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V6井ノ原快彦氏主演の妄想非恋愛小説を取り扱っております。
No.
2024/05/10 (Fri) 00:21:49

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No.222
2008/06/12 (Thu) 23:05:08

短編更新です。

9係っ!!
予告編にキュンキュンしました。
なんでしょうか。
今にも泣き出しそうな浅輪の表情がなんとも言えません。
あの顔、いいですね。
イノの真髄を見た気がします(そうなのか?)。
来週で最終回なんですね・・・・・


出演 : V6 (坂本目線)







ほんとうのきもちはいつも
 

 
 あとどのくらい時間が経てば、みんな真実を知るのだろう。
 
 アイツが今日、ここへ来ない理由を俺は知っている。
 
 店主が特別な客にしか出さないと豪語する酒は、それほど勿体をつけるだけあって、本当においしかった。ごはんもおいしかった。楽しい酒の席。箸が転んでも楽しいとはこういうことを言うのだろうか。自然とこみ上げてくる笑い。ひっきりなしに料理を食べては薀蓄を並べながら、長野も笑っている。ほろ酔い加減でいい気分になって、久しぶりに昔話に花を咲かせてみたりして、とても楽しい夜のままで終わると、思っていたのに。
 
 深夜の乱入者は泥酔状態も甚だしく、それまでの笑顔を一気にかき消した。奥まった個室の意味なんてまったく無視の、高らかに響き渡る声。
「ぶいしっくすのさかもとまさゆきとながのひろしだー!げいのうじんだー!すげー!サインしてください!Tシャツのまえとうしろにサインしてくださーい!」
長野の眉間に、これ以上ないほどの皺が寄った。足元も覚束ない乱入者、井ノ原はテーブルの上にあった冷酒を勢い任せに呷る。こんな酔っ払いかたを見たのは至極久しぶりのことで、酷く動揺していた。そして同時に、後悔も。
(ああ、やっぱり強引にでも誘うべきだった。)
 
 井ノ原が今、こんな迷惑行為をしでかす理由を俺は知ってる。長野は慌てているし、気付いた客や店員は大騒ぎしているけど、俺が少しも慌てないのはそのせいだ。
痛いほどに伝わる感情。
崩壊した自制心。
思い出す今日のできごと。
泣き出しそうなのを必死に堪えていると気付いていたのに、何もしなかったのだ。どこかで楽観していたから。いつものことだと、軽く捉えて。
 
 ただ、タイミングが悪かったのだと思う。井ノ原が健にじゃれ付いて、それを軽く振り払ったつもりが井ノ原が思いのほか派手によろけたのでそばで見ていた剛に衝突して、何も構えていなかった剛は慌てて手近にあった衣装掛けを掴もうとした。ほんの数センチの差で掴み損ねて、頭から突っ込んで、大きな音がした。転んでしまったけれど平然と起き上がった剛。その様子を見て硬直した井ノ原と健。ぱたぱたと滴る、真っ赤な血。岡田は冷静に救急箱を借りに行き、長野が「大丈夫?」と声をかける。大したことないと剛は即答したが、健は何度も謝りながら自分のタオルで剛の傷口を押さえ、今にも泣きそうな顔をする。
「大丈夫だって。っつーか元気ありすぎ。」
あえて笑顔で気の効いたフォローをしながら、剛は健の頭をそっと撫でた。みんなの注目が剛に集まっていたから、余計に蔑ろになってしまったのだろう。チラリと視界の端に捕らえた井ノ原は呆然と立ち尽くしたまま、微動だにしない。戻ってきた岡田から救急箱を受け取って、手当てをし終わった頃に聞こえたのは、
「ごめん、なさい。」
蚊が鳴くように消え入りそうな、井ノ原の小さな謝罪。
「お前、いい年して馬鹿なことしてんじゃねぇよ。」
この一言が、背中を押したのかもしれない。
 
 井ノ原とは短い付き合いじゃない。だから俺が言うことに対して、どう反応するかも知っている。はずだった。
 
 長野はミネラルウォーターとコップを店員に頼んで持ってきてもらっていたけれど、そのときすでに、井ノ原は撃沈していた。コップ一杯の冷酒がトドメになったらしい。
「よっちゃんは頑張ってるよね。」
それは井ノ原がV6の中で否応無しに置かれた立場のこと。
「トニセンになりきれるほど大人じゃないし、カミセンに入れるほど子供でもなかった。ただ下の3人よりも少し年上だっただけでトニセンに入れられて、みんなの仲を取り持つ役目を果たさざるを得なかったんだ。本当は強い人間じゃなかったとしても、強い人間でいなければいけない。ものすごい、葛藤だったと思う。」
がんばることが、当然の義務だと決め込んで。誰よりも、壊れることを畏れていた。
 
 スローモーションのように落ちていく井ノ原を、抱き止め損ねた。急ブレーキを踏んで、飛び出せば路肩に力なく横たわる姿。撒き散らされた赤が、瞬く間にアスファルトを汚していく。何が起こったのか、井ノ原は何をしたのか。いつもなら酔っ払っても気丈に振る舞おうとする男が、何をした?慌てて抱き起こしてやっても何も言わず、どこへ行こうとしている?どうして返事をしない?どうして、あのときに何も言わなかった?何でも話し合えて、ずっと一緒にいて。これからもずっと一緒に走り続けるのだと、その約束を、放棄したというのか?メンバーに対して過剰なほどに義理堅い井ノ原という男は、大切な約束を放棄するほどに、追い詰められていたというのか?そして俺が、トドメをさした。
冷たくなっていく身体。
もう尽きてしまったのか、流れなくなった赤い液体。
重く閉じられた目。
聞こえなくなった鼓動。
静かな深夜の路上。
この状況を嘲笑っているかのように点滅する信号。
沈んだ、未来。
 
 まさか、走っている車から飛び降りるなんて、考えもしなかった。
 
 もう2度と目は開かない。井ノ原を、終わりに導いたのはここにいる俺だから。だから知っている。まだ誰も知らない本当のことを。加害者の俺だけが知っている。
 
 あとどれほどかの時間が経って、みんなが真実を知ったとする。
 そのとき、すべては終わるだろう。
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