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V6井ノ原快彦氏主演の妄想非恋愛小説を取り扱っております。
No.
2024/05/10 (Fri) 00:21:15

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No.220
2008/06/08 (Sun) 19:36:09

短編更新です。

イノまぁ祭りの小説を書いていたはずが・・・・・

長野博を泣かせたくなりました(何故だ!)。
特にその思惑に意味はありません。
ただ、ピシッと凍りつく空気が書きたかったというか。


出演 : 井ノ原 快彦 ・ 長野 博 ・ 三宅 健










独立するココア
 
 
 
 知ってしまった。
 無くさないためにできること。
 分かってしまった。
 取りこぼさぬようにする方法。
 気付いてしまった。
 ただ君だけがこの世にいればいい。
 ただ君だけが笑っていればいい。
 君以外のすべてが堕ちようと知ったことではない。
 なぜならそれだけが・・・
 それだけが世界の真実だと定義付けてしまったから。
 
 
 4年も音信普通だった20年来の仲間よりも、大切な人が出来た。だから、もう、戻ってこなくてもいい。そう、できることなら、二度と姿を見せて欲しくない。
 自分のしでかした酷い仕打ちなんて棚に上げて、当たり前に店に来た人は4年前と変わらないオーダーを告げた。即答で、断った。
「すいません。ウチ、ココアはやってないんですよ。」
「それって仕返し?相変わらず子供だね、よっちゃんは。」
「ココア以外のものでよろしければ、お出しします。お決まりになったら、呼んでください。」
「拗ねてるの?」
違うよ。
「ねぇ、よっちゃん。黙っていなくなったことは悪かったと思ってる。ごめん。でも、俺はちゃんと帰ってきたじゃない。ちゃんと、よっちゃんのところに帰ってきたんだ。約束は破ってないよ。」
約束なんて、とっくに無効だ。
「毎日思い出してた。よっちゃんの笑った顔とか、「長野くん」って呼んでくれる元気いっぱいの声とか、バニラアイスの乗ったココアのこととか。忘れたことなんて、一度もなかったよ。」
「お客様。あなたがご存知の「よっちゃん」は、もうここにはおりません。」
 
 幼い子供にするように、優しく髪を撫でて「おやすみ。」と言ってくれるのが日課。どんなに忙しくても必ず、毎日ここに帰ってきてくれるはずだったのは、遠い過去。寂しがりやだから独りでいるとどこまでも沈んでしまうんだ。だから独りじゃないことを教えてくれるだけでよかったのに、あなたは消えた。見切りをつけられたのだと思った。ウサギみたいな性質を知っていたのに、帰ってこなかったのはそういうことなんでしょう?
 強く願った。独りにしないでと、大声で叫んだ。心にこじ開けられた穴を、きっとあなたは埋めにきてくれると信じていたから。にっこり笑って、髪を撫でてくれると疑わなかったから。けれど、違ったんだ。救いに来てくれたのは、あなたじゃない。手を差し伸べてくれたのも優しく笑ってくれたのも、少し背伸びをしながら髪を撫でて「大丈夫。」なんて言ってくれたのも、あなたじゃなかった。
「ただいま。おなかすいたー。」
「お帰り、健ちゃん。」
どんなことがあっても彼は、毎日ここへ帰ってきてくれるんだよ。
「ココアのアイス、今日はイチゴにしてね。カバンと上着、置いてくる。」
「りょーかい。」
あなたのために入れるココアは、もうないから。ココアはあなたから独立して、彼だけのものになったから。一緒にいた時間の長さじゃない。そのときの心を救ってくれるか否か。大切なのは、それだけのこと。
「よっちゃん、彼は?」
「俺にとってたった一人、かけがえのない人です。だからお客様、もう「よっちゃん」とは呼ばないでいただけますか。あなたの場所は、ここにはない。」
大降りのタンブラーに注がれたアイスココア。甘いイチゴアイスを浮かせれば、彼はとても嬉しそうに受け取ってくれるんだ。些細なことで癒される。些細なことで、俺は生きていけるよ。よく、知っているでしょう?
 
 くるくるとグラスの中で泳ぐアイスと格闘する姿も、口いっぱいにハンバーグをほお張る姿も、ぜんぶ、ぜんぶ手が届く世界にあるもの。
「このソース、チョーおいしいね。井ノ原くんって料理ホントうまいよ。」
「ありがと。健ちゃんがそう言ってくれるのが、一番嬉しい。」
「俺は井ノ原くんのこと、見捨てない。毎日ちゃんと、ここに帰ってきて「ただいま。」って言うからね。悲しいこととか悔しいこととかあって井ノ原くんが泣きそうなときは、何十回だって頭、撫でてあげるから。手だって握ってあげる。だから、大丈夫だよ。」
「うん。」
ほら、たったこれだけで心は満たされる。独りじゃないと言ってもらえるだけで、言うなれば彼の好きなココアのように、甘美な夢に浸れる。だから、そばにいて。どこへもいかないで。
 
 
 思い知らされた。
 犯した罪の重大さを。
 投げつけられた。
 あまりにストレートな拒絶を。
 初めから気づいていた。
 ただ君だけは守らなければいけない。
 ただ君の手だけは離してはいけない。
 何を捨てても君と共にあることを選ぶべきだった。
 けれど間違えてしまった。
 そして永遠にこの世界から君を失ったんだ。
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