むかえるあさ ②

中編２話目を更新です。

前回、出演者をまんまと間違えておりましたね。
大変失礼いたしました。
今さらですが、修正しておきました（←遅すぎる）


出演　：　井ノ原　快彦　・　森田　剛














 

　ローカル線

 

 
 

 

　気分転換に身体でも動かしたら？なんて提案をしてきたのは、休みといえば大概は部屋で過ごしている剛だった。ボーリングかフットサルか。と思っていたら、本当にものすごい運動をさせられたことを話させていただきたい。

 

　山間の『ザ・田舎』な場所を突き進む某ローカル電車の車中、剛の指示に従ってジャージに着替える。他に乗客がいなかったのでそれは構わないが、何をするかを教えてもらえていないのは気がかりだった。まぁ、10分ほどでその謎は解明された。うん、できれば謎のまま終わってほしかった気もするけどね。まさか降ろされるって。２駅先で会えるって笑顔で放り出された。この電車、山沿いにΩ型に線路が走っているらしく、ここから２駅走ると電車よりも若干早く２つ先の駅に到着することができるという論理上だけの話。って走れと。いや、走らないと困るのは俺だけど。財布もケータイも剛と一緒に電車の中だし。２駅分って何キロだろう？と思いつつ、俺にはそれだけしか選択肢がないから走ってみることにした。

　まだ助かったのは、町の人たちの目があたたかかったこと。どうやらこの勝負、鉄道好きの人には有名な行事みたい。知らないお母さんから水貰っちゃった。通行人の皆さんから声援が飛んできた。でも、曲者だったのが信号待ち。よい子のみんなは真似しちゃだめだよ。って心の中で叫びながら１つだけスルーさせていただいた。途中、俺観たく２つ先の駅を目指す人に遭遇し慣れてる男の人がショートカットできる道を教えてくれたときには、アンタ神様だよ！って思ったね。電車との競争が結果的にどうにかイーブンにて幕を降ろしたのは、きっとそのラッキーの功績が大きい。だいたいさ、電車より走りの方が若干早く着けるとか、どこの誰がやり始めたんだよ。ちょっとした冒険だよ。

　けど、さ、驚いたのは気持ちがどこか爽快感に染め変えられていたこと。すっきりしてて、そのあとは全力でローカル線の旅を満喫できた。最後には足湯にも入ったし、リフレッシュだね。連れて行ってくれた剛には感謝かな。あと、見守ってくれた町の皆様にも。おかげさまでスッと決心がつきました。猫の所在を明かして、元あるカタチに戻そう。100％の確証があるわけじゃない結果に怯えて何もしないとかナンセンス過ぎ。俺は俺の進みたい道をまっしぐらに疾走してやる。玉砕？それはまたしてから考えればいいかな。

 

　長野くんにこの旅を提案したら、笑ってくれるかなぁ。いや、絶対に速攻で却下だ。もしくは坂本くんに面白半分に押しつけそう。いつもの長野くんだったらの話だけど。

 

 

 

 

 

　10円にも10万円の価値

 

 

 

 

　長野くんの住んでるマンションのエントランス横に、某有名飲料メーカーの自動販売機がある。メーカー自体が有名なのとは別に、その自販機は地元じゃとっても有名なスポット。どういうわけか、下に小銭が入り込んでいる確率がかなり高い。子供たちがよく、腹這いになって手を突っ込んでる光景に出くわしたり。今日も今日とて・・・・・今日は違うバージョンだなぁ。って思わずガン見したよ、俺は。傍らに置かれたブリーフケースと上着、足元はアスファルトで擦れてしまったのか傷だらけの革靴。奮闘しているその人は、どこからどう見てもサラリーマン、成人男子。大事なもの、パスケースとか携帯電話とかソッチ系のものが入っちゃったんだろうか。必死の表情にびっしりと汗までかいて。一大事ならば見て見ぬふりをするなんて人としてどうよ？って話。俺は思い切って「何か長い棒でも借りてきましょうか？」って声をかけたら、怒られた。それじゃロマンがないだろう！だって。まぁ、確かにそれも一理あるとは思う。絶対に取り戻したい大事なものを一頻り苦労してゲットすれば、達成感は倍増だもん。蛇足だけど、ロマンって言葉で坂本くんが安易に頭の中に浮かんで笑えた。でも、こういうことにロマンを感じて熱中しそうなのは健かな。芸能人になっちゃうと世間からの目が気になって、こういうことをするのに躊躇してしまいがちだ。その点、健ならば自分の信念を優先できそうな気がする。ふと、いいなぁって思った。自販機の下にかくれんぼを決め込んだ何かを必死に取り戻そうとする姿。大なり小なり区別せず、とかく真剣に向き合うことは重要だ。俺は俺の立場はさておいて、その人のロマンを応援することにした。芸能人も一般人も関係ない。心意気に惚れちゃったからね。

　かれこれ３０分近く見てた。諦める素振りは微塵も見せなかった男の人は、とうとうロマンを達成。記念すべき一瞬に立ち会ってしまった。思わずハイタッチ、そして抱擁、拍手喝采。まぁ、出てきたモノには複雑な感情を抱いちゃったけど、そこはね、ほら、ロマンだから。その男の人の名言を借りると、ここまで苦労して取り返した１０円玉には１０万円の価値がある！って感じ？コーヒーを買おうとしたら１０円玉を自販機の下に落としちゃって、財布を見れば小銭はゼロ。万札しか持ち合わせがなくて、コーヒーは捨てきれなくて頑張っちゃった人に「どうです？これから一杯。おごりますよ。」と誘われて断れる俺じゃない。その日の長野くん宅訪問を泣く泣く断念した。約束をしてたわけじゃないし、今日のこの清々しい気分はもっと味わっておきたかったんだ。鬱積して久しいもやもやをきれいさっぱり吹き飛ばすためにも。

 

　おまけの話。男の人は飲みに行く話にテンションが上がり、缶コーヒーを買い忘れた。