アーモンドオレ・スタンダード

短編更新です。

ほのぼの作品を書こうとして、そうなったのか疑問。
ほのぼの系ってどうやって書くんでしょうね（聞くなよ！）

ＦＮＳ！！

ツートップの衣装に大騒ぎいたしましたよ。
ちょっとおしゃれなサラリーマン、リーダー。
ふんわり癒し系の英語の先生、長野氏。
ネクタイに弱いです。


出演　：　長野　博　・　井ノ原　快彦

アーモンドオレ・スタンダード

 

　

 
 

 

　今でも、ときどき思い出したように訪れる。

 

 
 

　じわじわと蓄積されているのだろう。悲しみや、悔しさや、憤りや、そして何よりも陰鬱と纏わりつく、せっかくきれいに仕上がった絵画に零されてしまった黒ペンキのような寂しさ。トラウマなのかもしれないと思うと、痛むのは胸。あの日どうして。手を離し背を向けたのだろうか。テレビで見せる元気いっぱいの笑顔に対して湧き上がるのは、嘘をつくなと大声で怒鳴りつけてやりたくなるような、熱い願い。決して強くなんてない事を知っているから、いつだって思うのだ。今すぐそばに行って頼りなく握られた拳を、優しくほどいてやりたいと。

 

 
 

　けれど安心する。まだあたたかい。

 
 

 

　玄関を開けて迎えれば、いつも泣き出しそうな笑顔。肩で息をして、とてもとても必死に走ってきてくれたのだと考えると、１も２もなく両手で、しっかりと抱きしめる。

「ながのくんだー。ちょーながのくんだー。」

間延びした声を上げて臆すことなく擦り寄ってくる君は、知ってる？俺はこの瞬間にやっと本当の君の姿を確認して、すべての暗いものから解放されていること。ぎゅっと服を掴んでしがみ付く体温に、幻でなかったと胸を撫で下ろしていること。有名な学園ドラマの先生のセリフを借りるなら、俺たちは『人』という字だ。寄り添い合い、支え合い、互いが互いを実在すると認める作業に必死になっているいきもの。今でもこの部屋に全力で駆けつけて来てくれる君を俺は絶対に、取りこぼさない。

 
 

 

　いつからか、スタンダードになっていた。

 

 

　分かる。この部屋に辿り着いたらもう、気が緩んで幾重にも着込んだ鎧を捨て去ってしまう。アーモンドオレを入れる数分の間も視界に入れていたいと駄々をこねる君を宥めて賺して、頬を子供よろしく膨らませた表情を隠すことなくソファに沈み込む姿を少し視界に入れながらミルクを温めるのがルーティン。君がたくさん癒されますようにと切なる望みを託して造ったそれを持ってリビングへ行けば、聞こえるのは穏やかな寝息。

「おかえり、よっちゃん。」

容量を少しオーバーしてしまったのか瞼の端に僅か滲んだ涙をそっと拭い、やわらかく髪を撫でる。明日からはまた完全武装で日常に戻っていく君を、俺はいつでも鳥たちが羽根を休める水場のように凪いで、待っているから。だから、遥か先の未来の中でも彼が笑顔を枯らせることなく歩き続けてくれればいいと、希ってやまない。

 

 

　後ろから些細ながら、背中を押す。