おさがり

高校生トニセン小話を更新です。
彼のこだわりについて。


出演　：　坂本　昌行　・　長野　博　・　井ノ原　快彦














 

おさがり



　坂本くんの家でお泊まり会が開催されることになった。まぁ、お泊まりなんてしょっちゅうなんだけど。ただ珍しいのは今回は長野くんのステディ「ゆり」と「うめ」も参加するという点。プラス長野くんが家出宣言をしてくれたというサプライズ付きだ。「うめ」のことでお母さんと揉めたらしいんだけど、その詳細については「坂本くんの家で話す。」の一点張りで学校にいる間は頑として答えてくれなかった。波乱の予感だなぁ。なんて思いながら過ごしていたら、いつの間にか授業がすべて終わっていたのは俺だけでなく坂本くんも同じだったらしい。２人して明日の英語で小テストがある。とクラスメイトから聞かされて大絶叫したのはホームルームも終わった後のこと。

　奇跡的に時間通りに登校してきた長野くんの自転車の前カゴには、カバンと一緒にかわいいステディたちが便乗していてびっくりした。今さら彼女たちを連れて来たくらいで先生たちがとやかく言ったりするという杞憂は持ち合わせていないが、両名そろって自由気ままな性格だ。授業中はどこで待機しているつもりなのか。まずひとところにじっとしていられるのか。そこが一番の突っ込みどころだったと思う。
「大丈夫。お昼寝してればすぐに６時間目まで終わっちゃうよ。」
したり顔で言ってのけた長野くんは、ついでくらいの感覚で坂本くんに言ったのだ。
「あ、今日は俺と「ゆり」と「うめ」坂本くん家に泊めてね。井ノ原も来るでしょ？」
「ちょっ、お前そんな勝手な・・・・・」
「楽しみだなー。「ゆり」と「うめ」は坂本くん家初めてだもんねー。」
「長野。勝手に決めるな。」
「いいじゃん。いつも泊ってるし。」
「いつもはお前と井ノ原だけだろうが。」
「もう決めちゃったもん。坂本くんのお母さんもいいって言ったよ。」
その言葉でお泊まりが決定事項になったのは言うまでもない。長野くん抜かりない人だな。というか坂本くんのお母さん寛大すぎ。

　この間、坂本くんの自転車の後ろから飛び降りてまで探しに行って連れてきた猫が「うめ」。その１か月前くらいに学校の自転車置き場の隅っこに捨てられていたのを保護されたのが「ゆり」。２匹とも長野くんが目に入れても痛くないと豪語するほど可愛がっている子猫ちゃんだ。俺や坂本くんが触ったり抱いたりしてもちゃんと懐いてくれる気性の優しい２匹は、あっさりと坂本くんの両親のハートも射止めた。そして今回の突撃猫同伴お泊まり会の原因は、坂本くんのお母さんの熱心な説得によってあっさりと解決する。
「ひっくん、くまのぬいぐるみはちゃんと返してくれるって。」
「ホントですか？よかったー。」
「で、今日の晩御飯なんだけどシチューでいいかしら？」
「もちろん。シチュー大好きです。」
「よっちゃんは？」
「俺もお母さんのシチュー大好物です！」
長野くんが坂本くんの家に猫同伴で家出を決め込んだのは、長野くんが小さい頃におばあちゃんに買ってもらったクマのぬいぐるみをお母さんが黙って捨ててしまったのがきっかけだった。ゆりとうめもそれはそれは気に入っていて、大事にベッドの上に置いてあったのを長野くんが学校に行っている間にお母さんが「汚い上にボロボロじゃない。もうぬいぐるみなんて年でもないしいいわよね。」という判断の元、勝手に捨てる物として回収してしまった。もちろん長野くんは返してくれと頼んだけど、お母さんも意地になって「捨てる。」の一点張りで押し切ろうとしたらしい。
「長野くんのおさがりのぬいぐるみかー。ゆりもうめもよかったね。」
「っつーかそんなに大事なモンなのか？」
「当たり前じゃん！俺小２まであのぬいぐるみと一緒に寝てたんだよ！」
長野くんの家出は１日で終わった。意味分かんねぇ。とブツブツ言い続けていた坂本くんには悪いけど、俺や坂本くんのお母さんに言わせれば理由の説明なんて簡単だ。だって長野くんだもん。これが全て。


※　坂本くんのお母さんは長野→ひっくん　井ノ原→よっちゃん　坂本→まーくん　と呼んでいる。本人いわく、いつまで経ってもいくつになっても可愛い子なのには変わりないからだそうです。