Live Show 第11話です。
末っ子が事態の真相に迫ってきました。
出演 : 井ノ原 快彦 ・ 坂本 昌行 ・ 岡田 准一
三宅 健 ・ 森田 剛
さすがに本当のことが説明できずに、岡田は黙って衣裳部屋から井ノ原に合いそうなサイズの服を拝借した。当の井ノ原は、てるてるぼうず作りにご執心だ。さっき約束してしまったから、長野には連絡ができない。坂本に連絡してもいいが、もしもそこから長野に話がいってしまえば同じこと。森田は舞台の稽古中だし、三宅に連絡したところで、きっと解決策はないだろう。一緒に作ってくれ。と強く食い下がられて、てるてるぼうずを作っていた岡田は、完成したそれを井ノ原に渡そうとして、絶句してしまった。ティッシュを箱ごと渡した自分も悪いのだが、その大量生産されたてるてるぼうずのビジュアルが、あまりにもホラーチックで。
「いの・・・よしくん、作りすぎと違う?」
言えば、井ノ原はニパっと笑って、
「まだまだじょのくちだよ。」
と答えた。地球に優しくない行為ではあるが、作ることに集中している間は静かで大人しい。これは使えると思い、資源の無駄遣いに心の中で詫びながらも、
「そっか。雨をやっつけなアカンもんね。」
と肯定的に答え、もうひと箱、ティッシュを傍らに置いてやった。時間稼ぎの手段は確保した。収録の間、一人でも楽屋で大人しく待っていてくれるはずだ。スタッフに呼ばれて待っていてもらったけれど、行っても大丈夫な雰囲気。岡田はそれ以上、てるてるぼうず職人と化した井ノ原に声はかけず、そっと楽屋を出て行った。
人はその職業は自身を取り巻く環境がどうにせよ、小さな世界の中で蠢いているに過ぎない。広い世界を渡り歩いている人なんて、結局はいやしないのだ。物足りないと思っても、欲すれば持ちきれなくなったものが零れ落ちるだけ。限られた世界の中で、見つけていくしかない。子供は将来の夢だったり、友達と秘密基地を作ることだったり。少しでもいいから、望みたいと言えば大人のクセに我侭だと却下されるだろうか。作り物じゃなくて、リアルで今とは全然違う世界を見てみたいと言えば、周りの人たちは、一体どんな風に・・・・・
驚異的に理解不能な行動を見せてくれた男が見せる優しさを知っている。穏やかで凪のような掌を知っている。嘘と本当の2面性を持った笑顔を知っている。口癖のように「大丈夫。」と言ってしまう精いっぱいの虚勢を知っている。だから今日のことだって、問い質せば必死になって誤魔化そうとするのだ。ほんの少しの救いがあれば、いいのに。頑張ったね。と、偉かったね。よく泣かなかったね。と、ちゃんと言ってくれる人がずっとそばにいてくれればいいのに。理解してくれる人が支えていないと、まるで波打ち際に作られた砂のオブジェのように、脆く浚われてしまう。だから、そばで誰かが・・・・・そうだ、気付いた。こんなときこそ、自分が。
特殊効果の準備と確認待ち時間。それは岡田を井ノ原の元へ向かわせるには充分な時間。エレベーターを待つのさえもどかしくて、階段を駆け上がっていた。真正面から向き合うことが大切なのだと、教えてくれた人と向き合うため。とにかく、全力疾走で。キャラじゃない。体裁じゃない。見るべきものが分かっているのだから、ただそこへ向えばいい。走って、走って、乱れた髪形なんて、もう一度治せばいい。それより、何より。
(いのっちと話したい。)
ドアを開けたら、笑って名前を呼ぼう。そう決めて、ゆっくりとドアを開ける。
「よしくん。」
返事は、返ってくることなく。
「よしくん?」
そこには井ノ原の姿を確認できず、けれど確かにそこにいたことを証明するかのように、残された濡れた服と、散乱する大量のてるてるぼうず。正気に戻って、帰ったのだろうか。なんだか肩透かしを食らったような気持ちになりながら、息をついて、別格と言わんばかりに机の上に丁寧に並べられた5つのてるてるぼうずを手に取る。それだけはマジックで顔と名前が書かれていて、ほほえましく見てしまった。
『じゅんちゃん』
『みやけくん』
『もりたくん』
『ながのくん』
『おとーさん』
井ノ原の声で、言葉で、真実を示して欲しい。今、一人で抱えている荷物は、誰かと一緒に持つことは叶わないのでしょうか?
楽屋の空気がいっせいに凍りついたことに、気付くのに少し時間がかかった。読みかけの文庫本を読破しようと、そこに集中していたはずなのに、いつの間にか意識は逸れていたらしい。逸れた先は言うまでも無く・・・・・
「岡田、具合悪いの?」
額にぴたりと手を当てて、熱はないかと確認している三宅。
「井ノ原くんがいなくてよかったぜ。いたら暴動確実だもんな。」
苦笑交じりに暴言を吐く森田。
「長野もな。いたらお前、一生からかいのネタにされるぞ。」
ため息と一緒に、本人が聞いたら逆鱗に触れるであろう毒を口にする坂本。
「疲れてる?大丈夫?」
三宅が心配そうに顔をのぞきこんでくれているが、今、自分が何かおかしなことをしでかした意識がない岡田は、きょとんとした表情。無意識ほど厄介なものはない。そう思いながら、岡田はここまでになるほど自分が何をしたのか、恐る恐る聞いてみた。
「何か、しとった?」
「お前さぁ、マジでキモかったぞ。」
「え、気持ち悪いって?」
「いのっち・・・よしくん。って言っただろ。」
森田は井ノ原に対して、よく「キモい」という言葉を投げつけているが、それがよもや自分に向くことになるとは。しかも、そう言わしめた言葉を、無意識とはいえみんなのいるところでこぼしてしまった自分に呆れてしまう。
「そんなん、言うた?」
「言ったよ!すごいはっきり。」
「意識なかった。寝ぼけてたんかな。」
あはは。と下手な乾いた笑いをつくろって、とりあえず、
「コーヒー買ってくる。」
この場から逃げる。とっさに巧みな嘘話ができるほど器用ではない。これ以上言い寄られて、言わなくていいことまで言ってしまったら、あの人は自分のいないところで傷つけられてしまう。すでにきっと、無数の傷を抱え込んでいるのに、これ以上はダメだ。
今日も外は雨。昨日ほどのひどさではないけれど、やっぱり気にかかる。階段の踊り場にある窓を開け、外を見てみる。この窓から、駐車場は見えない。
「ushavtem mayim b'sason
mimaney hayishuah
ushavtem mayim b'sason
mimaney hayishuah
mayim, mayim, mayim, mayim
hey mayim b'sason!
mayim, mayim, mayim, mayim
hey mayim b'sason! 」
「お前、ホント色んなこと知ってんのな。」
半ば呆れたような口調と、頭の上に乗せられた缶コーヒー。あたたかい微糖のカフェオレは、隣りで窓の外に視線を向けている坂本の、優しい気持ちを代弁しているかのよう。
「マイムマイムの歌詞って、ヘブライ語やねんで。」
「英語じゃねぇのか?っつーか、そんなの、ドコの国で使ってんだ。」
「イスラエル。」
それ以上の問いかけは返ってこない。イスラエルがピンと来なかったのか、興味がないのか。いずれにせよ、ここでふくらませる話題でもない。せっかく貰ったのだからと、缶コーヒーのプルタブを引き上げれば、派手にコーヒーが飛び散る。
「こぼれた。」
「お前なぁ。」
手にかかったカフェオレを何もせずに見つめている岡田に、坂本はハンカチを差し出した。白いハンカチ。これはさすがに、コーヒーを拭くために使わせてもらうのは気が引ける。
「シミになるから、ええよ。」
「バーカ。そのために漂白剤があるんだよ。」
坂本は岡田の手と、飛び散ったものが少しかかったスニーカーを拭いてくれた。
「おとーさん。」
「あ?」
ふと、井ノ原がてるてるぼうずに書いた名前を思い出す。さかもとくんではなく、おとーさん。
「坂本くんって、いのっちに「おとーさん」って呼ばれたことある?」
「気持ち悪いコト言うな。」
「冗談とかやなくて、真面目な話で。」
まっすぐに目を見て言えば、答えを、言い澱んでいる。つまり答えそのもの。
「いのっち、風邪ひいとるかも。」
「なんだ、メールでも来たか。」
「昨日、ドラマ撮ってるスタジオに来たから。」
「はぁ?」
「雨の中、駐車場でマイムマイム、歌いながら踊っとった。」
盛大なため息。反応で分かる。井ノ原の身に何かが起こっていることを、坂本は知っているのだ。きっと話を大きくしたくなくて、隠していたのだろう。
「大丈夫。誰にも見られてへんみたいやし。俺以外。」
「じゃあ言うな。」
「え?」
「本人にも他のメンバーにも、言うな。」
「何を知っとるん?」
「ああ。」
「じゃなくて、ちゃんと教えて。最近のいのっち、おかしい。」
「・・・・・今日の収録が終わった後、話す。」
「ええよ。待ってる、絶対。」
もうはぐらかされてなんかやらない。本当のことを知って、とことん付き合う。それは今までに井ノ原が数え切れないほどにしてきてくれたことで、岡田が返したいと思っていたこと。坂本はとても不安そうな表情をしているが、岡田はあえてそれに気付かないふりをする。その表情は相手を折れさせることなど容易いほどに、悲しさを含んでいたから。
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