瞬間、井ノ原は心臓を鷲摑みにされたような感覚に襲われた。ところが関西弁なりの敬語を駆使して殊更丁寧な自己紹介をした彼に、坂本が告げた言葉は誰よりも井ノ原を驚かせるもので、
「最初は井ノ原がいろいろと教えてくれるから、しばらくは一緒に組むように。」
イミガワカラナイ。
「岡田准一です。よろしくお願いします。」
「あ、井ノ原快彦、です。えーと、どうぞ、よろしく、ね。」
棒読みで機械が自動的に登録された言葉を発するようにぎこちなく話す井ノ原に、坂本は苦笑しながら耳打ちした。
「お前だから、任せるんだぞ。」
混乱。井ノ原だから任せるとはどういうことか。大した好成績も残さない井ノ原が、この優秀な新人に何をしてやれると思っているのだろう。勘違いで過信されても、応えられない可能性のほうが高いのに。だが、まさか坂本からの指示に「できません。」と言えるはずもなく、戸惑いながらも引き受けることになってしまった。
ビギナーズラックではない。岡田と組んだ途端、井ノ原の仕事は周囲が驚くほどに好調の一途を辿っていた。取引相手との接し方はもちろん、企画、書類作成、プレゼン、どれを取っても岡田は完璧にこなす。教えることなど何もない。彼もまた、立っているラインの違う人間だ。なのに井ノ原が引け目を感じなかったのは、どういうわけか彼が異様に井ノ原に懐いたからかもしれない。他の誰が声をかけても形式ばった態度しか示さないのに、井ノ原に対しては年相応、もしくはそれよりもずっと若いとさえ錯覚しそうなほど無邪気な姿を見せてくれる。年下の友達が出来た。そんな風にさえ、思えた。一緒に仕事について話し合うのが楽しくて、率先して残業をしたり飲みに行ったり。右肩上がりの成績。坂本は二人を褒めてくれるし、長野は初めて、井ノ原をライバルだと言ってくれた。すべてが最善の方向へと流れていると、この先もこんな毎日が続けばいいと、思っていたのに。
悪夢は、微塵の予兆さえ察知させることなく訪れる。
ある企業との取り引きの席で岡田は、井ノ原は、冷水を頭から大量に浴びせられたような感覚を味わった。その仕事も至極順調で、あとは契約書を取り交わすだけの段階までこぎ着けていた。ところが、契約書持参で訪問した二人を待ち構えていた相手の答えは、
「その件についてなんですが、会社の意向で『CPS企画』さんにお願いすることになったんですよね。なので今回はご縁がなかったということで。」
満面の笑みで、さらりとドタキャンを宣言された。理由の説明を求めたが、会社の意向のだとしか言わない。何かが、あったのだろう。普通なら有り得ない、ほぼ決定という段階での契約破棄。
「では大変残念ですが、また機会がありましたらよろしくお願いします。」
腸が煮えくり返る。とはこういう時に使う言葉だ。笑顔で頭を下げて会社を出た井ノ原は、相手への罵声を絶叫してやろうかという気持ちに駆られた。が、それを打ち消すかのごとく先に感情を露わにしたのは、岡田だった。いつだって冷静で穏やかな様子しか仕事上は見せない彼が、怒りに肩を震わせながら、こぼしたのだ。
「有り得ん。絶対に裏取引とかしとる。マジでムカつく。なんやねん。人が下手に出とる思ていい気になりおって。あのウソ臭い笑顔とか、蹴飛ばしたいわ。」
とても腹が立っているらしい。
「俺も同じ気持ちだけど、こういうことは、ときどきあるからね。まぁ、あの会社はその程度の会社だっていうことで諦めるしかないよ。」
井ノ原の怒りは冷めてしまって、岡田を宥める心の余裕さえある。理想の営業を胸に抱いて入社してきた新人が夢を壊されてしまったのだから、先輩としてはフォローのコメントを発するべきだと思ったからだ。しかし岡田は、これでは引き下がらなかった。よほど悔しかったのだろう。相手の裏取引の事実を調べると言い出した。それは営業の仕事ではない。というか、この世界の暗黙のルールとして、そういった類のことが起こっても、やられた側は泣き寝入りをして頭を切り替え、次の仕事をがんばるしかないのだ。感情のままに相手を糾弾しても、やりこめられればお終い。逆に名誉毀損だと言われれば面倒だ。だとすれば時間を無駄にするようなことはせず、次にその悔しさをぶつけるのが利巧というもの。岡田には可哀想だが、長く続ける上では避けて通れない道。
「次の仕事で、挽回しようよ。」
「なんで?」
「え?」
「あっちが間違っとんのに、なんで諦めんの?そんなん、納得できん!」
「岡田っ!」
涙目になりながら、本気で怒鳴って岡田は走り去ってしまった。
(若いなぁ。まっすぐでいいけど。)
遠ざかってゆく背中をぼんやりと見送りながら、井ノ原は初めて仕事で感情をむき出しにした岡田を、微笑ましく思った。ご飯でもおごって、思い切り励ましてやろう。などと考えながら先に社に戻ることにする。岡田の携帯にメールを入れた。坂本にはうまく話しておくから、直帰してもいい。と。
このときに、もっと事を重大だと受け止めていれば、未来は変えられたに違いない。この出来事が井ノ原に齎したものは、計り知れない罪悪感だった。
成績は別として、坂本から見る井ノ原は、とてもまじめで一生懸命な社員だ。風邪で高熱があっても気力で会社にも来るし、遅刻はしたことがない。どんなに小さな仕事にも手を抜くことはせず、大仰、贔屓目と言われるかもしれないが、相手に誠意を尽くす仕事のできる人間。だから岡田と組ませた。今時の若者に欠落しがちな熱を、井ノ原ならば伝えられると判断して。その選択が招いた結果が今、井ノ原に重く圧し掛かっている。会社を無断欠勤し、何度電話をかけても留守電。それまでの経緯を考えて、さすがに心配になった坂本が部屋を訪ねれば、世界の終わりのような雰囲気を纏った井ノ原が、そこにはいた。ひどく、後悔した。
どれだけ慰めの言葉をかけても反応はなく、壁際の隅に体育座りをして沈黙を押し通している。こんなに堪えているなんて、実は想定の範囲外だった。ドタキャンを食らった日から、岡田は失踪という事態をしでかしてくれている。電話に出ない。部屋も留守。実家に帰った形跡もなし。会社に速達で辞表が届いた。消印は会社の最寄り駅の郵便局のものだったが、そこからはいっさいの手がかりも得られなかった。辞表が届いたことを知った井ノ原は酷く気落ちし、自分のせいだと坂本に告げたのだ。坂本は井ノ原のせいではないと即座に否定したが、届かない。思い込みという分厚い殻の中で、罪悪感に苛まれて深い場所に落ちている。どうすれば救い上げられるかなんて、分からない。ただ、このままの状態でいても事態が好転することがないことだけは確かだ。どうしても井ノ原を連れ戻したい坂本は必死に考えて、考えて、一つの思い付きを口にした。
「なぁ、連休だしさ、旅行行こうぜ。俺が車、出すし。」
返事はない。
「海でいいか?山は行かねぇ。っつーか行けねぇ。俺は虫が嫌いだからな。もしくは旨いモンでも食って回るか。長野に聞けば分かるだろうし。」
まだ返事はない。
「準備、しなきゃだよな。カバンとかどこだ?部屋、入るぞ。」
返事がないことを、逆手に取る。肯定はしていないが、否定もしていない。
「クローゼット、開けるから、っな・・・・・お前、詰め込みすぎだろ。」
若い男の一人暮らしの定番な光景で、クローゼットを開ければ無理矢理押し込んだのであろう物たちが坂本に向かって雪崩を起こした。その中からスポーツバッグを発掘し、適当に服を詰め込む。部屋自体は決して散らかっていない。整理整頓されたスチールラックの真ん中の段に、岡田の歓迎会のときに撮った写真が無造作に置かれていた。
(お前、笑ってるほうがいいよ。)
写真を見て居た堪れない気持ちになったが、それを必死に押さえ込んで、坂本はカバンを手に部屋を出る。井ノ原が動いた様子はない。
「出かけるぞ。」
もう所持金がどうのなどと考えている場合ではない。カードを使ってでも自宅までタクシーで帰り、自分の車ですぐに出かけよう。戸締りと火の元を確認し、坂本は井ノ原の肩にそっと触れた。たったそれだけの行為で、ビクリと揺れた身体。緩慢な動きで、上げられる顔。
「行こう、井ノ原。」
坂本が手を差し出せば、井ノ原は虚ろな視線を泳がせて答えあぐねている。そんな気分ではないことなんて百も承知だが、このままでは、何も変わらない。最悪、井ノ原は壊れてしまうだろう。半ば強引に腕を引いて立たせると、テーブルの上に載っていた財布と携帯電話をポケットに押し込んでやった。
「せっかくの連休なんだ。楽しまなきゃ、損だろ?」
努めて明るい口調の上に笑顔も添えて言うと、坂本はカバンを肩から提げ、井ノ原の手を引いて部屋を出た。こんなところで、井ノ原を捨てる気なんてさらさらない。答えを急ぐ必要はないのだ。ゆっくりとでも、戻ってきてくれればいい。旅行に行くことで、少しでも気分が上昇すれば、それはそれで儲けもの。この仕事を始めてから、毎年ゴールデンウィークは日頃の疲れを家でのんびり過ごすことで解消することに費やしてきた。初めての旅行がこんなカタチで訪れるなんて、自分が一番驚いている。ただ、悪い気はしていない。むしろ、どこかでワクワクしている。
(それでは、純粋に楽しんでみますか。)
大通りに出てタクシーを捕まえることに奮闘しながら、坂本はテンションの上がる自分に楽しささえ見出し始めていた。
笑顔は色褪せない。きっとそうだ。今の自分が、そうだから。
悔やむのは主義じゃない。ゴールデンウィークという浮かれた連休を利用して、もう一つ先へ進んでやる。井ノ原だって連れ戻す。そしてもう一度全てを、この手の中に。
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