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V6井ノ原快彦氏主演の妄想非恋愛小説を取り扱っております。
No.
2024/04/20 (Sat) 12:58:50

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No.107
2007/12/06 (Thu) 20:08:27

アンラブリンクのハロウィン祭、出展作品です。

出展したものに若干の加筆修正を加えました。

そして長めなので、前・後編に分けています。

ハロウィンの名を借りた、別物の小説と取っていただいた方がいいのかも・・・



出演 : V6




 帰って来るなりパソコンの前に座り、ヘッドセットをはめながらご機嫌だった井ノ原が絶叫を轟かせた。井ノ原が一人でいても賑やかなのは今に始まったことではない。声が聞こえていながら、坂本はそれに構うことなくキッチンで料理と真剣勝負を繰り広げる。たいていの料理ならば作れてしまう坂本が、何度作っても納得のいかない駄作を作り上げてしまう品目のひとつ、コンソメ。三ツ星レストランで出されるような、あの琥珀色と、絶妙な風味がどうしても出せない。にごってしまったり、エグミが出てしまったり、味が濃すぎたり、薄すぎたり。連戦連敗中。今日も大振りの寸胴を前に、丁寧にあくを取り、火加減を調節し、味を調え、もう何時間も格闘を続けている。そんな坂本の苦戦などまったくのスルーで、部屋で大騒ぎを繰り広げていた井ノ原が、キッチンに乱入してきた。

「大変だよ!大変!革命だよ、坂本くんっ!」

「はいはい。フランス革命か?ロシア革命か?メキシコ革命か?それとも・・・」

「ジャック=オー=ランタンが負けた!」

ゆったりとあくを掬っていた坂本の手が止まった。

「バカを言うな。冗談なら、もっとひねりを効かせて笑わせろ。」

アイツが負けるはずがないだろう。

「本当なんだって、見に来てよ。しかも、3-0のストレート負けなんだから。」

井ノ原の口調で分かっていた。これは冗談なんかじゃない。ただ、告げられたのは信じられないような出来事で、坂本にしてみれば、安易に「はい、そうですか。」と受け入れられることではないのだ。

「坂本くん!」

強引に腕を引かれて、坂本は手にしていたレードルとボウルを置いた。もしも井ノ原の言うことが事実だとしたら、それを受け入れたくないという弱腰な自分がいる。史上最強と称されたギミックマスターのギミックが負けるなんて、考えもしなかったのだから。

 

 トーナメント表の名前には、太い黒線が引かれていた。試合の詳細を見れば、かなり一方的に、完膚なきまでに負かされたようだ。試合の動画を見ても、終始一貫して相手のペースで進み、勝機は一瞬たりとも伺えなかった。試合が終わるなり、救護員が担架を抱えて駆けつけてきて、救急車で病院に直行したという。つまり、本当の本気を出してしまったのに、それ以上の力でねじ伏せられたのだ。最強のギミックとギミックマスターに勝利したのは、今回が初参加の、聞いたこともないギミックマスター。2回戦、その人間と井ノ原が対戦する。

 2人の住む街では、ギミック職人が凌ぎを削りあう。扱うものはさまざまだが、2人が扱っているのは主に人型と呼ばれる、平たく言えばロボットで、人間と同じように、だが人間以上に精巧に稼動するものである。人型は業務用やシュミの相手、パートナーなど、ありとあらゆるニーズに対応できる、いわゆるアンドロイドのようなもの。容姿は人間から動物まで、注文に合わせて何でも作ることができた。そのギミック職人の組合の中で、年に一度、ハロウィンに開催されるイベントがある。ギミックによるバトルトーナメントだ。自作のギミックであればどんなものでもよく、武器の搭載も可。優勝すれば、巨額の開発資金が工房に授与され、1年間は最高のギミック職人の肩書きを持つことができる。職人たちにとっては、最高の腕試しの舞台。そのトーナメントで、ここ3年ばかり1度も優勝を譲らないギミック職人がいた。若干18歳の少年、三宅健と彼のギミック『ジャック=オー=ランタン』。せっかく使用するギミックはどんなものでも可。という規定があるのに、遊び心満載の職人たちは、せっかくのハロウィンなんだから。と、それにちなんだギミックで参加することが暗黙の了解のようになっていた。そして、三宅はハロウィンの王道、ジャック=オー=ランタンを駆使し、3年連続優勝という栄誉を守ってきたのだ。2年連続優勝を成し遂げていた井ノ原は、初めて負けた年こそ拗ねていたが、今となっては三宅は優勝して当たり前。という勝手な自信さえ抱いている。万が一優勝の座を誰かに譲るとしたら、それは自分なのだそうだ。そこに中途半端な意地が覗えるが、同じ工房で働くかわいい後輩なのだから、穏やかな関係であるに越したことはない。坂本も、そんな2人の後輩を、温かく見守っていた。

 三宅を負かした相手は、初参加の岡田准一という三宅よりもさらに若い、15歳の少年。使用するギミックは『メドゥーサ』。気性が荒いのか、初めてのバトルで気持ちが高ぶってしまったのか、三宅のギミックが誰の目から見ても明らかに稼動できなくなっているのに攻撃を続け、最後には三宅ごとふっ飛ばしてしまった。会場がありえないほど静まり返り、観客の反応はといえば、ただ単純に思い切り引いていたようだ。初参加とあって、そのギミックに関するデータはない。2ヶ月前にこの町に現れたばかりの新参者で、主に精密機械を組み立てる工場へ卸すギミックを扱う職人として働いている。分かっていることはそれだけ。試合の動画を繰り返し見ている井ノ原の表情は、もちろん険しい。15歳という若さで、一体ドコでこれほどまでの経験を積んだのか、ギミックの扱いは三宅を軽く凌駕する。井ノ原は過去、トーナメントで2度、三宅に負けている。その三宅を簡単に負かしてしまった相手と戦うのだから、きっと劣勢は免れない。

「武器は何も搭載してないね。かなり動きが俊敏だ。跳躍力もあるし、それでいてパワーもある。接近戦では技巧的な攻撃も多いし、ものすごく強いよ。」

井ノ原が三宅のもの以外のギミックを褒めることは珍しい。坂本のギミックでさえ、まだまだ甘いと笑い飛ばすほどなのだ。つまり、岡田は本当に強敵ということ。

「今回は、棄権しないか。」

一緒に動画を見ていた坂本は、思わずそう提案してしまった。賞金や名誉と引き換えに、井ノ原が三宅のような目に遭うかもしれないのは、はっきり言って御免だ。未然に防ぐ術があるなら、どうしても止めたい。しかし井ノ原は笑って、坂本の頬をつねる。

「そういうこと言っちゃダメ。このバトルはハロウィンのイベントかもしれないけど、俺たちはギミック職人としてのプライドをかけて参加してるんだから。来て間もない若い職人になんか負けてられないって、思わなきゃ。」

「しかしな・・・」

「俺は、岡田とのバトルを棄権なんてしない。坂本くんが俺なら、しないでしょ?」

確かに、絶対にしない。きっと逆の立場で井ノ原に止められても、職人としてのプライドがあるし、何より三宅の敵を討ちたいと思って突っぱねるはずだ。これ以上、仲間には傷ついてほしくない。けれど、職人としてのプライドを守りたい気持ちも充分に理解出来る。2つの感情に、坂本は激しく揺さぶられる。

「大丈夫。今年の『マミー』は自信あるんだ。」

その言葉を毎年聞いていて、三宅に2度も負けているのを知っているのに何を承諾しろというのだろうか。口先だけの軽さで反対も賛成もできない。が、この場に一緒にいたら、きっと何が何でも止めたいという気持ちのほうが勝ってしまうだろう。そうなれば、井ノ原はギミックに関しては坂本が舌を巻くほどの頑固者だから、おそらくケンカに発展する。坂本は必死で平静さを装って、井ノ原の肩をひとつ叩くと、部屋を出て行った。

 その後ろ姿を見送ったあと、井ノ原はパソコンへと向き直る。動画をチェックして、少しでも多くの岡田の情報を集めておくために。情報は、坂本の役にも立つだろうから。もちろん、井ノ原は本当に今年のギミックをこのバトルに向けて、最高の状態に仕上げていた。今年こそは三宅に勝ち、優勝の座を奪還する気でいたのだし。けれどその三宅をストレートで負かしてしまう職人が現れたのだから、心中は穏やかではない。すべてのバトルスタイルにおいてバランスの取れた強敵に、勝てるなんて確証はとてもなかった。負けるかもしれないという不安を抱きながら、迷いのある戦いをするような負抜けたマネはしない。それに、もし自分が負けたとして、ブロックは違うが、坂本が順当に勝ち進めば準決勝で岡田とぶつかる。坂本にまで三宅のような目には遭ってほしくない。動画は、再生する。何かに取り憑かれたように『ジャック=オー=ランタン』を破壊する『メドゥーサ』を。判定が下っていることに気付いていないかのようにその行為を続け、三宅に向けて『ジャック=オー=ランタン』を投げ飛ばすシーンを。何かに取り憑かれたように、自分の意思などどこにもないように・・・・・・・そして井ノ原はある違和感に気付いた。もしかしたら、岡田のやり方を変えることができるかもしれない。気付いたことを確かめるべく、井ノ原は一度、岡田に会いに行こうと決めた。

 

 そんなはずがない。けれどそれしか考えられない。井ノ原の中で、さっき気付いた違和感についての思考がぐるぐると巡る。読みが的中したら、それはそれでどうすればいいのかという疑問もあった。とにかく、決めたのだから会って確かめるしかない。確かめて、せめて坂本と戦うことになったのなら、勝ったのに攻撃を続けるような、相手を叩き潰すような真似はしないで欲しいと、伝えたかった。

 町中の顔見知りからの情報で居場所を突き止めれば、岡田が工房へ入っていったという結論に達した。明日に向けてギミックを調整するのだろう。そう思い、井ノ原は考えなしにまっすぐに工房へと入る。そして、違和感の正体はある意味で的中した。

 視界に映ったのは、ギミックを調整する光景。けれど調整されているギミックは『メドゥーサ』ではなく、調整している職人は岡田ではない。それを見た瞬間、思わず息を呑んで、間抜けにも真正面からその場に登場し、硬直してしまった。調整されているギミックは岡田准一で、調整している職人は見たことのない若い男。つまり、そういうことだった。岡田は取り憑かれたように三宅を潰しにかかったんじゃない。あまりに予想外だった真実を目の当たりにした。井ノ原は、てっきり岡田は誰かに言われるがままに行動して、あんなバトルをしているのだと思っていた。しかし、それは的外れで、実際には岡田自身が、三宅を完膚なきまでに潰すように動かされる、ギミックだったのだ。

「誰?」

岡田の一部を解体して手を加えていた男が、顔も上げず、井ノ原に問う。

「あの、明日岡田くんと対戦する・・・」

「明日コイツと?ああ、昔はそれなりに強かった人ね。」

棘のある言葉を、絶対零度の口調で投げつけられて井ノ原は思わず口をつぐんだ。確かに、そうだ。3年前に三宅に負けて以来、一度も優勝をしていない。栄光はすでに、過去の遺物。去年にいたっては、準決勝でギミックが不具合を起こし、途中棄権してしまっている。2年連続優勝を果たした頃は、誰がどんなギミックで向かってきても、負ける気なんて微塵も起こらなかったのに。

「岡田自身がギミックだって、言いふらすの?」

返事に窮していると、男が尋ねてきた。

「別に。言いふらしたって、メリットないし。」

それは正直なところだ。だからそう答えたというのに、男は不愉快を表情に露わにし、立ち上がって井ノ原の方に一瞬だけ軽蔑するような視線を投げる。

「この町の人間は、そうやって平気で嘘、つくんだろ?」

「どういう意味だよ。」

「このバトル自体が嘘じゃん。どうして相手が倒れるまでやんねぇの?寸止めなんて、全然お遊びの域だろ。ぬるいんだよ。井ノ原快彦だっけ?あんたも、そんな生半可な気持ちでやってんだったら、岡田とのゲームは棄権したほうがいいんじゃね?三宅みたいになるってさ、始めから分かってんだし。」

男の口元はいやらしく笑っている。それが勘に触って仕方なくて、井ノ原はそばまで行き、男の視界に映りこめる場所に立った。

「お前、名前は?」

「森田。」

「素人じゃないよな。どこから来た?」

「教えない。」

当然の答えだろう。きっと後ろ暗いところがあるであろう人間が、簡単に自分の素性や手の内を明かすはずがない。それでも、こんな物騒な腹づもりを聞かされて、あっさり引き下がることも出来ない。

「お前は他所モンだろ?どうして・・・」

「どうして職人街のハロウィンイベントなんかに参加してる?って?そんなの決まってんじゃん。ここが、邪魔なんだよ。こんな辺鄙な田舎の職人街が、世界中のあらゆる分野でのギミックのシェアで1位。おかしくね?確かに職人たちの腕はいい。特に、三宅の『ジャック=オー=ランタン』、あんたの『マミー』、そしてあんたと同じ工房の坂本ってヤツの『ウイッチ』。3つとも突出していい出来のギミックだ。岡田が扱えば、最高の働きができるだろうな。けど、あんたらは職人としての腕は良くても、ギミック使いとしての腕は3流以下だ。せっかくの上物を台無しにしてる。そんなヤツが優勝できるバトルなんて無駄なんだよ、茶番っていうの?目、覚まさせてやる。このバトルで岡田に優勝させて、この街の職人を恐怖させてやるよ。んで、いい出来のギミックはお土産にもらって帰るから。」

「3流かどうか、明日のバトルで見せてやるよ。」

「何、潰す気でやるって?あんたにできんの?」

「この町の人間には、この町の人間のやりかたがあんだよ。」

「あっそ。」

浮かべるのはバカにしたような表情。まるで相手にしていない様子。やけに好戦的などこかから来た同業者。けれど岡田やメドゥーサを見る限り、森田だってかなりの職人なのだろう。こんな辺鄙な田舎と言うならば、この町のことなんて気にしなければいい。たとえこの町が世界一のシェアを誇っていても、他にもギミックを取り扱う大きな職人街は存在するのだから。そもそも、

「お前、カタギじゃないな。」

その言葉に対して、森田はノーコメント。

「誰かに何か言われて、ここに来たんだろ?」

ギミックのシェアがどうのこうの。という話が出たが、まず、この世界中でギミック職人の町は5つしかない。まだまだマイナーな存在であり、たった5つのグループしかなければ、互いについての情報も筒抜けになりやすい。例えばどこかの町からこの森田という男がやってきたのだとして、特にこの町についての下調べは必要なかったはずだ。この町でハロウィンのギミックバトルがあるというのも有名な話で、他所から見物に足を運ぶ職人だって少なくはないのだから。ただし、ギミック職人は町は違えど、共存しあっている節がある。つまり敵意を抱いてここに来ている森田は、その時点でただの職人ではないだろう。何かしらの不穏なバックボーンを背負っているはず。

「教えてやるよ。ただし、あんたが岡田に勝てたらな。」

「分かった。」

これ以上ここにいても、聞ける話はない。井ノ原はそう判断して退散することにした。要は岡田に勝てばいいだけのこと。正直なところ、あまり勝算は見出せないでいるが。

「約束、忘れんなよ。」

今年は『マミー』がいい具合に仕上がっている。1回戦で出したときに、かなりの手ごたえを感じられた。これならば優勝も想定の範囲内に見えてきたと、思っていた。それは岡田と三宅のバトルを見て、すでにしぼんでしまった手ごたえ。実際に自分の目で見て、はっきりと確信してしまっているから。岡田はギミック使いとして優れている。この町の誰よりも。お祭りのはずが、とんだ重い理由を背負うことになってしまった。井ノ原は(せっかくのお祭りなのに、つまんなくなっちゃったな・・・)などと思いながら、その工房を後にした。

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