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V6井ノ原快彦氏主演の妄想非恋愛小説を取り扱っております。
No.
2024/05/06 (Mon) 12:45:30

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No.269
2008/09/21 (Sun) 23:26:34

短編更新です。

初参加。
『秋のもの書きさんの祭典』なるものに参加させていただくことになりました。
また企画に参加。
こうして自らの状況は逼迫していくわけです。
参加したら楽しくなってしまって、満足なんですけど(←タチが悪い)。

新曲が発売されまして・・・・・
とうとうV6さんは指から光線を出すようになられました。
恰好よかったですけどね。シンプルで。

TFPⅡはグランドスラム。
ひょうたん3つ。
すごい!と言わせておいて落とす。笑いの基本です。


出演 : 井ノ原 快彦 ・ 坂本 昌行 ・ 長野 博











単純明快で真っ当な過失
 
 

 
 将来を約束された彼が、未来をなくした。正確には、自ら捨てた。喪うことを躊躇しなかった勇気には敬意を表するけれど、同時にそれはとても痛くて切なくて、この身に変えても守ると誓ったのは何年前のことだっただろうか。一生をかけて貫き通すと決めたそれを、今の自分は残念ながら成し得ていない。そもそも自分などに、彼をコントロールすることなど不可能だったのだ。強い意思や深い想い。あの人に対してどれほどまでに、こだわりを持っているかは理解していたのに。
 
 人里離れた場所にある幽霊屋敷。という不名誉な愛称でお馴染みの洋館は、その噂を信じて疑わない人々には悪いが、れっきとした民家である。大きさに反して住人はたったの2人だがその内の1人は姿を見せることがなく、不釣合いな話、広すぎる豪邸に住むのはたった1人の青年だった。邪な憶測で、彼を世捨て人だと決め付けていたのは小さな子供を持つ大人たちが多いように思う。危険だから洋館には近付かないように。子供たちが口々に言い合うのは、お母さんに、お父さんにそう言われた。というまた聞きの話だったからだ。確かに、その洋館に住んでいる2人は、幽霊にも近いほどの浮世離れした時間を共有していたのだけれど。
 
 その洋館に足を踏み入れることは普通の行為だった。ここに住むことができれば、あるいは・・・・・そんなことを考えもしたが、それは許されないことで、例えば、そういう風にしたいと考えている。と言葉にして彼に告げただけで、きっと全身全霊で拒絶されてしまうであろう結果も目に見えていた。ここは、彼がすべてに代えても守りたい、幻の時間。いや、もう幻ではなく、そちらの方がリアルだ。
 訪れるのは決まって夕方で、まだまだ勢い衰えることのない蜩の鳴き声と突き刺すような西日がお決まりのシチュエーションだった。連日のように厳しい残暑だと表現される秋口のはずが、ドアを隔てた洋館の中は冷え切った空気で満たされている。暗室を髣髴とさせる重苦しい黒のカーテンが窓という窓にかけられ、すべての光を遮断していた。つよがりを生業とする彼が、光が視界に入れば取り乱し、泣き叫んで暴れるからだろう。
「また来たのか。」
あからさまにうんざりしているという口調で発せられた声は、町の人に姿を見せることもある方の住人。
「約束は、守らなくちゃだからね。」
仰々しくも豪奢な風呂敷に包まれた四角い物体を掲げると、住人は眉根に深い皺を寄せながらも中へ入るように促す。言葉を発しようという気はないようだったが、表情が饒舌なまでに現在の心境を語っているのは分かった。歓迎されていない。自分は招かれざる客だ。同時に歓迎される客で、望まれているからこそここへ足を運ぶのも揺るぎ無い事実なのだが。
 
 闇で塗り固められた部屋に浮かび上がる、柔らかな蝋燭の灯。何度訪れても同じ場所、部屋の隅、それも北という方位に位置付けられる角に縋るように背中を押し付け、三角に立てた膝を抱える彼のために、羽毛よりもやわらかく純白よりも混ざるもののない笑顔を湛えた。彼は数度の瞬きを繰り返した後、その稚いとも頼りないとも表現できそうな掌を目いっぱい差し出し、宙を漂わせる。まず最初の使命は、彼の手を確実に取り、優しく自らの温度を分け与えるかのように包み込むこと。そして、
「よっちゃん。」
母親がこの世に生を受けた我が子を祝福するように、丁寧に名前を呼ぶこと。
「よっちゃん、今年も満月の水は、地球の匂いがするよ。」
壊れ物を扱うように、最大限の気を遣う必要がある。風呂敷を解き、現れた桐箱の蓋を開ければ、小さなガラス瓶が緩衝材に守られて、鎮座している様。迷信染みた行為を繰り返す2人の友人を馬鹿だと正面を切って全否定する住人が、苦虫を噛み潰したように苦渋に満ちた表情で、見守っている事もいつものことだ。すべては慣例化された一連の流れで、派手さやもの珍しさなどは一切ないけれど、言うなればこの世で最も綺麗だと、それが一番相応しい表現なのだろう。
 
 幽霊屋敷に住む住人の正体を知る者はとても少なく、ある限られた場所には多く存在する。伝承のように語り継がれるその痛々しい過去の出来事を、真正面から見つめる3人の当事者は、おそらくこの世界中のどんな歌い手よりも歌を愛でて止まないだろう。
 
 短い話をひとつ、聞かせよう。
 
 楽園に最も近いと考えられる南の島がある。その島には独自の文化が形成され、文化の中に慶弔を担う行事『たましいのしき』。この世に新たな命が生を受ける日と、この世から生の時間を終えた魂を送る日に歌い手が歌を聞かせる行事だ。歌い手は聖職者と崇め奉られ、島でも高位な地位を持っている。誰がその大役に選ばれるのか?このご時勢に。と揶揄されるかもしれない。選ばれるのは1人、満月の夜に降る雨に祝福された人間。という時点で矛盾点は多々あるだろうが、これぞまさに独自の文化の中に生まれた常識を無視した慣習である。詳細に渡り説明を望むのならば、きっとそれを叶える方法はこの島に生きる覚悟を決めるという方法しかない。
 歌い手、井ノ原快彦は歌を心から愛で、自らに課せられた役割に誇りを持っていた。しかし彼の強い信念を軽く覆す歌声が突如現れる。知らなかった。幼馴染みとして誰より長く共に過ごしてきた人間、坂本昌行こそが彼を凌駕する歌声の持ち主であることを。より素晴らしい歌声で『たましいのしき』を彩ることこそが魂に敬意を払うに値する。ある年の夏だっただろうか、井ノ原は最も罪深い嘘で歌い手の任を外れ、坂本を代役として推薦した。いや、代役などではなく、この先続く限り譲ることを強く決めて。突然声が出なくなったと申し出た井ノ原に成り代わり、坂本は立派に歌い手の任をやり遂げて見せた。島の誰もが彼の歌声に魅了され、歌い手に相応しい器を持つと囁き合ったのは言うまでもない。異例の歌い手途中交代劇を演出できたと、井ノ原が心満たされた瞬間だった。
 島で執り行われる式典のすべてを取り仕切る男が長野博でなければ、嘘は真実へと立派に変貌しただろう。幼い頃から歌い手として生きてきた井ノ原を、ずっとそばで支えてきたのだ。嘘を見抜くことなど容易かった。坂本を歌い手として君臨させ続けるために、井ノ原は人前で声を発することができないという枷を、一生引き摺って生きなければならなくなったことを唯一見抜いた人物。愚かとしか言いようのない行為を知り、長野は激怒する。坂本の歌声が美しいのは事実。確かに長野も、こんなにも素晴らしい歌声を持つならば、歌い手として相応しいと感じたのだから。ただ、根本的に異なる魅力を持つ2人の歌い手の歌は、甲乙を着けるという基準では語れないもの。坂本の歌は美しさで人を惹き付け、井ノ原の歌は優しさで人を癒す。皮肉にも同時に存在することになった逸材と呼べる歌声の持ち主。譲った者、譲られた者。長野は計り知れない覚悟を以って、秩序を乱すことを決めた。
 
 短い言い伝えをひとつ、聞かせよう。
 
 歌い手が高位を宛がわれる島には、それに見合った言い伝えがある。
『観月に最も近い満月の光を浴びた水源の水により、歌声は神の祝福を受け、蘇る。』
 世間一般で言うところの中秋の名月、9月の齢15の月がそれに当たり、満月の光を浴びた水源の水で、長野は井ノ原のが再びその声を聞かせる日が来ると信じていた。もう何年になるだろうか、満月の夜に水源に足を運び、最初に湧き出たほんのわずかな水を持ち帰り、井ノ原に与え続けている。井ノ原はまだ声を取り戻す兆しは見せないが、いつか叶うと信じていた。信じなければならないと、自分に言い聞かせていた。
 
 死ぬまで自由に声を発することが許されない井ノ原を嘆き、長野は井ノ原と共に島を離れた。普通の日常がそれで手に入ると思っていたのに、数ヶ月に渡って沈黙を押し通した井ノ原は、歌声だけでなく、声そのものをを喪っていたのだが。
「じゃあ俺が、ずっと傍にいてやるよ。」
力強く言ったのは、坂本だった。
 それ以来、見ていないことに気付いている。井ノ原は長野を拒絶こそしなかったが、やはり幼馴染みである坂本に心を大幅に許していた。島を一緒に離れたものの、じっと俯いて体中を緊張で強張らせて。勝手に追いかけてきた坂本を見るまでは、見事なまでの無表情を貫き通し、坂本が声をかけた瞬間に、安堵したようなどこか悲しそうな複雑な笑顔を数秒だけ浮かべた。以来、長野は井ノ原の笑顔にはお目にかかっていない。いつか声を取り戻した暁に、最初に呼ぶ名前は誰でもない、坂本のものだろう。そして、次に長野の名前を呼んでくれるという保障はない。自己犠牲を厭わず地位も声も投げ捨てたのは、他ならぬ坂本の為だったから。会話の中で、名前の登場しない日のない大好きな人。それでも一向に構わなかった。きっと長野が好きだったのは、大好きな坂本の話を嬉しそうに聞かせる井ノ原だ。好きだと公言する歌を歌う行為よりも遥かにレベルの高い、遥かに幸せな表情を満面に浮かべさせる坂本と共にある幸せを体中で噛み締める、井ノ原だ。
 
 罪は井ノ原の行動を未然に防げなかったことではなく、井ノ原の意思を理解しないままに声を取り戻そうと奔走する傲慢さ。坂本は必ずしも井ノ原が元鞘に納まることを望んではいないと、何度も警告しているのに。今なら分かる。守りたかったのは、自己満足を完結させるピースの一つだった。幸せを都合よく逆手に捉えて、欲しいと願うものは手の届く範囲に健在なままで存在していて欲しい。
 長野は今年も役に立たなかった水が入っていたガラス瓶を踏み砕き、背を向けたままで坂本にきっぱりと告げる。
「俺は小狡い人間だと軽蔑されても、諦めない。」
ミリ単位の狂いもなく正しいと分類されるものがあるとして、その基準を設けたのはどこの偉い神様か。終着点が曖昧に設定された精神論は、誰を救うこともない。鮮やかに広がる理想の未来は本当に待っている。勝手に信じて戯言は繰り返され、
「井ノ原の声が戻れば、きっと丸く収まると思うんだ。」
未だ漂う空間をすり抜けて、いつか辿り着くことができるのだろうか。
 
 隣り合わせに凌ぎを削り合う幸せと不幸せは朧ろげに、出し惜しむように、輪郭を曖昧なままで混在させていた。
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