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V6井ノ原快彦氏主演の妄想非恋愛小説を取り扱っております。
No.
2024/05/08 (Wed) 10:31:46

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No.274
2008/10/13 (Mon) 13:47:14

長野博氏誕生日短編、更新です。

遅れたわけではありません。
敢えて日付をずらしました。
そういうおはなしです。


出演 : 井ノ原 快彦 ・ 坂本 昌行














歪むと笑う難解な記念日
 
 
 
 
 ひとりで生きていくことはできない。けれど、誰かと生きていくこともできない。行き着く先にもしも絶望が待ち受けていたらという恐怖が、絶えることなく心を蝕む。
 
 
 時計が7時を少し回った。テーブルの上には3人分の朝食、実際に消費されるのは1人分。存在しない親友と、心を亡くした親友と、変わらず日常を過ごす自分。食べてもらえることは決してなく、ただ冷めて廃棄されるのを待つだけの食事。お腹がすいたと大きな声で主張しながら台所に顔を出す姿を、持って行ってしまったのは最期のわがままだったのだろう。一人で食事をすることを酷く嫌がっていたから。
 
 誕生日から何日か経過した日、外出先から帰宅した井ノ原は大輪の花束と大きな白い箱を抱えていた。今年は、今日なのだなと思う。いそいそと白い箱を冷蔵庫に押し込む後ろ姿を見つめながら、坂本の頭の中を埋め尽くすのは今夜の献立。食べる人間は自分しかいないだろう。しかし手は抜かない。突出したこだわりを食に対しては見せる彼の誕生祝いだ。井ノ原の中の決まりごと。自分にも祝う気持ちはきちんとあって、生まれてきてくれたことに感謝していて、だから、誕生日当日と前後の日はたくさんの人が祝ってくれるだろうから、自分は別の日に長野の心に思いが鮮明に残るように祝いたいと、言い出したのはもう昔と言える頃の話。稚拙な、おままごとだとからかわれたら何も言い返せないような、滑稽すぎる毎年の恒例行事を愛おしく感じる。理由は祝う相手が長野で、祝いたいと願うのが井ノ原だからなのだろうけれど。
 
 リビングの出窓から身を乗り出す。高く晴れ渡り、広がる空。どんな皮肉なんだと突っ込みたくなる。ここ数年で、長野の誕生日を祝う日に雨が降っていたのはあの年だけだ。混乱した井ノ原が、ずぶ濡れになりながら血まみれの長野を抱えて帰宅した年。長野を交えて誕生日を祝うことが出来なくなってしまった、最初の年。冷静に思い返せば、その日で自分がここから去ってしまうかもしれないことを、長野は本能的に予感していたのかもしれない。
「タバコ吸いすぎ。坂本くんが早死にしちゃったら、誰が井ノ原のコト面倒見るの?」
「は?お前がウチに招き入れたんだから、お前に決まってんだろーが。っつーかさ、大人が面倒見られる立場とかおかしくね?」
「だってよっちゃんは、独りだとすぐに自分を蔑ろにするから。だから誰かが見ていてあげないと、危なっかしくて仕方ないでしょ。坂本くんになら比較的懐いてるから、きっと大丈夫だよ。」
「懐いてるとかって話なら、お前が一番適任だろう?だから井ノ原の面倒はお前が責任持って見ろ。俺はパスだ。」
「そうなんだけど、そうなんだけどさ、何となく、頼んどかなきゃな気がしたから。」
「意味分かんねぇよ。」
だったら、あの朝に自分が長野との会話にもっと違和感を感じていられたなら、未来は変わっていたのだろうか。
 
 定番のバースデイソングを口ずさみ、井ノ原は長野の指定席を陣取っている。その席にもう、長野が2度と座るコトがないのを知っているはずなのに、そんな現実から目を背けたままで。
「今年はねぇ、conductのチョコレートケーキなんだ。長野くん、喜んでくれるかなぁ。」
いなくなってしまって、気付いたわけではない。そんな簡単な関係じゃない。だからこそ井ノ原は長野がいずれは自分の居場所に、戻ってくると信じて疑わないのだ。
「早く帰って来ないかな。今日は残業しないって、言ってたよね。」
テーブルの上に僅かばかり自己主張をする雰囲気で置かれた、プレゼントの入っているであろう袋。誕生日当日から数日の経過を待ってお祝いをしようと企てる井ノ原。すべてが、泣き出しそうなのを堪える自分を後押しする。泣いてしまえと。すべてをぶち壊してしまえと。壊せば、きっとこの息苦しさから開放されると。
 
 
 彼を嫌いなわけでなく、彼を待つ彼の姿が嫌いなわけでなく、この日が嫌いなわけでなく、自分が恐いという理由で前へ進む事を拒絶する自分が嫌いなのだということに、もう気付いて久しい。疼く罪悪感は、この先消える日が来ないことを嘲笑うかのように示していた。
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