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V6井ノ原快彦氏主演の妄想非恋愛小説を取り扱っております。
No.
2024/12/29 (Sun) 06:17:05

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No.149
2008/01/12 (Sat) 17:28:39

Live Show 第18話です。

更新が滞ってしまい、申し訳ありませんでした。

話を展開させようとしたら、非常に苦戦してしまいました。

それでは、どうぞご覧ください。


出演 : V6







 真っ逆さまに堕ちていくときは、決して誰にも止めさせないと言うほどに早い。

 

 あとどれだけの強さを見せ付けて前を走り続ければこの人は立ち止まって、その心を休めてくれるのだろうか。どんな言葉をかければ、どんな表情を向ければ、同じ目線でこちらを振り返ってくれるのだろうか。「大丈夫」は呪文で呪縛。

「みんなさ、笑って?」

唐突に井ノ原が切り出したものだから、みなの反応は薄い。

「ねぇ、笑おうよ。」

というか、この状況で言われた言葉に対して、どうしてここで笑える?という疑問を抱いているから笑顔で返事なんてできるはずがない。

「楽屋を出たら、ううん。カメラの前に立ったら、笑ってくれよ。その間だけでいいからさ。」

誰も返事どころか、微塵のリアクションも見せないのに、井ノ原は重ねて至極当たり前のことを言った。当たり前だと分かっているのに、さっきは誰一人出来なかったことを。それはとても穏やかな口調で発せられたので、誰も返事もしないけれど反論もしない。こういう所、尊敬できるな。と思って、同時に楽屋に坂本がいなかったことに、長野は心から安堵する。むかしむかし、まだV6がきちんとしたカタチを成していなかった頃の事が、鮮明に蘇ったからだ。もしもここに坂本がいたとしたら、言い出すかもしれないワガママが安易に想像できた。精神的に弱ってしまったときに零れる、痛すぎるワガママ。これまではそれを絶対にカミセンのいる場で言うことはなかったけれど、今なら、言い出しかねない。

「お前が言うなって感じ、かな。ごめん。」

小さなきっかけを自ら握りつぶして、繭尻の下がった情けない顔で笑う井ノ原。楽屋のドアばかり気にして、行動や表情の端々に不安をにじませる長野。それらを視界に捕らえて反射的に、岡田が場の空気を和らげるように、ほんの少しだけ軽い口調で答えた。

「やっぱ、いのっちが一番厳しいなぁ。」

メンバーに対しても、自分に対しても、ひとたび仕事という言葉が入れば妥協は許さない。今だって本来ならば、坂本発信で大反省会が開催されているであろう状況なのだから。けれど今日は違う。どこか弱々しいメンバーがいて、空気は酷く陰鬱としていて。だからかもしれない。井ノ原は岡田の言葉を、薄く笑って受け止めようとしている。自分が言ったことのせいでさせてしまった表情に堪らなくなって、岡田は不自然かとは思いながら、思わず普段ならばめったにやらない提案をしてしまった。

「あんな、坂本くん呼んできてもらってもええ?」

いつもなら長野が言い出すこと。自分がその担当係であるように、迎えに行ったりするのだ。その行動が促されなければできないのは、もう長野に余裕がないからなのかもしれない。だとしたらその役目を井ノ原に頼んでも支障はない。むしろ、この微妙な空気の楽屋から井ノ原を脱出させるという理由にうってつけ。

「そうだね、行ってくる。」

「いのっち?」

息が、できなくなるかと思った。人の笑顔を見ていて胸が痛むなんて、あまりないこと。自分が単に井ノ原の心の中に波風を立たせるだけの余計なことをしてしまったと、岡田は猛反省して、そして他のメンバーがポカンとしてしまうような、突拍子もない行動を起こす。

「いのっち、大丈夫?」

聞きながら岡田は、井ノ原の両手をぎゅっと握り締めた。すると井ノ原は井ノ原で、驚き過ぎてしまったのか、思わず力いっぱい岡田の手を振り払ってしまう。ピンッと空気は張り詰めた。井ノ原は明らかに動揺している。岡田は振り払われた手を引っ込めることもできず、立ち尽くしている。長野は2人の噛み合わないやり取りに深くため息をつき、強引かもしれないけれど、助け舟の一言をかけた。

「さっさと迎えにいこうよ、井ノ原。あの人、一人だと勝手にマイナス思考で沈んじゃうから。」

「うん・・・・・岡田、俺は大丈夫だよ。すごく元気。」

「そっか。」

ただ咄嗟の勢いで振り払われただけの手が、やけに痛かった。井ノ原は不器用な感じではあったけれど笑ってくれたのに、目を伏せたまま返事をするのがやっと。井ノ原がメンバーから差し伸べられた手を簡単に取るようなタイプの人間でないことはよく知っている。なのに、今日は痛みが必要以上に強くて、岡田は心底戸惑っていた。

 ここがどういう場所で、自分たちがどういう立場で、周囲の視線がどんなものであるか。それらは時として、関係のないものになる。

「さっかもっとくん。」

「かーえりましょ。」

井ノ原が左腕に絡みつくように密着して名前を呼び、長野が右腕に絡みつくように密着して楽屋へ戻ろうと促す。2人にきっちりと脇を固められた坂本は苦笑を浮かべ、どちらのほうを見ることもなく、ボソリと呟いた。

「本番までには戻る。」

絡められた腕を解こうとすれば、それは思った以上に強い力で離れることを拒む。足元に落とした視線をしばらく逡巡させ、坂本はここのところずっと思っていて、そう遠くはない先に切り出そうと考えていた言葉を今言うべきか迷う。言えばただでは済まないことなんて百も承知で、でも言いたくて、いつも口から零れ落ちようと待ち構えていた言葉。

「長野。」

「うん?」

「井ノ原。」

「なに?」

「あのさ・・・・・」

言えば解放される。少なくとも、この微妙な心理状態からは。

「あのさ、お前らのどっちか・・・うん。そうだよ。V6のリーダー、お前ら2人のどっちかが代わりにやってくんねぇか?」

ほくそ笑んでいるのは、人の感情を弄ぶどこかのだれか。

 広いのに、窮屈。岡田は今の楽屋をそんな風に形容していた。じめじめと沈んだ空気は、赤の他人が偶然にも閉じられた空間に居合わせてしまったかのような、立て付けの悪さ。覚めない悪夢のようにはっきりと主張して、平常心を蝕む。いつもなら誰も何も話していなくても、沈黙に耐えられなくなることなんてない。けれど今日はその沈黙が不安で、岡田は当たり障りのない話題を必死に探していた。

「俺さ、分かっちゃった。」

ドキッとするほど冷たく吐き出されたのは、三宅の言葉。

「V6って、俺いなくてもいいよね。」

「健くん?」

「別に俺みたいなキャラの人だったらさ、俺じゃなくてもいいよね。」

思わず、森田に助けを求めるような視線を送る岡田。しかし森田はソファの上で目を閉じたまま。三宅の言葉が聞こえているのかいないのか、身じろぎ一つしない。森田ならば三宅に対してどんなことを言えば有効であるかを、よく知っているはず。けれどまったく反応を示してくれなくて、だからといって三宅の言葉を放置しておくわけにもいかなくて、

「なんで急に、そんなこと言うん?」

そんなありきたりなことを岡田が聞けば、三宅はゆっくりと顔を上げて、無邪気な笑顔を作って何を躊躇するでもなく、答えた。

「そんなの、岡田のほうがよく分かってんじゃん?」

「俺のほうが分かってるって?」

「大丈夫だって。俺がいないからって、誰も困らないし。」

「なんで?なんで今、そんなこと・・・」

「あ、今日の本番はちゃんとやるよ。やんなきゃ、ダメなんだしさ。」

誰が何を言ったとして、岡田にとって、いや、きっと他のメンバーにとっても、V6のメンバーはこの6人以外には考えられない。特にカミセンのメンバーは特別だった。これからどれだけの素敵な人に出会えてとして、やっぱり自分という存在そのものを見ていてくれた三宅以上の人は、他には絶対に現われないだろうから。なのに、こんなことを言われて、鈍器で殴られるほどの衝撃というのは、きっとこんな感じなのだろうと岡田は思った。殴られた人間よりもずっと、殴ったほうの三宅が泣き出しそうなのを我慢して笑っている。

「俺は、イヤや。健くんがおらんの、イヤや。」

やっとでそれを口にすれば、三宅は一度目以上に強く、鈍器を勢い任せに振り下ろすような、乱暴ともいえる言葉を吐き出した。

「嘘つき。」

この不協和音に耳を傾けているなら、誰でもいいから止めて欲しい。他力本願でも、希う。

 

 空中分解とはこのことだ。

 V6というジグソーパズルの中に、形が合っていないのに強引にはめ込まれたピースのように、メンバーは居心地の悪さを抱きながらも核心に触れることなく過ごしていた。音楽番組はもちろんのこと、レギュラー番組の収録で一緒になっても、挨拶くらい、いや、下手をすれば挨拶すらもしない。ロケで井ノ原と一緒になった岡田は、果敢に話しかけるも玉砕。取材で一緒になった長野は、話しかけることなく、じっと観察だけをするにとどめた。そもそもの始まりは井ノ原に起こった変化で、この状況を打開するきっかけもそれが解決へ向かえば掴めるはず。そう思っていたから、長野は取材が終わったあと、少しだけ井ノ原を尾行してみた。午前中で仕事が終わった。でも家に帰る様子はない。イノなきに多数登場する友達と約束でもあるのだろうか。などと考えながら後を着いていっていた長野は、ふと気付く。井ノ原は都心を離れて、どんどん田園風景も珍しくない田舎へと車を走らせていた。この辺にも友達がいるのかな。と考えていると、山に囲まれたのどかな場所まで来て、井ノ原の車が路肩に止まる。周囲は緑あふれる風景で、少し引っかかる。この場所を、どこかで見たことがあるような気がした。

 車を降りた井ノ原は、ゆったりと山道を登っていく。あまり人の手の入っていない、まさに自然そのものな道。険しいという表現が近いだろうその道を登ること15分ほど、少し開けた場所にたどり着いて井ノ原は立ち止まり、今度は駆け足。長野が井ノ原が立ち止まった場所に行ってみると、目に入ったのは古い、平屋の民家。広い縁側がなんだか、懐かしさを醸し出している。家の裏手に行った井ノ原を追いかけて、長野が家の裏を覗き込むと、そこには絶景といっても過言ではない風景が展開されていた。見渡す限り広がる緑の山々、その間をのどかに走るローカル電車。絵に描いたようなとは、こういう時に使うのだろう。

「ねぇ、どうして俺なの?」

風景に気を取られていた長野は、井ノ原が突然発した声に、気付かれたのかと驚いた。しかし話しかけた相手は長野でない。

(お墓?)

景色を独占するように建てられたそれに話しかける井ノ原はとても優しい表情で、ちゃんと笑顔で、久しぶりにそんな様子を見た気がした。それはすぐに消えてしまうのだが。

「苦しいよ、おじいちゃん。」

眉をハの字にして、弱々しい笑顔で呟く。誰にも弱音なんて吐かなかった。なのにここではスルリと口から出てきた。こんな場所は聞いたことがない。ここは井ノ原の祖父の家でも、墓でもない。だったら誰との時間を、共有しているのか。さっき引っかかった。どこかで見たことがある気がしたのだ。よく思い出せないけれど、かつて見たのか、訪れたのか・・・・・

「でも約束は守るからね。」

(約束だ!)

声に出しそうになって、慌てて長野は言葉を飲み込んだ。井ノ原が言っていたことは記憶に新しい。「約束したけど、見つからない。」そう、確かに言っていた。今すぐに駆け寄って、どういうことなのか問い質したい。今なら隠しようがない。実際に正常でいる井ノ原が口に出している言葉を押さえたのだし。なのに、長野は井ノ原の前に出ることはできなかった。自分が声をかけた途端に色々なことが今よりダメになりそうで、恐くて。だから戻ってきた井ノ原に鉢合わせてしまってはまずいと、一足先にその場所を後にした。きちんと調べて、周りから固めよう。そう決めて。あの場所を知っていると思ってしまった理由と、あの家の裏にある墓を井ノ原が訪れた理由。2つについて分かれば、問題は解ける、あるいは大きなヒントが手に入るのかもしれない。

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