ひなたとひかげ

短編更新です。

観てまいりましたよ、昭和島ウォーカー。
等身大のイノがいましたね。
自分の範疇で役柄を演じていたように思います。
無理がなく、自然というか。
きっと、すごく楽しくて仕方ないんだろうなぁ。と。
ヨーロッパさんの脚本がとにかく素晴らしい作品でした。

さて、短編などを更新なわけですが・・・・・
ついさっき、気付きました。
Ｖ６お誕生日中編が終わってない！！（←大バカ）
確かにラストまで書いた記憶がない。
ものすごく途中で放置している。
申し訳ございません（深く土下座）

と、とりあえず、本日は短編更新です。
中編もさっさと書き上げて更新できたらと思います。


出演　：　三宅　健　・　坂本　昌行　・　井ノ原　快彦　・　長野　博

ひなたとひかげ

 

 
 

　井ノ原くんがその事を疑問に感じない理由を、俺は知ってる。けど絶対に、一生、天地が引っくり返ったとしてもそれについて、本人がいる場所で触れることはない。触れてはいけない事を、痛いほど理解せざるを得ないんだ。誤解のないように断っておけば、別に井ノ原くんの事を気遣ってるんじゃない。俺が気遣ってるのは、一緒にいるあの人のこと。バカみたいに親友に義理立てしてる、大好きな人のこと。

 

　たぶん普通に出会ってたら、俺は井ノ原くんといい友達になれたと思う。基本的に気さくで優しくてとっつき易い人だし。でも事情は簡単なものじゃなくて、その事情さえなければって話。強盗よりもタチが悪いよね。あの人の時間を、乗っ取っちゃったんだから。

　順を追って話せば、井ノ原くんって人はメンタル面が酷く脆弱な人間なんだ。躁鬱が激しいっていうか、とにかく落ち込むときは誰の声も届かないくらいに深い所にまで入り込んじゃう。一人でいたら、もうダメになってただろうね。長野くんが傍にいたから、今まで無事に生きてこれたって感じ。長野くんは井ノ原くんの幼馴染み。地元が一緒で家がお隣りさんだったんだって。兄弟みたいにして育ってきたから、守るのも当たり前的な。だから就職して東京に出てきてからは、一緒に住んでた。井ノ原くんはその状況にすっかり甘えて、長野くんさえいれば平気って思い込んで。っていう２人の話をしてるけど、俺は他人。ならどうして、そんなに詳しいのか。坂本くんがいたから。坂本くんは俺と中学から大学まで一緒だった先輩。中学の時に写真部で知り合った。高校は寮が同室。大学はゼミが同じ。何の縁か、年は２つ違うのに仲良しだった人。坂本くんはよく、親友の長野くんの話をしてた。そこにもれなく着いてきたのが、長野くんが可愛がってる井ノ原くんの話。自分にもよく懐いてくれていて、可愛い弟が出来たみたいとか、言ってた。おなじみの話題でさ、だからこそ気付くべきだったと思う。２人の事をいつからか、坂本くんが一切口に出さなくなった時点で。

 

　お互いに就職して、なかなか会える時間もなくなって。びっくりしたよ。久しぶりに見かけた坂本くんが、坂本くんじゃなかった。どこか尖った雰囲気だったのにそんなものはすっかり削げ落ちちゃって、やわらかく笑顔を浮かべてる人になってた。しかも井ノ原くんに「長野くん。」って呼ばれたら「なに？よっちゃん。」なんて返事したんだ。愕然。あんなの坂本くんじゃない。だいたい、どうして長野くんの名前で呼ばれて返事してるんだろう。よっちゃん。って何？不自然すぎる。何もかもすべてが不自然。

　俺は迷わず声をかけた。仲良しの人に声をかけるのに、遠慮する理由なんてない。いつも呼んでいた名前で、躊躇うことなく、

「坂本くん！」

名前を呼んだだけなのに、あんなにも困った表情で見られるなんて心外だ。まるでこっちが悪者みたい。目、目で饒舌に訴えられてる。邪魔するな。その名前で呼ぶな。ここにいるのは長野博だ。エトセトラエトセトラ。必死じゃん。そもそも、キャラ激変だし。ぶち壊してやるなんて考えもしたけど、すぐに萎えた。目に映る彼があまりにも、哀れで。

　

　後日、言い訳の会を開催したいらしく召集をかけられた。そこで井ノ原くんがどういう人なのかを聞いたんだ。あの人は長野くんがいないと、生きてけないみたい。でも長野くんは事故で死んじゃったから、坂本くんが代わりをやってるとか。偽者！騙してるってことだよね？井ノ原くんはそれでいいの？・・・・・・・充分なんだそうです。おめでたいよ。本物の長野くんだって信じて疑わないんだって。や、もう、そっちで好きにしてくれって思った。俺の仲良しだった坂本くんはいない。これからも変わらず付き合っていけたらとか言ってたけどさ、無理だから。無性に破壊したくなる。井ノ原くんの世界を。したら坂本くんは怒るでしょ？というワケで絶対に無理。と断言した途端、

「ごめんな、健。」

謝罪。生まれて初めてだったね。人に平手打ちしたの。

 

　今でも友達から降格はしてない。井ノ原くんの世界を再生不能なほどに壊したい衝動にも駆られる。俺は待ってる。おとなしく待ってる。いい子でしょ？だから坂本くん、帰ってきて。坂本くんに、いつか戻ってね。