シリーズ ２回目

世界観のみリンクシリーズ第２回更新です。

トニコン。行って参りました。
幸せいっぱいです。

神戸のポイントは『マスオさん』『パソコン』『チャック』でしたね。

ぜひ、今回のツアーもDVD化を！


出演　：　三宅　健

世紀末で。

 

 

 

　世間が騒がしいおかげで、家主の機嫌はすこぶる悪かった。そうでなくとも不機嫌を擬人化したような男であるのに、迷惑この上ない世情になったものだと零れるのは溜息。自業自得ではあったが、買出しから戻るなり説教を食らったのは30分ほど前。男の割には妙に所帯染みた家主の怒りの素は買出しの結果だった。今のような生活を送るようになってからというもの、食料品は2週間分を纏めて買い込むことが常である。その買出し係を仰せつかったまでは良かったのだが、料理などとはまったく無縁であり、男の2人暮らしで2週間に必要な食材のストックであるとか、どのようなものが必要最低限に揃えられるべき物なのだとか、そういう類の知識は持ち合わせていない。となれば何を求められてもいいように手当たり次第にさまざまな種類を取り揃えるしかなく、帰宅後に無駄が多いと説教を食らう羽目になる。だったらと買い物リストを所望したこともあったが、それくらいは空気を読んで頭を使えば子供でもできると言われ、突っぱねられたきり終了した。何もかもこのご時勢のせいだと日ごと精神が擦れていっていることに、家主は気付いている気配がない。仕方のないことなのだと妥協しておく。そういう時代なのだからと。

 

　せっかくのいい気分が台無し。っていうか、なんで俺ってここに住んでるわけ？坂本くんと一緒に暮らしてなきゃいけないなんて決まり、全然ないのに。だったらさっさと出て行けばいい。けど、坂本くんと一緒なら実家を出てもいいって親が言ったから、なんてそれは高校生のときの話。もうとっくに成人して、一人で生活していくには充分な収入だってある。なのに、俺はまだ居候のまま。こんなことになったのは絶好のきっかけだった。本州が割れて、ちょうど割れ目の上にあった坂本くんの家が中に沈んで、あれだけ大規模に割れ目が走ったんだから、被害に遭った人は他にもたくさんいた。でも例え比較的家の損傷が軽度だったからといって、そのまま住むとか言い出した奇天烈な思考回路の持ち主は日本全国津々浦々どこを探しても、坂本くんしかいないと思う。日当たり最悪の割れ目の中で暮らすなんて不健康にもほどがある。俺は本気で引っ越すように薦めたのに、結局は折れてくれなかった。新しい家を探すのは面倒だし、ここなら何よりも周りに人がいないのがいい。って。煩わしくないから快適だって。言われて、決めた。坂本くんの仕事は翻訳家で、自宅から出なくとも仕事は成り立つ。つまりは、ずっとここに独り。この薄暗いジメジメした場所に独り。そんな事をさせることなんて出来なくて、じゃあ自分も残ると気付いたら必死で押し切ってた。あんなにも恐がりで寂しがりで、そのくせ誰かと繋がってることに不器用な人、いないからね。なんだけどさ、なんだけど納得いかない。人がわざわざ買出しに行ってあげたのに、そこまで頭ごなしに否定することないじゃん。ムカつく。チョームカつく。

 

　街のしがない弁護士事務所で、居候弁護士の一番下っ端に納まってますけど何か？司法試験の合格者枠が急に拡大されたおかげで、レベルの知れた私立大学の法学部の俺も弁護士になれたのかもしれない。で？なれたからって就職先がないんじゃ宝の持ち腐れもいいところなんですけど。大手も中堅もスベりまくって、どうにか引っかかったのは小さな無名の事務所。所長は３年前までは大企業の顧問契約を大量に持ってる大きな事務所で、エースを張ってたらしい。脱税の片棒を担いで一儲けしないか？的な話を振られて、イヤだから独立した。おかげで見事に成り下がり。今では後裔の育成とか言いながら国選の仕事を時々のんびりやってる、いわゆる窓際。弱小事務所だから転がり込んでくる仕事は少ない。しかも地味。弁護士がお金持ち？そんなの嘘だからね。時給に換算したら、定められてる最低賃金にかなり近いラインだと思う。

　という不遇の俺たちに、朗報舞い込む！本土に割れ目が出来ちゃった事件。アレって天災で、だから家がなくなった、怪我をした、止めてた車が巻き込まれた・・・・・エトセトラエトセトラ。保険会社がトンズラかますほどの保障ラッシュ。その保険会社にトンズラかまされた人の駆け込み寺として、格安な部分は数をこなすことで経営を昇り調子にしちゃってます。不謹慎かもしれないけどさ、こっちだって死活問題なんだよ。仕事がなくなったら生活できないんだから。市民ホールで誰でもお気軽に。な相談窓口を設けて、毎日お話聞いて、ときどきだけどオマケで別の依頼とか舞い込んだり。おとといも遺産相続問題の相談引き受けたし。あの一瞬の「ズシン！」って震動で心臓発作を起こして死んじゃったおばあちゃんの孫夫婦がね、残された遺言書が常識を逸脱した内容だから相談に乗って欲しい。って。そんなこんなで割れ目特需なワケ。

 

　震度４の地震で割れ目第２弾。北海道に。津波の心配はありませんとかニュースで言ってた割に、結構大変な事態だったんだね。確かにすごい揺れだったもん。俺、無駄に早起きしたから。ま、でも日常に大した影響はない。所長は北海道遠征するか？とかやる気になってるけど。目の前の相続問題を早く解決するのが最優先課題。息子がさ、厄介なんだよ。遺産を勝手に見越して一戸建てを買ったから、どうしてもある程度の額は確保したいと自分勝手な言い分。イライラする。割れ目に被害を被って苦労してる人のツメの垢でも煎じて飲めばいいのに。で、明日も親戚大集合の遺産をどうするか会議に出席予定。ブルーだ。チョー行きたくない。