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V6井ノ原快彦氏主演の妄想非恋愛小説を取り扱っております。
No.
2024/04/28 (Sun) 12:56:24

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No.310
2009/01/18 (Sun) 23:31:44

アンケート中編、最終話更新です。

完結までにこれほど時間がかかるとは思いませんでした。
お待ちいただいていた方がいらっしゃいましたら、申し訳ありませんでした。

どこまでもシリアスでダークです。
最後までとんでもないことになっております。
救いのないラストが苦手な方は、見なかったことにしていただけると幸いです。


出演 : 長野 博 ・ 坂本 昌行 ・ 森田 剛 ・ 井ノ原 快彦


















 殺意は目覚めた。
 
 
 【ステーション統括領域でシャトルが爆発】
  政府当局は、25日、所属不明のシャトルがステーション統括領域内で爆発事故を起こした事を発表した。乗員の正確な人数は不明だが、その安否は絶望的のようだ。
  現場にはシャトルが爆発した際の残骸が散乱しており、調査は難航しているという。
  航空運輸庁当局者によると、事故が発生したのは25日午前10時頃で、同領域を運行中のシャトルが巻き込まれたという報告は受けていないが、安全面を考慮してシャトルが午後21時まで運行見合わせとなり、すべてのダイヤが大幅に乱れ、約1万2千人の足に大きな影響を及ぼした。
  シャトルはステーション居住区より北東10キロに位置する未整備地区から離陸したと見られており、担当調査官らは1日も早い事件の全容解明を急いでいると、取材陣に険しい表情で答えた。
                      総合衛星通信(新西暦24年10月25日)
 
 
 航空航路観測衛星が捉えた爆発の瞬間の映像を見て、森田は激昂していた。ニュース番組のコメンテーターたちはシャトル自体の構造に欠陥があったのではないかと推論をひけらかしているが、明らかに人為的な何かしらの力が外部から加えられたことによって起こった爆発であることが、プロの目から見れば一目瞭然だからである。自らが設計から製作、プログラミングのすべてを手がけ、井ノ原のためだけに完成させたシャトルの船出に第三者が水を差したのだ。唯一の乗員であった井ノ原は、万に一つも助からないだろう。爆発が起こる直前に交わしていたのは、自分たちの思い描く住んでみたい地球の話だった。かつてあるべき正常な姿で日々を送っていた地球の映像を見る事は誰にでもできる。国会図書館の視聴覚室に資料映像として保管されており、貸し出しはされていないが公開はされていた。素直に美しくて焦がれてしまいそうな星で、そこが母星であったならばきっと幸せだっただろうと感じさせる、失ったもの。井ノ原は言っていた。地球はみんなが同じだけ還る権利を持っている星だと。いつかの未来に、
「みんな一緒に還るんじゃなかったのかよ。」
何度満面の笑みで披露されても冷淡に却下してきた井ノ原の理想論を、今さら引き合いに出している自分の身勝手さが一層、森田の気持ちを深く沈みこませた。見えていた理想郷は単純なそれではない。井ノ原は確かに、そこで大切な人と過ごす光景を見て、羨望という感情を抱いたに違いなかった。だから、だとしたら、
「生きたかったんだろ?きれいなモノだけが集まった楽園でさ。」
井ノ原にとって、死はバッドエンドではなかった。
 
 どうせもうすぐ消える命だったのだ。命の期日かほんの少し早まっただけのこと。そんな子供でも簡単に理解出来そうな理屈を受け入れもせず、苛立ちを周囲に撒き散らしている坂本に長野が向けるのは、冷ややかな視線。事故から一週間と数日が過ぎたころ、クルーが所持していたと思われるIDが回収された。IDに登録されていた名前は「井ノ原快彦」、坂本のお気に入り所有物。身寄りの無い井ノ原の死を悲しむ人間は長野が知る限りでは存在せず、坂本が怒りに任せて自分の意にそぐわぬカタチの結末を選んだ友達という名の所有物に対する興味を放棄してしまったため、葬儀は無し、ただ記録上に死亡という言葉が無機質に残るだけに終わった。そして今、昼間から仕事もせずに酒を煽り、坂本が怒りに打ち震えながら呼んでいる手紙の内容を、長野も知っている。同じものが自分の元へも届いていたからだ。地球滅亡の裏に隠された真実。実際にはまだ正常に機能している地球の置かれた現状。
「不愉快な手紙じゃねぇか。どうして井ノ原はこんな重要な事を、直接話さなかった?俺は友達だぞ?アイツの得た情報を知る権利がある。これを知ってりゃ、俺は、」
「本当の事を知っていたら坂本くんは、それをさも自分が動いて手に入れた情報のようにひけらかして、政府を糾弾した?バカじゃない?強欲もそこまでいくと病気だね。」
「貴様、俺を侮辱するのか。」
「するんじゃない。してたんだ。もう、ずっと。そして俺はアンタのことを大嫌いだと感じない日はなかったよ。」
「なんだと?」
「俺は自分が気に入ったってだけの理由で俺を強引に両親から引き離してまで地球から連れ出した坂本くんを、心の奥底から恨み続けてる。いつか報復してやろうって、思ってた。」
「恨み?報復?俺はお前の友達になってやったんだぞ。感謝するのが筋だろう?」
「なんだか甚だしく勘違いしてるみたいだね。坂本くんは単に気に入ったものを手元に繋ぎ止めておきたかっただけでしょ?美化したかったのか何なのかは知らないけど、友達って言葉を使って。俺は奪ってやろうと、そう、坂本くんからお気に入りの所有物を奪ってやろうと、」
「事故を起こさせた?」
「2年前は失敗しちゃったけど、今回はうまくいってくれた。まず一矢、報いたかな。」
怒髪、天を衝く。会社で異様に腹の立つことに遭遇したらしく、憤懣やる方ない様子で帰宅した父に、苦笑しながら母が言っていた言葉である。意味を聞くと、怒りが激しく昂ぶり過ぎて、髪も逆立って頭上の冠を天まで突き上げてしまう勢い。という感じであったか。父は髪を逆立てていなかったし、冠も被っていない。それがモノの例えだったと気付くのはもう少し年を経てからの事だが、今ならば使用するシチュエーションが判別できる。今の坂本がまさにそうだ。懐疑的な心情に浸りながら、長野はゆったりとした所作で鉢植えを一つ、坂本の眼前に置く。
「侘びのつもりか?」
「井ノ原の遺品。ソングオブインディアっていう観葉植物なんだってさ。事故の前に、俺にお裾分けってくれたんだ。知っててくれたのかどうかは分からないけど、花言葉がね、『幸せが飛んでくる』なんだよ。坂本くんの汚らわしい心が浄化されて、いつか本当の幸せが飛んで来てくれますように。」
「ふざけんな!俺がどれだけ目をかけてやったかも忘れてっ、恩を仇で返すのか!」
「アンタに返す恩なんてない。井ノ原の純粋さに中毒られて、自分をひどく恥じればいい。」
「こんなことをして、タダで済むと思うなよ。」
「はいはい。はだかの王様は思うがままに振る舞ってくださいな。」
「長野っ!」
坂本の盛大な怒鳴り声が響いたが、長野はあっさりとそれを無視して部屋を出た。追って激しい物音と共に、陶器らしきものが叩き壊される音が聞こえた。あまりに単純極まりない男の行動に苦笑を浮かべ、時計の秒針に視線を落とす。タイムリミットは120秒。建物から離れるには充分な時間である。
「とっとと去ね、バーカ。」
号外が出るのか、はたまた夕刊のトップに間に合うか。軽やかな足取りで進む帰路は、心満たされて悦びと開放感に溢れた素晴らしいものだった。最良の日。両親は今日も、どこかで幸せに笑っていてくれるだろうか。
 
 
【防衛庁参謀総長宅で爆発、炎上 】
 ステーション国会エリア内にある防衛庁参謀総長、坂本昌行氏の自宅で28日、轟音を伴った爆発が起こり、同建物が全焼した。在宅中だった坂本昌行氏と家政婦6名が死亡、通報を受け駆け付けた消防士が救出のため建物内へ入り、2名が重症、5名が軽症を負った。
  原因は不明で、庭に水を撒いていた庭師の話によると、爆発音は坂本氏の自室からしたものであり、部屋は吹き飛び、瞬く間に炎も燃え広がったということから、何らかの爆発物によるものと推定、消防局と警視庁が合同調査中とのことだ。
  その直前に来客があったという証言から、警視庁では来客として訪れた人物の消息を追っている。
  坂本氏は国会で地球への再調査を巡って多くの議員と対立関係にあり、首相補佐官を勤める父親の尽力により国会などでの利己的な立ち居振る舞いが罷り通っていた。坂本氏に良からぬ感情を抱く人物は数え上げられるだけでも膨大な数となり、首謀者の特定は困難を極めそうである。
                     総合衛星通信(新西暦24年10月28日)
 
 
 ニュースの記事を読みながら、長野はお気に入りの紅茶に舌鼓を打っていた。この先、首謀者が自分であることが暴かれ逮捕されるとして、微塵の悔いもない。生きている上での最大の目的は、果たされたのだから。悪しきは必ず裁かれる。身を以って思い知ったであろう強欲で傲慢な男が最後に強か地団太を踏んだだろうか?などと想像すると、それだけで楽しくて仕方のない気分になった。結局は道具として利用することになってしまった彼には大変申し訳ないが、これも、きっと運命だ。
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