年が明けてから更新が遅れ気味で申し訳ありません。
徐々に話の核心部分に触れて参ります。
出演 : 井ノ原快彦 ・ 岡田准一 ・ 三宅健
お目当ての自転車は、小さな公園の前に止められていた。なんとなく寂れた雰囲気を持つその公園は、ブランコとジャングルジムと砂場しかない。岡田が追いかけてきた男、井ノ原は呆然とブランコ、いや、ブランコだったモノの前に突っ立っている。過去形なのはブランコはすでに、鎖ごとはずされた枠だけの代物に成り下がっていたからだ。錆びた鉄の枠。きっと、危険な遊具だと大人たちが取り除いたというところだろう。
どこのヤンキーかと思った。コンビニの駐車場に座り込んで、ビールを飲む男。帰りのタクシーの窓から見えたそれに、岡田は一度顰めた眉をさらに深く顰めて、運転手に止めてくれと告げる。それは迷惑行為をものともしないヤンキーでなく、井ノ原だと気付いて。縁石のひとつを陣取って次々と缶ビールを飲み干していく姿は、自棄酒のようだし、ただ水分を体内に取り込んでいるだけの行為のようだし。いずれにしても普通とは、呼べなかった。収録が終わるなり何かに急き立てられるように帰っていった井ノ原。てっきり用事でもあるのかと思えば、こんなところで年甲斐もなく迷惑行為に及んでいる。
「何やってんの?ガラの悪い若者ごっこ?」
真正面に屈んで声をかければ、井ノ原は気を悪くするでも拗ねるでもなく、笑顔で缶ビールを岡田に差し出した。
「やる。」
転がった空き缶は7本。手に持ってものを入れれば、井ノ原はここで8本のビールを飲んでいることになる。
「帰ろ。待ってもろてるタクシーで、送るから。」
「帰らない。あの家は嫌いだ。」
あっさりと却下し、持っているビールを一気に流し込んだかと思えば、井ノ原は新しくもう1本のプルタブを引き上げた。自分の部屋が嫌いで帰りたくない。その理由が持つ意味は分からないけれど、このままここで酒盛りにクライマックスを迎えてもらうわけにもいかない。仕方なく岡田は、別の帰る場所を提案してみる。
「じゃあ俺んトコで、どう?」
「じゅんちゃんのおうち?」
「・・・・・そ、そう。」
「俺はここでいいよ。」
「アカンよ。潰れて寝てしもて、交番のお世話になったらどうすんの?」
「誰かと語り合いながら飲む。って気分じゃねぇから。」
「俺は付き合わへんから大丈夫。夜中に見たい映画があんねん。寝たら困るし。」
「だったらなおさら、俺がいないほうがいいじゃん。」
「ここに置いて帰ったら、いのっちのこと気になって、映画に集中できひんやん。そうなるよりもマシ。」
「気にしなきゃいい。」
「無理。っちゅーことで、帰るで。」
「だから、俺は・・・・・」
「空き缶はゴミ箱へ。って書いてあるのに。もぉー。」
「おい、岡田。」
「めっちゃ買うてるやん。重っ。」
まだ納得していない井ノ原を無視して、岡田は散乱した空き缶をすべて拾ってゴミ箱に捨てると、ビールのみがいっぱいに入ったビニール袋を持つ。
「行くで。」
そう言って少しだけ上着を引っ張れば、渋々ながらも井ノ原はゆっくりと立ち上がった。くるりと踵を返してさっさとタクシーに向かって歩くが、本当は気が気でなかった。さっき、岡田が自分の家に来るよう言ったときの返答が、6才の井ノ原の言葉だったからだ。ビールを飲んでいる最中に6歳になってしまうのは、さすがにまずいと思った。けれど変化は一度きり。今は普段の井ノ原だ。ただ、このあとにどうなるかまでは分からない。ならばわざわざタクシーを止めてまで回収して正解だった。無言で不機嫌オーラ全開ながら、ちゃんと後ろを着いてくる足音に耳を傾けながら、今夜の映画は録画しておいたほうが無難かな。と思う。きっと、井ノ原が一緒にいるというだけで、話はせずとも集中などできない。どちらの井ノ原が声をかけてくるか、気の抜けない夜になりそうだ。
目が覚めると、いつの間にかソファで眠ってしまった自分にぎゅっとしがみつくように井ノ原がいて、6歳モードで起きてくるな。と思い、そのままの体勢で待っていようと決めた。テーブルの上に視線を移動させれば、転がった空き缶が多数確認できる。部屋に来てからの井ノ原は、黙ってビールを飲み続けていたのだが、途中からブツブツと歌い始めた。先日、歌番組の収録でみんなして大失態を披露した持ち歌。酔いが回っているのか豪快に音程を外しながら、繰り返し繰り返し歌う。合間で、
「笑ってとか簡単に言うんじゃねぇよ、バーカ。」
と呟いて、舌打ちをしていた。ファンの人どころか、メンバーが聞いてもずっしりと肩を落としそうなセリフである。そしてすぐに、
「ま、俺はたいていの時は笑うけどね。」
と、勝ったような口ぶりで付け足していた。言葉の真意は図れない。いつも笑顔でいられるような素晴らしい毎日なのか、嘘でも笑って幸せなふりをする最悪の毎日なのか。前者だと答えられたなら、岡田はそれを偽りだと疑うだろう。後者だと答えられたなら、それを悲しいと嘆くだろう。笑うことが簡単でないのは充分に分かっている。だからこそ、井ノ原の言葉は引っかかってしまって、けれど真意を確認する1歩は踏み出せなかった。
起きてから井ノ原は一言も口をきいていない。岡田が「おはよう。」と声をかけても、温めた牛乳を手渡しても、微妙な表情をして何かを考え込んでいるようで。かと思えば、ものすごい勢いで部屋を飛び出していき、勝手に岡田の自転車で激走を始めてしまった。その追いかけっこの終着点がどうやらこの公園だったらしく、さっきから井ノ原は、ブランコの前を一歩も動こうとはしない。その背中までの距離をある程度詰めてみたが、手を伸ばせば届きそうで届かないくらいの、もどかしい場所で立ち止まってしまった。この公園は、このブランコはどんな存在?
「坂本くん、恐かっただろうな。」
「え?」
「だって「どーだ、ヨシ!」って自慢気に言いながら振り返った顔、引きつってた。すげえ恐いくせに思いっきり高くまでこいで、我慢して跳んじゃうんだもん。なんかさ、複雑な気分になったんだよね。この人は「ヨシ」が頼めばこういうこともしてくれるんだなぁって。」
話が違う。井ノ原が6歳になっているときの記憶は、元に戻ったときにはなくなってると聞いていた。けれどこれではまるで、
「いのっち、もしかして・・・」
「俺は、6歳児の俺をいつだって見てたよ。」
デジタルプレイヤーのボリュームを最大にして、すべてを遮断している。平日の昼間の電車は、何かと煩い。その音漏れが迷惑行為だというならば、耳障りだと感じさせるほどの話し声も同じことだと、三宅は思っていた。嫌な思いをしたくないのなら電車に乗らなければ済むだけの話だが、友達に電車で行くしかない場所に呼び出され、タクシーを使おうかと迷ったが、結構な距離もあったので仕方なく電車に乗った。今は、激しく後悔している。心がささくれ立っているせいで、苛立ちもいつも以上。こんな気分になってしまうのは、無理をしてでも一緒にいなければならない人たちのせい、全部V6のせいだ。
(ホンット疲れたかも。)
このまま失踪してしまえば、窮屈な現状から解放される。今の自分はそれほどまでにV6のメンバーであることに固執していないし。三宅はふと、そんなことを考えて車内にある路線図に目を向けた。電車に乗り続けて、遠くへ行ってしまえばいい。いたずらにストレスを溜め込んで嫌々ながら毎日を過ごすよりもきっと、気持ちは晴れる。気持ちが晴れて、それで、そのあとはどうなる?たくさんのものを失って後悔しない?
(あぁ、何もない世界に行けたら楽なのかも。)
現実を捨てることを考える。それほどに見切りをつけていた三宅は、友達との待ち合わせをしている駅で電車を降りた。しばらくホームから遠ざかっていく電車を見送っていたが、深く息を吐き出して気持ちを切り替える。今はV6の三宅健でなく、ただの三宅健。たくさんの憂鬱を忘れても誰も怒らない。忘れずに頭の片隅に置いておくことにしたのは、どこか遠くへ行ってしまおうという気持ちがあるということだけ。
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