井ノ原快彦、最狂大奇行の巻。
出演 : 井ノ原 快彦 ・ 長野 博 ・ 坂本 昌行 ・ 岡田 准一
いつか、また・・・・・
坂本が実は、いいお父さんを演っていたことを長野は知っていた。本当は子育てをしたことがあるのでは?と思えるくらいに。ただ、疲れていただけ。心も身体も疲れてしまって、つい出た弱音を6歳の井ノ原に聞かれてしまっただけ。けれどその「つい」が招いた結果は、到底無視できるようなものではなく、これからは長野が6歳の井ノ原と暮らす。ということになってしまった。愛用のリュックに入っている、父親と一緒に暮らしたいという願いの証とは裏腹に。
昔懐かしいモノが流行っているそうだ。リストラが流行って(?)いるそうだ。不景気だと言われている割には、セレブだと自称する金を有り余らせた人種がいるそうだ。副総理の脱税と贈収賄が週刊誌にスッパ抜かれて、国会は上を下への大騒動になっているそうだ。サッカー日本代表が、全国各地で子供サッカー教室を開いているそうだ。横断歩道のラインをピンクに塗り替えて回っていた大手商社のサラリーマンが逮捕されたそうだ。タバコがまた20円値上がりするそうだ。精神的ストレスによる出社拒否を、静養という名目で年間70日まで認める企業があるそうだ。来月、この公園は取り壊されるそうだ。その跡地には、高層マンションが建設される。近隣住民は抗議活動に必死。もう決まったことで、首謀者は自治会長夫婦。知らずに踊らされている人たちを見ていると、哀れにさえ思える。無知こそ愚の骨頂で、この集団はまもなく負け組になるのだ。デパートでおもちゃを買ってと泣き叫びながら駄々をこねる子供と何ら変わりない。そんなことに時間を浪費するのは早くやめて、静かな午後のひとときを楽しめばいいのに。世情に右往左往する暇があるのなら、少し立ち止まって冷静に考えればいいのに。
「人間って、くだらないなぁ。」
「お前も人間でしょ。」
今年いっぱいでの取り壊しが決定された公園で、最後の思い出を作りたい。そんなロケに借り出された長野と井ノ原は、かれこれ半日以上、この公園に滞在している。
「アイスキャンデーってさ、夏じゃなくても食べたくなるよね。」
「そうだけど、こんな寒い日に外で食べたらお腹こわすよ。」
「そんなの食べてみないと分からないもん。」
「こわしてからじゃ遅いの。」
「全12種類攻略するの諦めんの?」
「そんな攻略、するなんて始めから言ってないよ。」
「そうだっけ?」
「そう。」
「そのチョーカーって、いくら?」
「忘れた。」
「若年性アルツハイマーも大変だなぁ。」
「違います。」
季節はずれのアイスキャンデー売りを見て会話を繰り広げる長野と井ノ原。かれこれ半日以上、この公園でロケをしていて、待ち時間にはこういう類の中身のない会話をしている。
「マンション建設断固反対?じゃあラブホはOK?」
「もっとダメ。」
「この町の人は青姦派かー。」
「そういう問題じゃありません。」
「問題。ウサギの目はなぜ赤いのでしょうか?」
「寂しくて泣いてばかりいたから。」
「ブー。今流行りのカラコンを入れているから。」
「そりゃおめでたいね。」
長野と井ノ原。かれこれ半日以上、この公園で時間さえ空けば何の生産性もない会話をしている2人は、決して暇ではない。
「日本がすごく平和なったら、引退しちゃおっかなー。」
「何言ってるの。」
「長野くんと話してると、そんなこと考えちゃう。」
「やめてよね。俺のせいでV6からメンバーが1人脱退なんて、御免だよ。」
「V6やめたら、そのチョーカーちょうだい。」
「そんなこと言う子には、何もあげない。」
「ワイドショーとかで話題にならなかったら寂しいなぁ。」
「なるよ、きっと大騒ぎ。」
「でも代わりの人間なんて、いっぱいいるし。」
「いいかげんにしないと、本気で怒るよ。」
「この公園がなくなったら、みんなガッカリするのかな。」
「みんながみんなガッカリするとは、限らないかもね。」
「じゃあ俺がV6からいなくなっても、同じことだ。」
「全然違うよ。」
長野と井ノ原、かれこれ半日以上もこの公園に滞在していたのは、遠くない未来に消えてしまう自分の中にある過去の時間とと深く関わる場所と、どうにかして決別をしようとする地元の高校生たちと、ロケをすることになったから。
「じゃあアイスキャンデー、買ってくるね。」
「あのさ、俺の話、聞いてた?」
「だってあのアイスキャンデー売りの人も、もうここで売ることはなくなっちゃうんだよ。だったらさ、なるたけたくさんの人にさ、売らせてあげたいじゃん。」
「・・・・・・好きにしなよ。」
「うん。」
「でも全種類とか、買わないでよ。」
「えぇー。」
「買わないでね。」
「分かりました。」
かれこれ半日以上もこの公園に滞在して、イマドキにしては珍しく純粋な高校生たちとロケをして、出せた何かしらの答はあるのかないのか。長野は特に名残惜しそうにするでもなく、ロケが終わればあっさりとこの公園を後にした。井ノ原は、何度も振り返り、移動者に乗っても窓から、しばらく公園を見つめていた。
坂本はときどき、6歳の井ノ原と一緒に公園に遊びに行ったそうだ。お父さんはブランコから1回転して降りられる。見たい。と、強く迫られて、泣き叫びだす勢いだったので、恐怖と必死に戦いながら、仕方なく一度だけやって見せた。以来、行かなくなったらしいが。それも親子のいい思い出。その公園もいつか、こんな風になくなってしまう日が来るのだろうか。いつの間にか隣りで寝息を立て始めていた井ノ原。今日のロケで余程疲れたのだろう。いい年をして、高校生たちと、いや、明らかに彼ら以上にはしゃいでいた。もしかしたら、6歳と31歳の意識が混在している状態が、表面に出てこようとしているのかもしれない。6歳の井ノ原の思い出は、一体誰のものということになるのか。
「ぜったいに、みつけるからね。」
寝返りを打った井ノ原は、そんな寝言を言った。
「見つかると、いいね。」
長野がそっと髪を梳いてやると、ふにゃりと笑う。今見ている夢が、幸せなものだといいのに。本人には面と向かって言うことのない、小さな望み。
どしゃぶりの雨のせいで、思い出した。あの日の天気も、こんな風だった。手を離したはずなのに、気になって仕方がない。酷く胸騒ぎがする。今日はオフのはず。いいだけ厭味を言われることは覚悟の上で、坂本は電話をかけた。
やはり、長野は終始不機嫌そうで、たっぷりと厭味の応酬を受けた。それに耐えた後に得られた情報としては、6歳の井ノ原が出てきていないので、今日は普通のオフなのだそうだ。友達と遊ぶと楽しみにしていたらしい。友達は誰だ?メンバーの誰より交友関係は広く、その特定は難しい。誰と遊ぶ?どこで遊ぶ?今日は雨が降っているのに。焦って上着と車のキーを手にして玄関へ向かって、立ち止まる。井ノ原を見つけて、どうするつもりなのだろう。うまく友達と遊んでいるところを発見したとして、強制的に連れて帰るなんておかしい。この胸騒ぎが必ずしも的中するとも限らない。ふいにクールダウンして、坂本は出かけるのをやめた。何より、自分が迎えに行っても、きっと何もできない。
雨だな。ぼんやりと控え室の窓から外を見ていた岡田は、眼下に位置する駐車場に人影を確認して、目を凝らす。こんな日に傘も差さないで、空を仰ぐように雨を浴びている。どこの変わり者が紛れ込んだんだか。なんて思って少し観察して、気付いた。
(なんでやねん!)
思わず控え室を飛び出した。頭の中には疑問符しか浮かばない。岡田の視力が著しく衰えていなければ、駐車場にいるのは・・・・・
クルクルとターンを決めたり、跳んだり、跳ねたり。それは奇行としか表現しようがない。鼻歌なんて歌いながら、笑い声を上げて雨の中ではしゃぐのは、井ノ原。この様子に気付いて人が集まってくれば大変なことになるし、このまま雨の中にいて風邪でもひいたら大変だ。とにかく建物の中に引きずってでも入れようとした岡田は、駆け寄りかけて、足を止める。明らかに、様子が違う。いつもの井ノ原ではない。雨の中ではしゃいでいる時点で充分おかしくはあるのだが、そういうのではなく、もっと別の違和感。まるで年端も行かない子供が、雨に浮かれているような、雰囲気と、迷って悩んでいる大人が闇雲に何かを洗い流そうとしているような、雰囲気。声をかけて、大丈夫?今の井ノ原は、大丈夫?
「あーっ!じゅんちゃんだぁー。」
見つかった・・・。
「じゅんちゃんもおいでよ。あめたのしーよ!」
っていうか、准ちゃんですか。
「ここはみずたまりがないから、さんりゅうだけど。」
水溜りがないと3流?
「そーだ!まいむまいむやる!じゅんちゃん、あめといえばまいむまいむだ!」
雨といえばって、雨、もう降ってますけど。
「ちゃらららら~ちゃ~らっちゃ~らっちゃ~らっらっ。はやくこないとまいむまいむにまにあわないよ!まいむまいむいえないとあめにのろわれるよー!」
間違ってる。
「あめのあじをたしかめよう。」
わ、口開けてる。
「あまくない!きょうはかみさまはうまれないひだ。」
灌仏会?
「じゅんちゃん!かみさまがいないからのろわれる!」
全体的に論理が飛躍してるな。
「まいむまいむこうげきだ!くらえ!まいむまいむびーむ!」
これは・・・・・
「あめだからってかったとおもうなよ!こっちにはじゅんちゃんがいるんだぞ!」
なんというか、もう・・・・・
「じゅんちゃんはひゃくじゅうのおうなんだからな!」
すぐにやめさせよう。
「いのっち、風邪ひくで。」
「いのっち?さてはおまえ、じゅんちゃんのにせものだな!」
「熱出して休んで、博に怒られてもええの?」
「ひろし?ながのくんか!ながのくんにいうのか!」
「言わへんから、中に入ろ?な?」
「にせものはてきだ!てきはうそつきだ!」
「本物やから。」
「うそだ!じゅんちゃんはよしのことよしくんってよぶもん!」
よしくん・・・・・
「いのっちはおとーさんだ!おとーさんとよしをまちがえるのはにせものだ!」
「ごめんなぁ、よしくん。雨がいっぱい降ってて、見えへんかったんよ。間違えただけ。よしくんも、間違えること、あるやろ?」
「まちがい?じゃあじゅんちゃんはほんもの?」
「本物や。だから、一緒に中に入ろ?」
「てきじゃない?」
「よしくんを雨が攻撃してるから、助けに来てん。」
「わかった!なかにはいっててるてるぼうずこうげきする!」
「うん、せやね。てるてるぼうず作って、雨、やっつけてまお。」
「じゅんちゃんはものわかりがいい!おとなだな。」
「そりゃ、どーも。」
傘を差し掛けてあげたのに、井ノ原は「いらない!よしはつよいから!」と断って、建物の中に駆け込んでいった。その小さな子供のような言動に、岡田は悩む。普段から、井ノ原は無邪気にじゃれ付いてくることはある。が、今日は度を越えていた。無邪気の域を超えて、明らかに子供化していて。岡田は井ノ原のことを「よしくん」と呼んだことはない。まるでもう一人、違う井ノ原が中に入っているみたいだ。
「じゅんちゃん!はやく!」
(どないしょ。)
雨の中で、まるで酔っ払いよろしく大騒ぎを繰り広げた井ノ原を、建物の中に入れたはいいが、ここはスタジオで、岡田はドラマの収録の待ち時間である。これまでの調子で騒がれても敵わないし、一人で家に帰すのはとても不安だ。
(終わるまで、楽屋で待っててもら・・・えるかな。)
そもそも、どうしてここに来たのだろう?一人で、勝手に押しかけてきた?これから井ノ原に使うであろう労力を考えて、岡田は盛大なため息をついた。
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