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V6井ノ原快彦氏主演の妄想非恋愛小説を取り扱っております。
No.
2024/05/06 (Mon) 11:37:24

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No.276
2008/10/20 (Mon) 15:36:28

短編更新です。

小学校の算数からして怪しい人間が書いた代物ですので、
細かな部分については温かい目でスルーしていただけましたら幸いです。


さぁ、早くも風邪をひきました。
熱がない代わりに、関節が激痛です(苦笑)。

もとい、
数時間経過後、発熱中となっております。



出演 : 井ノ原 快彦 ・ 坂本 昌行














趣味の幾何学、実益の算数
 

 
 
 公理がユークリッド幾何学に近い幾何学を求めよ。ただし行列の定理は保持し、合同定理は弱まり、平行線定理は省略されるものとする。
 
 
 三角形の内角の和は180度である。そんな書き出しから始まった公理は、もう何日ほどの時間を費やして加筆と修正を繰り返されているだろうか。ホワイトボードの両面だけではとてもスペースなど足りるものではなく、広い作業台いっぱいに広げられた白の模造紙は、書き込みと書き直しですっかり黒ずんでしまっていた。考えれば考えただけ底知れぬ深みに嵌り、もはや坂本は混乱に近い思考パターンに突入している。
「それ3日前にも違うって言って消してなかった?」
嘲笑を湛えた井ノ原が指差す先には、数時間前に坂本が書き込んだ平行線公理の一部。
「違う?」
「ここ。この『直線が2直線に交わり、同じ側の内角の和を2直角より小さくするならば、この2直線は限りなく延長されると2直角より小さい角のある側において交わる。』っつートコだよ。平行線定理は省略されんだから、こんなの使わねぇ。って自分で言ってたし。」
言いながら井ノ原が二重線でその箇所を消すと、坂本からは長いため息が漏れた。
「遠いな。」
投げ出されたシャープペンシルがカラカラと乾いた音を立てて転がる。深く俯いてしまった坂本は、しかし数秒でゆっくり顔を上げると、井ノ原が消した箇所の前後に視線を落とした。
「もしもこれが解けたら、どうなる?」
「世界的な有名人になれるに決まってんじゃん。」
「そうじゃない。」
強めた口調と鋭い視線を突き刺した坂本に、至極当たり前だと言わんばかりに井ノ原は笑みを湛える。
「これが解けたら次がある。何?解放されると思った?」
井ノ原から告げられた事実に、坂本は眉間の皺を一層深くした。ブツブツと抗議の言葉を並べ立てる様子を視界の端に捉えて、坂本は淹れたばかりのコーヒーに満たされてマグカップを差し出す。が、それを受け取る手は差し出されない。子供よろしく、不貞腐れてしまったらしい。さすがにやり過ぎたと思い、今回は自分が折れてやろうかと考えを巡らせていると、
「こんなことなら『幾何学特講』も選択しとけばよかった。」
という可愛らしい呟きが聞こえた。
「坂本くん、代数学のゼミだったじゃん。」
「状況はどうあれ、解けないのは悔しいんだよ。」
引っ手繰る勢いで井ノ原の手からマグカップを手にした坂本は、ここ数日、自分が書き連ねた公理を一瞥した。
「役に立たない、こんなモン。小学校までの算数が完璧なら、普段の生活には困らない。」
「だからわざわざ大学に残ってまで続けたくせに、数学の道からは退いた。って?」
「違う。今でも大好きだよ。うん、機会があればもう一回。って思う。ただ、さ、世間一般の人にはたぶん知り得ない世界だろ?それが、寂しかったんだ。日常会話の中に代数の話が出てきて、友達やら同僚やらが目に見えて引いていくのが、スゲー苦痛だった。」
「それで?」
「ほんの時々の、ちょっとした趣味程度に治めておくことにしたんだ。でも、井ノ原に問題を吹っかけられると、意地でも解きたくなる。」
理不尽な本音が口をついて出た。この状況で言うに事欠いて、まだ井ノ原を捨てていないと?
「じゃあ特別に、もう一問出しちゃおうかな。」
「はぁ?今のこれだって、解ける見通しは一切立ってないっつーの。」
ストレートに言えばいいのだ。ただ、際限なく坂本という人間を誰より、自分の傍に繋ぎ止めておきたいだけなのだと。
 
 
 真空を励起するためのゼロでない最小のエネルギー(質量がゼロでない粒子波動)の存在と、ゲージ群がコンパンクトで単純な非可換リー群Gであるような、R^4上の量子ヤン=ミルズ理論の質量ギャップを証明せよ。
 
 
 世界七大未解決問題の一つ。幾何学の他に、代数学、解析学、情報数学、集合論、計算機科学、確率論、統計学のすべてを駆使しなければ、証明は不可能だと言われている。そしてそれらすべてのエキスパートが知恵を寄せ集めたところで、未だ解決の兆しはない。つまり井ノ原は必死になっているということ。自分が気に入ってしまった顔見知りの元数学者とともに、在りたいのだろう。
「なんか殺意が湧いた。」
「そう?じゃあ殺してみる?大好きな算数でも使って。」
殺しても構わないと、言うのなら。
 
 簡単な算数の問題を出題する。人間が失血死に至る際、致死量とされる出血量はその人間の体重3%として体重が60Kgの男性の場合、何CCの出血で死に至るかを求めよ。小学生レベルで充分に解けるだろう?幾何学なんて微塵も必要ない。井ノ原の数学者としての人生を否定する気はないが、それに巻き込まれてやれるほど人間が出来ているわけではないのだ。ましてや未解決の数学の難問を解けと監禁されて、いつまでも黙って従っているような弱者でもない。一度は専門分野としておきながら憚られるという気持ちもあり、約10年ほどは付き合ってみたが、ここはいい潮時。幾何学と算数で勝負をしてやろうではないか。いくら難易度の高い分野だと称えられても、所詮オーディエンスは実益性の高い算数に親しみを感じる。思い知ればいい。どれ程自分が愚かしい存在なのかを。
 窓から捉えることができるのは、四角く切り取られた小さな景色。ずいぶんと外に出ていない。世界は常に変化をしているだろうけれど、少しは喜ばしい方向へと変化を遂げているのだろうか。井ノ原は時折、その日に遭遇した出来事を離して聞かせたりもするが、そんな些細なニュースは然程の重要性を持たないだろう。外に出たことで知りえた劇的な変化の度合いを考えれば、自ずと胸が高鳴る。目新しい世界、自由な日々、算数で十二分に事足りる毎日。言葉にすれば大仰さの欠片もない、肌で感じれば刺激的な場所を目指して、さぁ、舞台はここにある。
 
 
 今、井ノ原にとっての最終幕を告げるベルが鳴り響いた。
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