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V6井ノ原快彦氏主演の妄想非恋愛小説を取り扱っております。
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No.341
2009/10/11 (Sun) 23:49:43

長野氏お誕生日小説、やっと更新です。

すっかり出遅れてしまいました。
書きかけていたものをすべて消して書き直す。
という暴挙に走った報いですね。
なんとなくしっくりこない。
と思ってしまうと全く書く気がなくなってしまうもので。
悪い癖です。


出演 : 長野 博 ・ 井ノ原 快彦 ・ 坂本 昌行














 


バス停での仕事
 
 
 
 
 
 都会のバス停はまるで、人を迎えたり送ったりする雰囲気とはかけ離れている。それはメディアの世界だけに存在するデフォルメだと思っていたのは、高校までの話。始発のバスは6時前から走っているのに、最終バスは18時前。それで充分事足りるほどの田舎町。ガタガタと立てつけの悪い音を立てて未だ舗装されていない道を走るボンネットバスがみんなに愛されているのは、幼いころからずっと生活と密接な関わりを持っていたからかもしれない。高校生になってバス通学デビューを果たした時の感動を、おそらく一生忘れることはないだろう。こういうノスタルジックな思考に嵌って仕事の手が止まっていることを知ったら、あの人は「くだらないこと考えてないで、まじめに働きなさい。」と、怒ったように笑って優しく頬をつねったりしてくれるのだろうか。運転手とお揃いの制服に身を包んで、毎日欠かすことなくバス停に立つあの人は。
 
 
 噂話は2時間もあれば町中に広がる。なんて酷く狭い世界を印象付ける法則を持つここに於いて、あの人の情報は何か強い力が全力で隠蔽しようと働いているかのように流出することはなかった。そのバス会社の職員で、左胸の名札から名前が「長野」というのだということと、始発バスでやって来て、最終バスで帰っていく。お昼はだれが作っているのか持参した弁当を食し、バスを待つ間にはぎっしりと細かい字の詰め込まれた分厚い本を読んでいる。到着したバスから降りてくる人には『ご乗車ありがとうございました』、バスに乗る人には『ご乗車ありがとうございます』そう、少し掠れたような声でにこやかに告げる仕事は毎日寸分違わない。晴れの日も雨の日も曇りの日も雪の日も。一度だけ好奇心を抑えきれず、ダイレクトに質問をぶつけたことがあった。小学3年生だった自分がしでかしたその質問はあまりに拙く、
「ねぇ、お兄さんは何の仕事の人なの?」
なんて間抜けにもほどがあり、
「バスを使ってくれるお客さんにご挨拶をする仕事だよ。」
というまんまの回答を得ることしかできなかった。いまどきの都会の子供ならばもっと狡猾に切り込んでいくのかもしれない。だとすればきっと、もっとたくさんの情報を引き出すことが可能だろう。ただみんな、ぼんやりとどこかで察しているから行動には移さない。多くのことを尋ねればその人はたちまち、そこから消えてしまう。人ならざる存在と言っても過言ではない、自分の記憶が呼び起こせる限りの過去より今まで、ほぼ容姿の変わることない「長野」という人は。
 
 
 真っ赤なオープンルーフのスポーツカーに乗った男の人が来た10月のある土曜日、町はとんでもない騒ぎだった。いつだって噂話の先頭を全力疾走している浦川くんのお母さんは大忙し。ワイドショーのレポーターみたいに突撃インタビューなんて真似はしないけれど、情報収集に抜かりない。3連休の初日ということもあって休日をのんびり過ごしていた自宅玄関発信で家じゅうに響き渡った声は、
「いーのーはーらーくーん!お出かけしーましょっ!」
普段からよくつるんでいる友人のものだ。誰かが出迎えたのかなかったのか、すぐに階段を駆け上がる足音がし、部屋のドアが乱暴に開け放たれた。
「スゲー車が来てんだけど見た?」
肩で息をしながら駆けこんできた成人男子の目は、休日の空き時間を十二分に満たしてくれそうなニュースにキラキラ輝いている。
「や、見てないけど、スゲーってどんな?」
「赤のポルシェ!母ちゃんの話だと、品のいいヤクザが乗ってたらしい。長野さんのバス停に止まってるみたいだからさ、見に行こうぜ。」
品のいいヤクザとはこれいかに?黒のブランドものスーツを着こなすイタリア辺りのマフィアを想い浮かべながら、2つ返事で誘いに乗った。浦川くんのお母さんの持ってくる情報は新鮮で事実を伝えているが、数倍の誇張を含んでいることが多い。真実は己の目で見て耳で聞いて確かめる必要がある。それに、ポルシェなんて小洒落た車がこの町に現れるのはこの先を含めて起こることがひどく希少な出来事だから、好奇心をくすぐられたのだ。
「長野さんの知り合いかな。」
「っつーか借金取りとか有力な線じゃね?ま、それは母ちゃんの推測だけど。」
人は見かけによらないものだと噂を真に受けたようなバカ正直なことを頭の片隅で思いながら、赤いポルシェを生で見るのは初めてかもしれない。と。少し浮き足立った気分でスニーカーの踵を踏んだまま家を飛び出した。
 
 
 田舎って怖いなぁ。なんて。遠くから見えるバス停の様子だけで、そんな感想を抱いてしまった。噂を聞きつけた地元の人間が大集合。黒山の人だかりを築いている様は圧巻。けれどもっとずっと圧倒されたのは、大勢の人によるひそひそ話やざわめきなんてなんのその。まだ現場を遠巻きに眺めていたというのにはっきりと聞こえてきた怒鳴り声。
「勝手なことしてんじゃねぇよ!テメェは何様のつもりだ!」
ああ、浦川くんのお母さんの予想は的中だったのだ。これはこの町始まって以来の大事件かもしれない。
「いいぞー!長野さん。もっと言ってやれ。」
さすがは長野さん。本職の人はやっぱり迫力が違う。・・・・・って、長野さん?ヤクザさんじゃなくて?これはスキャンダルだ。借金取りが来たなんてバージョンよりも全然レア度が高い。人波の足元をみんなに苦笑されながらくぐり抜けて、ひょっこり先頭に顔を出すとまさに激昂の真っ最中な長野さんとダークグレーのスーツをすっきりと着こなした、サラリーマン。どう見てもヤクザには見えない。明らかに睨みを利かせる長野さんの威圧感に怯んでいる様子。傍らに止まったポルシェが悲しい。
「俺は坂本くんが100回迎えに来ても戻らない。パワーゲームに巻き込まれるのはもううんざりだ。」
「こんな田舎町で定年まで過ごす気かよ?お前は干乾びたじいさんか。」
「分かってないな。ここだと本社にいるよりずっと有意義に時間を過ごせる。心も体もリラックスできて、すごく快適な町だよ。っつーかさ、もう届いてんだろ?俺の辞表。」
「あんなモンが受理できるか。」
「受理するかしないかを決めるのは人事課で、広報課の坂本くんじゃない。」
「こんな田舎町に無職で転がり込んで、どうやって暮らすつもりだ?」
「自給自足する。親の実家が農家だから農業のことは詳しいし。」
「無理だ。田舎ってのは異様に排他的なんだぞ。ましてやこんな周りは山ばっかでコンビニもなけりゃ携帯の電波もスゲー弱い辺鄙な場所でやってけんのか。」
両手で数えられるほどのやり取りで理解した。さっき聞こえたギャラリーからの声援は、怒りの矛先を完全にこの町に向けてしまっている坂本への抗議だったのだ。確かにこの町にはコンビニがない。そもそも最終バスが18時前で事足りるのに、コンビニなんて無用の長物。周囲が高々とした山に囲まれているせいで携帯の電波が弱いのには時々不服に感じるけれど、いいところだってたくさんある。排他的を露わにして長野さんをハブにするようなくだらない人間は住んでいない。と胸を張って言える。都会に住んでいる人間がそう判断したからという理由だけで、頭ごなしに否定されるものでもない。
「長野さんはウチに住むから心配ねぇよ。」
「そうそう。畑はウチのを一区画貸すことになってるしな。」
「この人は町の人気者だからね。みんな協力したいって取り合いなの知らないの?」
そら見たことか。と心の中で舌を出した。こういうシチュエーションでの田舎の人間の結束力はハンパではない。事実、長野さんは『バス停の人』という愛称の名物人間として皆からとても慕われていた。ここでは決して味方に事欠かないだろう。
「帰れよ。俺は絶対に戻らない。」
「・・・・・諦めないからな。俺は何度だって迎えに来る。」
という捨て台詞を残して坂本は颯爽とポルシェに乗りこむと、憎々しげな視線でギャラリーを見やって去って行った。発生したのは大歓声で、長野を取り囲むように大きく人波が動く。輪の中から抜け出して後方からその様子を眺めつつ、この人たちは本気で長野さんを受け入れるのだろうなと思った。初めこそ何者なのかと誰もが訝しがっていたバス停の人は、あっという間にこの町の人間になれそうだ。
(ああ、でも来週からバス停で会えなくなるじゃん。それって寂しいかも。)
実は優しい笑顔を湛えたお見送りとお出迎えというのは、とても癒される存在だった。
(でも普通に道で遭遇する確率は上がるからいいか。)
町の人に囲まれて嬉しそうに頭を下げたり言葉を交わしたりする長野さんの姿は、久しぶりに町に帰ってきた地元出身の人間であるかのように馴染んでいた。
 
 
 ちなみに、長野さんがこの町に越してきた日も大騒ぎだった。それは歓迎という意味もあるが、何より乗ってきたのがBMWのF650CSだったからだろう。大型バイクを乗り回すタイプにはとても見えなかった。軽々と扱い、190キロだから他の大型よりは軽い。とあっさり言ってのけていたが、それは充分に重量級だと多くの人が思ったに違いない。いずれにせよ、長野さんはバス停の人からこの町の人になった。近いうちに、飲みにでも誘ってみよう!という計画を浦川くん他数名と練っているのはここだけの話だ。
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