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V6井ノ原快彦氏主演の妄想非恋愛小説を取り扱っております。
No.
2024/04/24 (Wed) 13:40:26

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No.196
2008/04/29 (Tue) 10:34:56

10000HIT御礼リクエスト、第4弾でございます。

4作品目は夏海さまより頂きましたリクエスト。

昨年の更新強化月間12月15日の続きを。です。


ありがとうございます。
大変お待たせしてしまって、本当に申し訳ありませんでした。
いかがでしたでしょうか?
お気軽に感想などお聞かせいただけましたら幸いです。

こちらは、夏海さまのみ、ご自由にお持ち帰りください。




最上階より愛をこめて

 

 社運を賭けた大型プロジェクトが座礁した。原因は、担当した社員が提携を結ぶ予定だった会社との取引の席で、相手方の担当者と諍いを起こしてしまったこと。おかげで会社は莫大な損失を抱える羽目になり、諍いを起こした社員とその上司が責任を取って辞職。プロジェクトを担当していた部署は、撤廃された。辞職したのは、会社創設当時から苦楽を共にしてきた、いわば社長にとっての大切な同志だった。

「やはり現在の経営状況を維持するには、大幅な支出の削減が必要です。先日お渡ししましたけど、あの計画通りに人員削減を実施すれば、人件費だけで35%のカットが見込めます。これを期に大幅なリストラを実行し、会社の利益を守るのが得策かと思われます。仕事の質と給与に釣り合いの取れない幹部クラスから順に早期退職を募っていき、いずれは社員もスキルレベルによっては、専門知識に長けた派遣社員へとシフトする方針です。賞与は年に2度から1度へ。給与の再度見直し。出張費や必要経費なども実費精算を徹底。全てを修正しなければ解決が見込めないのなら、これも過剰ではありません。社長、この方向で進めてよろしいですね?」

「いいよ。」

「・・・・・本当ですか?」

「坂本くんは会社のことを考えた上で、この計画書を提出したんでしょ?だったらいいじゃない。人事と経理で連携して、徐々に始めてみて。」

「社長、大丈夫ですか?」

「厳しい選択をせざるを得ない状況だよ。」

「ここに越して来て、半年くらいになりますね。」

「だから?」

「まだ、忘れられませんか?」

「坂本くんはそんな事を聞くために、ここへ来たの?」

「違いますけど、でも・・・」

「あのね、坂本くん。少なくとも俺だって、あの企画にGOサインを出したんだから責任を取るべきだったはずだ。でも実際には、企画を出してくれた若い社員を3人失った。俺はまだ、ここにいる。そう、その3人が所属してた企画2課だってそうだ。俺が・・・」

「違います!全部、全部あなたのせいじゃない。」

「社員の身に起こったことだよ。大企業ならともかく、こんな小さな会社だ。社長の俺はみんなに対して責任があった。」

「小さな会社だって言ったって、社員は90人いるんです。全員の細やかなケアなんて、できないことくらいみんな分かってます。」

「言い訳なんて、みっともないじゃない。」

「社長としての仕事はきちんとしているとはいえ、そうやっていつまでも自責の念に駆られてマイナス思考ばかりで、それこそどうかと思います。」

「坂本くん。」

「はい。」

「絶対に井ノ原って呼んでくれないんだね。」

「社長は社長ですから。」

「しかも敬語だし。」

「当然です。」

「こっち、来てみなよ。やっぱさ、ビルの70階ともなるとさ、チョー景色いいよね。」

「乗り出さないでください。というか、窓は閉めてください。」

「夕焼けがきれいだね。まるで、血の色みたいだよ。」

「何を言ってるんですか。」

「もうすぐ冬が来て、雪が降って、全部を覆い隠す頃には今年も終わり。今年は長い1年だった。よく知ってる人間が次々といなくなって、辛すぎたよ。」

「だからって、あなたはいなくならないでくださいね。」

「・・・・・そうだね。」

「約束してください。いなくならないって。」

「寂しがりやさんなんだなぁ、坂本くんは。」

「社長、まじめな話をしているんです。」

「そんな怖い顔してないでさ、空、見てごらんよ。」

「計画案に捺印をお願いします。」

「いいよ。井ノ原って呼んでくれたら、押してあげる。」

「社長。」

「夕焼けは何でも、オレンジに染めるんだね。」

「それが何か?」

「いや、まぶしいなぁと思ってさ。」

「酷くお疲れになっているようですね。しばらく、仕事をお休みされてはいかがですか?」

「社長なのに?坂本くんが代わりに社長してくれるの?」

「そうじゃなくて。」

「思い切って、会社、畳んじゃう?」

「最悪はそれも、アリだと思います。」

「極論だけどね。」

「だって限界でしょう?このまま続けていくには、失ったものが多くて、大きすぎます。それに何よりも、俺は傷を隠すためにこんなところに引っ込んでばかりいるあなたを、見てられないんです。だったら社長なんて辞めて、あなたはもっと自分に優しくなるべきだ。」

「そんなことしたら堕落して、ただのダメ人間になる。」

「ダメじゃない。救われるために選ぶだけです。」

「堕落を?そんなことできないよ。」

「社長・・・」

「さっきのリストラ案だけど、早急に始めてくれる?最終決算までには赤字、帳消しにしないとだし。ああ、判子を押さないと。」

「・・・・・あなたには、俺の声は届かないんですね。」

「せめて35人は従業員をカットする方向で。」

「・・・分かりました。リストラ案が完成したら、メールで送ります。」

「よろしく。」

自分の知っている井ノ原はもういないのだと、改めて坂本は思う。井ノ原快彦は、夕焼けのオレンジに溶かされて、空に消えてしまったのかもしれない。

 

 自分が諦めたら、何もかもが終わってしまう。だから何があっても肯定するわけにはいかない。深夜、社員が去って静寂の訪れた会社のとあるフロア。段ボールが山積みにされていて、どのデスクの上も閑散としている。とても仕事をしている環境とは呼べないこの場所を選んだのは、井ノ原自身だ。

「あなたは社長なんですから、会社を守る義務があります。」

「そうだよ。俺は会社を、社員を守る義務がある。だから、長野くんも守るんだ。」

「子供みたいな意訳をしないでください。分かってるでしょう?ここで俺を切らなければ、他の社員に示しが付かない、信用を、失うことにもなりかねないと。」

「長野くんだって社員には変わりないよ。俺は、みんなを・・・」

「すべても守ることは、今回に関しては無理です。」

「じゃあ、俺にも責任があるんだから、辞める。」

「社長。社員から、会社から、逃げることは許されません。」

「だってっ、長野くんが辞めるなんて・・・・・」

駄々をこねる子供のように譲らない井ノ原に、長野は決定打を差し出した。それは今時、小学生でも簡単に読める2つの漢字が書かれた封筒。

「陳腐な言い方をするなら、これも、運命なんですよ。」

「運命じゃない。だから、受け取らない。」

受け取ったら、それこそ終わりが確定してしまうであろう、『辞表』と書かれた封筒。このまま、議論が堂々巡りでうやむやにフェードアウトしてくれることなんて、有り得ない。そうなってくれたならば、いいとは望んでいるけれど。これまで、日々を疾走するための助力の意味を込めて背中を押してくれた人が、一人欠けてしまうこと。バランスが、崩れる。もう走ることは適わない、いや、歩くことさえ、適わないのかもしれない。

「感情論で運命を変えることができるのは、御伽噺の世界の中だけです。」

頑として長野が差し出した封筒に触れようともしなかった井ノ原の手を、とてもよく知る体温が捉えた。振り払わなければ、望まない方向へとすべてが流れていくだろう。分かっている。ちゃんと頭は理解しているのだ。なのに、逃れることが出来ない。

「今まで、とても充実した人生を満喫させてもらいました。本当に、感謝してます。」

封筒を握らせた途端に離れていこうとする手を、井ノ原は慌てて握り返した。この場面なら、あるいは、些細な願いの一つほどなら、

「井ノ原って呼んでくれたら、受け取る。」

恐くて直視できなくても長い付き合いという感覚は真実を伝えてくるもので、心の中では諦観という感情が、これから聞かされる答えに対してガードを固めようと、いつも通りのそれの構築に奔走している。

「社長を呼び捨てには、出来ませんよ。」

知っている。

「そうだよね。」

正確には、知っていた。ずっとずっと、昔から。

「社長?」

「今までさ、こっちのほうこそ、本当にありがとう。長野くんには、感謝しても仕切れないくらい。えっと、だから、えっと・・・・・そう!退職金!退職金、奮発するからね!通帳見たら驚きすぎて飛び上がっちゃうくらい。・・・・・俺には、きっと、それくらいしかしてあげられることがないから。」

まだ笑える。笑顔という表情を意識する、そんな伝達を、送ることが出来る。

「あなたが社長ならば、この会社は大丈夫ですね。」

「俺、新しいこと考えてるんだ。逆転満塁ホームラン。この会社は、終わらせない。」

「そうですか。じゃあ毎日、新聞をチェックしながら楽しみにしてます。」

「うん。坂本くんにも言ってないんだー。だから長野くん、言っちゃダメだよ?俺が一番に言って、ファーストリアクションを堪能するんだから。」

「あなたは・・・・・」

「何?」

「いえ。社長になら、きっと叶えられるんでしょうね。」

駆け引きだった。井ノ原は長野を笑って送り出さなければならない。この会社は、坂本は必ず守ってみせると、虚勢でも宣誓しなければならない。長野は井ノ原が前進することを拒まないように、上手に離れなければならない。抱え込もうとする荷物を、少しでも排除しなければならない。そうして、違う道を歩いていく。互いに自己満足だとしても、これが最善の選択なのだと自分を半ば強引に納得させて。

 

 ひときわ強い風が吹き込み、机の上の書類を舞い上がらせる。少し冷え始めたそれに、ぼんやりとパソコンのデスクトップを見つめていた井ノ原は現実に引き戻された。濃紺と、紫と、オレンジ。あの日窓から見えた空も、こんな色だった。あの日とは、どの日なのだろう?想像しておきながら、自らに確認を迫る。それも数分に満たず、ああ、所詮は過去で、戻って干渉することなど不可能なのだ。と、くだらない行為に及んでしまった自分を嘲る。取り戻せないのだ、何もかも。

 坂本は、高いところが苦手だと公言して憚らない。現在のオフィスに移ってから、窓際に立つ姿は見たことがなかった。空に近いと、夢に近付いたようでいい。そう言って押し切ったのは井ノ原で、考えてみれば、その頃からすでに、社長と秘書という格差が存在することを示唆していたのを、ちゃんと理解していた。なのに望んだ。望むたびに坂本を困らせていることなんて百も承知だったのに。

(最後の、お願いだったんだけどな。)

切実で深くて儚くて、心のどこかでは叶わないことを知っていた願い。もう望まないから、コレだけは聞き届けて欲しいと、叫べば叶っただろうか。

 準備はすべて整った。長野と別れた日も、坂本と最後の会話を交わした今日も、空は同じ色だ。もう、過去など忘れ去って未来を歩くべきなのだと、やっと決心できた。年甲斐もなく寂しさを仕事に持ち込んできた障害は、消える。明日から大きく変わる世界で、どうか大切な人たちが笑顔であるように。井ノ原はデスクトップの画像を消去し、ゆらりと踏み出した。また、強い風が部屋の中へ吹き込んだ。

 

 『株式会社NEXT GENERATION社長、謎の緊急辞任。新社長に坂本昌行氏。』

 

 井ノ原は見事な勝ち逃げを最後にやってのけた。坂本はその高い窓から、初めて外の世界を眺める。たった一言、名前を呼べば、彼はまだここに存在したかもしれない。大事なプロジェクトが座礁したときも、このオフィスに移ったときも、いや、この会社を立ち上げたときから、確かにあったのだろう。彼、井ノ原の強く儚い想いは。

「最上階じゃないとヤダ!俺、給料が減ってもいいよ。もっと仕事も頑張る。だから、あの場所に・・・お願い。坂本くんと長野くんと、一緒に最上階に行きたいんだよ。」

「3人で一緒に、がんばろうね。」なんて、井ノ原の言葉の中で、願いのすべてを表現していたであろうそれを見逃した自分は、何をすれば許される?呼べば、許される?

「一緒にがんばるって、言ったんじゃないのかよ、井ノ原・・・」

机の上でポツリと存在感を主張しているのは、てのひらサイズの箱。いつから誰に悟らせることなく決めていたのか、その中身は、新しい坂本の名刺。

「身から出たサビ。ってことか。」

名刺どころか、辞令も、プレスリリースも、記者会見まできちんと準備されていた。罰か、望みか。真実を知る術はない。

 

 夢は、叶わないからこそ愛でることができるのだ。

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