合唱コンクール ③

高校生トニセンよっちゃんお誕生日編更新です。

誕生日なのでこういう方向性。


出演　：　坂本　昌行　・　長野　博　・　井ノ原　快彦

合唱コンクール　③



　井ノ原が窓から落ちたと分かってテンパって、勢いに任せて窓から飛び降りるという最短ルートで井ノ原のところへ行こうとして坂本くんに止められた。当たり前だ。どう考えてもその選択はおかしい。坂本くんが色んなところへ電話をかけてるのを眺めながら、ああ、先生に知らせないと。とかまるで他人事のようにぼんやりと考えてた。

　坂本くんが先生を嫌いなのはよく知ってる。俺はしばらく茫然としていたし、吉田さんは泣き出してしまって事故を先生に知らせる人間はいなかった。沈着冷静な坂本くんが壊れた窓の柵をあらゆる角度から携帯カメラで撮影して、俺の腕を思い切り引いて音楽室から飛び出した。井ノ原のところへ行くためだ。校舎の３階の窓から落ちた人間はきっと、無事ではいられない。生き物というのはとてもとても、もろいから。

　救急車は待てど暮らせど来なかった。坂本くんは何度も何度も電話をかけて怒鳴り散らしていた。すると最初の電話から15分。迎えに来たのは・・・
「君たち早く乗りなさい！」
酒屋の長女に一目惚れして婿になってまで結婚した、なんとかさん。名前忘れた。そういえば酒屋の長女と井ノ原のところの一番上のお姉さんは同い年で高校までは一緒だったような気がする。
「井ノ原くんが危機だと俺も危機なんだ。絶対に間にあわせないとヤツが、ヤツが・・・」
ほろ付きのトラックの荷台に毛布を敷いてそうっと井ノ原を乗せている間、ブツブツと呟いているのは俺と坂本くんの耳にはっきり届いていた。井ノ原のカバンを持って追いかけてきてくれた吉田さんも思わず素に戻り、
「あの、誰ですか？」
という至極当然の質問をした。

　幸いにも井ノ原は脳震盪は起こしているけれどレントゲンでもＣＴでも異常はなく、おそらく落ちるときに窓の柵にぶつけるか何かしたのであろう左手の親指を骨折していたのと打撲に擦り傷で済んだ。本当に３階から転落したのか？担当医がしつこいほどに確認してきた。本来ならここで安堵に包まれるのかもしれないけど、坂本くんも俺も、医者の診断を聞く前にそれはそれはすごい光景を目にしていたので、普通のテンションで医者の話を聞くにとどまっている。

　俺と坂本くんは小さい頃からよく知ってるけど、これは波乱の幕開けだと思う。だって井ノ原が学校で３階の窓から落ちたのだ。柵が壊れていたせいで。その知らせは坂本くんに寄って一番上のお姉さんにのみ伝えられたはずなのに、病院には４人のお姉さん勢揃い。坂本くんが撮った携帯カメラの写真と吉田さんの話を総合し、お姉さんたちは俺と坂本くんに井ノ原を任せて静かに学校へ出向いて行った。先生ご愁傷さま。せいぜい不用意な発言には気をつけてください。