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V6井ノ原快彦氏主演の妄想非恋愛小説を取り扱っております。
No.
2024/04/27 (Sat) 23:22:13

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No.305
2008/12/29 (Mon) 23:03:47

2008年もあと3日となりました。

先日、たくさんのみなさまにご協力いただきましたアンケート。
その結果を受けまして、中編更新です。

どこまでもシリアス、ダークな中編。
ダークと申しますかなんと申しますか・・・・・
イノが大変な不遇の身の上となっております。
今回は導入部ですのでさほどでもないでしょうか。
次の話からは酷いかもしれません。

それでも大丈夫!という方は、どうぞご覧頂きましたら幸いでございます。


出演 : 井ノ原 快彦 ・ 坂本 昌行 ・ 長野 博 ・ 森田 剛









examiner
 
 
 
 『束の間』を時間に換算するとどれほどの数字になるのかなんて、人によって全く違う。辞書的にはわずかな短い時間を指すらしいが、井ノ原にとっての『束の間』は物心がついてから今現在までの一般的な平均寿命の約4分の1の期間。木星居住区と月居住区で過ごした日々。そばに年こそ少し離れていれど友達の枠を軽く超えてしまう勢いでの深い付き合いをする、その人たちと共有した時間が『束の間』、いや、正確に形容詞を付けて表現するところの『束の間の幸せ』。完結までのカウントダウンが着実に進んでいく事を恨めしいとは思っていない。むしろ感慨深いというべきか。例えば井ノ原の身体が健康そのものだったとすれば、未来はもっと長く続いていく存在でこれから楽しいことや嬉しいことがいくつも起こったかもしれない。例えば今でも地球にあるどこかの町で平穏に暮らしていれば、政治家の利己的且つ破滅的な計画に微塵の興味も抱かなかったかもしれない。けれど現実問題、余命半年を切っている上に何も知らない大半の人間が大きな過ちに巻き込まれようとしている事を調べ上げてしまった。ほんのわずかできてしまった大切な人たちのために、できることをやるという選択をせざるを得ない状況。いざフタを開けてみるとこちらが一方的に懐いているだけかもしれない。それでも自分が満足できるのなら構わないと思っている。どうせ死ぬことが決まっているのだから、このチャンスに乗ってみたいとチャレンジャーな成分が増長するのは当たり前。ただ、心残りがあるとしたらひとつだけ、生で見てみたかった。昔、どこかの国の頭のいい誰かが青いと表現したらしい地球の姿を。
 
 忙しなく発着するシャトルを見ていると、周囲の人みんなに大声で自慢したい衝動に駆られる。あの鉄の塊が今日も滞りなく人々の足として機能しているのは、優秀な技術者である友達が完璧な整備を施しているからなのだと。本人は嫌々やらされている感をふんだんに出しているが、仕事は常に抜かりない。さすがプロだと褒めたら、真面目にやっておかないと元いた職場に戻れないから仕方なくだとしれっと返されてしまったが。彼、森田には本来いるべき場所がある。それを奪う一端を担ってしまった事を思うと、井ノ原はどうしようもなく申し訳ない気分に苛まれた。あの時、当事者である自分がいればもっと、
「黙って出歩くな。タバコを吸うな。睡眠時間を削るな。薬を捨てるな。いつまでも謂れのない自責の念に駆らてれるな。気に病むくらいならちゃんと向き合え。まだ言って欲しいか?」
相変わらず容赦ない。井ノ原が言われ過ぎて飽きたの上をいく感想を抱く言葉たちに対して何も返答をしなかったことで生まれた隙間を埋めるのは、周囲のざわめきと館内のアナウンス。旅客シャトルポートは曜日時間に関係なく賑わっており、ため息を紛れ込ませるにはうってつけの場所。ロビーに座って一人の世界に入り込むと、いやに落ち着く。なのにお決まりのようにそれを中断させる人物、坂本はもれなく現われた。悪い人ではない。むしろ井ノ原を特別に可愛がってくれる慕うべき相手。ただ、小言が苦手なのだ。ひどく距離を置きたくなる。
「再調査についての決議は保留だ。探られたくない腹の内のあるヤツが多いらしいな。」
「ふぅん。」
表向きには最も、井ノ原が興味を持つ話題とされていたそれ。しかし今発せられた相槌の持つ雰囲気は、すでにどうでもよくなったという種類のもの。坂本は訝しげに眉根を寄せ、堂々と井ノ原の視界に割り込んだ。
「いの一番に最新情報を持ってきてやったんだけどな。」
恩着せがましいとも取れる言い回しに不快感は感じない。それが普通なのだから。普通で、特別なのだから。
「長野が、図書館に寄るように。ってさ。忘れんなよ。」
口元の一本と胸ポケットの一箱のタバコをきっちりと没収し、坂本は足早に去っていった。最新情報を忙しい時間を縫ってまで伝えにきてくれたのだと思うと、胸の中があたたかくなる。彼はそういう性分の生き物だ。井ノ原はジャケットの内ポケットから新たにタバコの箱を出し、封を切った。近々死ぬことが分かっている人間の健康管理ほど、無駄な努力はない。
 
 国会エリアの東端に位置するその用途とはとてもとても似つかわしくない建物は、いつ訪れても閑古鳥が高らかに鳴いている。維持費や人件費が無駄に税金を食い物にしている感は否めず、廃止しようという声も少なくはないのに健在である理由は明らかだ。天下り候補として有力な箱物、政府が簡単に手離すはずがない。しかも職員には国選公務員という称号が与えられるのだから、非常に魅力的な施設。もちろん天下りなどという邪なルートを使わず職員を勤める人間もいる。若くして閑職と揶揄されるその職に就く人こそ、井ノ原がこの国会図書館なる建物に足を運ぶ理由のひとつかもしれない。回転ドアをくぐった吹き抜けの広いロビーで、彼は待っている。目的とする部屋には、彼のIDがなければ入ることができないからだ。
「元気?」
慣例化した第一声にこちらも慣例化した笑顔で応える。へらりと相好を崩しただけで満足してやり過ごしてくれるならば、いくらでも笑う。面倒な探りを入れた日には井ノ原がヘソを曲げて厄介な暴走を始めかねない事を、彼は、長野はちゃんと理解していた。
「旅客シャトルの整備員やってる子、森田くんだっけ?さっき彼が来たよ。」
「剛が?」
「閉架書庫に入りたかったみたい。無理だって断ったけど。」
のんびりもしていられないと、気が引き締まる思い。大した変化もなく平坦に流れているように見える日常の裏側で、政府ごとひっくり返してしまいそうな真実を井ノ原は追いかけている。長野は、森田は、それに苦言を呈することなく手を貸してくれている心強い存在。ただの公務員に過ぎない井ノ原が国会図書館の閉架書庫に入れるはずがない。長野のIDを特別に使わせてもらっている。その先に見つけた答えを持って進む次なるステージへの足を、森田が秘かに準備してくれている。もちろん一致する利害があるからこそ得られる協力なのだが、井ノ原にとってはかけがえのない力添え。
「動きが慌しくなってきたってことは、もうすぐ?」
「分かんない。」
笑顔で包み込んだ中に、答えは完成に近いカタチで成されていた。強く決めている。これまで自分などの友達になってくれた人たちに、感謝の気持ちを最上級に還元するのだ。誰も触れることなく国家の圧力によって葬り去る方向へ舵取りを推し進められ続けてきた真実を、白日の下へ引きずり出す。
 
 
 地球で生まれた人間はやがていなくなってしまう。知識としての地球しか、人類の記憶には残らなくなってしまうのだ。それが由々しき事態だと政府が突如危機感を高らかに叫び出し、もう一度地球に人類が戻れるかどうかの調査を開始したのが4年前。ちなみに人間が地球を放棄したのは25年前。すでにそこらじゅうに、生まれが地球でない若者が溢れかえっている。そして地球に戻るべく結成された調査隊が悲劇のヒーローになったのが2年前。2056年度上半期調査の時だ。調査は年2回、2ヶ月ずつ行われる予定だった。かなりのリスクを伴うこと必至の為、周囲からは猛反対の声が巻き起こっていたが、それでも参加希望者は多数集まり、それも助けて強行という形になった。それまでは実際には地球に降り立つことなく、地球から数十キロ離れた地点からの遠巻きな調査にとどめられていたから事故は一度も起こっていなかった。それに物足りなさを感じたのか、油断をしたのか、地球へ降下しての調査が行われることになり、下調べも曖昧な段階での決行。調査隊を乗せたシャトルは、大気圏に突入すると同時に通信が途絶え、消息不明。政府は打つ手なし。選ばれた優秀なクルーと最新鋭のシャトルをたった1日で損失。その調査隊の調査をしようという声が当然上がったが、二の舞を演じるのは目に見えているという危惧から、政府は時期尚早としか言いようのない早さであきらめるという選択に至ってしまった。以降、地球調査は従来どおりの数十キロ距離を置いた地点からの歯がゆいものに戻ってしまって、タブーであるといわんばかりに、消息不明になった調査隊のことには、誰も触れようとはしなくなっていた。
 誰もがそれを無かったことのようにしてきたある日、その消息不明の調査用シャトルからの通信が再開されたという事実が発覚。上を下への大騒動になったのは言うまでもない。しかも、その通信ではシャトルは放射能汚染を受けていて、クルーは1人を残して他全員がすでに死亡が確認されているとのこと。それでもすでに帰路に着き始めていた調査用シャトルを受け入れるか否か、議論は数日に渡って交わされた。そして、一旦セントラルポート圏外で完全に浄化した上で、放射能濃度が安全数値内に下がったことが確実に確認されてからの受け入れという形が選択され、2年ぶりに地球調査用シャトルは帰還することになった。悲劇のヒーロー奇跡の帰還とマスコミは囃し立てたが、本当の悲劇は、この先にうんざりするほど待ち受けていた。
 
 地球を放棄した人類は、宇宙ステーションと月、火星、木星を居住空間としていた。全人類が地球からの脱出を果たしたわけでなく、移住当時はこの3箇所で余りある居住空間を確保できていた。が、当然人口は増えていくもので、人口過密状態は否めないというのが近況になる。そこでさらに居住空間を築くことの出来る惑星を開拓するプロジェクトが進行していた。その中で実際に実現が決定し、移住可能まで秒読み段階になっているのが金星。巨大な遮蔽ゲートを太陽との間に設置することで表面温度を劇的に下げることに成功し、宅地開発はすでに完了しているためあとは細かい整備のみとなっている。そうなると移住準備だ、記念式典だと関係者は大忙し。移住プロジェクトチームのメンバーは、他の事に構っている暇なんて無いという現状だった。そんなメンバーの元にもシャトル帰還のニュースは飛び込んできて、それには本当に衝撃が走った。金星移住プロジェクトチームの中からも1人、地球調査用シャトルに乗っているメンバーがいたからだ。けれど時期が時期だけに、もちろんシャトルの受け入れをみんなで見に行っている場合ではない。たった一人、仲間を迎えに行くと勢い任せに飛び出していった男を除いて。
 受け入れは当初の予定から15時間以上もの遅れで行われた。生存者1名。死亡者11名。放射能汚染はシャトルの一番ひどい箇所で14グレイ。軽い箇所だと3グレイ。唯一の生存者は6グレイ。死亡したクルーは全員、11グレイ以上だったらしい。本来の仕事そっちのけで欠け付けた坂本は、聞かされた結果に吐き気を催した。報せてくれたのは幼馴染みの長野で、大学の同級生が受け入れを統括する部署に配属されているとかで、情報を坂本の元に届けてくれたのだ。
「・・・・・で?」
「井ノ原はもう、棺桶に足を突っ込んでる状態だろうね。」
「何だ、長野は俺の不安を煽る為に来たのか?」
「失敬だなぁ。情報が何もないよりいいかと思って伝えに来たのに。」
無い方がマシでしたけど。というツッコミを飲み込んで、坂本は新しくタバコに火をつけた。きっと長野が話してくれたことは、限られた人間しか知り得ない内部情報だったはず。スタッフの不安を無駄に増大させる可能性があるから、口外しないようにと言われている確率が高い。それをわざわざ坂本に伝えに来てくれたのだけれど・・・まったくと言っていいほどいらない情報。臆病風に抗えるほど強靭な精神力を持ち合わせていないが故、元気いっぱいの井ノ原が、軽口を叩きながら帰ってくると思い込むようにしていたのに。
「俺は俺が必要だと判断するものを失うことが大嫌いなんだ。」
「だから現実を受け入れたくない?」
「井ノ原は元通りの身体になる。」
「そんな保証のないこと言って、何が生まれるっていうの?」
坂本の気持ちはささくれ立っていた。核戦争が始まらなくて地球が滅亡しなければ、井ノ原がこんな目に遭うことはなかったのだから。
30年前に始まった第3次世界大戦は、核を保有する国が、戦争をやめないなら核を撃つぞなんてことをもう公然と言い合っていた。誰が先に引くのか、核を使用せずに友好的な話し合いで解決なんて案は一度も出なくて、日本もついには核を保有していることが発覚して、そう、日本を筆頭に5カ国が同時に核を使った。使用された核は合計22発。たくさんの人間が死んで、生き残った人間も地球には居られなくなった。だから宇宙に逃げ出したのだと、今では歴史の教科書にはっきり書かれている。坂本はまだ小学校の低学年だったからはっきりと憶えてはいないけれど、手遅れになるに決まっているのだから、早く逃げるのが賢明だと両親が話していたような気がする。実際、有り余る財産や権力、コネを持つ人間は簡単に宇宙に逃げ果せて現在に至る。井ノ原は資産家の祖父母がいたおかげで地球外退避用シャトルへの乗船を果たしたし、坂本も両親が内閣国防局の幹部であった恩恵に預かり長野を伴って退避することが適った。裕福な家庭で欲しいものはすべて与えられて育ってきた坂本の地球最後の記憶は、長野が一緒でなければシャトルには乗らないという盛大な駄々をこねたことだったはずだ。自分は選ばれた特別な人間であるという概念は今でも根強く、そんな自分が選んだ長野と井ノ原もまた、特別な人間だと認識している。そんな特別な人間を傷つけられることはプライドが許さなかった。だからこそ考えてしまうのだ。宇宙ステーションに住んでいたって何一つ不自由だと思うことはないけれど、もしもあの戦争で核の使用という選択肢さえなければ今も、あの星にいられたのに。自分のテリトリーが荒されることなどなかったのに。
 
ガラにもなく思い出に浸ってしまったのは、地球の再調査を行うという意見が国会で俄かに勢力を増してきたせいだ。2年前、地球から生還した井ノ原を待ち受けていたのは残酷な告知だった。地球がどうなってしまったのか、下船して調査するには至らなかったという理由で詳細は分からぬままだが、放射能に多分な汚染を施された身体に下された医者の診断は、治療法不明の新たな病気。染色体の構造は崩壊し、細胞が壊死を続け、ありとあらゆる臓器から出血し、いずれは死に至るそうだ。余命1年に満たないだろうと宣告された井ノ原が2年経った今でも生きているのは、決して回復の兆しを見せているからではない。医者も首を傾げる症状の進行のゆるやかさが為せる技の賜物。しかし、それにも明らかに限界が見えてきた最近の様子。昨夜も食事に出かけた際、途中でトイレだと席を立ったが、実は吐血していたのを知っている。面倒だし無駄だと言って医者が処方した薬を飲まない結果が顕著に現れているわけだが、坂本は思う。その薬は本当に効果があるのか?と。そもそも有効な薬が存在するくらいならば、治療法も見出せない新たな病気というカテゴライズはされていないだろう。気休め程度に用意された薬という確証があっても飲めと促してしまうのは、坂本自身がどこか安心したいだけかもしれない。おそらく大事なものを亡くすことを先送りにしたい願望。再調査の話に難色を示すのも、井ノ原が参加の意欲を強く表明しているということが理由に他ならない。戦争に焼かれる前の青い地球を見てみたいと言い、いつかみんなで還れたならばきっとそんなに幸せなことはないと笑う。心の奥の方からじんわりと和ませてくれる笑顔を見せつけられると無碍に否定も出来なくなり、坂本は考えた。あの計画をどうにかして、握り潰すことはできないかと。利用できるだけのコネをすべて駆使してでも、井ノ原を手離さないために。不穏な思考は膨らみ、暴発する日も近いのかもしれない。
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