Live Show 9話です。
まだまだ話は中盤戦。
ツートップにとっては分岐点?
出演 : 井ノ原 快彦 ・ 長野 博 ・ 坂本 昌行 ・ 三宅 健
見たことのない天井。自宅でも長野の家でもない。体が重くて気分が悪かった。何かが口の中に入っている。機械がたくさん並んでいて、そこから延びるチューブやコードが自分につながれていて、薄暗くて、襲い掛かってくるのは不安。誰もいない。父親も、長野も。自分はここにいると声を出して示したいのに声は出ず、まるで置き去りにされたようで恐くて、寂しくて、悲しくて涙が、こぼれた。その瞬間に頭に浮かんだのは、妙な感覚。そういえば自分は、誰だっただろう。V6のメンバーで、それなりに仕事をさせてもらっていて、坂本と長野と3人でトニセンとか呼ばれていて。違う。長野は父親の友達で、一緒にFIVESというバンドをやっている。まだ6歳の自分が仕事なんてしているはずがない。いや、もう31歳だろう?12年、ジュニア時代を入れればもっと、長い間仕事を。そうじゃない。母親が知らない男の人と旅行に行くと言ったきり帰ってこなくなって、それからは父親と2人で暮らしてきた。何だ?その昼のメロドラマのような展開は。どっちだ?どちらが本当?両方の記憶が頭の中で混ざり合っていて、よく分からない。誰かに聞きたい。きっと一人で考えても無意味。
看護士に名前を呼ばれて、とりあえず笑っておいた。怪訝そうな顔をされた。程なくして医者が来て、井ノ原の名前を呼んで、ここはどこだか判りますか?なんて質問。病院だ。わざわざ確認しなくても、明らかに病院に間違いない。口に何か入ってて、答えられませんけど。
「口に呼吸を助けるチューブを入れているので、今からそれを抜きますね。大きく息を吸った後、思い切り息を吐いてください。」
ああ、異物感の正体はそれだったのか。ドラマで見たことがある。挿管とかいうヤツ。息を吐いたと同時に、口から入れたチューブを医者が引き抜く。それって、苦しいんじゃ・・・・・
「はい、吸ってください・・・もっと・・・そうです。じゃあ思い切り吐いて・・・」
本当に苦しかった。喉をチューブが通るなんて、自然の摂理に逆らっているから。思い切り咽てしまって、それが何より苦しいです。と抗議したら医者を困らせるだろうか。
それにしても、なぜ自分はこんなところにいるのだろう。具合が悪いことこの上ないのは、どうして?
「あの、気分が悪いんですけど。」
医者にそう告げると、
「でしょうね。」
と、呆れ返ったような口調で返された。自分がどうして病院にいるのかを分かっていない患者。それを知っている医者。呆れ返ったということは、それなりの何かがあったのだ。ところが頭の中がグチャグチャで、自分のことなのに混乱気味になっているから、できれば詳しい経緯なんてものを話してもらえるといいのに。なんて思っていると、視界に入った2人。心配して、わざわざ駆けつけてくれたのだろうか。視界にその姿を捉えながら、ふと頭の中がすっきりと整理されたような感覚に襲われた。思い・・・・・出した。
生きている自分にがっかりする。とても申し訳ない気持ちがいっぱいで、井ノ原は泣き出しそうな表情で2人を見る。
「よっちゃん、よかった。」
ベッドに横たわる井ノ原に、言うなり長野はぎゅっと抱きつく。抱きつかれた井ノ原は、一瞬だけ坂本のほうを見て、不自然にその視線を泳がせた。怒られることを心配して警戒しているのだろうと判断した坂本はなるべく優しく、頭を撫でてやる。
「あんま、心配かけんな。」
それは長野が聞いても、今までにないほどに優しい口調だったと思えた。それなのに俯いた井ノ原は目にいっぱいの涙をためて、呟いた。
「おとーさん、よし、いきててごめんなさい。」
長野はその言葉と真っ向から向かい合うように、井ノ原を見た。たった6歳の子の口から、生きていることを詫びるセリフが飛び出すなんて、考えもしない。最悪の答え。醤油を一度に過剰摂取すると死ぬこともあると、知っていた上で井ノ原は飲んだのだから。
「てれびのなかのおんなのひとは、ちゃんとしんだのに。よしはしねなくて、ごめんなさい。」
「どうしてだ、ヨシ。どうして死のうと思った?」
「だっておとーさん、よしのことじゃまだってながのくんにいってたもん。わずらわしいって、てにあまるって。それってじゃまっていういみだって、ほんにかいてあったもん。だから、よしはいないほうがいいんだもん。よしがいたらおとーさん、しあわせじゃなくなっちゃう。」
6歳の子供なんて、誰かに教えてもらえなければ深く物事を考えたりしない。何も考えずに自由に好きなように生きていて、暢気なものだ。それくらいに思っていた。大人同士の会話なんて聞いたって分かりっこないと楽観していた。「よしいいこにしてる。だから・・・・・」だからビデオを見てもいい?違う。だから、邪魔だなんて言わないで。それを言いたかったんだ。子供なんだから当たり前。2度も捨てられたくないに決まっている。間違えたのだ。坂本が間違えたから、井ノ原は選択肢をこんな風に・・・
「よっちゃん、俺のうちにおいで。お父さんじゃなくて俺と、一緒に住もう。俺はよっちゃんのこと大好きだから、邪魔だなんて思わない。」
「ながのくんのいえで、すむの?」
「そうだよ。」
「よし、いきててもじゃまじゃないの?」
「俺はね、よっちゃんがいないと寂しくて嫌なんだ。だから、来て欲しいな。」
「ほんとうに?」
「本当。そばにいて、笑ってて。それだけでいいから。」
「わかった。よし、ながのくんのおうちにいく。」
「ありがとう。」
2人の空気があまりにもきれいで、言葉を発することはできなかった。何もできない父親と我慢して暮らすより、長野と暮らすほうが井ノ原は、たくさん笑って、幸せでいられる気がした。
6歳の井ノ原はその日以来、坂本のことを「おとーさん。」とは呼ばなくなった。
最近、長野と岡田が2人で何かを真剣に話す光景をよく目にする。小さな声で、お互いにしか聞こえないようにひそひそと。時にはどこか場所を移して。何か相談事でもあるのだろう。それを年長のメンバー、長野に相談するのは正しい選択だと思う。きっと冷静に最後まで聞いて、納得のいくような答えをくれるだろうから。その様子を何度か見ていて、ふと三宅は自分も話くらいはしてみてもいいのかもしれないと考えた。それは一度は簡単に流してしまった事、流してはみたものの、心の中では引っかかっていたことだ。それは、この間のロケで起こった出来事が増徴させる漠然とした不安なのかもしれない。何もなければそれでいい。ただ、何かあるのだとしたら、知らなかったとは言いたくないから。
雑誌の取材が終わって、出てくる長野を待ち伏せしてみた。待ちながら、ずっと考えていた。自分が抱いている不安を、どんな風に切り出せばいいのか。大袈裟には話したくない。でも真剣に聞いて欲しい。本人がいないところで、勝手なことは言えない。憶測で掻き回したくない。上手に伝えて、一緒に考えてほしいだけなのだ。
「健?」
「なっ、長野くん!」
自分で待ち伏せしておきながら、思考の中に入り込みすぎたらしい。呼ばれて、ひっくり返った声を上げてしまった。
「何かあった?」
オフの日に他のメンバーの仕事先にやって来るなんて、めったに無いことだ。だから長野は何かあったから、三宅は来たのだと思ったらしい。その通りなのだが。
「聞きたいこと、あるんだけど。」
真剣な表情を作って言うと、長野はやわらかく笑って、答えた。
「じゃあ、ご飯でも食べに行こうか。」
それは充分すぎる答え。ゆっくりと話を聞いてくれるという意味が含まれている。ここが長野のすごいところ。重すぎず、軽すぎず。大歓迎でもないけど、拒否もしない。岡田はトニセンの3人をよく観察してるな。と感心したり。
「長野くんってさ、偉大な人だね。」
なんて言えば、たくさん目をしぱしぱして、
「そんなことないよ。」
と、やっぱりやわらかく笑った。
井ノ原の様子がおかしい。この間のロケの時なんて特におかしかった。その説明を三宅がしている間、程よく相槌を打ちながら、長野は箸を止めない。しかしきちんときいてくれているのだと三宅が思っている理由は、どんどん消えていく笑顔。眉間に現れ始めた皺。相槌に時々見え隠れするため息。井ノ原はもちろん、カミセンに対しては自分の弱い部分を見せることはない。が、どうやらそれは長野や坂本に対しても同じなようで、そういう事はさり気に把握していそうだと思っていたのに、話がひと段落付いた頃には、長野はすっかり困った表情になっていた。
「何をやってるんだろうねぇ、井ノ原は。」
「うん。」
「必死で隠そうとする割には中途半端なんだよ。キャパが満タンになったら、こうやって簡単に周りに悟られるんだから、だったら素直に言ってほしいと思ってるよ、俺は。けど、あの頑固者は言わない。そうこうしてる間にメンバーがみんな気付いちゃって、大騒ぎになって。まるで小さな子供みたい・・・ま、そこが可愛くもあるんだけど。」
目をそらしても耳をふさいでもそれは、自分の元へと飛び込んでくるメンバーの異変。自分のことではないのに、突き刺さるこの表現のしようがないほどの痛みも、少しでも和らげてあげたいとちゃんと思っている。それを本人が拒むから、話はややこしくなるのだと、今までに何度も感じてきた。みんな、感じてきた。
「井ノ原くんは、優しさだけじゃどうにもできない。」
「そ。時には叱り飛ばしてでも話を聞かなきゃ。」
「大人だから、悩み事とかあっても、言っちゃいけないって思ってるんだね。それで周りをやきもきさせて、ホント、有り得ないよ。」
「健なら、どうする?」
「どうってっ、それが分からないから、相談してるんじゃん。」
「難しい問題だねぇ。」
手にしていた箸でくるくると宙をなぞりながら、長野は遠い目をした。どこかの個室から高らかな笑い声が聞こえて、それすら癇に障る。歪んだものはどうやって元に戻せばいい?力づく以外の方法で、どうやって・・・・・
「坂本くんは?」
「え?」
「もちろん気付いてるんでしょ、あの人も。」
何気なく三宅がその名前を出すと、長野は黙り込む。難しい表情には拍車がかかって、手に取るように分かること。2人で話したけれど、いい結論は出なかったのだ。
「俺にできることがあるなら、やるからね。」
三宅が言うと、長野は珍しくヘタクソな笑顔を浮かべて、
「うん。」
と小さく頷いた。ああ、もう自分が微力ながらに協力したところで、どうにもならないほどに事態はなってしまっているのだ。と、三宅は痛感させられた。
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