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V6井ノ原快彦氏主演の妄想非恋愛小説を取り扱っております。
No.
2024/05/06 (Mon) 12:57:37

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No.202
2008/05/06 (Tue) 15:18:34

短編です。

浅輪刑事に敬礼してくれたリアル警察官のみなさま、素敵です。


出演 : 井ノ原 快彦 ・ 坂本 昌行 ・ 長野 博 ・ 三宅 健











Yes ! We’re Open !

 


 

 瞬間、店内の空気は凍りついた。

 

 この毎日は、一生続くなんて都合のいいことを考えていたのだ。だから、あまりに唐突過ぎる挨拶に絶句したのだろう。挨拶をした当人は、笑顔のまま帰っていった。挨拶をされたほうはといえば、未だ呆然とドアを見つめている。

「おい、井ノ原っ、お前タバコ・・・・・って、もう帰ったのかよ。ったく。」

タバコと使い込まれたジッポ片手に出てきた坂本は、店内の雰囲気で井ノ原がさっさと帰ってしまった理由を悟る。

「寂しいなら、辞めてんじゃねぇよ、バカ。」

小さく零した言葉を耳聡く拾い、すぐそばにいた長野が坂本の腕を掴む。

「俺たちは、蚊帳の外?」

「あー、アイツ、何か言ってたか?」

「すごく軽く、俺さぁ、今日で最後なんだよねー。今までありがとね。って言ったよ。」

久しぶりに聞いた。とても低く、消え入りそうにか細い長野の声。井ノ原は、破壊力抜群の爆弾を置き土産に投下して帰ったようだ。

「説明して、くれるんでしょう?」

ドアのほうを向いたまま、いっそ振り返ろうとはしない三宅の声がかすかに震えていると聞き取ったのは、気のせいではない。店員が一人辞めた程度のことでこの騒ぎ。それほど井ノ原がこの2人に及ぼした影響はすごかったのだと、坂本は改めて痛感する。同時に、最初からすべての成り行きがどのように運ぶのかを知っていた自分に、若干の罪悪感を覚えた。

 

 酷い嘘をついて、そうしてまで逃げたいと望んだ。

 

 約束をした。誰にも明かすことのなかった約束。それを律儀に守った自分を、数え切れない人たちが責めた。けれど守らなければいけない約束で、責められたことに対して憤りは感じていない。これで、よかったのだと思う。本当に、そう思う。

(・・・・・いつになったら、やむんだ?)

バケツをひっくり返したような雨は、もう5日目である。大き目の黒い傘をくるりと回して、坂本は小さな手作りの屋根を見上げた。店の脇に不恰好に存在を主張するそれは、井ノ原の仕業だった。

「お前っ!勝手に改築してんじゃねーよ!」

「いいじゃん。これないと、雨の日に自転車濡れちゃうし。」

「雨の日は自転車で来なきゃいいだろ。」

「やだ。俺は雨が降っても雪が降っても、自転車で来るんだー。」

「だからってなぁ、家主の断りもなく、こんな派手なモン付けやがって。」

「空色にさ、したかったんだ。なんか元気出るじゃん?」

「元気?出るか?」

「出るよ!この屋根見て、元気出して、ギリギリまでがんばるの。」

いつからだったろう、井ノ原が自転車で来なくなったのは。自転車に乗ることが困難なほどに、体を蝕まれ始めたのは。

「昨日さぁ、風呂入ってたら吐血してスゲーびっくりした。知ってる?吐血の血って、ちょっと黒っぽいの。」

出会い頭に人とぶつかってビックリした。なんて他愛ない世間話と同じレベルで、品出しをしながら井ノ原が言った。そんなに簡単に言ってのけられることではないのだろうけれど、坂本はリノリウムの床にモップを滑らせながら、平静を装った声色で返事をする。

「それで?」

すると井ノ原も相変わらずの態度で、言う。

「新しいバイト、そろそろ探したほうがよくない?俺、もう長くないし。」

そんなことを平然と、言う。

「考えとくわ。」

本当に長くなくて、それから一週間もしないうちに切り出された。今まで充分にがんばったのだし、もう休んでもいい頃だ。一年、全力疾走でがんばったから。

「坂本くん、ごめんね。なんか俺、無理みたい。」

「そっか。」

「長野くんと健には、内緒のまま辞めていい?」

「好きにしろよ。」

「ありがと。坂本くん、あのさ・・・・・」

いつもなら用件は何のためらいもなく話す井ノ原が、珍しく言い澱む。

「井ノ原?」

「俺が死んだら、坂本くんは俺のことなんて忘れてね。」

無理した笑顔で言われて、イヤだと拒否できるわけがない。

「お前のことなんて、店を辞めた時点で忘れるさ。」

虚勢という名の嘘。

「うん。それがいいよ。」

優しさという名の嘘。

「二度と、思い出してやらねぇからな。」

付き通せなかった、嘘。忘れることなんてできなかった。店を辞めてから8日、死んでから、たった5日しか経っていない。今でも鮮明に思い描ける笑顔、必要としてくれる人のいなくなった青い屋根。

(忘れるなんて、できねぇよ。)

涙雨を受け止める傘をもう一度くるりと回して、坂本はポケットから店の鍵を出す。今日こそは話すことが出来るだろうか。井ノ原はもういないと、あの二人に。自分が一番認めたくないと強く思っているから、どうしても言葉にすることができずにいる。体の調子が芳しくないから辞めたと説明した時、三宅は今にも泣きそうだった。仕事を辞めなければいけないほど具合が悪いなんてタダごとじゃないと、長野はしつこく井ノ原の病状を坂本から聞き出そうとした。本当に井ノ原を心配していたのに。会いに行きたいと何度も言っていたのに。結局、詳しいことは知らないとしか、言えなかった。

「おはよう、坂本くん。」

真実を話すという選択肢は、声をかけられた途端に消去された。先送りにすればするほど辛くなるだけだと分かっていても、まだ話せそうにはない。

 

 笑っていた彼の姿を霞ませるように、雨は降り続ける。

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