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V6井ノ原快彦氏主演の妄想非恋愛小説を取り扱っております。
No.
2024/04/28 (Sun) 23:26:32

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No.313
2009/02/06 (Fri) 21:26:01

短編の後編、更新です。

月曜日のいいともはイノ。
我が妹が偶然に見ていたようで、教えてくれました。
よかった。


出演 : 井ノ原 快彦 ・ 坂本 昌行 ・ 長野 博




















 坂本くんは俺の話をクルクルと表情を変えながら聞いていた。警察と長野さんの間にそんな経緯があったことさえも、初耳なのだから至極普通の反応だろう。俺の話をどこまで信じているのか、複雑そうな目で俺を見ている。
「・・お前、逮捕されるかもしれないんだな。」
同情モードか。ありきたりだ。
「もしも明日逮捕されたとして、俺はお前の心の中に残れるのかな?」
そして熱い友情モード。どこの3流映画よ。
「俺がたまたま今の電話の内容を聞かなかったら、話から察するにお前は、黙ってここから消えるつもりだったんだろ?人殺しは須く死ぬもんだって考えてるんだろ?」
あー、説教モード?それ好きくないな。
「頼むからさ、そんな寂しいことしてくれるなよ。友達だろう。過去とか関係なく、ただの井ノ原快彦と坂本昌行っていう友達同士だ。だったらちゃんと話せ。それ聞いても、俺は何も変わらないから。」
何も変わらないって?きれいなお口だ。長野さんってどっか怖いもんなー。それで投げ出しちゃって、とばっちりで怒られでもしたら大変ってのが本音なくせに。
「お前、がんばったなぁ。本当のこと隠して、弱音なんて一切吐かないで、独りでずっとずっとがんばって・・・・・ごめんな。全然気付けない鈍い男で。」
煩いんだよ。
「ごめんな、長野みたいに気付いてやれなくて。」
言うな。
「俺は何も変わらないから、だからここにいろ。真実を白日の下に晒したいのならば手伝うし、見て見ぬフリを望むのなら付き合う。」
そんなのいらない。俺はどうだっていいんだ。
「今まで通り、ずっと、笑ってれば・・・・・」
泣き、出しました?
「長野に確かめる。なんで今になってこんな風に井ノ原のこと揺さぶったりするなら、始めから一生懸命捜査しなかったのかって、聞く。」
「勘違いするな。あの人は・・・」
「始めにちゃんと捜査してれば、400人殺すくらいの理由だってあるんだし、こんな皮肉な展開にはならなかったはずなんだ。なんで5年も経ってから後悔するくらいなら・・・」
「ちょっと待った。アンタ勝手に想像し過ぎ。長野さんは剛の事件は担当してないよ。」
「だって井ノ原のことっ・・・・・」
「あのさ、俺の話ちゃんと聞いてた?5年経って俺を訪ねてきたのは、知らない男だったの。長野さんとはそのときが初対面で、剛の事件を担当した刑事は、会社がした一方的な説明を鵜呑みにして、剛や俺の言葉なんてまるで無視のまま逮捕しようとしたんだ。あんな感じ悪い刑事、忘れるわけない。」
「庇うのか?」
「本当にそうなんだって。長野さんが俺のことに詳しいのは、資料を読んで、俺の身内と剛の身内に話をガッツリ聞いたからで、言われたからさ。俺が捜査してればこんな結果にはしなかったのにって。」
「じゃあ担当の刑事は?」
「知らねぇよ。興味ねぇし。」
「お前をこんな風にした原因の一端を握ってるヤツだぞ!なんで興味ないとかっ・・・」
「どうでもいいんだ。生きてても死んでても、アンタが友達でもそうでなくても、どうでもいいんだよ。俺は、一度破綻したものに固執する気はない。」
「破綻なんてしてない。」
「してんだろ。俺の話を聞いてたなら・・・」
「俺が一緒にいるのは、弁護士に興味なんて微塵もないくせに、弁護士事務所で事務の仕事をしてる井ノ原だ。やたら頭良くて、要領良くて、スポーツも万能で、笑顔が絶えなくて、いつも何もかもあっさりとやってのける優秀な人間の井ノ原だ。だからそんな、弱っちいこと言うなよ。」
「俺は元々強くなんかない。」
「強くなくてもいいから、俺の傍にいろ。」
「アンタね、人殺しにそういうこと・・・・・」
「頼む。ホント、勝手に死んだりするな。友達、なくしたくねぇんだよ。」
もう、言い返す言葉が出なかった。みんなは俺にメリットを見出した上で、一緒にいると思っていた。そうでなかったのは、剛くらい。そう、不思議な感じ。長野さんと初めて会ったときみたいな、計算で読み取れない、なのに全然イライラしない感じ。ちょっと心地いいかもしれないとか甘い感覚でいる自分に気付いて、俺は慌ててそれを全否定する。人殺しなんだから。確実に坂本くんとは住む世界が違うのだから。自分の意思どうこうではなく、犯した罪を持っている時点で社会不適合者で・・・・・
「でも俺は、人殺しなんだよ。長野さんとの賭けに負けたから、あの人はきっと俺を逮捕しにやって来る。となれば刑務所行きで、刑務所に入れられた友達がいるとか、アンタの経歴に傷が付くじゃん。」
「その日が来たら、俺にはその現実を変えることはできないけど、俺は絶対にお前の事を友達として守るように尽力するし、実刑判決が出ても友達としてずっと、待ち続けるよ。」
ああ言えばこう返す。一生懸命に俺から離れないように、言葉を選んでいる。俺が意外と嫌な意味で狡猾で思慮深い人間で、心の中に大きな闇を作り上げていると知っているから。だから俺を壊してしまわないように、慎重に慎重に、大事に大事に。
「じゃあもしも俺が死刑になったら?また俺みたいな人間を長野さんが連れてきたら、アンタはまた同じ想いを繰り返さなきゃならない。辛すぎるだろ。」
「そんな女々しくねぇよ。それに多分、お前以上の友達なんて簡単には現れないさ。」
「人間は過ちを繰り返す生き物だ。俺がこれだけ話しても終わらないなら、もう、俺はアンタの前から消えなきゃならない。せめて、それくらいの償いは・・・・・」
「大丈夫だ!絶対の絶対に大丈夫だ!お前は残された長いんだか短いんだか分からない人生を思い切り満喫すりゃあいい。俺の都合なんて二の次で、楽しめ。幸せな人生味わったって笑いながら死ねたら、過去にお前の後輩を傷つけて平然としてた人間たちを見返したことになんだよ。お前の勝ちだ。」
「俺が、勝ち?」
「そうだよ。後輩だってお前に、こんな人生選んで欲しいなんて思ってなかったはずだ。お前は幸せになる権利を持ってて、それを行使するためにここに来たんだから。長野が全力で、人並みの幸せがどういう意味なのかを教えてやりたいって思うほどの、人間だったんだから。」
ああ、そういう意味で笑ったのか。
「誰にでも平等に与えられた幸せになる権利を、自分から捨てるな。」
「坂本くんって、意外と理想論者なんだ。」
「理想じゃなくって、必然だ。」
「俺には、幸せがどういうことなのか、よく分からない。」
「は?」
「どういうときにどうやって笑ってるのかも、分からないんだ。」
「だからそれは・・・」
「過ちは一生付き纏って、窮屈なくらいに主張してくる。でも俺は後悔してない。それだけを何度も言い聞かせてここまで来たからさ、麻痺してんだよ。感情が。」
「井ノ原。」
「俺はいろんなことを計算しながら毎日生きてた。人殺しになる前も、人殺しになった後も。唯一の計算ミスがあったとしたら、アンタや長野さんに会っちまったことかな。アンタらに出会って初めて、絶望を知ったよ。俺はどうせ犯罪者なのに、今さらどうして、光の下に引きずり出されたんだろうか?って。でも感情を麻痺させることに長けてて、そのおかげで底までは堕ちずに済んだ。何も感じることなく、諦められる。」
「誰もお前を、救えないのか?」
「救えない。」
「それを知っても、俺はやっぱりお前の友達でいる。諦めてやらない。」
「勝手にどうぞ。」
飲み込まれる前だったらよかったのに。だったら俺はきっと、素直にありがとう。とか、嬉しい。とか言えたのに。自分の周りに高くて厚い壁を作る前に、坂本くんとは出会っておきたかった。それは絶対に言わないけれど、本当に思ったこと。感情論は嫌いなのに。だから俺自身がものすごく驚いてしまっている。どうだっていいと人生投げてきたこの俺が、坂本くんの温かい空気に触れて、それを望んでいるというのだから、世界は広いな。とか考えたり。けど終わり。もう終わり。要領が悪いくせに大風呂敷を広げた友達が、やっとのことで誰の目に触れることなく死ねて一人で静かに朽ち果てられる場所を見つけてくれた。若干の手遅れ感は否めないけど、現状を引き摺るよりもずっとマシ。この光ある世界から、抜け出してしまおう。これは何かの間違い。錯覚。俺は坂本くんとは出会わなかった。あの事件を起こした日から死ぬまで、一度だって幸せという境遇に触れることなく独りで過ごして、死んでいった。それでいい。ロクでもない人間のクズ、取るに足らない数千人の犯罪者の中の一人が消えるだけ。遠い世界の出来事だ。俺が消えたら、また何の変哲もない日常が戻ってくる。だから坂本くん、アンタはアンタのいる世界で幸せになったらいい。俺のことなんて、きれいさっぱり忘れてしまうに限る。ああ、珍しく願ったなぁ。笑える。
 
 坂本くんの猛反対を押し切ってなんとか最後の場所まで出向いた俺は、なぜか先回りをして待ち構えていた長野さんに賭けはまだ終わってないと追い返された。坂本くんが何か口添えしたのかもしれない。けれど事務所に居続けられるほど図太い神経ってわけじゃなく、社会人としては非常識だが、黙ってバックレさせていただいた。とはいえ自宅マンションを引っ越せるほど裕福じゃなかった俺宛に何通か差出人が坂本くんの手紙が届いたけど、一切読まずにゴミに出した。直接会いに来ないあたり、中途半端で呆れる。会って面と向かって拒絶されることが嫌で仕方ない。くらいが妥当な理由か。っつーか坂本くんって誰よ?どこの物好きが俺に手紙なんて寄越すのかね。暇な人間もいたもんだ。俺はずっと独りでいるから、誰か同情でもしたのか?事件当時の事情をかぎつけた野次馬が、話題作りに利用したとか?8年も生殺しにされてる人殺しと聞いて、偽善者が喜び勇んで食いついたって?バカらしい。何もかも、バカらしい。どうでもいい。くだらない。全部、いらない。
 俺は壊れているから、修理を施せる状況にはないから、生きていたいなんて一度も思ったことはない。いつ死んでもかまわなくて、毎日それが、この一時間後でもいいのにと考えていた。そして、やっとその日が来た。適当に自殺すりゃよかったわけだが、ふと浮かんだ発つ鳥後を濁さず計画。誰にも見取られることなく死ぬならその部分を極めてみるのもいい。と思い立ったまでは良かったが、きれいさっぱり痕跡を消してしまうための準備が案外時間と手間を食って、待機すること約2ヶ月。かなり待ち焦がれたよ。終わる日を。心から。やっと死ねる。このくだらない人生、終わりに出来る。待ってました!ああ、疲れた。
 
 井ノ原を懐柔できなかったのは自分の責任だと、長野は自嘲気味に笑って言った。井ノ原を救えなかったのは自分の責任だと、坂本は低く冷たく言った。井ノ原が自殺を実行したと推測される日は苛立つくらいにどしゃぶりの豪雨で、そのニュースは遺体の発見された翌日の新聞の片隅に、少し取り上げられただけだった。坂本が長野に1枚の写真を手渡したのは、葬儀から3日後のこと。尋常でない長野の動揺を、考慮してのこと。その写真の中で井ノ原は、無防備に酒を飲んでいた。さりげない、笑顔の写真なんかよりもずっと、井ノ原らしい写真で長野は泣いた。初めて、坂本に弱音を吐いた。後にも先にも、たった一度だけ。
「俺はこれから、どこへ向かえばいい?」
坂本は何も言えなかった。人間の最期なんて所詮こんなものなんだと、自分に言い聞かせることに無我夢中で。
 誰にも分からない答えを井ノ原は、最初から出していたのかもしれない。生きていることよりもそれは、ずっと賢明なことのような気がする。坂本はたった一度だけ井ノ原の墓を訪れて、お前は何も間違っていなかった。と言い切った。井ノ原の一周忌から数日が経過した頃だった。それからは一生懸命に、目を逸らしたくなるような現実と向き合う術を探す毎日。リビングのコルクボードにピンで留めていた数枚の井ノ原との思い出はセピアに色褪せて、いつの間にかなくなっていた。
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