ここにきて、話はいっそう雁字搦めに・・・・・。
この作品で、初めて6人登場します。
出演 : V6
岡田が本当のことを知ることを邪魔したかのように、緊急事態が発生したことを告げる長野からの連絡が入ったのは、それから1分も経たないうちのこと。いや、もしかしたら、これ以上は隠し通せないというSOSのサインだったのかもしれない。
少し気まずくなってしまった2人は、黙って窓の外を見ていた。すると坂本の携帯から、着信を報せる音が響く。液晶の着信相手の表示を見た坂本の表情が、一瞬だけ、翳ったように岡田には見える。しかも電話に出ることを躊躇っているようで、留守電に切り替わったのか、着信音は途絶えてしまった。しかし、すぐに着信音は再開され、もう一度かけてくるということは、どうしても出て欲しいということだ。坂本は憂鬱そうな顔をして、電話に出ながら岡田と少し距離を取った。声を抑えて、けれど思い切り動揺している素振り。何かあったのは明らか。それは何なのかということ。岡田は冷めかけたカフェオレを一気に流し込んで、空っぽになった缶を窓からゆっくりと出して、雨を受け止めてみる。それがとても冷たいと感じられたのは、井ノ原のことを考えているからなんだろう。
「岡田、一緒に来い。」
声がかかった。嫌な感じだ。
「どうかした?」
「いいから、一緒に来てくれ。」
感じられるのは、苛立ち。押し寄せる波風を、拒絶したいのにできない状況が、煩わしくて仕方なくて、もう心の中は、深すぎて底の見えない夜のようなのだろう。
一緒に来てくれと強く言った後、坂本は何も言わなかった。ただ黙って足早に廊下を、階段を突き進んでいった。精一杯の気合を込めてその背中を追いかけたのは、置いていかれたくないという不安と、置いていきたくないというワガママと。岡田は言えない一言を、途切れないように頭の中で並べる。大丈夫。と。
どういう真実を、知りたかった?
どんなものが真実だと、考えていた?
V6のリーダーは坂本だけれど、一番強いのは長野だと思っていた。どんなときも凛として、揺るぎない態度で導いてくれる人だと、勝手にその偶像を作り上げていた。だから誰かに、メンバーに弱味を見せるなんてこと、絶対にないと、勝手に・・・・・
「坂本くん、助けて。」
真っ暗な砂漠で行き先を見失って、心が折れてしまった旅人のような弱い姿。地下駐車場の自分の車の後ろで膝を抱えて座り込む長野は、片手の指先で簡単に壊せそうなくらいに、頼りない。岡田は眉根を顰めて、視線を逸らす。
「とりあえず、ちゃんと話せ。」
差し伸べられた手を取ることができる。だから傍にいる意味がある。
「俺はここにいるし、お前の手も井ノ原の手も絶対に離さねぇよ。」
強くあることに、価値は生まれるのだ。
「・・・井ノ原とよっちゃんが、同時に出てきてるんだ。本人も混乱してて、もう、俺では、どうしてあげることもできない。声が、届かない。」
「昨日から、一緒だったのか?」
「夜遅くに来たから、そのときは井ノ原だったから、大丈夫だって、思って。でも、すぐによっちゃんがでてきて、井ノ原もいて、両方の意識が同時にあって、話を聞こうとするんだけど、全然うまくいかなくて・・・・・」
「井ノ原は?」
「車の中にいるよ。混乱してる。」
「そうか。」
到底近寄ることのできない雰囲気に、顔を背けたまま立ち尽くしていた岡田の頭の上に置かれたのは、よく知った、まったく知らない大きな手。こんな坂本、知らない。
「お前は本当のことを知りたいと言った。だったらこの先は、自分で選べ。真実をその目で見るのか、何も見なかったことにするのか。剛と健にすべてを話すのか、ここだけの話にとどめておくのか。すかした欺瞞じゃなく、本当の岡田で選べ。それでも真実を見るというなら、この先に起こることから、目を逸らすことを許さん。その覚悟が、お前にはあるか?」
違うのは、ここだった。トニセンにカミセンが引き離されているように感じる距離の正体は、これだ。一緒にいるだけでは、グループである意味はない。本当の自分で、それぞれが持っている壁を容赦なく乗り越えて、その先に真正面から踏み込んでいくことができて、初めて一緒にいる意味が生まれる。心地いいだけの関係なんて、真っ赤な嘘。付かず離れずでいることはお互いに楽だけれど、それを選んでいる時点で、今以上は無いに等しい。もっと先を目指すなら、
「俺はV6であり続けることを、選ぶ。」
答えは始めから決まってる。
面倒で損な役回り。リーダーになったからといって、誰が特別扱いしてくれるわけでない。ただ心労ばかりが積み重なって、今だってこんなオチ。昔の坂本ならそう思っていただろう。5人もの手がつけられないようなじゃじゃ馬を守るには、自分をあっさりと捨てることのできる儚さがなければならない。前向きな望みなんて持っていたら、それは邪魔になる。人としてはそのほうが正しいのだけれど、このポジションに就いたならば大間違い。なんて、自虐的な自分に酔いしれて、タイミングを逸してただろう。静かに車のドアを開ければ、ビクリと肩を揺らして、ゆっくりと坂本の方を見る、井ノ原。
「おはよう、坂本くん。」
「仕事、行くぞ。」
「ごめ・・・ごめん、なさい。」
「どうして謝る?ヨシは何も、悪いことはしてないだろう?」
「めいわく、いっぱいかけてるから。」
「かけてない。長野と一緒に暮らすのは、楽しいか?」
「俺、嘘ついたんだ。ついちゃいけない嘘だった。」
「けど井ノ原は、よく考えた上でそうすることにしたんじゃないのか?」
「よしはわるいこだから、しななきゃ。」
「どうして、そう思う?」
「信じてくれたのをいいことに、楽なほうを選んで逃げた。」
「誰に嘘をついた?俺か?長野か?」
「ごめんなさい。」
「謝らなくていいから、本当のことを、ちゃんと話せ。」
「よし、ながのくんがこまってるの、しってるよ。やさしいから、がまんしてよしといっしょにすんでるの、しってるよ。よしのこと、みんながいらないっておもってるの、しってるんだ。」
「誰もヨシのこといらないなんて思ってないぞ。」
「俺には、全部もらう資格なんてない。」
「誰に何をだ?」
「よしはうらぎりものだもん。」
「だから、誰を裏切った?」
「信じてくれた人を騙すなんて、最低だ。」
「それは、長野か?」
「約束したけど、見つからない。」
「見つからない・・・・・最後の晩餐を、探してるのか?」
「最後の、晩餐。たからもの。思い出の宝物。俺が届けてもいいのかな。よし、おとーさんとおかーさんがいなくても、じーちゃんがいるからいいよ。じーちゃんのことだいすき。だから、やくそくした。俺はニセモノなんだって、素直に言えば済んだのに。てらーのべりーおっていうひとのえ、よしとおじーちゃんといっしょにさがそうねって。俺じゃない。よしはひとりぼっち。分からない。よしはしんだほうがいいよね。俺はいい子じゃない。よし、ながのくんのわらってるかおがすき。誰にも迷惑はかけない。だから、もう、放っておいてくれよ。」
落ち着かせてやりたくて、髪を撫でようとした手を思い切り振り払われた。それまで質問をいくつか投げかけたのに、一つもそれらしい答えは得られていない。坂本は井ノ原を中に残したまま、車のドアを閉めて、深くため息をつく。そのまま、流れるように向けられた視線の先で、岡田が呆然と立ち尽くしていた。
「さてと、どうするかなぁ。」
坂本の苦々しい呟きに、長野からも岡田からも返事はない。リーダーとは、得てしてそういうもの。メンバーがみんな投げ出してしまっても、最期まで独りで背負い続けてみせる。リーダーである自分の価値を、自分の力で下げないでいてやる。たとえそれで、たった独りで6人分の荷物を背負うことになってしまっても。
「ムカつく。」
「は?」
「すげぇムカつく。」
怒気を孕んでいるのかいないのか、落ち着いた口調で岡田が吐き出したのは、普段ならば絶対にメンバーに対して口にしないような言葉。坂本はポカンとするが、すぐに岡田は柔らかく息をついて、はっきりと言った。
「いのっちもよしくんも、救いたいんよ、俺は。だから、ずっと隠しとった坂本くんに、ちょっと腹が立ったかなぁ。みたいな?」
それは、当たり前の言葉。
どうして、この6人でならやっていけると考えたのか。
見てはいけないものを見てしまったという、罪悪感でいっぱいになる。どうすればいいのかなんて、こちらが教えて欲しいくらいだ。
慌ててどこかに向かう坂本と岡田のあとを追いかけて、やって来たのは地下駐車場。メンバーに何か問題が生じているのなら、自分たちだけが蚊帳の外なのは納得できない。ちゃんと、説明して欲しいと言おうと思っていた。何が起こったのかを、その目で目の当たりにするまでは。知りたかったはずの事実は、知ってしまえば知らないほうがよかったとも思える話。2人はそこに割って入ることができず、ただ立ち尽くす。
「俺、楽屋戻るわ。」
徐に口を開いたのは森田で、その表情を窺えば、どこか諦観さえ見える。
「聞かないの?」
「俺はいい。健はさ、聞きたいなら聞きにいけばいいじゃん。」
三宅の問いかけに対しても、どこか無関心とさえ思えるような口調。
「井ノ原くんのこと、心配じゃないんだ。」
「そんなこと言ってねぇよ。たださ、ずっと知ってたけど、坂本くんと長野くんで隠してたみたいじゃん?だったら俺は、2人から話してくれるまで待つよ。」
「それでいいの?」
「いいも何も、俺らが首つっこんだところで、何もできねぇのなんて明らかだし。それに・・・まぁ、アレだよ。とにかく、俺はパス。」
森田が目を伏せて紡ぎ出す言葉に、三宅は胸がひどく痛んだ。なぜならそれは、とても余所余所しく聞こえる言葉だったから。自分の本当の気持ちを押し殺して絞り出す、懸命な虚勢なのではないかと、勘繰ってしまえるような。
「聞かない理由、本当にそれだけ?」
返答はせずに、森田はさっさと立ち去ろうとした。その腕を勢いよく掴んで、三宅は自分の方へ引き寄せる。
「本当にそれだけなの?」
「そうだよ。」
面倒臭い。それが今の森田の心境。自分の中にある本当の気持ちを説明するにせよしないにせよ、何も変えられることなどない。それを思い知らされることが分かりきっているのに、どんな行動を起こせるというのか。短い返事で済ませたのは、三宅に対する苛立ちが、高い壁を突き破って溢れ返ってきてしまいそうだからだ。
「俺は、聞かない。」
もう一度言うと、森田は今度こそ、楽屋へ戻るべく立ち去ってしまった。三宅は冷静に思い返す。自分は長野に、できることがあるならやると言った。その結果がこれなら、確かに聞いても仕方がないのかもしれない。つまり、自分は、
(省かれた?)
V6になって、初めて思った。虫唾が走る。とは、こういう時に使うのだ。と。自嘲気味に笑って、少しだけ坂本の方に視線を送る。まだ、何か岡田と話し込んでいた。三宅はクルリと回れ右をして、森田の後を追いかけた。
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